データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 広島平和祈念式における記者会見(小渕内閣総理大臣)

[場所] 広島市
[年月日] 1998年8月6日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),844−853頁.
[備考] 
[全文]

○司会 それでは、ただいまから小渕内閣総理大臣の記者会見を始めさせていただきます。初めに、広島市政記者クラブから代表質問をお願いいたします。

−−早速ですけれども、国が広島市に計画している原爆死没者追悼平和祈念館建設についてお伺いしたいと思います。今年三月に衆議院の厚生委員会で小泉前厚生大臣が建設計画の見直しともとれる発言をなさいました。総理の方針を確認させていただきたいと思います。

 合わせて、予定どおりもし建設推進ならば今後の建設スケジュールと建設理念もお聞かせください。お願いいたします。

○総理 まず、皆さん御苦労様でございます。若干、遅参をいたしましてお許しいただきたいと思います。

 まず、ただいまのお尋ねでございますが、原爆死没者追悼平和祈念館につきましては被爆者援護法や同法制時の衆議院厚生委員会の附帯決議におきまして早期に設置を図るべきものとされておりまして、これを受けまして検討会を設けておりまして、開設準備のための検討を鋭意進めていると聞いております。この祈念館につきましては、国が原爆死没者の犠牲を明記し、かつ恒久の平和を祈念するための施設を設置することに意義があると考えております。

 また、検討会におきましてはこの既存の施設と重複しない形での整理も可能との検討が進められておりまして、九月にも報告をまとめられるものと聞いております。その報告を受けまして、建設に向けて具体的な作業に入ってまいりたいと考えておりますが、私といたしましてもせっかく今、申し上げましたように国会の決議にも委員会の決議にもございますので、既存のこの施設との関係も十分検討していただきまして、ともにこの死没者のための慰霊も含めまして意義あるものが建設されることになれば望ましいと思っておりますが、いずれにしても検討会で進めておることでございますので、これ以上申し上げることは差し控えさせていただきたいと思いますが、気持ちとしてはそこにあると御理解いただきたいと思います。

−−分かりました。

 続いて、臨界前核実験について広島では以前からCTBTの精神に反すると明確に抗議しています。それで今後なんですが、アメリカを始め核保有国各国の核軍縮と、このほど核実験を強行したインド、パキスタン、両国間の関係改善について総理はどうイニシアチブをとるおつもりなのか、お聞かせください。

○総理 我が国は従来より核保有国に対し一層の核軍縮を推進することを求めてきておるところでございまして、今後とも米露両国に対して第二次戦略兵器削減条約、いわゆるSTARTIIが今ロシアにおきまして、国会で批准が非常に停滞しておるということでございますので、私もプリマコフ外務大臣と会う度にこのことを申し上げてきておりますが、IIが終わったらIIIの問題もあるわけですから、早期にこれが交渉開始を粘り強く米露、すなわち五大国において最も核保有国、この二つの国が徹底的に核を削減しなければ究極の核はなくなるという方向にならないわけですから、それを現実の問題としては是非両国に強く求めていきたいというふうに思っております。米露以外の核兵器保有国に対しましても、現在の核軍縮努力を一層強化していくように求めていくところでございます。

 なお、未臨界高性能爆薬実験、包括的核実験禁止条約、CTBTにおきまして禁止されていないというのが国際的な認識であると考えておりまして、現時点では有効な検証手段が存在しない等の事情もあり、将来の課題として検討されるべきものと考えております。 

 いずれにいたしましても外務大臣時代、いわゆる印パの核実験に対して、日本政府は唯一の被爆国としての立場から両国に強くその中止を求めてきたところでありますが、残念ながらこれを強行してしまったということでありまして、その後ジュネーブの軍縮会議でもありましたし、G5での会合もありました。その後G8、ロンドンでの会議に私自身も出席をしまして強く求めましたが、私としてはいわゆるG8の中には核保有国があるわけでありまして、それと同時に核を保有をすればできたと思われる国、あるいはその開発を途中で中止した国について、その連携をできる限りとりたいと私が念願をしまして、G8につきましてもそうした国々の御参加を実は求めて会議が開かれたわけでございます。

 その後、私もその国の一か国と思われるブラジルにこの間、日本の移民九十周年に行った折にカルドール大統領に強くこのことを申し上げまして、できればアルゼンチン、それから今、言ったブラジル、南ア等々の国と連携を密にしていきたいというふうに考えておりますが、今日の新聞によればでございますけれども、あの永世中立国たるスイスにおきましても、核保有のための検討がなされておったやに聞いておりますが、これはもう中止されたと、正確な報道でないから私も承知しませんが、こういう国々と連携をとりながら現実に保有する五か国プラス二か国に対して、きちんとこれから核保有について人類のために現象を少なくしていく努力を確実になるように、日本の立場をより主張していきたいというふうに考えております。

−−分かりました。

 続きまして、今日の式典のあいさつでも少し触れられたかと思うんですが、国際フォーラムの時期と内容、あとは出席候補者について構想を伺わせていただきたいと思います。

 合わせて、二〇〇〇年に日本で予定されておりますサミットの誘致について、広島も立候補しておるんですが、各地で地元を上げた運動が始まっております。開催地選考についてのお考えを伺わせてください。

○総理 インド、パキスタンの核実験を受けまして不拡散体制を堅持強化し、世界的な核軍縮を一層促進することについて検討を行うために日本国際問題研究所及び広島平和研究所の共催によりまして核不拡散、核軍縮に関する緊急行動会議を開催することとし、現在八月三十日、三十一日に第一回の会合を東京で行うべく準備中でございます。内外の著名な有識者二十名程度の参加を得て、この一年間に四回程度の会合を行いまして、国際社会の提言をまとめることを目的といたしておりますが、こうした類似ではありませんがいろいろな目的を持っての会合は豪州等で開かれた経緯もあります。

 それで、このフォーラムにつきましては私がG8のときに我が国の主張ということで、こうした行動会議を開きたいという提案をいたしましたところ、参加国がこぞって賛同の意を表したわけでございます。そういった意味では、日本のイニシアチブの一つだというふうに私は認識をしておりますし、こうした地道ではありますけれども行動会議を通じて世界の有識者の皆さんに核廃絶、核軍縮に向けて、こうした努力の積み上げということは非常に地味でありますが効果的、効果を発揮するものだというふうに考えておりますし、今、申し上げましたように広島に平和研究所が設立をされました。長い間、私も国連と日本政府という立場でありますけれども、同一の考えを持ちまして行動してきた明石さんが所長に就任をされたということを大変心強く実は思っておるわけでございまして、是非この行動会議が意義ある会議として今後継続をしていっていただきたいと思っております。

 時期によりましては、また当広島においての開催等も念頭に置いてしかるべきではないかと私自身は考えております。

 それから、第二点の二〇〇〇年のサミット、これにつきましては一時ロシアがこの年にサミットを開催したいという希望が申し述べられておりまして、実は今年のサミットにおきましてロシア側からそういう御希望が我が国にも伝えられておるところでございますが、いずれにしてもこれは開催国のイギリスがお預かりしておりまして、現時点においては恐らくこのサミットの開催地の変更ということはあり得ないのではないか。日本側としては、もしその他のサミット国が御賛成されれば、日本としては新しく加盟したロシアのお立場というものも決してないがしろにするつもりはないと思っておりましたが、ほかの国々も順序を変えることは望ましくないのではないかという考え方に傾いておるということでございますので、最終的にはイギリスのクック外相にお話し申し上げておりますが、対応としてはそういう形であれば二〇〇〇年には我が国ということになると思います。

 そこで、その開催地につきましてですが、私は国会でも申し上げているように、過去三回実は東京で開いております。それで、それぞれのサミット国も実は三回同一でやったところはありますけれども、四回目からはその他の地区に移っているんです。それで、日本はもちろん首都東京が最も便利と言えば便利なのかもしれませんが、この機会に日本全国各地区で御希望があり、また国民の皆さんもそうした形を望まれると言うのであれば、いわゆる地方で開催することも望ましいと私は国会でも答弁しております。

 でありますが、しからばいかなる地域かということでございますが、広島も希望されておると聞いておりますが、ほかの地区も熱心に熱心に希望しておりますので、今の段階ではいずれとも判断しておりませんが、あらゆる条件ができる限り整っておる地域に最終的には決定をしていくと思っておりますが、これまた御案内かと思いますけれども、従来のサミット、首脳会談と、その前に開かれる外相、大蔵大臣の会合がロンドンから実は二段構えになっております。したがって、二〇〇〇年の東京におきましてはどのような方式になるか、これも一つの大きなポイントだろうと思っております。九九年のドイツにおきまして、従来のような形で同一の地域において二つの会合が行われるか、今年開かれたようにロンドンで外相、蔵相会議をして、その後、首脳会談は静かなるバーミンガムで開くという初めてのケースもございますので、そうしたことを勘案いたしまして、我が国におきましても一か所で行い得るのか、あるいはそうした時間差を置いての会合になるか。これまたこれからの判断があるかと思いますが、現時点におきましてはいずれとも決定をしておらないということでございます。

−−ありがとうございました。

○司会 続きまして、内閣記者会から代表質問をお願いいたします。

−−まず最初の質問です。不良債権処理の関連法案をめぐってですが、野党側には政府自民党は経営者の責任などが不明確だとして修正を求める動きがあります。総理は政策ごとの野党との連携にこれまで積極的なお考えを示してきたんですが、これらの法案の扱いについてどのような態度で臨むのか、よろしくお願いします。

○総理 今国会の最大の問題は経済再生でありますが、その基になるのは現在の金融機関の不良債権問題についていかに対応するかということであることは言うまでもありません。したがいまして、政府、与党といたしましては金融再生トータル面の実施が喫緊の課題であり、その関連法案を一日も早く成立させることが必要であると考えております。

 それで、野党に対しましても早期成立に向けて今後とも協力を求めてまいりたいと思っておりますが、いずれにしても衆議院におきましては既に相沢先生を委員長にして特別委員会の設置等の方向に動いておるように聞いておりますので、これはまだ確定したことではなかろうかと思いますけれども、集中的に一日も早く法律を成立せしめる。そのために、この暑い八月の国会を召集して審議に入るということですから、何としてもこの法律を成立せしめなければならぬと思っております。

 それで今、御質問のありましたのはいわゆる金融機関の経営者責任のことでございますけれども、金融機関がこのような状況に相なっているということについて、経営者が責任がなかったとは全く言えないんだろうとは思います。

 しかし、どのような責任が存在するか。その金融機関自身の状況にもよりますし、またどのような経営をやってこられた結果、莫大な不良債権を生じておるのか。あるいは、不良債権の額がいわゆる債務超過になっているのかどうか。今、金融監督庁を中心にして鋭意、夜昼分かたず徹底的な調査に今、入っておりますから、そうしたことを通じて本当のそれぞれの金融機関の実態を十分把握して、把握した上で経営者としての責任についても当然のことながらこのことは追及していくことはしかるべきだろうと思いますが、どの程度、どういう形でこれをなすかということについては、まさに国会の論戦を通じながら、野党の皆さんの御意見も十分拝聴しながら、これからできる委員会等において十分な話し合いを通じて、要は一日も早く適切な対応をとることによって日本の金融機関が真に信頼に値する金融機関として再生をして、この資金の流れ、血液が十分隅々まで行き渡ることによらなければ、日本経済の再生はあり得ないという観点から考えれば、与野党でこだわって問題の一つが解決をしなければすべてこれが成立しないというような状況というものは、国民のために、日本経済のためにあり得べからざることだと。

 私は、国会議員の皆さんのそうした考え方を心から信頼し、信じておりますので、私は必ずや国会において考え方の一致を見て、そして法律案が成立するものと心から期待をいたしておりますし、政府といたしましても与党、自民党が本当に心血を注いでつくり上げたこのトータルプランによるところの法律でありますから、全く自民党としてはこれ以外にないと思って、政府をして法律案を成立せしめておりますが、これは国会が国権の最高機関としていろいろ御審議の過程で今、御指摘いただいたような問題についても十分認識をして対処していただけるものと期待をいたしておりますし、政府は政府の立場を十分国会にお示しをし、理解を求めてまいりたいと、このように考えております。

−−続いてですが、政府自民党は所得課税の最高税率の引下げと、ほかの所得階層で税額を一定の割合で減らす定率方式との組み会わせ{会はママ}で七兆円規模の減税を行う方向で調整中ですが、具体的な減税の方式や規模について総理としてお考えをお聞きしたいと思います。

○総理 今回、税制につきましては我が国の将来を見つめたより望ましい制度の構築に向けて抜本的な見直しを展望しつつ、景気に最大の配慮をした措置を講じる考えであります。それで、私が公約として申し上げている減税問題を含む税制改正につきましては、先般の蔵相等と税制専門家の間の意見交換も踏まえまして、今後政府及び党の税制調査会において幅広い検討が行われていくものと考えております。改正の具体的内容につきまして、こうした検討を踏まえて決断してまいりたいと思っておりますが、私は自民党の総裁選挙のときに六兆円を超えるということを申し上げておきました。

 と申し上げますのは、私自身も税の専門家ではございませんので、その規模以上のものが所得課税並びに法人課税において引き下げることができないか。特に現下の景気対策といたしましても、打てるすべての手段を講じて行うべきだという考え方の一環として税制あるいはまた補正予算につきましても言及を申し上げておったところでございますが、本件につきましては所得課税の税率構造の、特にお話にありましたように所得課税の最高税率の引下げ、これは非常に私はかつてない大きな税制の改正であると同時に、負担減に行うものだと思っております。

 そこで、定率課税についてどのような形で行われるか。それは定率と言うんですから一律課税、一律の定率の引下げというのが筋だろうと思いますが、さりながらこれも総裁選挙のときに申し上げておりましたが、いかなる階層の方々が最も今、困難な状況にあるかということも勘案をして、その点についての定率といえども同率ということであるかどうかですね。この辺についても、私自身は是非大蔵大臣、宮沢先生、あるいはまた党の税調等にその考え方についても御理解をいただきたいと、今の時点では念願をしておりますが、いずれにしてもどういうふうなところをどのように引き下げていくかということについての検討は、先ほど申し上げましたように党の税制調査会の議も経なければなりませんし、もちろん政府税調のこともございますので、そういった審議を通じながら、私が公約をいたしましたこの六兆円を超えるという線で、そしてそれによって金額その他、総額何兆円、何兆何千億になるかという計算はしていただきたいというふうに思っております。

−−最後の質問ですが、減税などの財源の確保のために総理は財政構造改革法の凍結を主張してきましたが、凍結の期間はどの程度が適当か。あるいはまた、凍結のための法案は通常国会での提出を考えているのか、それとも今の臨時国会か。合わせてお伺いしたいと思います。

○総理 財政構造改革法につきましては財政構造改革を推進するという基本的な考え方、私は理念として申し上げておったんですが、これは守っていかなければならぬと思っております。

 ただ、現時点ではまずは景気の回復に全力を尽くすということでございますので、これを当面凍結をするということで、これまた総裁選挙の折、国民に対して公約を申し上げておるところでございます。

 そのための必要な法案の提出の時期につきましては、現時点では次期通常国会でこれを提出する予定でありまして、この法案が成立をしないと十一年度予算が成立してもこれを実行し得ないということになるのではなかろうかと思いますので、是非この法律は次期通常国会で提出し、一日も早い成立をお願いしたいと、今の時点では考えております。

○司会 ありがとうございました。

 それでは、これをもちまして内閣総理大臣の記者会見を終了いたします。

○総理 どうも御苦労様です。ありがとうございました。