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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 長崎平和祈念式典における記者会見(小渕内閣総理大臣)

[場所] 長崎市
[年月日] 1998年8月9日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),854−861頁.
[備考] 
[全文]

○司会 小渕総理大臣におかれましては、被爆五十三周年原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に御出席を賜り、心からお礼申し上げます。それではただ今から小渕総理大臣の記者会見を始めさせていただきます。私、記者会見の司会をつとめさせていただきます長崎市企画部長の園田でございます。よろしくお願いします。記者会見は地元記者団、同行記者団、それぞれ十分間。また質問三問とし、一問一答形式で行います。時間厳守にご協力下さいますようよろしくお願いします。それでは、地元記者団の幹事社、西日本新聞社の立山記者からお願いいたします。

−−西日本新聞の立山です。地元記者団を代表して質間いたします。まず、今日、長崎市長は平和宣言の中で、核の傘に頼らない安全保障を日本政府に求めました。総理御自身、アメリカの核の傘からの脱却または非核三原則の法制化についてどのようなお考えをお持ちでしょうか、御見解をお聞かせ下さい。

○総理 まず記者団の皆さんご苦労様です。私、昭和六十三年に官房長官の時にこの式典に参加、出席をさせていただきましたが、今日は総理大臣という立場で長崎をお訪ねし、ご挨拶を申し上げる機会をいただきました。これからも核廃絶に向けて最善の努力をいたしていきたいと、改めて固く決意をいたしたところでございます。そこで今、お尋ねの点につきましては、国際社会の現実を踏まえますと、核兵器の保有しない我が国としては、民主主義的価値を共有する米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力の下で、自国の安全を確保していく必要があると考えておりまして、また我が国が非核三原則を堅持する事につきましても一昨日の所信表明において表明したところであります。既に、内外に十分周知徹底されておるところでございますが、政府としては今後ともこれを堅持する方針であり、非核三原則を改めて法制化する必要はないと考えておりますが、いずれにいたしましても日米の安保条約というこの条約によりまして、我が国といたしましては、我が国並びにこの極東の安全を図っていかなければならないという、まあこういう立場でございますので、アメリカ軍のこの力というものを背景にして我が国の安全保障は確保されているという立場でございますので現時点におきましては、このアメリカの力というものを基として我が国の安全保障を考えていくという立場は依然として継続していくものであるというふうに考えております。

−−次に、国が広島・長崎に進めています、平和記念館建設について質問します。今年三月に当時の厚生大臣が、建設見直しとも取れる発言をされました。地元にも反発の声が上がりましたが、首相は平和記念館建設についてどのような御見解をお持ちでしょうか。

○総理 本件につきましては、原爆死没者追悼平和記念館につきましては、被爆者援護法、また同法制時に衆議院厚生委員会におきまして、この附帯決議がなされておりまして、早期に設置を図るべきものと、こういうふうな考え方でございまして、これを受けまして現在、検討会を設けて開設準備のための検討を進めていただいておるところでございます。小泉厚生大臣もですね、この建設についてこの異を唱えておるというふうに私は理解しておりませんで、ただ、この企図しておるところの記念館そのものが今まで長崎・広島等におきまして、いろいろな記念館ないしまた、それぞれにございますこの展示その他と重複してはいけないのではないかというような主旨と私は理解しておるわけでございまして、従いまして今申し上げましたようにぜひこのせっかくの委員における、委員会の決議でございますから、これは建設されるべきものだろうというように考えておりますが、今申し上げたように、検討会を設けておりますので、その結論を待って、という事でございますが、大体この九月にもまとまる予定だというふうに聞いておりますので、その上は地元のご要望というものを十分踏まえながらこの記念館事業というものが、もちろん長崎・広島におけるこの原爆における被害というものを広く国民のみならずですね、世界の皆さんにも訴えられるようなものが建設されれば大変望ましいというように考えておりまして、この検討会を待ちまして、その結論によりまして可能な限り早くこれが現実のものとなるよう私としても心から期待をしておるところでございます。

−−次に、一九九五年度に、厚生省が実施した原爆被爆者実態調査で被爆者の高齢化の進行が浮き彫りになっております。被爆者援護対策を更に充実させるお考えはございますでしょうか。

○総理 ご指摘のように、五十三年経って、当時被爆された方々も高齢者になっておられるわけでございまして、そういった意味で被爆者援護対策につきましては、先月厚生省より公表された被爆者実態調査の結果によりましても、今申し上げたように高齢化の進行が浮き彫りになっておるところでございますので、老後への不安が益々高まっておる事は承知をいたしております。今後、地元のご要望も踏まえまして長崎県、長崎市とも十分相談をしながら引き続き被爆者援護法による医療・保険・福祉にわたる総合的な施策が着実に実施されますように懸命に努めてまいる決意をいたしております。

○司会 質問三問終えましたので、続きまして同行記者の幹事社NHKの臼井記者からお願いいたします。

−−先の総理の所信表明演説についての質問です。その中で総理はですね「一両年のうちに我が国経済を回復軌道に乗せるよう、内閣の命運をかけて全力を尽くす」とおっしゃいましたけれども、これは総理自らの進退をかけるという意味と理解してよろしいでしょうか。改めて総理の決意の程を聞かせてください。

○総理 私は日本経済の再生にとりまして、この一両年もっとも重大な時期に差し迫っておると、こう考えておりますので、この間、あらゆる手段を講じましてですね、経済の回復、また、特に重要な事は金融システムの再生を図らなければならない。もっと具体的に言えば、金融機関の不良債権間題を処理して、日本の経済の血液であるところの金融が円滑に動いていかなければ、それこそカタストロフィになる危険性が非常に高い。従って、ここ一両年に全てのあらゆる考えられる施策はこれを遂行することによって、日本経済の再生の糸口を付けていきたいと、こういうことでございまして、そういう意味で私の決意、あるいは私のその覚悟、こういうものをこうした内閣の命運をかけるという言葉の中にすべて打ち込みまして発表させていただいたということでございまして、この施策を迅速に、かつ的確に実行していく、そして、この一両年の間には明るい展望が開けてくることを、そのために全力投球で努力するという決意を表明させていただいたものとご理解いただきたいと思います。

−−次にですね、金融再生関連法案についての質問です。国会は明日からですね代表質問に入りまして、金融再生法案の関連法案の本格的な議論が始まります。総理は、野党側とも十分に話し合いたいとしているようですが、参議院自民党が大きく過半数を割り込む中でですね、法案成立に向けまして野党との折衝にどのような立場、どのような方法で望むおつもりでしょうか。とりわけですね、どの党と連携を目指そうというお考えでしょうか。

○総理 先程も申し上げましたように、我が国の経済の喫緊の課題であります不良債権問題を解決するためには、与党自民党が本当に集中的に、短期的にこの問題を処理するための法案を作成していただきまして、政府としてこれを金融再生のトータルプランとして全施策を強力に推進いたしまして、関連法案を今国会で一日も早く成立させることが重要であるということは、先程申し上げたとおりです。そこで私は野党の皆さんもですね今日的最大の課題であるこの問題につきましては、おそらく同様の認識をしておると思っております。ただ、野党としても、どういう具体的法律案を持って国会に望まれるかということは、現時点で私は承知しておりませんが、重ねて申し上げれば本問題について少なくとも国会に所属される議員各位はまずこの問題を処理しなければですね、日本の経済の大きなこのつまずきを起こしかねないということで、そのために国会もこの七月末から暑い夏の期間も含めてですよ、国会に望んでいるこのことを与・野党とも認識をすればこそ国会の召集に応じておられるわけですから、私は必ずこの問題について決着はされるものと、しなければならないという強い決意の下に望んでいきたいというふうに考えております。どのような形でこれから進めていくかということですが、政府としては二法案、それから議員立法で四法案がございますので、併せてですね全ての関連性のある法律案ですから一括してこれが今国会成立するために、しかも一日も早くですねこれを通過させるということが極めて重大事であると認識をいたしております。そこで野党の皆さんも国会が始まりまして、対案をご提出をされるのかどうか私は認識しておりませんけれども、おそらく野党各党におきましても今日の喫緊の重大な問題だと捉えておられることは間違いないことだろうと思いますので、明日から始まる所信表明に対する各野党のご質問等も十分拝聴し謙虚に耳を傾けながら、おそらく予算委員会、あるいはこれから特別委員会等が設置されるのであろうと思いますから、そうしたところで野党の皆さんのご主張も十分お聞きをしながら政府と野党との話し合いになりますのか、与党と野党とのお話を進めていくか、いずれにしても、何としても妥協点を見いだすことができれば見いだして、一日も早くですね衆参両院を通過せしめて、この金融再生のためのこの法律を成立せしめるという努力をしていきたいと思っております。そこでどの政党と、とこういうことでございますが、これは今申し上げたように国会の審議等を通じてまずはその最大野党からおそらく質疑等が始まるんだろうと思いますから、そうした考え方を受け止めながら、政府与党としてもっとも話し合いが可能な中身ですね、こういうものを持っていただいておられる野党と真剣な話し合いに入っていかなければならないのではないか、と思っておりますが、今の時点では政府としては政府の提出した法案が今の時点では最高のものだと認識をいたしておりますが、さりながらこれからの審議を通じて野党の皆さんのご主張にも真剣に耳を傾けていく気持ちは十分持ち合わせておることだけは申し上げさせていただきたいと思います。

−−次にですね、NPT体制に関連しての質問です。先日、野中官房長官がですね、まず核保有国である安全保障理事会の常任理事国こそが核を廃棄すべきだと述べますなどですね、五大国に特権的に核保有を認めている現在のですねNPT体制に疑問の声が出ています。唯一の被爆国の日本としましては総理は今後日米の首脳間会談などの場でですね、総理自ら五大国に核廃棄を呼びかけると、そういうお考えはありますでしょうか。

○総理 世界の大多数の国が締結をいたしておりますこのNPTは、核兵器国と非核兵器国双方に核不拡散の義務を課するとともに核兵器国に対して核軍縮のために誠実に交渉する義務を課しており、国際の平和と安定に大きく貢献してきたところでございます。我が国としてはこのNPT体制を堅持、強化することが必要であると考えております。

 また、我が国は引き続き核兵器国に対し、米ロ間の戦略兵器制限交渉の促進を始めとする一層の核軍縮の努力を求めていく考え方でございますが、実はこの印パのですね核実験が行われる前には日本としてもNPT、それからCTBT、それからいわゆるカットオフ条約、こういうことをですねきちんと大多数の国というか全ての国が参加してこの条約を守っていくという形の中で現実的な核廃絶に向けての努力を傾注してきたところだろうと思うんです。ところが今年のインド、パキスタンの核実験の強行と、こういうことになりまして、いわゆる核保有五大国に新たなる二つの国が起こって来たということの現実を考えまして、その後の対応として我が国としても一日も早く究極的な核廃絶を目指すためには今までのそうした条約をきちんと守っていくということをインド、パキスタンにもその参加を求めると同時に、五大国に対しましても引き続いてこの核の不拡散と同時にその削減に向けての努力を慫慂しておるところでございまして、そういった意味で何と言っても一番の最大の保有国はアメリカとロシアでございますから、我々はそういった点で両国が十分な話し合いをして、いわゆるこの両国の削減のための第二次のロシア側のこの批准、それから第三次の削減交渉、これに一日も早く入るようにということで、努力をいたしておるわけでございまして、私自身も外務大臣時代にロンドンでのG8の時にも、この両、印パに対する非難の決議と同時にですね、五つの国に対しましてもこれからの削減に対して努力をされるよう強く要請をいたしたところでございますが、具体的にですねどういう形に取るかということで私の考え方としては、そのときにいわゆる核の保有を現在いたしておらないと、しかしながらその能力を持ち、あるいはまたそうした計画をかねて持っておられながら既にその方針を放棄をした国々、まあ言ってみると日本、それから先般は私がブラジルに行きまして、カルドゾ大統領にも話しましたが南米でいけばアルゼンチンとブラジル、あるいはまたこの南アの国、最近の情報を確かめておりませんがスイスなんかもですね、かつてその保有について計画をしておったというような報道もされておりますが、そうした国々と十分話し合ってですね、そして保有する国々に対してのプレッシャーといいますか、そうした国々が世界の世論の中でこの廃絶に向かって努力をして行くに対して、日本としてもイニシアチブをとりながら二大核保有国、さらに参加国の国に対しましても、日本の立場を強くお話をしていきたいというふうに認識をいたしております。

○司会 時間となりましたので、これをもちまして記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。