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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小渕内閣総理大臣と金大中韓国大統領との共同記者会見

[場所] 
[年月日] 1998年10月8日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(上),243−260頁.
[備考] 
[全文]

冒頭発言

【総理】 このたび、金大中大統領閣下を国賓として我が国にお迎えできたことを誠にうれしく思います。

 日韓関係の重要性と可能性を理解されておられる大統領と胸襟を開いて語り合うことができたことは、私の大きな喜びであります。

 私と大統領は、ただいま二十一世紀に向けた新しい日韓パートナーシップをうたう日韓共同宣言に署名し、日韓関係に新たな歴史的一ページを記すこととなりました。我々は日韓両国が更に高い次元の友好協力関係を発展していく第一歩を、今まさに踏み出したのであります。

 両国関係の過去及び現在そして未来を語る中で、私は日本政府を代表して、我が国が過去の一時期、韓国国民に対し、植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し痛切な反省と心からのおわびを申し上げました。この気持ちは多くの日本国民が共有していると信じております。

 大統領は私の言葉を真摯に受け止め、評価するとともに、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好に基づいた未来指向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明されました。これを一つの区切りとして、両国の国民が和解し、交流のうねりが高まっていくことを願ってやみません。

 同時に、私は一九六五年の日韓国交正常化に至るまでの両国の先人の努力、それ以降の緊密な友好協力関係を想起するものであります。この関連で、私は今日までの韓国の飛躍的な発展と民主化に敬意を表しました。

 これに対して大統領は、第二次世界大戦後の国際社会の平和と繁栄に我が国が果たした役割を評価されました。私は今や日韓両国の政治指導者に課せられた使命は、過去に関するこれまでの葛藤を克服し、共通の価値観に立脚する真の友好協力関係を発展させていくことであるとの確信を抱きました。この点は大統領も同じ思いであると思います。

 共同宣言が示す新たな日韓パートナーシップの実施は、両国関係の飛躍的発展に向けた大いなる挑戦であり、広範な両国国民の支持が不可欠であります。この場を借りて私と大統領は、両国国民に対し、このような共同作業への参画を呼び掛けたいと思います。

 漁業交渉の妥結に関連し、私は大統領とともに両国交渉関係者の努力に対し深甚なる敬意を表します。今後、新たな資源秩序の下で、漁業分野での両国の関係が円滑に進むことを心から期待いたします。

 私は大統領との間で、両国がおのおのの経済的諸問題の解決に向けた確固たる決意を確認し合うとともに、我が国としても、韓国の経済情勢に関心を払い、必要な協力を引き続き行っていくことを明らかにいたしました。投資促進に向けた措置の実施や、日本輸出入銀行による新規支援は両国が自らの経済困難の克服とともに、アジア経済の抱える諸問題に共に対処していく姿を象徴するものであります。

 また、二十一世紀に向けて日韓両国民のさまざまな交流を一層増進させていくことで意見の一致を見ましたことも大きな成果であります。

 閣僚等政府レベルの対話の強化のみならず、未来を担う青少年交流を一層活発化させるためのワーキングホリデーの制度、中高生交流事業、韓国理工学部の大学生の我が国留学のための新規措置などは、未来の日韓関係の前進にとり大きな意義を持つものであります。

 また、大統領の対日文化開放方針の決定は極めて大きな前進であり、二〇〇二年のワールドカップ共催に向けて、両国の国民的文化交流が一層進むことを期待いたしております。

 北朝鮮に対する政策につきましては、大統領と有益な意見交換ができました。朝鮮半島の平和と安定を重視し、また、北朝鮮から責任ある建設的対応を得るという共通の戦略的目標の下、日韓両国はおのおの進める対北朝鮮政策に対する理解と支持を明らかにし、引き続き米国を含めた三か国で緊密に連携していくことを改めて確認をいたしました。

 このたびの日韓首脳会談を通じて日韓両国の改善に向けた我々の政治意思を示すことができたことに私は満足しております。大統領も同じ思いであられると思います。

 今後、二十一世紀に向けて大統領との友情を大切にしながら、新たな日韓パートナーシップの実施に向け、全力を尽くしてまいります。

 どうもありがとうございました、

【金大統領】 まず日本政府と国民が、我々一行を温かく歓迎してくださいましたことに対し感謝の言葉を申し上げます。

 小渕総理大臣との首脳会談は大変有益なもので、その結果に満足しており、今回の会談を通じて民主主義と市場経済に基づく韓日間の未来指向的な善隣友好協力関係の確固たる土台が構築されていることを確認いたしました。

 特に小渕総理大臣とともに二十一世紀の新しい韓日パートナーシップ・共同宣言を発表することにより、新しい時代の韓日友好協力のページを開いたことは大変意義深いことであります。

 小渕総理大臣と私は、両国が過去の不幸な歴史を克服し、二十一世紀に向けた未来指向的な関係を発展させていくことで合意いたしました。

 私はパートナーシップ・共同宣言を通じまして、韓日両国が単純な両者関係の次元を超えてアジア太平洋地域、ひいては国際社会の平和と繁栄のためのパートナー関係に発展することを期待いたします。

 小渕総理大臣と私は韓半島の平和と安定が北東アジア地域の安全保障に重要であるという認識の下、韓日米間で緊密な協助体制を維持していくことを確認いたしました。

 また、小渕総理大臣と私は、北韓の人工衛星発射試験で示された中長距離弾道ミサイルの発射能力が韓日両国を含めた北東アジアの安定に深刻な脅威の要因になり得るとの認識で一致し、韓日米が緊密に協議しながら対応していくことにしました。

 小渕総理大臣は韓国政府の北韓包容政策に対して理解と支持を表明し、KEDOの軽水炉事業を成功裡に推進するため、韓日間で引き続き協力していくことにしました。

 小渕総理大臣と私は両国の経済構造調整努力の成功と、アジアの金融危機克服に向けて緊密に協力していくことにいたしました。

 私は日本が韓国の通貨危機克服に必要な追加的な金融支援を行ったことに感謝の意を表明いたしました。

 小渕総理大臣と私は両国間の貿易の拡大均衡のために共同で努力することにしました。また、小渕総理大臣は日本企業の対韓国投資が引き続き拡大するよう、日本政府が持続的に協調していく考えを表明いたしました。

 小渕総理大臣と私は、日本の工科大学に韓国人留学生を派遣することで合意し、このことは二十一世紀の建設的韓日関係の増進に大きく寄与するものと信じております。

 小渕総理大臣と私は、韓日漁業協定が妥結し、韓日二重課税防止協定に署名することになったことを歓迎しました。

 小渕総理大臣による青少年交流に関する御提案は、未来の韓日両国関係の発展に大きく貢献するものと評価し、韓国としても、それに相応する方策を検討いたします。

 小渕総理大臣と私は、二〇〇二年ワールドカップの韓日共同開催が成功裏に行われ、韓日友好の象徴となり得るよう、緊密に協力していくことにしました。

 私は日本の大衆文化を段階的に開放するという方針を表明しており、このことが両国文化の健全な発展と、両国間の善隣友好に寄与することを期待しております。

 私は日本政府が在日韓国人に地方参政権を与える問題を前向きに検討することを要請いたしました。

 小渕総理大臣と私は、人権、軍縮、麻薬、環境問題など、全世界的な問題に共同で対応し、国連など国際舞台で両国間の緊密な協力を維持、強化していくことを確認いたしました。

 私は小渕総理大臣の公式の訪韓を招請いたしました。今般の首脳会談を通じ、私は韓日関係の発展に向けた小渕総理大臣の熱意と識見に感銘を受け、総理大臣との有誼と信頼を深めたことを大きな喜びと考えております。

 ありがとうございました。

 質疑応答

【日本記者】 それぞれに質問させていただきたいんですけれども、日韓両政府はこれまでも首脳会談などの機会をとらえて、未来指向の関係というのを何度か打ち出してきたと思うんですけれども、必ずしも過去の歴史認識などを巡って、そこから脱却できないできているという側面があると思います。

 今回の一連の会談と、今日の合意を経まして、本当に日韓両国というのは過去の一つの区切りをつけて二十一世紀に向けた新たな関係を発展させていくことができるのかどうかということ。

 それから、それに関連しまして、昨日、金大統領が言及されました天皇陛下の韓国公式訪問について、その時期と意味合い。

 それから、今も言及がありました韓国の日本の大衆文化に対する解禁について、どういうスケジュールをお考えになっているのかと。

 以上、質問させていただきます。

【総理】 それではお答えいたします。

 第一問でございますが、冒頭の会見の発言でも申し上げましたように、私は金大統領に対しまして、日本政府を代表いたしまして、我が国が過去の一時期、韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し痛切な反省と心からのおわびを申し上げました。

 これに対し大統領から、御自分のお言葉で真摯にこれを受け止め、これを評価すると同時に、両国の過去の不幸な歴史を乗り越えて、和解と善隣友好に基づいた未来指向的な関係を発展させるため、お互いに努力することが時代の要請である旨表明され、私自身もそのお言葉を心から信頼し、真摯に受け止めさせていただきました。

 お尋ねにありましたように、過去何回かこうした発言がされましたが、今回は共同宣言という形で両首脳が署名という行為を行いました。これは大統領も今世紀に起こったことにつきましては、今世紀で一つの区切りをついて、新しい二十一世紀に向けて、これから前に向かって両国の関係をより緊密に、すばらしいパートナ一シップをつくり上げたいという強い御意思がございました。

 私はそういう意味で、大統領のこのお気持ちを深く受け止め、そして、我が国の立場も明らかにし、これから二十一世紀はまさに過去は過去として、新しい時代に向かうという認識をいたしましたので、私は二十一世紀はその共同宣言の趣旨に基づきまして、これから大いに前進できるものだと考えて、確信をいたした次第でございます。

 次に、陛下の御訪韓のことにつきましては、金大中大統領より、天皇陛下の御訪韓の時期が早く来ることを望むと。韓国国民の温かい歓迎の中で訪韓する時期が来ることを願う旨の御発言がありました。これに対し自分より、お言葉に心から感謝する。その旨につきましては、昨日の金大中大統領と我が陛下との会談におかれましても、その由をお伝えされていると聞いています。

 政府といたしましては、この点につきましては、今後環境が整備されてまいること、そして、よくこの点につきましては、検討してまいりたい旨申し上げました。このことは日韓の一層の発展にかける意欲は自分も同じものでありまして、日韓双方で協力して環境を整えるよう努めてまいりたい旨申し上げたところでございます。

【金大統領】 まず、過去の問題に対して御質問が出ました。今回こそすべての与件、環境が過去とは異なりますし、過去と異ならなければならないと思っております。

 そして、このたび日本政府の過去の表現は、これまでとは異なるものでありまして、まずはその文章をもって正式に発表したということでございます。そして、韓国を直接名指しをして表明をしたということでございます。日本が韓国に対して与えた被害に対する反省とおわびを、その旨を表明したいということ。

 つまり、形式におきまして、その重さにおきまして、過去とは異なることだと思っております。

 そして、今、韓日両国は安保の面におきましても、そして経済協力の面におきましても、過去のいつよりもお互いに相互協力しなければならない状況でございます。

 三番目に、我々が迎える二十一世紀の持つ本質的な差ということでございます。二十世紀は民族中心の民族国家の時代でありました。二十一世紀は世界化の時代でございます。二十世紀の遺産はここで清算をしなければなりません。そして、二十一世紀には世界が一つになる時代を迎えていかなければならないと思います。その中で一番近い隣の国からお互いに手をつないで協力をし、世界に向けて協力をしながら、時によっては競争もすると。そういうような関係が構築されなければならないと思います。

 そのような二十一世紀の韓日協力関係は韓国の利益のためにも、そして、日本の利益のためにも絶対必要なことであると思っております。

 今回の共同宣言はいろんな面で従来とは異なる側面があります。もちろん、我々は過去のことを再び繰り返してはならないと思っております。しかしながら、幾らよい宣言が発表されたとしても、両国の指導者と国民が誠意を持って引き続き努力することがなければ、それは完全なものにはならないと思いますし、そういうような側面で引き続きの努力が必要だと思っております。

 続きまして、日本の天皇陛下の御訪韓につきまして、お答えいたします。

 隣にいながら、そして国交樹立後三十三年が経ちましたけれども、いまだに日本の天皇陛下の御訪韓が行われていないということは非常に不自然なことであると思っております。

 このたび韓日が新たな同伴者関係として出発をするのが、今後の両国関係の将来のために大きな発展的な影響を与えるというふうに信じております。

 そして、二〇〇二年のワールドカップも世界的な祭りでありますが、これを共にすることは、過去に例を見ない共通の目標でございます。

 そして、日本文化に対する開放の時代もやってきております。それは段階的に開放していきますが、それは相当な速度を持って進行される予定であります。

 このように、すべてが天皇陛下が韓国国民の温かい歓迎の中で訪韓をする、そのようなきっかけが行われなければならないと信じておりますし、そのために韓国政府として努力していきたいと思っております。

 そのような点で、天皇陛下御訪韓が韓日関係を緊密に発展させていく上で相当大きな貢献をするだろうと期待をしております。

 引き続きまして、文化交流について少し申し上げます。

 私は、日本の文化に対する開放は、それが両国間の理解と協力の発展のために非常に重要であると思っておりますし、それをもって両国関係がもっと発展するだろうと思っております。

 日本の歴史におきましてもそうでございますが、我々は中国から仏教と儒教と受け入れて、我々の文化を豊かにしてきました。これから、韓国と日本の間に文化交流が活発に行われるならば、それは両国の文化の発展のためになると信じております。

 私は日本の文化に対して段階的に開放していくと宣言しましたが、その段階的な開放というのは相当な速度をもって推進されるだろうと予定しております。

 このような文化交流が順調に行われるために、韓日文化交流協議会をつくって、両国の文化人が自主的に検討していくのが望ましいということで私はこれを提案いたしました。これに対しては、小渕総理大臣も受け入れられまして、このような機構が成立することを期待します。

 ありがとうございました。

【韓国記者】 まず小渕総理大臣に御質問いたします。

 本日、共同宣言にも過去のことに対して明確なる言及がありました。過去におきましても、このような言及はあったと思います。しかしながら、時として日本の指導者の方々から余り有益でない、つまり歪曲の発言がたびたび出てきまして、そのような約束を霧散にした経緯がございます。小渕総理大臣は本日の宣言をきっかけといたしまして、これ以上そのような発言は出ないだろうというふうに思っているのでしょうか。

 金大中大統領に御質問いたします。

 金大統領は二十五年前、ちょうどこの東京で拉致事件の被害者でいらっしゃいました。そして、本日は韓国の大統領に就任されましてここに来られました。しかしながら、今までそのことにつきましては、いかなる言及もされておりませんが、どのような理由があるのか。そういうことをお聞きしたいと思います。

 最後に、お二人の首脳に質問したいと思うんですが、韓日両国の経済協力に関連しまして、御所信と御意思というのをお聞かせください。

【総理】 私からお答え申し上げます。

 今回、過去の問題に関する日本政府の認識は会見の冒頭で政府を代表して申し述べたとおりでございます。

 先ほど首脳間で署名した共同宣言にも明記されております。したがって、政府の姿勢は明らかでございます。

 そこで、責任ある立場の方々がその発言におきまして、こうした政府の立場は十分尊重いただけるものと確信をいたしておりますし、同時に両国民の皆様には本日私が申し上げたことが揺るぎない政府の立場であることを明確にいたしておきたい思います。

 こうした認識に立脚いたしまして、私と金大中大統領が確認したとおり、過去にかかわる問題を克服して和解を行い、来る二十一世紀に向けた共通の価値観に立脚する真の友好協力関係を築いていくことが最も重要でありまして、自分と金大統領との間で最高首脳間の信頼関係はその確固たる礎になるものと信じております。

 先ほど大統領からも御発言がございましたが、極めて重要な文書を作成し、かつこれに署名をいたしました。この責任は金大統領も当然のことながら、私自身もその責を負う立場であります。

 私は文書に署名したことと同時に、このことに関しまして、これから国民の皆さんにも十分その真意を御理解をいただいて、そして、先ほど来申し上げておりますように、二十世紀で起こったことにつきまして、こうした形で両国の責任者がこうした共同宣言を発し、明日への誓いができたということにつきましては、私は必ずこのことを御理解を、双方の国民にもいただきまして、新しいスタートの、本当の意味での第一歩なるものと深く確信をいたしておるわけでございます。

 また、そのことは金大統領も韓国におきまして、そうしたことの御理解をいただけることにつきまして、先ほど来お話しがございました。

 私は長らく日韓の問題につきまして、国会議員という立場で議員交流をいたしてまいりまして、長い間多くの韓国の政界、経済界、文界、各界の皆さんともお話をいたしてまいりました。率直に申し上げて金大統領とは昨年暮れ、大統領予定者、すなわち選挙に御当選された後、また、日韓の外相会談等におきましてお目に掛かり、実は今回をもって三度目でございます。

 この間私も金大統領の今日までの政治経歴の中で自由と民主主義を守る、その一点で何度にもわたって、死線を越えてこられた政治的な大変貴重なキャリアと大きな足跡を残しておられる大統領でございまして、回数こそわずかでございましたが、私は大統領の持たれておられる信念の強さに改めて感銘をいたした次第でございます。

 必ずや私は両首脳でまとめられたこの共同宣言に基づきまして、これから我々も努力を傾注いたしてまいりますが、国民の皆様におかれましても、このことについての御理解を得られるものと確信いたしておりますと同時に、我々自身もその努力を傾注していきたいと思っております。是非御協力のほどをお願いいたす次第でございます。

 なお、経済問題につきましては、具体的な幾つかの問題につきまして合意を得ました。

 また、こうした問題を話し合うために首脳同士はもとよりでございますが、経済閣僚、あるいは関係閣僚、その他政府の閣僚同士の話し合い、あるいはまたハイレベルの協議、更に民間の方々にも入っていただきました両国の経済問題について、大いにこれから積極的に取り組んでいきたいと思っております。日本自身も極めて厳しい経済環境でありますが、我が国は我が国のことのみならず、隣国、韓国の経済発展、これとともに力を合わせてアジア全体の経済に対しての大きな責任を負っているという立場でございますので、相協力して、この日韓の経済協力を更に深みのあるものにしていくことによりまして、その実績を上げてまいりたいということにつきましても、同意をいたしたところでございます。

【金大統領】 まず拉致事件にっいてお話しいたします。

 私は一九八〇年五月十七日、軍事クーデターが起こる少し前に記者会見を通じてこの問題に対する私の立場を明らかにしました。この拉致事件をもって、両国政府に対していかなる問題提起もしないということでした。そして、拉致事件にかかわった犯人たちに対しても、その処罰は求めていないということです。

 ただし、このことは人権の問題でありますので、その真相は究明されなければならないということでした。真相究明につきましては、適切な方法を通じて、それが明らかにならなければならないという私の考え方には今でも変わりはございません。

 しかし、八〇年に既に話しましたように、両国政府に対してその責任を追及しないと。そして、その関係者に対する処罰も要求しないという立場には今でも変わりございません。結局、この問題につきましては、その真相が適切な方法で究明されることはできるだろうと今でも考えておりますし、将来この問題に対して必要な意見を明らかにする機会があるだろうと思っております。

 経済問題につきまして一言申し上げます。

両国の経済協力につきまして、小渕総理大臣からお話がありましたので、私はそれに対して同感しますし、詳しくは申し上げません。

 既に私は昨年の暮れから始まった韓国の外貨危機に際して、日本が世界のどこの国よりも積極的にその外貨危機の克服のために協力をしてくださったことに対して、公式に感謝するということを申し上げました。

 そして、今回の会談で日本側が我々の経済危機克服のために多くの協力の意思を表明してくれたことに対しても感謝しております。ただし、これに対して二つを明確にしておきたいと思います。

 一つ目は、日本が自国の状況も非常に厳しい中で韓国の経済に対して支援をしてくれる、その意味に対して心から感謝を申し上げたいと思いますし、我々は国内的に徹底した経済改革の努力をすることによって必ず我々の経済を回復させ、そしてこの難局を克服することによって日本が支援をした、そのやりがいがあるようにするために私は責任を持って努力していくことをここで申し上げます。

 もう一つは、経済は経済であるということです。日本からも韓国に対する投資、そして経済協力。それは同時に我々の利益にもなりますけれども、日本の利益にもなるというふうな政策を取っていきたいと思います。

 投資に関して申し上げれば、世界の中でどこの国よりも一番よい環境を整備していきたいと思っております。それによって日本の投資家が韓国で経営に成功して利益を上げるということです。

 そして、貿易におきましても、相互利益の原則の下で推進していきたいと思っております。そのような意味で日本との貿易におきまして、問題になりました輸入先多角化の政策に対してもそれを繰り上げて早目に廃止する措置を取る予定でございます。

 このようなことから、日本の経済協力が、我々の経済発展のためにもなりますけれども、日本の経済のためにもなるように、そのような協力関係を推進していきたいと思っております。

 そして、日本が韓国に対して関税引き下げ、農畜産物輸入増大、つまり韓国の対日輸出を増大させることによって、これまでの貿易不均衡を最大限縮小していくことを願っております。

 ありがとうございました。