[文書名] 小渕内閣総理大臣の年頭記者会見
冒頭発言
(はじめに)
明けましておめでとうございます。
新しい年、平成十一年、一九九九年は歴史の節目となる年と考えます。
十年前に、国内では、昭和から平成へと時代が移り、世界的には、ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結いたしました。こうした歴史の転換点以降、バブル経済の崩壊、ロシア・東ヨーロッパの市場経済化、民族紛争の激化など次々と起こる中で、これまでに様々な模索が行われてまいりました。
四半世紀、二十五年前は、石油危機の真っ只中でありました。当時、我が国は将来についての不安で覆われておりましたが、省エネ努力などに取り組み、危機をバネに日本経済の力がむしろ強化されたことが改めて思い起こされます。「危機」という言葉は、「機会」=チャンスともとらえられます。日本経済は厳しい状況にありますが、今年は困難に打ち勝ち、これをチャンスとして受け止め、将来に向けて大胆に取り組んでいく年にしたいと念願いたしております。
一九九九年は次の千年に入る前の最後の年でもございます。
こうした年を迎え、身が引き締まる思いですが、十年前に、私は昭和から平成へという時代の節目を官房長官という立場で経験いたしました。元号を発表した私が、十年後に政府の責任者となっていることについて運命的なものを感じつつ、日本が今後進んでいく方向について私の考え方をお話しいたしたいと思います。
(小渕内閣の課題等)
まず、改めて国民の皆様に、小渕内閣が何を課題として取り組んでいるのか、お話ししたいと思います。
私は、この内閣の課題として「五つの安心」と「真の豊かさ」の実現を掲げたいと考えております。(経済再生への安心)
第一の安心は、「経済再生への安心」であります。私は、この小渕内閣を「経済再生内閣」と位置付け、この問題に真正面から全力投球をいたしてまいりました。
現下、日本が陥っている「不況の環」を断つべく、[[undef12]]金融システムの再生策、[[undef12]]需要の拡大を目指した景気回復策、そして、[[undef12]]産業の再生と雇用対策の促進、を主眼として、予算面、税制面でかつてない大胆な取り組みをしてきたところであります。
なお、所得税の恒久的減税に関しまして、本年一月から三月までの間の給与等の減税につきましては、源泉徴収義務者の方々に大変なご苦労と負担をかけますが、できるだけ簡便な方法によりまして、本来の年末調整での実施を前倒しして、夏のボーナスの支給月である六月分の給与から実施できるようにいたしてまいります。
私は、政府の施策が民間経済の真剣な努力と相まって、必ずや成果を生み出し、来年度には「はっきりしたプラス成長」となることを確信いたしております。同時に、私は、将来への不安を払拭し、明るい展望を持てる社会を築くための経済的基盤をつくり上げていくべきであると考え、昨年末の経済戦略会議の提言をしっかりと受け止め、思い切った構造改革に取り組んでまいります。
これとも関連し、私は、二十一世紀の我が国の経済社会の指針として新たな経済計画を策定いたします。その際、できる限り広く叡知を結集し、成長率の目標を中心とした従来の発想を超えまして、日本のあるべき姿を探るものにいたしたいと思います。
また、私は、将来世代のことを考えますと、大変重い課題を背負っていると痛感しております。それだけに、我が国が回復軌道に乗った段階におきまして、二十一世紀初頭における財政・税制の課題について、もう一度、幅広く、かつ、しっかりと検討を行い、その姿を提示していかなければならないと考えます。
既に前向きの動き、「胎動」が感じられるようになりつつあります。また、日本の経済を支える基礎、すなわち巨額の対外資産や個人貯蓄、製造業の「底力」、教育水準や勤勉といった日本人の資質などでありますが、これらが依然として国際的に見ても強いものであることを思えば、私は日本経済が再生することにいささかの疑いも持っておりません。
今、私たちに必要なことは、自分たちの国日本に自信と誇りをもって、共に歩き始めることではないでしょうか。
(雇用(働く場)についての安心)
第二に、雇用すなわち働く場についての安心であります。
長引く景気の低迷の中で、企業の倒産や失業者が増大するなど、雇用の不安が増大し、消費にも大きな影響を与えております。中高年の方をはじめとして働く意欲と能力のある方々に対して、働く場が確保される環境をつくるよう全力を尽くしていく覚悟であります。
雇用不安と消費低迷の悪循環を断ち切るため、昨年の「緊急経済対策」におきまして、目標の一つに、「失業者を増やさない雇用と起業、即ち業を起こすこと、の推進」を掲げまして、百万人の雇用創出・安定を目指し、思い切った対策を決定いたしました。
また、雇用不安を払拭するためには、これに加え、質の良い働く場を創り出すことや規制緩和を通じまして、人材が新しい産業へ円滑に移動できるようにいたしてまいります。
(環境に対する安心)
第三に、私たちの豊かな地球、国土、地域の環境に対する安心であります。
緑豊かな環境を守り、子供や孫の世代に引き継ぐことは、私たちの誰もが願うことであり、今生きる者の責任だと信じます。しかし、今や環境の問題は、一部の加害者による大気汚染等の公害問題から、地球温暖化、ゴミの問題、環境ホルモン、ダイオキシンなど、日常生活や通常の事業活動に深くかかわり、私たち一人一人が加害者であり被害者でもあるような問題へ、大きな広がりを見せております。
私は、地球温暖化をはじめ環境問題に一層積極的に取り組んでまいります。また、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会の仕組みそのものが限界に来つつある中で、私たち一人一人が身近なところから、自然や資源を大切にする社会をつくっていく努力をお願いいたしたいと思います。
(老後に対する安心)
第四に、社会保障制度に関する信頼を確保し、老後を含めた国民生活に対する安心であります。
今後の急速な少子・高齢化の進行や現在の経済の低迷とあいまって、将来の社会保障を巡りまして、国民の間に不安感が増大していることは、私自身、強く感じております。
どんなにすばらしい給付を保障する社会保障を築いても、国民に過重な負担をかけることなく、安定的に運営のできる制度でなければ「絵に描いた餅」に終わってしまいます。介護保険の創設に続き、医療及び年金分野を中心に、効率化を図りながら、国民の皆様にも痛みと負担をおかけすることとなりますが、国民のニーズに的確に応えられる制度に変えていくことが求められると思います。
高齢社会には、単に社会保障の問題に止まらず、高齢者にふさわしい働き方、高齢者が活動しやすい生活環境など国民生活全般に係わる多くの課題が挙げられます。また、こうした社会の仕組みが社会保障の在り方に大きく影響を与えることとなります。
二十一世紀にも国民の皆様に安心してもらえ、また、満足してもらえる社会保障を築くためには、国民的な議論を行い、二十一世紀の社会保障について国民的コンセンサスを築くことが是非とも必要であります。
(育児・教育に対する安心)
第五は、育児と教育、すなわち、広い意味では「子育て」に対する安心であります。
少子化の背景として、「子育て」に関わる様々な問題、すなわち、特に女性にとって結婚や育児に伴う負担が大きく、このため結婚をためらう、あるいは、子育てと仕事の継続との両立が難しい、といったことによる選択の結果という面が大きいと言われております。若い男女が共に社会に参画する中で、家庭を築き、子供を育てていくという責任ある喜びや楽しみを経験できるよう、その制約要因を取り除いていくことが必要であります。国、地域社会、企業、家庭を挙げて、雇用の在り方、保育サービスの充実などの取り組みを進めていく考えであります。
また、教育に関して、いじめ、暴力、受験戦争の過熱の問題だけでなく、教育の在り方について、国全体に不信や不安が広がっております。
いじめや暴力の問題につきまして、子供たちの思いやりの心や豊かな感受性をはぐくめるよう、学校での「心の教育」に止まらず、家庭や地域が共同して解決に取り組んでいく必要があります。
受験戦争が過熱し、また、その結果、独創的な人材が生まれにくい等の問題も深刻であります。知識偏重の一律的教育を改め、大学入試制度の改革や中高一貫教育の導入などに、既に取り組みを始めているところであります。
また、今の時代は情報化と国際化が進み、基礎的な素養が、「読み、書き、パソコン、英語」へと変わりつつあります。国としても、例えば、十一年度末までには全国の小学校に二人に一台のパソコン教室を整備する計画を進めておるところでありますが、一層積極的に取り組んでいく考えであります。
(「真の豊かさ」の実現)
以上の「五つの安心」を確立した上で私は「真の豊かさ」の実現を国民とともに目指していくことを提案したいと思います。日本は既に十分豊かになったという指摘はあるでしょう。しかし、我々は本当に豊かになったのでありましょうか? 狭い住宅、過密な通勤、余暇や緑の少なさなど、生活の質は残念ながら決して高いとは言えません。
社会全体として工夫をすれば、もっとゆとりのある生活、「真の豊かさ」を享受できるはずであります。「真の豊かさ」を実現するための投資は経済再生にもつながってまいります。私の構想であります生活空間倍増戦略プランは、住宅、買物空間、高齢者にやさしい空間などの生活空間の倍増を目指すものであり、こうした「真の豊かさ」の実現に向けた第一歩でもあります。もちろん、「真の豊かさ」とは、こうした生活の質の問題に止まらず、私たちの「心のありよう」「心の豊かさ」に係わるものでもあります。そうした思いも込めまして、私はこの国の目指す姿として「富国有徳」を提唱しておるところであります。
いずれにせよ、「真の豊かさ」として何を求めるのか、新しい日本の「夢」は何なのか、様々な考えがあるでしょう。私はこの課題について是非国民の皆様に幅広く議論していただきたいと考えております。
(外交への取り組み姿勢)
次に、外交への取り組みでございますが、我が国の経済再生は、アジアをはじめとする世界全体の安定と繁栄にとって極めて重要であることは申すまでもありません。経済の相互依存関係が進む中で、日本の厳しい状況は、アジア、ひいては世界に大きな影響を及ぼし、また、アジアの不振は、すぐに日本にも跳ね返ってまいります。アジア経済の支援は、我が国自身の経済回復にとっても大変重要であります。いわば、日本とアジア諸国、そして世界全体は一つの船に乗って荒波を航海しているようなものであります。世界全体が、なかんずくアジア諸国が、日本経済の再生と日本の支援を真剣に待ち望んでいるのでありまして、私は、こうした課題について、引き続き全力を挙げて努力いたしてまいります。
日本への各国からの期待は、経済問題に止まりません。私は、昨年の秋、米国、韓国、ロシア、中国などと首脳外交に取り組み、十二月には、ASEAN首脳との会合に臨みました。これらの会合を通じまして、各国の日本に対する期待が如何に強いかを改めて実感した次第であります。
私は、こうした期待に応え、世界の平和と繁栄に貢献することは我が国の責務であると考えます。地球環境問題、また、ハリケーンに見舞われたボンデュラスへの国際緊急援助隊の派遣に象徴されるような人的な貢献の分野でも、国民の皆様のご理解を得て、積極的に取り組んでまいります。さらに、我が国の平和と安全に直接係わる北東アジア地域の安全保障につきましても、遺漏なきを期してまいります。
近々私は、フランス、イタリア、ドイツの欧州三カ国を訪問いたします。単一通貨「ユーロ」の導入も踏まえ、欧州各国首脳との間でも、日本経済再生のための取り組みへの理解を深めてもらうと共に、国際金融システムの改革などの諸問題について忌揮のない意見交換を行ってまいりたいと思っております。
(小渕内閣の取り組み姿勢…責任ある政治)
以上申し上げた課題に取り組む上で、国民の政治に対する信頼を確立することが何よりもその前提であります。国民の信頼に応え、明日の日本を切り拓いていくには、責任ある政治こそが求められております。このため、私は時局認識や政策の基本的方向で一致を見た小沢自由党党首と政権を共にする合意をいたしたところであります。
私は、就任以来、節目、節目で決断してまいりましたが、今後とも責任ある政治を心掛けるとともに、国民の強い期待に沿って政治のリーダーシップの確立や中央省庁のスリム化など抜本的改革を行っていく決意であります。
近代の政治家に求められる資質は、「情熱、責任感、先見性」であると言われてまいりましたが、私はこれに加え、多くの国民の声に耳を傾け、またお話をする「コミュニケーションの力」が極めて大事であると信じて、政権発足以来、様々な努力、工夫を重ねてまいりました。本年も是非これを実行していくつもりでありますので、皆様の叱咤、激励、そして本音の声を承りたいと思っております。
最後に、改めて国民の皆様のご理解とご支援を重ねてお願い申し上げ、皆様のご健康とご多幸を心からお祈りいたします。
質疑応答
−−では、記者団から質問させていただきます。
改めまして、明けましておめでとうございます。総理が最後に申された自自連立について、まずお尋ねしたいと思います。
総理がおっしゃられたように、自由党と自民党との連立政権が通常国会前にもスタートすることが確定いたしましたが、総理は、この連立政権で、差し当たっての通常国会をどう乗り切られようとしているのか、その政権運営方針。さらにもっと具体的に、内閣改造の時期について、総理の訪欧前ないしは後という可能性もあるのかどうか。
もう一点。小沢党首に対して、内閣に入るように要請される、特に副総理として入閣を要請されるかどうか、まとめてお尋ねいたします。
○総理 まず、いわゆる自自連立政権樹立のことについてでございますが、私は、このことは、両党における時局認識・政策の基本的方向で一致を見た小沢自由党党首との合意によりまして、政権を共にし、国家と国民に対する責任ある政治を行うというお話でございましたが、迎えます通常国会を乗り切るというだけのものでは決してありませんで、やはりよきパートナーとして、基本的理念、もちろん、同じであれば一つの政党になるわけですが、政党が異なりますから、おのおの異なる点がありますけれども、共通の点は力を合わせて、「国民のために何をなすべきか」という観点に立ちまして、この合意を見ておるところでございます。
世に数合わせというようなことがありますが、これは、言うまでもありませんが、衆議院におきましては、既に両党は過半数をはるかに上回っておりますが、参議院におきましては、現在、過半数の百二十六に対して百十六議席でございます。そういった意味では、二党合わせましても過半数に至らないということであります。
重ねて申し上げますが、両党、特に党首間でこうした考え方によりまして合意を見ましたことは、これからの両党の考え方を具現化していく、そのことが二十一世紀に向けての国民に対する責務である、こういう観点で合意いたしたことを改めてご理解いただきたいと思います。
そこで、内閣改造の時期についてお尋ねがございました。この合意によりますと、百四十五通常国会を前にして内閣改造を行うことによりまして、両党の絆をより強固なものにし、私としては、閣内に自由党からもご参加いただきまして、よりかたい形での内閣として運営をさせていただきたいと思っております。
ただ、その期日、あるいはまた、どのような方に入閣をお願いするか等につきましては、現段階では、すべて首班である私にご一任をちょうだいいたしておりますので、真剣に取り組んでまいりたいと思っております。
ただ、昨年の暮れ行われました党首間会談におきましては、自由党から提起されております諸問題がございますので、その問題のために、五つのプロジェクトチームが既に発足をし、仕事を開始いたしております。そうした成り行き等も見通してまいらなければならない点もございますし、プロジェクトチームが自主的・本格的に作業を始めるのは、正直に申し上げまして、この松の内というわけにはまいらないと思いますので、そうした動向も見ながら考えてまいりたいと思っております。
それから、小沢党首の入閣につきましては、私は昨年、「ぜひ自由党として、右代表として、ご入閣をされることを期待しております」、こう申し上げております。この問題につきましては、党首自らが「すべて総理大臣に一任をしておる」、こうおっしゃっておりますので、引き続いて、自由党の内部といいますか、党首はじめ皆さんのお考えに従いたいと思っております。
−−続いて、連立政権樹立に当たっての政策について、何点かご質問いたします。
特に安全保障問題について、自由党の要求と政府見解とやや異なっているような印象を持つわけですが、自由党が要求しています国連の平和活動への協力のあり方について、具体的に申し上げて、国連軍ないしは多国籍軍ができた場合の自衛隊の参加の形態をめぐって、憲法解釈を含め、総理ご自身、いまどのようなお考えなのか、改めてお聞きしたい。
さらに、次の通常国会での大きな焦点になると思われますガイドラインの関連法案についても、現在の総理のお考えというものをお聞かせください。
○総理 まず、いわゆる国連軍への参加問題についてでございますが、実は、合意の中で「国連軍」という言葉は使用しておりません。自由党としては、日本の憲法の前文にありますように、国際協調という立場、それから国連に対する評価、こうした考え方から申し上げまして安全保障に対してお考えを示されております。
しかし、国連総会または安保理の決議に基づいて、国連から要請のあった場合の国連平和活動への参加につきましては、過ぐる臨時国会におきましても、「憲法の理念に基づいて」ということでございまして、この点は、両党間違いない基本的考え方でございます。ただ、安全保障の問題につきましては、先ほど申し上げたプロジェクトチームが第一回の会合を開いておりますので、そこで検討させていただきたい、こういうふうに考えております。そもそも、両党間におきましては、基本的な考え方においてそう差異があるというふうに考えておりません。
それから次に、ガイドラインの問題でございます。この法案は、残念ながら、幾つかの国会を継続しておりまして、これは日米間の約束事として、両国は安全保障に対して責任を持つという立場からも、この日米防衛協力の指針、関連法案につきましては、ぜひ次の国会で成立を期していかなければならないと考えております。
この点につきましても、昨年十二月二十九日の小沢党首との会談におきまして、安全保障の基本原則を確立、その原則に基づきまして、ガイドライン関連法案等の成立を期するということを確認いたしておりますので、これまた、両党間でこの審議に入ります前に、しっかりと討議をし、結論を得て、もちろん両党賛成の上でこれが国会を通過できるように最善を尽くしていきたい、このように考えております。
−−両党の合意事項について、ほかの政策についてもちょっとお尋ねしたいのですが、政府委員の制度のあり方について、自由党の場合は、これを全廃して参考人にとどめるべきだと。役人の答弁の機会を極力少なくしようというお考えなのに対して、自民党は、やや、そうではないというふうに伺っております。
それから、国会議員の定数削減問題について、自由党の要求は、衆参それぞれ五十人ずつ削減ということです。これは、議員の個人個人に係わることですので、一朝一夕にはいかない問題と思いますが、現時点で、総理ご自身としてはどのように持っていかれようとするのか、そのお考えをお聞かせください。
○総理 基本的には、政府委員制度につきまして、これを廃止して、国会の審議を議員同士の討論方式に改め、そのために必要な国会法改正等の制度を整理し、次の国会で行うということにいたしております。したがいまして、これも、先ほど申し上げましたプロジェクトチームを既に設けまして、第一回の会合を持ち、六日に第二回を開くと承知をいたしております。
この原点の原点をたどれば、国会におきまして、政治家といいますか、あるいは閣僚といいますか、そうした方々が責任を持って野党の皆さんと討論をし、そして、そのことを国民の皆さんのご判断の糧にしなければならないという考え方をいたしますれば、基本的には、政治優位といいますか、そういうことにつながるのではないか。ややもすれば、官僚的な力に大きく委ねるということであってはならない。お互い政治家同士が、十分な議論を通じて考え方を明らかにし、国民の賛否をいただいていくということは、大きな流れであります。それを具現化する方法として、自由党からもこのような提案をされておられるわけですから、これは真摯に受け止めて、従来の問題点について、この際、反省をしながら、新しい方式を生み出す、ある意味ではよき機会でもあると考えておるわけでございます。これも、改めて両党間で十分話し合いを済ませていきたいと思います。
それから、国会議員の定数の問題、これはなかなか難しい問題であります。しかし、現下、国民の皆さんの目から見ましても、国会議員の定数は一定の削減をいたしていくべきだという声も極めて強いことでもあり、また、自由党からもそうしたお考えを示されております。この点につきましても、国会議員の身分に係わることでございますので、政府の立場からこのことを申し上げることは非常に問題があるかと思いますけれども、政治家として、国会のあり方を考えましたときに、これまた真剣に考えていくべき課題である。これも、申し上げたように、両党間でその詰めを行ってまいることに相なっております。
−−次に自民党総裁選への対応についてお伺いします。
今年は自民党総裁選の年でありまして、総理の総裁としての任期は九月で切れると。この総裁選について、再選を目指すお考えがあるのかどうか、その対応をお伺いします。
○総理 ズバリと申されましたけれども、私としては、橋本前総裁のあとを継いで総裁になりまして以降、総理大臣となりまして、一日一生という思いで、一つ一つの問題に真剣に取り組んでまいったわけでございます。当面は、昨年末編成させていただいた予算、景気回復のために、それこそ思い切ったあらゆる施策を講じようということで編成させていただきました予算を、来るべき通常国会におきまして、一日も早くこれを成立せしめることが最大の使命・任務と考えております。
したがいまして、現時点におきまして、総裁選にどう臨むかということにまで考えが及んでおらないことをご理解いただきたいと思います。
続きまして、景気対策についてですけれども、総理は就任以来、「経済再生内閣」ということで、景気回復に全力を上げるというお考えを再三にわたって強調されております。先ほども、冒頭そういうお話があったのですけれども、今年の経済成長に関しては、政府は〇・五%の成長ということを決めましたけれども、民間調査機関の平均的な数字を見ますと、マイナス成長というのが大半だと認識しております。
こういった情勢を踏まえて、改めて、今年の景気見通しについてお伺いするとともに、仮に、いま言った〇・五%が達成できなくなった場合に、追加の対策を打たれるお考えがあるのかどうか。あるいは、もし、そういったものをすべてやった結果、やはりプラス成長を達成できなかったという場合は、責任というものについていかにお考えか、お伺いしたいと思います。
○総理 後のほうの二つの、追加の考えがあるか、あるいは、その責任をどうかということにつきましては、これから申し上げますように、内閣としては〇・五%の実質成長率を見込んで、是非これを達成していくためにあらゆる努力を講じつつあるわけでございます。
そういったことを考えますと、昨年、私、内閣を組閣させていただきまして以来、日本の一番大きな経済の問題は、何といっても金融の安定化ということでございます。これは、不良債権の処理という問題につきまして、バブル以来、後手後手に来たのではないか、それがとどのつまり、日本の金融システムに対する世界の信用を失いかけておったということであります。この問題を、まず国会のご支持を得て二つの法律として制定をした、これで今年から、金融機関もより健全化のために公的資金も注入され、そして、より健全な方向に歩み出すということが行われ、また、金融機関の再編が進んでくる。こういう過程で、実体経済も必ず回復してくる、また、この阻害要因が、いまのことを含めて、取り除かれていくということでございます。また、予算、その他が十分執行されて、昨年来の第一次景気対策、それから第二次の景気対策、こういうものが動いてくれば、必ずよい作用を働かせて、公的需要が下支えをしながら、民間需要も緩やかに回復できるだろう。そのために最善を尽くしていくということが、まず最初の問いに対するお答えとさせていただきたいと思います。
−−次に、北朝鮮情勢についてお伺いします。
昨年は、テポドンミサイルの発射、あるいは、潜水艇の侵入・撃沈事件等々、北朝鮮をめぐる情勢がかなり緊張しておるという認識をしております。今年は、地下核施設をめぐる疑惑とか、あるいは、九四年のジュネーブ合意に基づく重油の供給をめぐる米朝関係の緊張とか、様々な要因から、特に前半、北朝鮮をめぐる情勢が一段と緊張するのではないかという見方が多いと思います。
こうした北朝鮮情勢に対して、例えばテポドンミサイルの再発射の観測がかなり出ていますけれども、仮にそうした事態が起きた場合に、どのように対処されるか。あるいは、地下核施設に対する査察問題、これをめぐって日本としてどのように対応されるつもりか。そうしたものを踏まえて、日朝国交正常化交渉全体に対してどのように対応されるか、この三点について具体的にお伺いしたいと思います。
○総理 まず、弾道ミサイルのさらなる発射につきましては、現時点では、北朝鮮が近々、更なる発射を行う準備をしているとの確たる情報は有しておりません。北朝鮮の弾道ミサイルの発射につきましては、米国が北朝鮮との協議の場等において警告を行っておると承知をいたしておりまして、我が国としては、仮に更なる弾道ミサイルの発射があれば、この地域における安全保障の問題がさらに深刻になること、北朝鮮がこのことを十分認識いたしまして、不適切な行動をとらないよう求める立場であります。この上で、この問題に関して、密接な利害関係を有する米韓両国と引き続き協調して対処していく考えであります。
この点につきましては、昨年来、韓国の金大中大統領、米国のクリントン大統領と、日韓米、この三カ国が十分情報を交換し、かつ連絡を十分いたし、そして、こうした北朝鮮の行動に対して、そのようなことが行われるということであれば、断固たる対応をとるべきだということについては一致をしておるわけでございます。
なお、核施設疑惑につきましては、情報というものはなかなか入りにくいことでございますが、この点につきましては、直接交渉いたしております米朝間におきましても、その疑惑を解明すべきあらゆる方策をとっておりますので、こうした努力が実り、核施設が地下にないということが明らかになることが、我が国民にとりましても、安全保障の面から極めて大事であるということでありますので、十分な注意をはらっておくべきだろうと思っております。
なお、日本としては、北朝鮮の軽水炉の発電につきまして、日本としてKEDOを通じまして協力をいたすという立場であります。これは、前提としては、核開発を行わないということに相なっておるわけですから、その点につきましては、更に更に注意をもって対処していきたいと思いますし、米韓とも連絡を協調していきたいというふうに思っております。
これからの北朝鮮との国交正常化の問題でありますが、残念ながら、昨年、日本にとりましては誠に思いがけないミサイル発射が行われて、我が国の国土の上空を通過したということでございます。そういうことを考えますと、二度と再びこうしたことが起こらないために、国交正常化交渉の開催は当面見合わせておりますが、現状におきましては、その方針を見直すだけの材料は見当たらないと考えております。したがいまして、いやしくも事前通告なくミサイルを発射するようなことが起これば、断固たる対応をとってまいらなければならぬと思っております。
ただ、少なくとも隣国であることに間違いないし、日本として、国交なきただ一つの国として、北朝鮮の存在というものは日本にとりましても極めて重要でございます。韓半島におきましては、韓国との関係は、昔は「近くて遠い国」と言われました。特に最近、金大中大統領が訪日をされ、まさに韓国との間は「近くて近い国」にいよいよなっておるわけでございますが、残念ながら、近くて全く遠い国が北朝鮮でございます。基本的な考え方としては、将来にわたっては、なるべく近くて近い国になることのできるように努力をいたしていくことは、大変大切なことだという認識をいたしております。
−−次に、日露関係についてお伺いいたします。
今年は、春にエリツィン・ロシア大統領が日本を訪問することになったわけですが、北方領土問題の進展の見通しについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか。
さらに、ロシア側からは「二〇〇〇年までの解決は困難」というような認識も繰り返し表明されておりますが、特にこの点を踏まえて、どのような対処をお考えでしょうか。
○総理 日露間の平和条約を締結して、そして、両国の関係をまさに二十一世紀に向けて進ませていかなければならない。私は、歴史の流れというものは、もう再び戻ることのできないものだというふうに思っております。
特に、エリツィン大統領が最初に訪日をされて、「東京宣言」が発せられて、この四つの島の問題を、東京宣言、クラスノヤルスク合意、川奈合意に基づきまして、その帰属を解決していく、そして、二〇〇〇年までに平和条約を締結するということにつきましては、もとより日本としても引き続いて全力で努力をしていく。そういう意味から、川奈で橋本総理提案の問題につきまして、今般、私、二十五年ぶりに日本の首相としてフォローいたしまして、エリツィン大統領とも話し合ってまいりました。一つ一つ問題を解決しつつ、両国間がより接近をしていくという努力が重ねられれば、必ずや、この長年の懸案が解決できるものと信じております。不断なく両国の関係を緊密にしていく努力を引き続いてしていきたいというふうに思っております。
−−次に日米関係ですが、このところ、アメリカ側が対日貿易の赤字の増大に伴いまして、日本に対する批判を強める可能性があるのではないかという見方が出ております。この問題にどのように対処されるお考えか。
それからさらに、安全保障問題を含めた日米関係全体をどのように運営されていくお考えかをお聞かせください。
○総理 日米関係は、基本的には全く問題はない状況になっておると思っております。ただ、ご指摘にありましたように、日米間の問題の一つとして、時々起こってまいりますのは、両国の貿易収支のインバランスの問題がございます。その点から言いますと、アメリカといたしましては、今年度の対世界商品貿易赤字が過去最大であったということでもございますし、また、対日商品貿易赤字も五百二十四億ドル(累計)でありまして、そういった点でたしかに大きなものになっていることは事実であります。
しかし、貿易の収支のみならず、双方の投資の問題もございますし、また、貿易外の収支の問題もございますし、日米間におきましては、種々問題があります。総合いたしますれば、貿易収支の赤字というものは、確かにアメリカにとっては大変大きなものであると思いますけれども、一方、国民の皆さんがこれを求められて、多くの製品を米国内に輸入をしておるという実態もあるわけでございます。
しかし、これが政治問題になることのないように、一つ一つ問題の所在を明らかにして、アメリカとの関係を悪化せしめないように努力をいたしていかなければならぬと思っております。
いずれにいたしましても、米国、日本、この両国の貿易の額というものは、GDPはアメリカが二五・四%、日本が一五・八%。二つの大きな国が大きな経済力を持っておるわけですから、この両国に問題が発生しないようにあらかじめ考えていかなければならないと思っております。
−−もう一つ、安全保障面での日米関係について。
○総理 安全保障面は、言うまでもありませんが、日米安全保障条約によりまして、日本、あるいは周辺地域の安全を確保するということになっております。この安全保障問題に対しましては、適時、米国との協議は重ねておりまして、両国間の安全保障問題に対する取り組みは、いささかの揺るぎというものはないものと確信をいたしております。
日本側としては、先ほど来申し上げておりますように、米国と結ばれましたこの条約に基づいてのガイドラインの問題につきまして、日本側としての法的整備も行っていきまして、両国間の関係をより緊密なものにしていかなければならない、このように考えております。
−−通常国会の運営について、重ねて質問いたします。
先ほど総理ご自身もお認めになったように、自自連立をしても、参院は過半数に足りません。とりわけ今度の場合は、予算をはじめ、ガイドライン法案など、非常に重要な法案が沢山ありますが、この成立を期すために、まず、どの政党に対して協力を求めていくのか、そういうお考えを持っていらっしゃるのかどうか、お聞きしたいと思います。
○総理 どの政党といいますか、これは、国会で活動されておられますあらゆる政党に、その理解と協力を求めていくのが筋だろうと思っております。
そういった意味では、自民党と自由党というのは、基本的に安全保障政策の考え方に相違があるとは思っておりません。ですから、与党としての考え方をぜひ野党の皆さんにもご理解を求めて、そして究極は、日本の安全保障に係わる問題につきましては、各党に積極的にご理解を求める努力を傾注していきたいというふうに思っております。
ヨーロッパ訪問なのですけれども、「ユーロ」が誕生したということで、円とユーロ、それとドルの関係について、それと、円の国際化という問題について、総理はどうお考えになって、今度のヨーロッパ訪問ではどういうようなことをご主張なさるおつもりですか。
○総理 まさに今回、正月早々にヨーロッパを訪問させていただくこの時期、一月一日からユーロが誕生したという歴史的な大きな年になっているわけでございます。いま、世界貿易に占める使用通貨は、アメリカのドルが四八・〇%、ヨーロッパが三一・〇%、それに引き比べて円は五%、これが数字として挙がっておるわけでございます。先ほど申し上げましたように、GDP比との比較においても、日本の円が国際的に使用されるということにおきましては、非常に低い数字になっております。
そういった意味で、新しい通貨ユーロが誕生し、米ドルが世界の基軸の通貨として大きなシェアを占めておることに関しましては、恐らくユーロとしてはそれに対しての考え方もあるでしょう。と同時に、円という通貨が国際的に使われる形になることは、ひとり日本のみならず、世界の金融通貨の市場におきましても極めて必要なことではないのか。一つよりも二つ、二つよりも三つという形で、それぞれ責任を分かち合うという形が望ましいと思っております。
そういった意味で、ユーロ通貨の誕生した機会に、これを推進してこられました、特にフランス、ドイツの首脳、そしてまた、これに参加したイタリアの首脳と話をしてまいるということは、非常に意義の深いことではないかと思っております。
以上をもちまして、終わりたいと思います。どうもありがとうございました。