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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 伊勢神宮参拝時における小渕内閣総理大臣の記者会見

[場所] 三重県(伊勢神宮)
[年月日] 1999年1月4日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),920−927頁.
[備考] 
[全文]

−−ただいまから、内閣総理大臣の記者会見を行います。

−−地元の記者クラブを代表しまして質問させていただきます。

 まず初めに、首都機能移転問題で総理御自身は首都機能を東京以外に移転させる必要性があるとお考えでしょうか。また、三重、畿央地域への移転の可能性はどの程度あるとお考えでしょうか。お願いいたします。

○総理 まず、明けましておめでとうございます。また、報道関係の皆さんにも平成十一年が良き年でありますことをお祈り申し上げます。

 さて、お尋ねの首都機能移転の問題でございますが、この問題は何よりも東京一極集中を是正しなければならない。また、国土の災害対応力を強化しなければならない。阪神・淡路大震災に見られるように、この大都市がそうした自然災害に遭ったときのことを考えますと、首都に対しましても、こうした災害に対する対応力ということもありますし、また東京自身も明治以来、首都として過密に悩んできたわけですが、私自身も空間を倍増していかなければならぬ。潤いのある地域にしなければならぬ。そういう意味で、この首都機能移転というものは大変意義深いと考えておるところでございます。

 そこで、現在は国会等移転審議会におきまして、候補地の選定に当たっておるわけでございますが、いわゆる北東地域、東北ですが、または東海地域及び御地に関係の深い三重、畿央地域の三地域を調査対象として今、審議を進めていただいておるところでございます。したがいまして、首都移転につきましては、私自身大変深い関心を寄せているところでございますが、既にこうした具体的な地域の選定にもかかっておるところでございますので、私自身として今ここでその地域について言及することは避けさせていただきたいと思っております。

 しかし、いずれにいたしましても、首都機能移転は内閣にとりまして極めて重要な課題でありますので、具体化に向けて積極的に検討をいたしてまいりたいというふうに考えております。名古屋から御地に参りますと、近鉄の電車の中で北川知事さんからでしょうか、大変ご親切な当地区の(首都)機能移転のパンフレットをちょうだいいたしましてよく拝見いたしましたら、その中で既に首相官邸もできておりました。

 ただ、衆参両院の間をリニアモーターカーが通ることになっておりまして、そういう意味では夢のあるグランドデザインを拝見いたしましたが、申し上げましたように今、私の段階では、このことについて特にコメントすることは避けさせていただきたいと思います。

−−次の質問にまいります。橋本内閣と小渕内閣とでは地方分権、行政改革への取り組み、姿勢において温度差があるとも伺っております。改めて今後、地方分権、それから行政改革にどう取り組むのか、分かりやすい例を挙げて述べていただけませんでしょうか。

○総理 せっかくのお尋ねでございますのでお答え申し上げるわけですが、実は橋本内閣から私の内閣になりまして、行革につきましてはいささかの揺るぎもないということをまず申し上げたいと思っております。今日は太田総務庁長官も参っておられますけれども、橋本内閣はこの行革につきましても大きな理念を明らかにし、その端緒をつくったところでございますが、そうした理念から、今度はこれを実行に移す時期に来ておる。その責めを小渕内閣としては負っているということでありまして、これを完結をさせる、まず具体的な第一歩を踏み出さなければならぬと思っておりまして、橋本内閣はまた総論としての行革をしっかり組み立てましたが、まさにそれを一つ一つ具体化していくのが本内閣の務めと考えておりますので、お言葉にありましたが、若干この温度差ということは温度が低くなっているんじゃないかということだろうと思いますが、全くそういうことはないというふうに思っておりまして、今般四月に国会に提出をいたします種々の関連法案につきましては、政治主導で作業を進めておりまして、独立行政法人化、組織整理、定数削減など、中央省庁のスリム化に全力で取り組んでおるところでございます。

 例をということですが、例えば局の数を百二十六から今般九十に近いところということで努力をいたしましたが、いろいろ精査いたしますと九十五ということになりまして、更に男女共同参画ということでこれを一局設けようということで九十六にいたしました。少なくとも多くの局を整理・統合いたしまして、それぞれの局が機能を十分発揮できるようなそういう形にいたしております。

 また来年度予算におきましては、定数につきましても四千近い削減を試みております。もちろん、金融監督庁のように新たなる責務を負ってその責任を負う庁につきましては、むしろ人員を増員をいたしておりますが、その増員がありましても、今のような数字になっているということは、この内閣としては行政改革はまさに天の声であるという感じで取り組ませていただいておりますので、内閣の主要課題としてこの問題については積極的に必ず実の上がるように努力をいたしていきたいと、こう考えております。

 地方分権につきましても、国の直轄事業の見直しや統合補助金の創設など、昨年十一月にいただいております地方分権推進委員会の第五次勧告に対応する計画を本年度内を目途に作成いたしまして、先の計画と合わせまして、今後とも地方分権につきましては総合的かつ計画的に推進してまいりたいと思っております。

 また、昨年五月に決定した地方分権推進計画に基づきまして、機関委任事務制度の廃止などを内容とする関連法案を今年の通常国会にこれを提出をいたし、これの成立を期し、そのことによりまして、この計画を着実かつ速やかに実施してまいりたいと、こう考えております。

 なお、一層の規制緩和、特殊法人の整理合理化をいたしてまいりますことは、これも言うまでもないことでありまして、真剣に対処いたしていきたいと思っております。

−−まず政局運営についてのお尋ねでありますけれども、自由党との連立政権に伴う内閣改造ですが、これは総理のヨーロッパ御訪問後に行うというふうに判断されていらっしゃるのでしょうか。また、その際、人事につきまして、自由党の小沢一郎党首を副総理で入閣させるべきだという声が自民党内の一部にあるようですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

 また、連立政権発足後の両党間政策調整なんですが、これは両党の政策担当者レベルでやるのか。または、閣内で行っていくのでしょうか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。

○総理 まず、若千冒頭申し上げて恐縮ですが、私はずっと三十六年間衆議院議員として国政に参画させていただきまして、そのほとんどが与党でございますので、歴年内閣改造というものを見てまいりましたし、私自身も参画させていただきました。私は、その思いからいたしまして、一内閣一閣僚というのが私のかねての持論でございまして、そういう意味で今日こちらにも御一緒にそれぞれ役目を負っておられる大臣、長官の皆さんにおいでいただいていますが、小渕内閣発足以来、全くその省庁を掌握してその職務に精励をし、実績を上げてきていただいています。そういう意味で、やはりその経験あるいは期間というものは非常に大切だということを認識をいたしております。

 しかし、今般、総選挙後直後でなくて、二年余たちまして自由党との連立政権を目指すということで、これまた政治的な大きな決断をさせていただきました。やはり、政局の安定と同時に自由党と基本的考え方を共にすることがあるとすれば、その実現のために努力すること。そして小沢党首とパートナーをしっかり組んで、国民と国のために大きな責任を果たしていきたいと、こういうことで連立を組むことにいたしました。

 さて、お尋ねの点でございますけれども、両党間の話し合いがいささか急遽でございましたので、いまだその話し合いが継続しておるところでございまして、特に正月になりまして早々に五つのプロジェクトが既に協議に入っておるところもございますが、これから真剣に両党間で話をしていかなければならぬ、こういうことを考えますと、今日は四日ですが明日、明後日、実は六日に私はかねて訪欧の予定がございますので、この間にそうしたことをまとめ上げるのにはやや時間が切迫しているのではないかと考えていますので、もともと合意につきましては、通常国会前に内閣の改造を行うというお約束でございますから、そのことは是非実現をしていきたいと思っております。

 したがいまして、私が訪欧前にこのことを実現することはいささか困難ではないかと思いますし、また留守中大変申し訳ありませんが、我が党の森幹事長を中心にいたしまして五つのプロジェクの責任者に督励を申し上げ、正月、国会前でございますけれども、精力的に取り組んで自由党との間につきまして、可能な限り合意を得て新しい国会に臨みたいと、こういうふうに考えております。

 小沢党首のことにつきましてですが、過去三回党首会談をいたしまして、基本的には内閣の問題は首班たる私に御一任をちょうだいをいたしております。私としては、昨年末に『総理と語る』という番組におきまして、自由党からも右代表として小沢党首の入閣を願っておるということを申し上げておるところでございますが、現時点におきましては、まだそのような結論に達しておらないということでございますが、いずれにしても自由党とともに内閣を責任を持って運営し、そのことによって国民のためにいかなることを成し得るかという観点に立ちまして結論を得たいと、こういうふうに考えております。

 政策調整は先ほど申し上げましたように、今それぞれ担当者の皆さんは選挙区にお帰りになっておるだろうと思いますが、六日に党が仕事を始めますので、そのときに幹事長を始め関係者の皆さんにまたお寄りをいただいて、私から精力的な取組について強く要請をし、加速をさせていただきたいと考えています。

−−続いて、経済政策についてお聞かせ願いたいと思います。

 総理は、「はっきりしたプラス成長」を公約されているが、当初予算が成立後、なお景気の足取りが重いようであれば、追加景気対策を打ち出すお考えはあるんでしょうか。

 また、六日から先ほどお話がありましたヨーロッパ訪問ということで、ユーロの発足がテーマのひとつとなると思うが、ドル、ユーロ、それから基軸通貨として円を位置づけていくための政策というものを打ち出すお考えがあるのか。

○総理 この内閣としては、今年を是非「経済再生元年」と位置づけ、その達成のためにあらゆる施策を講じてきつつありますし、またそれを実行していかなければならぬ。そういう意味では、平成十一年度の予算につきましても、大変御批判される方はいろいろ御批判されて、大盤振舞いではないかとか、いろいろありますけれども、内閣としては成すべき施策を講ずるために必要な予算は徹底的に予算を配分し、そしてその実効が上がるようにということでございます。

 昨年末以来、三次の補正をいたしまして、その前に橋本内閣時代の第一次補正がようやく秋口から効果を見つつある。したがって、第三次補正予算も実は今年の一月から三月期、切れ目のない執行ができるようにということで、この補正予算を二十四兆円超のいろいろ考え方をさせていただいておりますが、これも実際の予算執行になりますと、すべて三月末に消化できるとは残念ながら考えられません。したがいまして、俗に十五か月予算とも言われますけれども、来年度予算についてのうまいコンビネーションと適切な執行、そしてこれが全国に効果を発揮するということであれば、必ず実は〇・五%のプラス成長に持っていくことはできるという確信をいたしております。

 ただ、経済というものはいろいろ複雑な要素が働いてまいりますので、実は今年は若干暖冬の状況でございますので、こういうものは一般の衣類その他の消費に影響を与えなければよろしいなとも考えておりますが、マイナス要因はできる限り排除しながら、プラスの施策が十分効果を発揮するように、細心の注意を払いつつもドラスティックな対応を勇気を持って実行すれば、申し上げたように必ずプラス成長にと言える今年であると、こう認識しております。

 それからもう一点のユーロの問題、たまたま今回の訪欧がユーロが誕生いたしまして初の、恐らくフランスもドイツもイタリアも訪問する外国の首脳ではないかというふうに思っております。是非このユーロの問題というものは非常にいろいろな意味で大きな世界の中の経済のみならず、政治に対しても大きな影響力を持つのではないかと思っております。いろいろ実はこの正月、時間をちょうだいしましたので、昨日は一日掛かりでユーロに関しての勉強を一生懸命いたしました。フランスがこれを導入するときに国民投票で五一%と四九%というきわどい差で導入をしてきたわけでございますし、またそれぞれの国はマーストリヒト条約を遂行するために、それぞれの国の財政赤字を非常に制約された。そのために国によっては相当の失業者を出してまでこの通貨を統合したということは、いずれ将来においては欧州の政治的統一を目指しておることを考えますと、大変なある意味でリスクと犠牲も覚悟しながらユーロの誕生を行ったということを考えますと、我が日本としても世界で使用される通貨が貿易額で言いまして、ちょっと古いんですけれども九二年で米ドルが四八%、欧州が三一%ですが、これは十五か国ですから、そのうち十一か国がユーロに参加しておりますからもう少し低いのかもしれませんが、我が日本の円はわずかに五%ということですから、いわゆる三つの三極とは言い難いことでありまして、二・五なのか、二・三なのか、こういうことであります。

 しかし、私は昨年来、APECやASEAN首脳会議に出席をさせていただきまして、日本に対する非常に大きな信頼感、また日本に対する期待感の強いのを認識をいたしました。こういうことを考えますと、日本の円もおのずと貿易におきましてもこれが使用されるという姿が望ましい形でありまして、いよいよユーロの誕生とともに米ドル一つの軸でありましたのが二つの軸になり、かつまた日本としての円の存在ということは非常に重要なことでございますので、こうしたことを見据えながら、単に金融通貨の問題ということではなくて、世界の国々のあるべき姿という観点からも、円の問題についても検討していく極めて重要な時期を迎えているのではないかという認識をいたしております。

 ヨーロッパに参りまして、ユーロに積極的に取り組んでこられたフランス、かつてミッテランさんですが、今はシラクさんになられて、またコールさんは辞めましたけれども、シュレーダーさんがなられたドイツのこの状況というものを十分お話し合いをしながら日本と欧州、そしてアメリカ、こういう国々とともに通貨を通じての世界の経済的安定にも役立たせていただきたいと、このように考えております。

−−ありがとうございました。これで内閣総理大臣の記者会見を終わります。

○総理 御苦労様でした。