データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 広島平和祈念式における小渕内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 1999年8月6日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),947−957頁.
[備考] 
[全文]

○司会 それでは、ただいまから小渕内閣総理大臣の記者会見を始めさせていただきます。

 初めに、広島市政記者クラブから代表質問をお願いいたします。

−−私、地元の市政記者クラブの幹事社をやっています読売新聞の川口でございます。三点ほど質問させてもらいます。

 まず第一点目は、広島平和研究所などの主催でとりまとめられた核不拡散、核軍縮東京フォーラムの報告書が七月二十六日に総理に提出されました。毎年の平和宣言で核の傘からの脱却を求めている被爆地、広島と長崎の訴えを踏まえて、小渕総理は、今後、東京フォーラムの報告書を被爆国日本の外交に具体的にどのように生かしていくのか、お考えがあればお聞かせください。

○総理 まず皆様御苦労様です。ただいまのお尋ねに対してでございますけれども、この東京フォーラムは昨年のインド、パキスタンの核実験を受けまして、私自身が提案をして開催をされたという経緯がございます。核不拡散、核軍縮の道筋を示すものとして大変有意義な提言が作成されたと考えております。今後、世界各国の政治指導者や核政策の立案を担当しております政府当局者、学術関係者等の目に広く触れられるように、広報に最大限努めていきたいと思っております。

 特に、政府としては、国連に対し、国連の正式文書として是非加盟国に配布するように要請をいたしてまいりたいというふうに思っております。政府といたしましては、報告書を踏まえ、核拡散を防止、核兵器のない世界を実現するため努力していく考えであります。特に、米露を始めとする核兵器国に対し、核軍縮努力を求めるほか、包括的核実験禁止条約の早期発効などのための外交努力を推進していきたいと思っております。

 一部、理想に向かってまだ足りないのではないかというような意見も聞こえないではありませんけれども、私はこのフォーラムに参加した方々が本当に熱心にお取り組みいただきまして、現実的に米露の核兵器を一千発に、まずそういう目標を設定して、着実な読みを続けていきたいという熱意の下に、広島平和研、国問研、こういうところで代表してやっていただきました。若干、各国の代表者の中にも意見を異にする向きもありまして、とりまとめに非常に苦労されたという経過を先般、官邸にこの報告書を持参されたときに承りました。改めて、いろいろ各国代表の中に意見の差異がありましても、とりまとめていただきました座長松永、明石両氏を始めとして、本当に御苦労だったと思っております。是非、申し上げましたように、まず、こうした日本の提案でフォーラムが開催され、報告書が出されましたので、これを国連という場において各国にこれを提起いたして、我が国の意思というものもその中に盛り込ませていただいて、着実に、一歩一歩前進できるように、そういう運びにさせていただきたいと考えております。

−−それでは、二点目なんですが、来年の介護保険制度、四月から導入されるんですが、その介護保険制度の導入で、被爆者や広島市、長崎市が不利益を被ることがないかどうか。また、介護保険に関連して、被爆者や広島市、長崎市に特別な措置を考えておられるかどうか、お聞かせください。

○総理 介護保険につきましては、申すまでもありませんけれども、高齢者の介護を社会全体で支える制度として、利用者の選択により、保健、福祉、医療のサービスを総合的に提供することを目指すものでありまして、平成十二年四月からの実施に向けて引き続き万全を期してまいりたいと考えておりますし、特に、地方自治団体、市町村の大変な御苦労によりまして、この目標のとおりに実施をしていける環境づくりに御苦労いただいていることについては、政府としても心から敬意と感謝をし、その努力が実り得るものとなっていかなければならないと思っております。

 ドイツで介護保険をやりましてから五年でございまして、またドイツにおきましてもいろいろな問題を抱えているということでありますが、そういった問題については、厚生省を中心にいたしまして、先進国の在り方というものに十分目配りをしながら、我が国として万遺漏なきを期して、現在最後の段階に来たと考えております。そういう意味で、改めて御苦労いただいている市町村の御協力を得ながら、円滑に実施のできるように政府としては支援をしてまいりたいと思っております。

 そこで、お尋ねの趣旨は、介護保険制度が実施された場合における被爆者に対する援護措置に関してということでありまして、これは広島市、長崎市、こういう関係市がございます。そうしたところの御要望を受けまして、現在行われております被爆者への援護措置よりも、特に不利な取り扱いにならないように、このことを基本に配慮していきたいというふうに考えております。

−−地元からは最後の質問です。韓国に住む被爆者への原爆被害者福祉基金が近い将来枯渇しそうな状況です。また、外務省では、旧ソ連の核実験場の後遺症に苦しむカザフスタン共和国のセミパラチンスクの住民を支援するために調査団を派遣しました。こうした状況を踏まえて、国として海外に住む被爆者や核実験の被害者などに対する支援を今後どのように展開していくのか、また、支援の対象を更に広げる方針はないのかをお聞かせください。

○総理 まず、世界の様々な地域に在住されておる方の中で、広島、長崎の原爆や、外国の核実験によって被爆されまして、今なお後遺症等に苦しんでおられる方々がおられることは、誠にお気の毒に感じております。

 今、お話しのありました在韓被爆者の方々に対しては、平成三年度及び四年度におきまして、人道的観点から我が国政府は大韓赤十字社に対し、計四十億円の拠出を行っているところであり、我が国政府としては拠出金の使用に関するガイドラインに従って、適正な運用が大韓赤十字社によって確保されるよう見守ってまいりたいと考えております。

 なお、広島、長崎の原爆によって被爆され、現在、国外に在住している方々につきましては、被爆者援護法の対象にはなっておりませんが、この法律は、国籍要件を設けておりませんので、訪日される場合には、きちんと誠意をもって対応し、被爆者援護法に基づき、医療の給付等の援護をする考えでございます。

 本件、特に北朝鮮に在住する被爆者の問題は、確か昨年に、これから行われるでありましょう代表者の皆さんの話し合いの中にも出てきておりまして、確かあのとき私も、もし、日本に参られて、病院その他でいろいろな検査をしたり、あるいはそれに対しての手当てをするということがあれば、積極的に政府としてはお手伝いをさせていただくというメッセージを発しているところでありますが、残念ながら、現時点において、北朝鮮側から、そうした個別の案件についての御要望は参っておらないと思いますが、気持ちとしては、昨年と同じような気持ちで対応していきたいというふうに思っております。

 それから、直接、広島、長崎に関係をするものではありませんけれども、世界の原水爆実験に関連いたしまして、被爆者というものが出ておるのではないか、特に、セミパラチンスクの被爆者支援につきましては、今日の新聞を拝見しますと、平岡前市長も、広島・セミパラチンスク・プロジェクトということで、市民団体の名誉会長としてこの問題にお取り組みされておるやに今朝の新聞で拝見しましたが、政府としても、国連の要請を受けまして、本年の九月のセミパラチンスク支援国際会議を東京で開催するほか、具体的案件の継承を行うため、調査団を本年六月に現地に派遣したり、対カザフスタン核兵器廃棄支援の枠内にて、セミパラチンスクに対し、医療機材、医薬品、及び遠隔医療診断システム等の供与を行っているところでございます。このような外国の核実験によって被爆された方々についての支援につきましては、当該国の努力を支援するという観点から、今後各国より要請がありますれば、その二ーズ等も踏まえつつ、いかなる支援が可能か検討してまいりたいと思っております。

 本件は、いわゆる核実験による被爆者に対する援助活動の問題でありますが、その他、原発によっての被爆問題につきましても、政府としてはいろいろな形で今協力させていただき、その根底とするところはやはり広島と長崎で、こうした原爆の被害によって被爆された方々が今なお後遺症に悩んでおられるという、世界で初めての大変不幸な経験をしたということに鑑みまして、それに対しての医療機関あるいは施療の在り方等につきましては、今までそれぞれ広島、長崎を中心にして、御苦労されてきたことを広く、ある意味の責任として世界のこうした方々に対してお役に立てればという気持ちでまいりたいと思っております。

 このセミパラチンスクにつきましては、実は私が外務大臣になる前に、現地、といいますか、実験場ではありませんけれども、カザフスタンに行きましたときに強く要望されまして、一緒に参りましたのが中山太郎先生、医学博士でございまして、その先生を中心に取り組んできて、ようやくこれがある意味では実りつつあるということでございまして、そうした意味での責任が果たし得る体制になったことは、私なりにうれしく思っているところでございます。

 以上です。

○司会 ありがとうございました。引き続きまして、内閣記者会から代表質問をお願いいたします。

−−内閣記者会、幹事社日本テレビの兼島ですが、よろしくお願いいたします。

 自由党の小沢党首が強く求めている自自合意の履行についてお伺いいたします。

 この問題について自民党総裁として具体的にどのように取り組むお考えでしょうか。とりわけ、衆院比例代表定数を五十削減するとした公職選挙法改正案の取り扱いや、介護保険の税法式化などについてどのように対応されるのか、党首会談を開くお考えがあるかどうかを含めてお答えいただければ幸いです。

○総理 お答え申し上げますが、本年一月十四日に自由党と自由民主党の連立政権が発足をいたし、通常国会をこの連立内閣の下で、一つ一つ法律案を成立せしめてまいりました。

 ところで、これに先立ちまして、自自両党間または党首間でなされた合意事項について、誠心誠意その実現に努力してきたところでございまして、既に政府委員制度の廃止、副大臣の設置等の政治改革や、行政改革等については、自自合意の実現を見ているところでございまして、ここで申し上げるのもいかがかと思いますが、この政府委員制度の廃止、あるいは副大臣・政務官制度の導入ということは、かつて戦後の国会における議会制度の中で議会の、特に野党の皆さんから御質問を受けて、そして政府側が一方的にこれに答えるというシステムから大変化するわけでございまして、いわゆる反問権といいますか、今でもないとは言いませんけれども。政府側におきましても、質問者たる野党の皆さんのお考え等についても、その披瀝をお願いし、国民の御判断をいただくということは全く議会の在り方も大転換される制度でありまして、このことを自自連立政権において、その合意をなし得たということは、私は大きな成果であり、今後、これを十分生かしていかなければならないということで将来に課題を残しておりますけれども、これは戦後の議会制度の在り方を抜本的に改める大変革をなし得たと思っておりまして、これも自自合意の大きな成果だと思っております。

 ところで、今日問題になっておりますのは、いわゆる衆議院の議員定数の削減問題でありますが、自自合意に基づきまして去る七月二十七日、自自両党で提出をいたしました定数削減につきましての法律(案)が委員会に付託をされまして趣旨説明が行われたところでございます。この問題につきましては、昨日も自自公三党間で真剣な協議が行われまして、本日も引き続き協議が行われていると承知をいたしておりまして、今の段階までにはその三党の幹事長会談の模様については再開をされて進捗されておるという報告をいただいておりませんけれども、是非私としては引き続き協議が行われて結論を得られるように、三党間で努力をしていただきたいというふうに思っております。

 関係者にこのことを強く督励を申し上げているわけでございますが、もちろん党首間の約束であり、公党間の約束ですから、是非これを実現してまいらなければならないということでありますけれども、国会は二党だけで政治を行っているわけではありません。私と小沢党首との間における選挙制度の在り方根本についても、ある意味では非常に基本的理念というものは一致をしているわけでありますが、それを具現化するためにどうした定数であるべきか、または定数を削減する場合の方法論については、他の政党も、これは議会制度の根本にかかわることでございますので、そういった意味で昨日、衆議院の委員長の提案がそれなりになされていると聞いておりますが、今の私としてはこの論評を申し上げることは、議会運営に対して意見を申し上げることは差し控えておくべきものと考えておりますけれども、是非国会終了まで時間も差し迫っておりますので、今日も含めて精力的にひとつ解決をみていただくように努力をいたしていきたいと思っております。

 なお、介護保険についてでございますけれども、この介護保険の財源につきましても現在通常国会で衆参におきまして予算委員会その他で非常にいろいろな意見が出ております。特に自民党一党の時代と異なりまして連立をとっております自由党の考え方、更にまたこれから連立を企図いたしていただいておるところの公明党の考え方というものがございますので、これはやはりより多くの与党としての基本的な考え方をひとつ御検討いただかなければならないんじゃないかと思っております。

 冒頭申し上げましたように、介護保険はドイツで既に五年を経過しておりますけれども、保険でいくべきか、あるいはまた市町村自体がその地域における制度として、これは直接的に国税ではないかもしれませんけれども、地方の税としてそれを賄っていく、そのいかなる組み合わせでいくのがいいのか、あるいはどういう形でいくのかということは将来この制度を生かしていくための根本の問題にかかわることだと思っておりますので、衆知を集めてその論議は進めていかなければならないんじゃないかと、このように考えております。

−−次ですが、自民党の総裁選についてお伺いいたします。

 総理は、再出馬について、いつ判断を明らかにされるのでしょうか。また、次期自民党総裁はどのような政策課題に重点的に取り組むべきとお考えでしょうか。

○総理 大変難しいといいますか、難しくもないのかもしれない重要な問題だと思いますが、現下延長していただいております通常国会の最終の段階でございまして、残された重要法案等の成立に向けて極めて重要な局面にあります。

 私としては、法案成立に向けて今、全精神を集中いたしておるところでございます。衆議院におきます審議はほぼ終了いたしております。今、申し上げた公選法の関係を除けば既に参議院に多くの法律案がまいっておりまして、法律(案)がまいりましてから憲法上の規定で参議院が審議を六十日間されない場合には、衆議院でまたその判断を求めるというような仕組みになっておりますが、私は参議院はそのようなことはされないだろう。参議院の独自性から考えて、参議院としての結論をこの一週間においてもしていただけるものと確信をいたしておりますが、今の私としては政府の責任者として提出しております法律案のすべてを参議院で議了していただきたい。

 また、そのために政府として全力で取り組んでいきたいということでありますので、今お尋ねの自民党の総裁の出馬問題については、大変申しわけありませんが差し控えさせていただきたいと考えております。

−−最後になりますけれども、北朝鮮のミサイル発射問題についてお伺いいたします。

 ミサイル再発射の可能性について、政府として現時点でどのような情報を得られているのでしょうか。また、再発射があった場合、日本政府としてどのような対応策をとられるお考えでしょうか。

○総理 本件につきましては、政府としては北朝鮮のミサイル関連の動向につきましては関係諸国と密接に連絡をとりつつ、細心の注意を払って情報の収集・分析に努めておりますが、現時点の情報を総合いたしますと、北朝鮮によるミサイルの再発射が差し迫っているとは判断しておりません。

 北朝鮮によるミサイルの再発射がある場合、我が国の安全や北東アジア地域の平和と安定に深刻な影響を与え、我が国を含む関係諸国と北朝鮮との関係に重大な影響を及ぼすこととなることは必定であります。そして、このことは北朝鮮にとっても決して利益にならないものと考えられます。我が国政府としては、まずそのような事態を回避すべく、米韓と連携しつつ、北朝鮮のミサイル再発射の抑止のために最大限の努力を行っていくことが肝要であると考えております。

 なお、ミサイル再発射の場合に我が国がとる対応措置につきましては、ミサイル再発射が我が国のみならず米国及び韓国との間におきましても深刻な影響をもたらすものであり、米韓と連携しつつ対応することになりますが、現時点におきましてはそれ以上具体的なことを申し上げることは差し控えたいと思っておりますが、これまた過去のことになりますが、私もケルン・サミットにおきましてもこの問題を取り上げさせていただきました。アジアから出席をする国として我が国がございますので、この北東アジアの平和と安定という問題につきましては広く全世界的にもこの問題に注視してもらいたいということで発言を申し上げ、そしてこれはコミュニケの中にも発表させていただいているわけであります。

 なお、現在ジュネーブにおきまして四か国における話し合いが進められております。この点についても、私はかねて外務大臣の時代から、四か国だけでなくてロシアあるいは日本を入れた六か国でこの地域の安全保障の問題について話し合うべきではないかと御提案を申し上げておりますが、残念ながら各国すべての了解を得られておりませんので四か国で話し合いを進めるという過程になっておりますが、我が国の安全保障にとりましても最大の関心事でございますので、細心の留意を払いつつ、その実験を行うことによってこの地域の不安が増すということのないように、またそのことは同時に先ほど申し上げましたように、これから日本がKEDOを含めまして北朝鮮の原子力発電所に対して、国民の皆さんの御理解を得ながら十億ドルというものを拠出しようということであります。そういう日本側の態度に対して逆なでと言っては何ですが、日本人の気持ちにそぐわないような行動は是非避けてもらいたい。このことはひとり日本だけでなくて、アジア全体についてそのミサイルの攻撃機能の拡散を防ぐという意味での極めて重要なことだと認識をいたしております。

 回答は冒頭申し上げましたように、現時点におきましては今その兆候というものは当面見られないと思いますが、改めて北朝鮮側の自制を期待しておるということでございます。

−−ありがとうございました。

○司会 ありがとうございました。それでは、これをもちまして内閣総理大臣の記者会見を終了いたします。

○総理 どうも皆さん御苦労様でした。