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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄訪問に伴う森総理大臣記者会見

[場所] 沖縄県那覇市
[年月日] 2000年5月14日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【司会】 ただ今より森内閣総理大臣の記者会見を行います。

 森総理、よろしくお願いいたします。

【森総理】 それでは、まず最初に、先ほど小渕前総理が御逝去されました。心から哀悼の意を表したいと思います。先ほど談話を出させていただきましたけれども、先ほど、知事さんとお話し申し上げたんですが、小渕前総理のお気持は、沖縄のこのサミットにすべてを懸けておられたような気がいたしました。

 実は一昨日、少し、毎日青木さんからいろいろ連絡を頂いておりましたけれども、御病状についてはすべて御家族、医師団、官房長官を窓口にしておりましたので、その都度青木さんからいろいろな様子を伺っておりました。

 一昨日の夜少し心配をいたしまして、沖縄に行けるかなというようなことをちょっと当時気にいたしましたが、とにかく昨日の未明が峠かもしれないなという話もございまして、実は大変心配いたしておりましたが、その後、何らそういう変化もなく、それで今日は予定どおり行けそうだなということでした。昨日夜、再度野中さんが京都から上京されまして、夜、予定どおり行って欲しいということでありましたし、今朝も一度青木さんとも電話をしまして、どういう事態になっても、沖縄についてのことが小渕総理の一番の思いなんだから、一つ小渕さんに代わったあなたの目で、小渕さんと一緒になって沖縄の準備状況をしっかり見てきてほしいと、こういう官房長官のお話もございまして、今朝方、予定どおりスタートをしたわけであります。

 そういういろんな思い、先ほど知事さんともお話を申し上げたように、津梁館の何かお祝いのパーティーが終わった時間と一緒だったそうでして、本当に小渕さんは沖縄サミットにすべて思いを残していらっしゃったと言いますか、そんな感じがいたしました。本当に、予定どおり見ることもできましたし、また逆に言えば、私が大体そういう予定を全部を終えたころに旅に出られた、永眠されたというのが何となくこう運命的なものを非常に感じました。万感の思いでございます。

 内閣をお引き受けをいたしたときから、小渕前総理の思いをしっかり受け止めて、サミットの成功に全身全霊を傾注したいというそういう覚悟でございましたし、正にこれからもそういう思いでしっかりとサミット成功のために微力を尽くしたいと、そう思っております。

 最初に沖縄を訪問しましての印象から申し上げますが、ゴールデンウィークのG8各国歴訪直後でございまして、また、国会の開会中でもあるということもございましたので、こういう日帰りの日程しか取れなかったわけですが、かえってこうした短縮の日程の方が結果的にはよかったということになるわけですけれども、小渕前総理が万感の思いで決断された九州・沖縄サミットの関連施設をできるだけ早く拝見をして、また、地元関係者の方々ともお会いをしたいと考えて今回の決意をしたわけです。

 今回の訪問につきましては、稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長始め、関係の方々から行き届いた御配慮を頂きましたことを、まず心から感謝を申し上げたいと思います。

 先ほど申し上げましたように、万国津梁館の落成式出席と、平和祈念公園、あるいはG8議長会見場等、拝見をさせていただきまして、たまたま小中学生のサミットがございまして、この皆さんにもお目に掛かることができまして、またその状況も少し垣間見ることができまして、子どもたちまで大変サミットに大きな関心を持ってくれているなということで、とても頼もしくも思いました。

 自分としては、先ほど申し上げたように、前総理の志を引き継いで、東京以外では初めてになりますこの九州・沖縄サミットを是非とも成功させたい、全力を尽くす所存であります。また、この九州・沖縄サミットを通じまして、沖縄の豊かな文化、歴史等が世界に発信されて21世紀の沖縄の一層の飛躍につながるものであろうというふうに、強く期待をいたしたいと思います。

 沖縄県民の皆様におかれましては、これまでもサミットの成功に向けて、様々な御協力をいただいているわけでありますが、改めて感謝を申し上げますとともに、どうぞ一層の御協力を是非お願いを申し上げたいと思う次第です。

 このサミットでは、21世紀がすべての人々にとって、よりすばらしい時代となるという、そういう希望を世界の人々に抱いていただきますように、この沖縄から明るく力強いメッセージが発出できるようにいたしたいと考えております。

 また、沖縄は今21世紀の発展の基盤を築くべき重要な時期に来ておりますし、橋本元総理、小渕前総理が沖縄に対して傾注された情熱をしっかりと引き継いで、基地問題及び地域振興の両面の課題についても全力で取り組んでまいりたい、こう決意をいたしております。

 振興策につきましても、「沖縄経済振興21世紀プラン」の最終報告の早期策定、ポスト3次振計の検討にも積極的に対応してまいりたいと考えております。

 それから、小渕前総理からいわば引継ぎ課題となっておりました「アメラジアン」をめぐる諸問題につきまして、政府としての今後の取組についてお話を申し上げたいと思います。

 まず公立学校における受入体制の改善に引き続き取り組むとともに、「アメラジアン・スクール・イン・オキナワ」につきましては、その環境の改善を図るべく、沖縄懇談会事業としての可能性を中心に具体化に向けて検討いたしたいと思います。

 次に、相談窓口の充実については、在沖縄米軍の相談窓口の開設、沖縄県女性総合センターの相談業務の中部地域での実施に向けて取り組んでまいりたいと思っております。

 以上の方針を基本として、県及び関係自治体とも連携して対策の具体化に取り組んでまいりたいと、こう考えております。

 いずれにいたしましても、サミット本番までもう68日に迫っておりますが、サミット開催に向けて準備が順調に進んでいる様子を目の当たりにいたしまして、沖縄県民の皆様一人一人のサミット成功に向けた大きな意欲を感じて、今日は時間が余りありませんでしたけれども、車の中でありますとか、その会場にいらっしゃいました県民の皆様、あるいは平和公園もそうでしたけれども、できるだけ皆様方と接するように私はさせていただきました。大変皆さんが関心が深く御協力いただいているなというそんな感じを持ちまして、胸が熱くなるような、そんな思いもたくさんいたしました。

 心から県民の皆様方にお礼を申し上げ、今後の御協力を重ねてお願いを申し上げたいと思います。

 以上、冒頭の私の感想と県民の皆さんへのお礼とお願いのごあいさつとさせていただきたいと思います。

【司会】 それでは、御質問をお願いいたします。

【質問】 小渕前総理の逝去の報に接しまして、哀悼の意を表したいと思います。

 首相に就任されて初めての日米首脳会談で、総理は普天間飛行場移設問題の15年期限問題につきましては、クリントン大統領に、緊密に協議をしていきたいという従来の方針をお伝えになったわけですが、それ以前の日米防衛首脳会合、外務首脳会談においては、沖縄県側の要望を受けた米政府への働き掛けや協議の進展が無いという見方もあります。そういう点で、稲嶺知事も政府に腹を据えてほしいという発言を先週して、この問題の進展を求めている状況もあります。15年問題を総理としてどう打開されていくのか、今後の方針、それから見通しについて伺いたいと思います。

【森総理】 代替施設の使用期限の問題につきましては、政府としましては、度々申し上げておりますように、昨年末の閣議決定にございますとおり、国際情勢もございまして、難しい問題もあるとの認識を有しておりますけれども、稲嶺沖縄県知事、また岸本名護市長から要請がなされているということを重く受け止めております。

 これまでも河野外務大臣、あるいは瓦防衛庁長官を通じて米側の政府に対し、閣僚レベルでも、このことを度々申し上げているわけであります。

 私も今回の訪米の際、これをクリントン大統領を始めとする米国政府関係者に対しても、これまでそうした政府・閣僚レベルで申し上げているということを私からも大統領閣下に申し上げてございます。

 これに対しまして、クリントン大統領からは、日米安保をめぐる両国のパートナーシップは最も重要だと考えております、特にこれまでの努力に感謝をいたしたいと思うし、また、今ある問題も将来起こり得る問題も何とか解決していかなければならない、このような発言を私に対してされております。

 直接的な表現はいたしておりませんけれども、お互いに両首脳ともそのことを念頭に置きながら、お話合いをこれからも進めていきたいという思いを申し上げ、大統領もそのことについて十分承知をしておるということであったと思います。

 政府といたしましては、閣議決定にありますとおり、今後国際情勢の変化に対応いたしまして、本代替施設を含めまして、在沖縄米軍の兵力構成等の軍事体制につきまして、米国政府と十分に協議していく考えでございますし、また、併せて、国際情勢が肯定的な変化をしていくように、これも外交努力をこれから積み重ねてまいりたいと、このように考えております。

【質問】 総理の方から、これまでの方針にのっとった形で米側に強く働き掛けていきたいということだったと思うんですけれども、総理御自身として、一点だけの補足といたしまして、いつごろこの協議が本格化する時期というものはお持ちになっておられるでしょうか。

【森総理】 先ほども申し上げましたように、既に河野大臣、あるいは瓦長官を通じて、両国政府のそういう閣僚レベルでこの問題の話を、強く沖縄の知事始め名護市長の思いをお伝えをいたしているわけでありますから、そのことを包括的に私からも先般ワシントンで申し上げて、先ほど申し上げたような大統領からお答えが出ているということでございます。

 十分米国政府も、そうした日本側の考え方について、そういう沖縄の要望が強いということについての理解はあるものだろうというふうに私ども理解をしております。

【質問】 それでは、次の質問に移らさせていただきます。

 総理は自民党幹事長当時の今年3月に石川県内の講演で、君が代をめぐりまして、沖縄県内の教職員組合、そして地元の県内2紙の報道姿勢について御批判をされたことが報道されました。この問題をめぐりましては、青木官房長官も、誤解を生じているのは遺憾であると、総理が沖縄に行く際には、県民に真意を訴えると理解しているという趣旨の発言もされておられます。今も沖縄県の教組、それから新聞は、共産党に支配されているというようなお考えをお持ちなのかを含めまして、発言の真意を当地で伺いたいと思います

【森総理】 先日の私の発言の真意は、学校における国旗や国歌の指導に万全を期していただきたいという、私は文部大臣も経験いたしておりましたので、そういう強い思いを申し上げたものでございまして、これは何も沖縄だけを言うことではなくて、国旗・国歌法が通りましたというそういう事態を受けて、日本の国民皆さんにそういうことを期待をしたいというそういう思いでございました。

 しかし、発言の真意はどうあれ、報道された私の発言によって、今、御指摘がありましたように沖縄の皆さんが不快感を持たれたということであれば、また、御迷惑をお掛けをしたということであれば大変申し訳なかったことであり、心からおわびを申し上げたいと思います。

 この発言が報道されましたが、私はたまたま選挙区に帰っておりました、石川県における講演において話が出たことでございますが、戦争において沖縄の方々が多くの犠牲を払われたということ、戦後はアメリカの施政権下に置かれたこと、復帰後も在日米軍の多くが沖縄に集中していること、そうしたことなどを申し上げて、そして、小渕前総理が九州・沖縄サミットの開催を、多くの希望している県から、いろんな意見がありましたけれども、沖縄サミットを決定したということの意義が大変大きいんだということを私は皆さんに申し上げたわけです。

 特に、私は、私的なことで恐縮ですが、小渕前総理とは学生時代からずっと、かれこれ40年以上のお付き合いをいたしております。学生時代の彼の行動もよく、たまたま私の方が大学では2年先輩に当たるものでありますから、後輩小渕恵三君が学生時代にやっていたことを一番よく承知をしておりまして、当時、大濱信泉総長の時代でありまして、沖縄御出身でございました。そしてまた、沖縄出身の多くの学生たちを早稲田大学は受け入れておられまして、小渕さんもそうでしたし、私どももそういう意味での交遊は非常に多くの皆さんとございました。今でもその時代の仲間たち、沖縄で活躍しておられる方々もたくさん知っております。

 小渕さんはそのころから沖縄の復帰問題に非常に積極的に取り組んで、当時はパスポートを頂かなければ沖縄には行けなかった時代でございました。小渕沖縄訪問団というものをつくっては、また、私たちもその募金活動を一生懸命にして、そういう旅費づくりなどもしたというそういう思いがあるわけです。

 ですから、小渕前総理が、いよいよ昨年の4月でございましたか、いよいよ場所を決定するというそういう段階になりまして、大変各県の激しい誘致運動がございました。当時、党といたしましては、できるだけ誘致運動の華やかな運動はやめなさいということを皆指導してきましたけれども、最終的にどこにするかということを小渕総理にすべて一任しようと、党の役員としてはそういうふうに決めまして、それを決めてから総理から内々に御相談がありまして、そして、幹事長、分かってくれるだろうねと言うから、私はもう、大賛成ですよと。当時、知事さんはちょっとあきらめておられた時期がございました。いよいよ決められる直前だったと思う。私はむしろ人を通じて、今大事なときだから、一生懸命に運動された方がいいですよと、主催をするという意思を強く今言いなさいということをいろんな方を通じて申し上げたことも記憶をいたしております。

 幹事長という立場で余りどこの県にということを私自身は表に立って言えなかったけれども、内々にそういうことを知事さんにもお伝えをしたというそういう経緯がございます。

 私としては、そういう小渕前総理の思いを継いでサミットの成功に向けて万全を期したいというこういう気持ちでございまして、当然、それに伴いまして、また、沖縄振興にも全身全霊を挙げて頑張ってまいりたいと思っております。

 よく沖縄の皆さんからも、小渕さんほど、森さんあなたは沖縄の思いが無いんではないかということをよく指摘を受けることがございますが、沖縄への思いは小渕恵三さんよりも私も同じくらいあったと当時から思っておりますし、学生時代から沖縄に大変御縁のあった日本健青会、当時、末次一郎先生とも私は選挙に出る前から青年団体を通じて親しくさせていただいておりましたし、45年、当選をいたしましてからしばらくしましてから、沖縄復帰の国会になって、国政参加ということで、返還の前に国会議員の参加があったと思いますが、その時の同期生が皆、私ども当選したときと同じ皆条件になりまして、我が党でいえば西銘さんであるとか、国場さんであるというのは、みんな同期生でありましたし、上原さん、瀬長さんというのも皆同期生になるわけであります。

 そういうこともございますし、沖縄返還特別委員会では理事としてこの那覇に初めて来て、そのときパスポートを持って来ましたから、後にも先にも沖縄に来るパスポートというものを最後に持ったという、そんな思いもあるわけであります。

 また、石川県も大変沖縄と深い関係がありまして、今日も見てきました平和公園も、石川県はくろゆりの塔といいまして、ひめゆりの塔と、くろゆりの塔という、何かそんな縁もあるんですが、石川県は恐らくあそこのお墓の中で、各県別のああいう碑を造ったのは、恐らく最初だろうと思います、地方にとっては。それくらい深い歴史もございますし、私の父も戦友会のそういう仕事もしておりましたので、この沖縄の石川県の英霊に対するくろゆりの塔を造りました時も、我々も一生懸命その募金活動をしたという思いもございます。

 そういう意味で、沖縄にこのサミットを設けるということはいかに大事で、意味があるかということを実は私は県民の皆さんに、県民といっても私の後援会の皆さんに、申し上げたというのが当時の経緯でございます。

【司会】 ありがとうございます。続きまして、大分時間が押しておりますので、よろしくお願いします。

【質問】 小渕前総理の逝去に心から哀悼の意を表したいと思います。そういう時期であれですが、質問させていただきたいと思います。

 まず1点目ですが、衆議院の解散総選挙の時期につきましては、6月13日公示、25日投票という声が高まっておりますが、総理としては、いつ、どのような形で最終判断をなさいますでしょうか。

 また、党内では総選挙の勝敗ラインに関連しまして、自民党単独で229議席であるとか、あるいは自民党での単独過半数など、いろいろな意見が出ておりますが、総理は総選挙に臨んで、党、あるいは与党3党の勝敗ライン、あるいは獲得議席目標をどのように設定されていますでしょうか。

【森総理】 ローマに参りましたときも申し上げたんですが、解散については、総理大臣に課せられている大権だと思っております。ただ、いつの時点で、どう判断するかというのは、これはやはり今まだ国会中でありますし、予算関連法案もまだ審議中、また重要法案、少年法とかですね、そうした大事な法案もある。国民の皆様はやはりそのことを注視をしておられるわけですから、その辺で解散の判断をするという段階には私はまだ至っていないというふうに考えているんです。

 ただ、度々申し上げておりますが、ちょうどもう3年当然過ぎておりますから、10月19日で任期が切れるわけですし、党の動きも、それから国会議員といいますか、衆議院の動きも、当然解散を前提にした動きは皆さんがされているわけです。いろんな準備などを見ますと、その準備対応を私どもは怠ってはならないし、それをかたくなに否定してもいけないと思いますから、そういう流れはいろんな形で出てくるんだろうとそう思っています。そういう意味で、私が申し上げておりますように、いろんな方々のいろんな御意見、今あった目標の勝敗うんぬんの数とか、そういうこともいろんな人がいろんな様々な意見を言ってくださるのは大変有り難いし、また、参考になるなということを申し上げているわけであります。しかし、いずれにしましても、国会の情勢をもう少し見たいと。それから、大事な法案がどういうことになるのか。解散になりますと、全部一時的にはこれ皆廃案という形になるわけでありますから、ですから、そういう意味でこの法案の行く末をしっかり見届けていくということは大事だというふうに思っております。

 もう一つは、これも常々言っておりましたように、小渕前総理の思いは景気を回復させたいという思いだったわけですから、そういう意味で景気のこの動向というものがやはり有権者の心理に非常に大きく働くということは先年の参議院の選挙などの、私は、反省から、そういう景気問題をしっかりやりましたよと、小渕さんの思いをここまでしっかり受け継いでやっていますということが明確なこの環境としてできてくることも大事な判断の材料ではないかというふうに思っております。

 それから、勝敗の目標というのはいろいろ言われるわけですが、従来は中選挙区制で、どちらかというと、これは個人の選挙ということです。前回の平成8年から政党による選挙ということになったわけで、この小選挙区制というのは、正に個人の選挙ではなくて、政党と政党の選挙ということになりますから、我が党が少なくとも公認をした候補者、これは全員当選を期したい、また、当選を果たしてもらいたいと思うのは総裁としては当然なことだと思います。

 しかし、同時にまた、選挙協力というのも、連立を維持していくためには重要なこれは柱でもありますから、そういう意味で連立与党との選挙協力というものも十分に重視をしなければならないということだと思います。

 そういう、まずは我が党が公認をしたそれぞれの政党代表の議員、候補者、そして連立与党というものの成果を挙げていくということ、これが政局を安定するということでは極めて何よりも大事なことだというふうに考えております。

【質問】 総理は先のローマでの内政懇談で、日本新生プランを提唱されましたが、これを実現するに当たって、来年度予算編成では具体的にどのような事業に力点を置くお考えでしょうか。また、このところの景気動向指数に明るさが見えてきておりますが、今後の景気動向をどのように見ていらっしゃいますか。

【森総理】 小渕総理がこの12年度予算編成をされました時に、いわゆるミレニアム・プロジェクトということを打ち出されまして、そして、情報通信、あるいは環境、さらに介護等ですね、そうした問題に大きく重点をされたわけです。公共事業についても、いろんな意味でのまた、工夫も凝らされたわけでありまして、私としてはやはり、この小渕総理の提唱されたこのプロジェクトを継承していく必要があるだろうというふうに思います。

 同時に日本新生プランと申し上げた、つまり、日本新生というものを一つの目標にして、安心して暮らせる国家、あるいは心の豊かな美しい国家、世界から信頼される国家ということを私は申し上げたわけですが、特にそういう意味から言いますと、この前総理のお考えになられたミレニアム・プロジェクトの柱の中に是非就労・雇用の機会、そうしたものを、このIT産業というものと結び付けながら、是非このことについてきちっとフォローをしていく必要があるのではないか。

 それから、今、教育改革国民会議での御議論をいただいているわけでありますので、教育についてもその柱を立てるべきではないか。

 あるいは、社会部会が中心になりまして、要は要介護をされる人を少しでも少なくしていくという意味から言えば、脳卒中でありますとか、あるいはがんでありますとか、そうした病気に対する対応をむしろアクティブにやっていくという考え方を今、党の社会部会で検討しておりますので、そういうものを新たな柱として、正に安心して暮らせる国家、そういう心の豊かな美しい国家ということを一つの大きな前提とした日本新生プラン、ミレニアム・プロジェクトを更に継承・拡充したものということに、この予算案に少しウェートを掛けたいというふうに思っております。

 ただ、来年から御承知のように、新しい中央省庁の再編成になるわけでありまして、この中央省庁の再編の最大の問題は予算だと思います。ですから、この予算をどういうふうに組んでいくかということは、一遍思い切って、その辺についてはすべて一遍私は白紙にするくらいの気持ちでスタートしなきゃいけないんじゃないかなと思っています。

 実は来週からこの中央省庁の統廃合に伴いまして、各省庁順番にヒアリングをしようと思っております。来週から少しずつの時間ですけれども、それを進めていきたいとこう考えております。

 その大きなねらいといいましょうか、柱は人事の問題、従来の役所の縦割というんでしょうか、縄張り意識というんでしょうか、セクショナリズムというんでしょうか、そうしたものを排除していくということに、強い、党として、また、総理としての指導を発揮しなきゃならんと思っておりますし、同時にそういう意味で、予算の配分についても、従来どおりのものをそのまま役所で同じように並べていって、従来どおりのパーセンテージで上げたり下げたりするということでは、この、私、中央省庁の再編というものは意味をなさないものだろうと思いますから、そういうことを中心にして、まずどこまで進んできているのか、そして、来年の1月6日から本当にスタートできるんですねということなど、そして、予算の配分についてはどうみんなが考えておるのか、そういうこともしっかり聞いて進めたい。そのことと、先ほど申し上げた日本新生プランというものとの関連をさせた、いわゆる官邸主導の予算というものに是非取り組んでいきたいというふうに考えております。

 なかなか大変難しいと思います。役所よりもまず党内をどうするかという、党の問題も大事だと思いますので、十分また党の皆さんとも協議をして進めなければならぬだろうと思っています。景気動向は常々申し上げておりますように、全体としての需要の回復はまだ遅いし、厳しい状況はなお脱していないとこう思ってます。特に、いわゆる生産供給サイドといいましょうか、そういう部門は非常にいい数字がここのところ出てきているわけでありますので、必ずそういう意味では、自律的回復に向けた動きは徐々に現れてくるのではないかとこう思っています。

 ただ、個人消費の面と、それから産業の大きな転換によって、いわゆる非自発的失業者を含める失業率が、まだなかなか改善をされない。

 しかし、一方においては有効求人倍率というのは上昇の機運にあるわけでありますので、できるだけそうした雇用のミスマッチを避けるためのそういう政策もしっかり考慮に加えながら進めていけば、必ずプラス成長に転じていくだろうという、私どもはそういう希望を持っております。

 そういう意味で来年度後半には、民需中心の本格的な回復軌道に乗るものであろうという我々は見通しを立てているところでございます。

 まだまだ決して手を緩めることなく、しっかりとそうした各分野における利害といいましょうか、動向というものの指数を十分に注意してまいりたいというふうに考えております。

【司会】 総理ありがとうございました。これで総理の記者会見を終わらせていただきます。

【森総理】 それでは、ありがとうございました。