データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 森内閣総理大臣年頭記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2001年1月1日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

冒頭発言

 新年、明けましておめでとうございます。

 21世紀の幕開けであります。国民の皆様と共に明るい希望を持って、新しい世紀に力強い第一歩を踏み出してまいりたいと思います。

 20世紀は、世界にとって「栄光と悔恨」の100年でありました。人類は、科学と技術を発達させ、多くのことを成し遂げてまいりました。しかし、二度の世界大戦や、様々な紛争により多大な犠牲を払ってきたのも事実であります。

 日本もまた、20世紀における経験から貴重なものを手に入れました。それは、自由と民主主義、そして、平和を大切にし、国づくりを行うという国民的な合意であります。

 私は、21世紀の初日であります今日、この国民的な合意を新たな決意として21世紀に引き継いでいくことを、国民の皆様と共に確認をいたしたいと思います。

 そして、世界の人々にも、私たちのこの決意を伝え、共に協力し、21世紀が「人間の世紀」として、地球上のすべての人々がその個性をいかし、輝ける時代となるように努力していきたいと思います。

 21世紀はどんな時代になるのでしょうか。私は本日、中曽根元総理が在任中の昭和60年、筑波の科学博で21世紀の総理に宛てて書かれた、ポスト・カプセルに投函されておられました手紙を受け取りました。中曽根さんは、21世紀の総理に対し、世界の平和と繁栄のため、大いなる期待を表明されていました。身の引き締まる思いでこのお手紙を拝見をいたしました。私は、昨年の国連ミレニアム・サミットで、紛争、人権侵害、貧困、感染症、犯罪、環境破壊といった人間の生存、尊厳を脅かす様々な脅威に対し、人間一人一人を大切にするとの観点から、地球規模で取り組んでいかなければならないと世界の首脳に呼びかけました。これは、「人間の安全保障」という考え方であります。世界の平和と繁栄の実現のためには、この「人間の安全保障」が確保されなければなりません。

 本日、私は、「平和」、「豊かさ」、そして「文化」というものを軸に、その意味を問い直し、21世紀の日本のあるべき姿について思うところを申し上げてみたいと思います。

 21世紀を真に「平和の100年」とする上で最も重要なのは、世界の国々や民族があらゆるレベルで国境を超えて「対話」を深めることであります。取り分け、日本が位置する東アジアにおいては、朝鮮半島における緊張緩和の動きを始め、二国間・多国間の対話が進展しつつあります。この地域には、包括的な安全保障機構はまだ存在しておらず、我々は、このような対話の動きを加速化していく必要があります。

 また、国連は、2001年を「文明間対話の年」と位置付けていますが、地球規模で「対話」を進め、お互いの理解を深め合っていくことが、21世紀にはますます必要になると思います。近く、私が、我が国の現職総理として初めてアフリカ諸国を訪問するのも、これら諸国との対話を強化することにより、紛争と貧困に苦しむアフリカにおいても「人間の安全保障」を実現しようとする我が国のグローバルな外交姿勢を体現するものであります。

 このような対話を中核とする予防外交と同時に、万が一に向けた「備え」も欠かせません。なぜなら、世界にはまだ大量の軍事力が存在し、国によって考え方の違いもあるからであります。

 「備え」の基本は、引き続きそれぞれの国の自助努力でありますが、21世紀においては、国際社会が協力して「平和」を守る体制をより強固なものにしていくことが必要であります。これまで日本は、国際的な安全保障への責任感と主体的対応が、国際社会で占める地位に比べて十分でなかった面があると思います。

 21世紀には、引き続き日米安保体制を維持・強化しつつ、より主体的な構想力をもって、世界の平和と秩序の維持に参画し、我が国にふさわしい役割を果たしていくべきであると考えます。

 次は、「豊かさ」についてであります。「豊かさ」は生活の基盤となるものであります。

 20世紀、世界は工業化、近代化により経済的な豊かさを実現してまいりましたが、その一方で、貧困と飢餓に今も苦しんでいる多くの国々があります。環境問題や感染症の拡大も深刻になっております。人類は、持続的な繁栄を目指すとともに、その果実を広い世界で分かち合う努力を粘り強く続ける必要があります。

 20世紀の最後の10年間は、日本の経済、社会は残念ながら総じて停滞の時期にありました。しかし、決して未来を悲観する必要はありません。これまでの大胆かつ迅速な経済運営により、景気はもう一押しというところにまできております。引き続き景気回復に軸足を置きつつ、未来の発展に向けて、断固たる決意で経済政策を進めていく覚悟であります。

 日本、そして日本人には潜在的な大きな力があります。必要なことは、私たちがその力を発揮する経路を新しく組み替えることであります。そうした改革により、私たちの経済が持っている本来の成長力を高めることができます。私は、古い殻を破って新しい構造への転換を図る、言わば「攻めの再構築」に全力で取り組んでいく覚悟であります。

 国民の価値観はますます多様化しており、私は、これからは、個人がそれぞれの価値観に従って、自由闊達に活躍できる社会を目指すべきであると考えております。ベンチャー企業を立ち上げたり、NPO活動に参加したり、女性や高齢者や障害者が生き生きと社会に参加するなど、自分の価値観に基づいた自由な活動を可能とする社会であります。IT化は、人々のネットワーク化を進め、個人の社会的な活動の機会を広げます。それは、同時に経済や社会の活力を高めることにもつながります。

 経済や社会の構造改革は、個人の人生の選択肢を増やし、企業などの組織の自由度を高めるものでなければなりません。

 規制改革などは既得権にとらわれず進めなくてはなりません。社会保障、雇用などのセーフティーネットを整えることも大切であります。私は、大胆な改革を進め、21世紀の最初の10年を「新生の10年」としたいと考えております。

 次に、「文化」についてであります。「文化」は人生に潤いをもたらします。

 グローバル化、情報化が進むと、世界の様々な文化の交流が一段と活発になります。文化の違いは、時には摩擦や争いを生じさせてきました。しかし、21世紀は、文化の多様性を尊重しあう、そういう時代にするべきだと考えます。

 そのためには、まず、日本人が、日本の文化を理解し、大切に思い、潤いのある魅力的な暮らし方をしていくことが必要であろうと思います。多くの日本人は、日本の「伝統と文化」、「治安のよさ」、「美しい自然」を誇りに思っております。私は、努力を怠れば損なわれてしまう、そうした日本の良さを、21世紀においても、是非大切に引き継いでいきたいと思います。

 都市には人々が集うことで新しい文化が生まれます。古くからの伝統や文化が受け継がれている地域もあります。沖縄サミットでは、沖縄の豊かな文化や歴史を世界に紹介することができました。大切なことは、都市や地方が、それぞれの特徴をいかしながら、住民が主体となって、活力がみなぎる地域づくりに取り組むことであります。

 地方分権を進め、住民参加の仕組みを整え、福祉、住宅、ごみ、交通などの地域の課題に取り組み、地域を生き生きとした暮らしの場とする、そして、住民が暮らしの場である地域を誇りに思うことができる、私は日本をそうした国にしたいと思います。

 未来を望ましいものにするためには、未来に対する投資を怠りなく進める必要があります。

 日本の未来が、若い世代によって切り開かれて、担われていくことに思いを致すとき、教育の在り方は極めて重要であります。教育は、私たちが将来の世代に対して負っている最も重要で崇高な責務であります。先に教育改革国民会議から報告をいただきました。人間性豊かな日本人を育て、創造性に富み、社会を切り開くリーダーを生み出すことのできる教育が求められております。私は、国民的議論を重ねながら、次期通常国会を「教育改革国会」と位置付けて、直ちに取り組むべき諸課題について、関連する法案を提出したいと考えております。

 少子化は、日本の将来に不安をもたらします。少子化への対応としては、働く女性の出産や育児を社会全体としてどのように支援していくかという観点が重要であります。これは、女性の社会参加を容易にし、経済の潜在力を高めることにもつながります。

 私は、中央省庁改革により新たに設置される男女共同参画会議において、政府全体としての「仕事と子育て両立支援策」を早急に取りまとめ、具体化したいと考えております。

 未来を築くには科学技術も重要であります。情報通信、ライフサイエンス、環境、ナノテクノロジーなど、先端分野への投資を抜本的に強化することで、安心・安全で快適な生活を築き、人類の未来にも貢献することができます。新たに定めた「科学技術基本計画」では、今後5年間の政府の研究開発投資として、GDPの1%に当たる24兆円を充てることといたしました。これは大変意欲的な未来への投資であります。

 日本が現在抱えている様々な課題を前に、私は切迫した気持ちを持っております。しかし、私たちは、戦後の荒廃から立ち上がり、今や高い生活水準を享受しております。国際社会でも大きな地位を占めております。理想に向けた決意をもって、日本人がその力を発揮すれば、21世紀は更にすばらしい時代となると思います。私は、国民の皆様と希望をもって未来に立ち向かっていく気持ちを共有したい、そして、私自身、21世紀の日本の新生に向け、全身全霊を込めて努力していく決意であります。

 1月6日からは、いよいよ新たな中央省庁体制がスタートいたします。「政府の新生」とも言うべき、21世紀の我が国にふさわしい行政システムを構築する歴史的な改革であります。私は、この改革の本旨である「国民の立場に立った総合的・機動的な行政」の実現に向けて、全力を尽くしてまいります。

 日本の改革を進める上で、皆様に是非とも御理解をいただきたいことがございます。それは、政治の安定の重要性であります。改革には痛みが伴います。財政の健全化など、将来の世代のために、私たち世代が我慢しなければならないこともあるでしょう。政治が安定し、力強い意志を示すことができなければ、改革は不可能であります。自由民主党、公明党、保守党、3党の連立政権は、改革のための政権であります。協力して政治の安定を図り、責任ある立場で政権を担う、これは、国民のことを第一に考えた与党3党共通の信念であります。

 私は、連立与党結束の下、国民の皆様の声に耳を傾けて、また、積極的に語りかけながら、必ずや大きな成果をあげ、期待にこたえていきたいと考えております。

 改めて、国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げる次第であります。

 最後に、新年が皆様にとりまして良い年でありますように、心からお祈りを申し上げまして、新年のごあいさつといたしたいと思います。

質疑応答

【質問】第二次森改造内閣がスタートしまして、13年度予算案の編成が終わりました。予算案は景気対策に配慮したものということですけれども、景気をめぐりましては、株価の値下がりなど、先行きの懸念もあります。こうした状況も踏まえまして、景気を自律的な回復軌道に乗せるために、新たな具体策を検討される考えはありますでしょうか。

 また一方で、予算案は、財源の不足を補うために国債を新たに28兆円余り発行しています。財政構造改革という課題もありますけれども、これにどのように取り組んでいかれるお考えでしょうか。

【森総理】景気は、家計部門の改善が遅れるなどいたしまして、厳しい状況をなお脱しておりませんが、企業部門を中心にいたしまして自律的な回復に向けた動きが継続いたしておりまして、全体としては緩やかな改善が続いていると考えております。

 今後、年度末に向けまして、所得の増加に伴う個人消費の緩やかな改善等から自律的回復に向けた動きが広がっていくことが期待されるわけでありますけれども、拡大テンポが低下している米国経済の今後の動向や、下落基調で推移しております株価等の動向に留意する必要があると、このように考えております。

 政府といたしましては、まずは経済を自律的な回復軌道に確実に乗せるために、「日本新生のための新発展政策」の着実かつ円滑な実施を図ることといたしております。

 また、平成13年度予算におきましては、公需から民需への円滑なバトンタッチを進めるために、公共事業関係費について11年度、12年度当初予算と同水準を確保するとともに、景気回復に万全を期すため、引き続き3,000億円の公共事業等予備費も計上しているところでございます。

 13年度予算の早期の成立をお願いすること等によって、もう一押しというところまできている景気に万全を期してまいりたい、このように考えております。

【質問】続きまして通常国会の召集時期について伺います。当面、通常国会の召集時期が焦点となっております。与党内には、1月31日に召集するという案がある一方で、野党側は1月中のできるだけ早い時期の召集を求める意見が出ております。総理としてはどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

【森総理】今、御指摘ございましたように、通常国会の召集時期については、この中央省庁改革のスタート後の状況をよく見極める必要があると考えております。さらに、外交日程なども十分検討に入れなければなりません。与党とも十分相談をしながら、慎重に判断をしたいと考えております。

【質問】一方、今年は参議院選挙の年でもあります。今年のイタリアで開かれるサミットは7月20日から22日になるという見通しのようでして、与党内にはサミット終了後の7月29日に参議院選挙の投票を行ったらどうかという案も浮上しているようであります。この選挙の日程についてはどのようにお考えでしょうか。

 また、その参議院選挙の勝敗ラインですけれども、自民党の古賀幹事長らは、与党3党で過半数を確保する、これを勝敗ラインにしたいという考えを示す一方で、自民党の中には、3党で現有議席を上回ることを目標にすべきだという意見があります。

 総理は、参議院選挙の勝敗ラインについてはどのようにお考えでしょうか。

【森総理】参議院の選挙の日程につきましては、サミットの日程など様々な点を考慮しなければなりません。今後、検討していくべきものであると考えております。私としては、まずは、とにかく景気の本格的な回復をやりたい。IT革命への対応、さらに教育改革や社会保障改革の断行など、与党3党が結束して、国民から求められております政策を着実に実行することで、参議院選挙において国民の皆様から評価をいただきたいと考えています。

 改革を実行するには、何よりも政治の安定が大切であります。現在の連立政権は、改革のための政権でありまして、協力をして政治の安定を図って、責任ある立場で政権を担うというのは、与党3党共通の信念でもあるということも、是非、国民の皆様に御理解をいただきたいと思います。

 今後、与党間の選挙協力の在り方についても、今、話が進められているわけでありますが、具体的な議席獲得数、いわゆる獲得議席数は、こうした努力の結果としてのものであると、このように考えています。

【質問】外交問題についてお尋ねします。日本とロシアの平和条約の締結交渉は、当初、西暦2000年までというクラスノヤルスク合意を一つの目標として進められてきたわけですけれども、結果的にはこうして2つの世紀をまたぐことになりました。早い時期に訪露を検討されていらっしゃるようですが、日露間の平和条約締結といった懸案の解決に向けて、どのような道筋で進めていこうとお考えなのか、お話しください。

【森総理】ロシアとの平和条約締結交渉につきましては、昨年11月のブルネイにおきます日露首脳会談の結果を受けまして、これまで事務レベルでの協議も行われてきたわけであります。

 1月16、17日に、河野大臣が訪露をいたしまして、イワノフ外相と協議を行う予定になっております。さらに、平和条約締結に向けた具体的な進展が得られるのであれば、私がイルクーツクを訪問することで、プーチン大統領との間に合意がなされているわけであります。

 問題が難しいものであるということは言うまでもありませんが、政府としては、北方四島の帰属の問題を解決することによって平和条約を締結するとの一貫した方針の下で、引き続き精力的に交渉を進めていく考えでございます。

 1月は、私の日程、あるいはプーチン大統領の日程等でこの1月中にということも当初の考え方が合意に達しておりませんが、恐らく、これも国会の日程とのことも踏まえなければなりませんし、国会の御了承も得なければなりませんが、2月には、訪露でき得るのではないかというふうに私は期待をいたしております。

【質問】次に、教育改革についてお尋ねします。総理は、通常国会を教育改革国会と位置付けていらっしゃいますけれども、先の教育改革国民会議の最終報告でうたわれた教育基本法の見直し、これは具体的に答申があったわけですが、与党内にはまだまだ基本法の見直しについて慎重な意見もあります。今後、どのように基本法の見直しに取り組まれるのか、お答えください。

【森総理】教育基本法の見直しにつきましては、教育改革国民会議の最終報告におきまして、新しい時代の教育基本法を考える際の観点として、

 新しい時代を生きる日本人の育成、

 2番目には、伝統・文化など、次代に継承すべきものの尊重、

 3番目として、教育振興基本計画の策定等を規定すること、

 この3点が示されておりまして、政府におきましても、最終報告の趣旨を十分に尊重して見直しに取り組むことが必要であるという御提言をいただいているわけであります。

 私としては、この最終報告を踏まえまして、今後さらに、教育基本法の見直しにつきましては中央教育審議会等で幅広く国民的な議論を深めるなどいたしまして、しっかりとこれに取り組んで、成果を得てまいりたいと、このように考えております。

 与党3党からは、教育改革国民会議にオブザーバーとしての御出席をいただいてこれまでの議論を進めてきているわけでございまして、今後、与党の中におきましても、これらの議論を深めていただければというふうに考えています。

 なお、自民党におきましては、既に昨年の10月から文教部会・文教制度調査会におきまして、教育基本法の勉強会を開催し、議論を開始しているわけでございますが、いずれ与党3党におきますこれの専門の、恐らく協議機関が設けられるということになるのではないかというふうに思っておりますが、極めて重要な政策でございますので、これまで答申をいただきまして、今度の国会で御審議をいただきます法案とは別個に、この教育基本法の改正につきましては、これはまず与党内の議論、そして政府におきます中教審の議論、そうしたことを踏まえながら、最終的な合意形成に最大の努力をしていきたい、このように考えております。

【質問】政権の浮揚策についてお尋ねします。第2次森改造内閣が発足しまして、ほぼ各社の世論調査が出そろったところなんですけれども、全体的に見ますと、残念ながら内閣の支持率は依然として低い水準にとどまっています。このままだと、与党内からも政権の求心力について懸念する声が上がりかねませんし、野党側は当然参議院選に向けて対決姿勢を強めてくることが予想されます。国民の支持を得るために、総理はどのようにして政権運営に取り組んでいかれるのかお話しください。

【森総理】常々昨年からも申し上げておりますが、内閣支持率、あるいは不支持率に関する調査結果については、世論の動きを示す一つの指標として謙虚に受け止めております。支持率が上がれば励みにもなりますし、下がればなお謙虚に受け止めていくことが大事だというふうに私自身、それを自分に言い聞かせているわけであります。しかし、それは結果でありまして、私は支持率を上げようという思いで政治を行うべきではないと考えております。

 支持率の変動要因には様々なものがあると考えられますけれども、私としては、常に基本を忘れないようにして、国家、国民のために何が必要かを常に第一に考えることが大切であるというふうに考えております。

 支持率の動きに一喜一憂することなく、あと一押しというところまできました景気を何としても本格的な回復軌道に乗せるとともに、IT革命への対応、あるいは今、御質問がございました教育改革、さらには、社会保障改革の立法など、国民が求めています政策を着実に実行に移していきたい、このように考えています。結局、支持率というのはその結果であるというふうに考えているわけであります。

【質問】先ほどの年頭の抱負の中で、安全保障について、より主体的に我が国にふさわしい役割を果たしていきたいとおっしゃっていますが、具体的にどういうことをイメージされているのか。今までのPKOによる協力とどう違うか具体的にお話しください。

【森総理】例えば、国連を中心といたします国際平和のための努力に対しまして、我が国としてはPKO法を制定して、カンボジア等にPKO要員を派遣するなど、憲法の枠内でできる限り積極的な協力を行ってきたわけであります。現行の協力で十分かという点につきましては、PKFの凍結の解除をめぐる議論にも見られておりますとおり、国会や党内においても様々な御議論が行われているというふうに承知をいたしております。

 また、例えば、小型武器規制を含む紛争予防への取組でイニシアチブを発揮するなどしてきておりますが、今後とも一層の努力をしたいと考えております。

 私としましては、このような点を含めまして、国会、国民各位において、十分な御議論をいただきながら、憲法の枠内で国連を中心とする国際平和のためのの努力に対する協力の具体的な在り方について積極的に検討していきたい、という旨のことを述べたわけであります。

【質問】先ほど来から総理が言われている政治の安定が重要だという点ですけれども、国民から求められている政策を着実に実行することが重要なんだということですが、具体的にどういうことなんでしょうか。長野県知事選などだとか、あるいは我々が常日ごろやっている世論調査を見ましても、政党そのもの、あるいは政治家そのものの在り方、信頼が問題になっています。こうした中でどう信頼を回復していくか、具体的に、あるいは今のこの現状をどういうふうに御覧になっているのか。そうした中で参議院選挙を戦うわけですけれども、どのように取り組んでいかれるのかお聞かせください。

【森総理】長野の知事を今、例に挙げられましたけれども、確かにそうした地方自治体の首長の選挙にやはり大きな変化があることは否定できないと思います。それはやはり、住民の皆さんの希望というものが非常に複雑になっているものですから、そして多岐にわたっているわけですから、単に従来の延長線で地方自治というのは進めていけるような時代ではなくなってきているというふうに、やはり私なども感じます。

 そういう意味で、特別長野がどうだとか、他のところはどうだということではなくて、やはりそれぞれそうした選挙に大きな、ある程度の変化を求めるということは、例えば多選であるとか、あるいは県庁時代からの延長線上にあるとか、いろんな意見があると思います。あるいは、地域によっては中央の官庁から来た知事がずっと続いていることによって、逆に地元の人がいいという意見もあります。長野などはその逆だったかもしれませんね。県庁の中でずっと来たと、40年近く県庁におられた人が県政を支配をしてきたということに対して、新しい血を求めたということにもなるんだと思うんです。

 選挙は、一つの事例だけ取り上げて、一概にこうだとかああだとか、私は結論付けられないんじゃないかと思います。それだけに、国民の求めているそうした政治への希望と言いましょうか、要求、そうしたものには、どのように的確にこたえていけるか、そういうリーダーと言いましょうか、指導者は、首長に、あるいはまた議員にも推薦をしていくということは、やはり大事だと思いますし、そういう変化というものを十分に党としても見ていく必要があるというふうに思っております。それはもちろん、東京や大阪や、東京と大阪でもまたちょっと違います、しかし、東京や大阪や、そうした大都市とまた地方との違いもあるわけですし、選挙というのは一概に一つの考え方をすべてに基準として結論付けてしまうということはとても危険なことだと思っています。

 それから今、もう一つの、御質問の後半に当たると思うんですが、かつて私たちがこの国会に当選をしてきたころは、端的に言えばイデオロギーの対立だったと思います。自由民主党と対峙して、社会党あるいは共産党という、また国際的にもいわゆる自由主義社会と社会主義社会というような対峙でしたわけですから、日本の政治もやはりそれにある程度準じてきたと。だから、国民の皆さんはそれに対して、自分たちの社会がどうあるべきか、自由主義で民主主義のルールでやっていくべきなのか、あるいは全体主義でやっていくべきなのかということに対する、判断のよりどころというのはあったんだと思います。

 しかし、もう今日では、そうしたイデオロギーの差異というものは、ほとんどの政党になくなったというふうになりますし、逆に言えばテーマは、先ほど私が冒頭に申し上げましたように、人間の生活の、本位と言いましょうか、そういうものに対しての違いということになりますから、これは政党によってそんなに大きな違いがあるわけではないと思うんです。

 本来で言えば、そういう政党と政党が、我が国は、ある意味では二大政党を指向しながら、衆議院の場合はこういう制度にしたわけですけれども、残念ながら私はまだこれは過渡期なんだろうと思います。だからこそ、幾つも政党があるんだろうと思います。何とかしていろんな形で政党を1つにまとめようとして、これまで様々なことを、この7、8年は続けてきたと思いますが、必ず、ついては離れ、ついては離れという時代も、これまでの時代だったというふうに思います。

 そういう意味で、私どもとしては連立であるということはこれは否定できない。選挙制度上もこれはやむを得ないことだというふうに思っていますし、そういう意味から言えば、結局どの政党とどの政党がしっかりと組んで、本当に国民のための政治をしっかり一つずつ確実にやっていくかということを、やはり評価していただくということであって、単に選挙のために寄り集めて、中身の政策は違うけれども、そこはとりあえずオブラートに包んでおいて、まず選挙協力だろうと、しかし、結果的に進めてきて、またそれがばらばらになってきたということは、これまで数年間の繰り返しであったということは、記者の皆さんは一番よく承知をしておられるんだろうと思います。

 そういう中で、どういう方法が一番いいのかどうかということよりも、まずはやはり着実に政策を具体化させ実行させていくという、それはやはり政治の責任と言いましょうか、そうしたことをやはり国民の皆さんに理解してもらえるように、努力していくということは当然だろうと思いますし、当然国民の皆さんから選ばれる立場からは、あるいはいかに信頼され得る行動、そういう政治家の一つの理想像というものを絶えず追い求めていかなければならんということは、言うまでもないんじゃないでしょうか。

【質問】今年、持ち越された大きな外交課題では、日朝交渉の問題があると思います。この1年の動きについて、総理はどうのようにお考えになりますか。

【森総理】この1年ですか、昨年の1年ですか。

【質問】いや、この1年です。

【森総理】昨年は、御承知のように北朝鮮が、大変大きな、国際社会に参加していこうというそういう意欲が非常に明確に打ち出されたということで、これは北東アジアの緊張感を解決する意味でも大変よかったと思っていますし、それから20世紀最後の年でもありましたけれども、一番国際社会から見れば閉鎖的な状況になっていた北朝鮮が、国際的に窓を開いたと、ドアを開いたということは、歓迎すべきことだと思っております。

 北朝鮮が国際社会に参加をしていこうという、そういう状況の中に、我々がすべてそれを後押しをしていこうということも、沖縄のG8主要国会議でもこのことを決議をしたわけでもあります。ただ、日朝間、あるいは、いわゆる南北間、これはそれぞれの経緯があるわけでありまして、北朝鮮がこうした形で国際社会に窓を開いた、ドアを開いたということは、これはやはり長い間の韓国の粘り強い交流政策というものもあったと思いますけれども、同時にまた、日本とアメリカと、そして韓国とが協力しながら、北朝鮮に対して粘り強い交渉をしてきたということも、そうした効果が出てきたことだろうと思っております。

 そういう意味で、昨年は大きな画期的な出来事がありましたけれども、今少しそれぞれ、もう一度まず窓を開け、まずドアを開けて参加をしていただいたという状況の中から、それぞれの国は、さらにそれぞれ固有に持っているいろんな経緯があるわけですから、それについて慎重に駄目押しをしながら、交渉を進めていくということになるんじゃないかというふうに思います。

 しかし一方、ドイツでありますとかイギリスでありますとか、そうした国々も北朝鮮とのいわゆる正常化に進んでいくというふうに、今年の前半はそういうふうに動いていくんだろうと思っています。

 ただ、日本の場合は、御承知のように安全保障の問題でありますとか、人道問題がございまして、これらのやはり国民の皆さんの大きな期待、そしてまた不安、そういうものを除去しながら交渉を進めていかなければならんということは言うまでもありませんが、他の国々がそれぞれの立場で進めていくことを、ある意味では横目でにらみながらも、決して慌てる必要はない。日本にとっては、大変大事な問題点が幾つかあるわけでありますから、それを一つ一つ、粘り強く交渉をしてそれらの障害を除けるような努力をしていくことが、今年の最大の外交の課題だというふうに、私自身も認識をいたしております。

【質問】財政構造改革についてなんですけれども、今までどおり経済の自律的な回復を目指すということですが、具体的に経済成長率が例えば2%になった段階で取り組むとか、そういう目標的なものを掲げるお考えというのはあるんでしょうか。

【森総理】13年度予算編成につきましては、先ほど申し上げましたように、まず景気に十分配慮したい、そして1日も早く我が国経済を本格的な回復軌道に乗せたい、我が国経済の新たな発展の扉を開くという、そういう観点から編成を行ったわけです。

 これにつきましても、いろいろな御批判、御意見もあることは、我々も十分承知をしておりますが、具体的には公需から民需へのバトンタッチを円滑にさせたいと、それから、公共事業関係につきましても、いろいろこれは様々な御意見がありましたけれども、11年度、12年度当初と同じ水準を確保するということも、こうした景気回復に万全を期すために行ったことでありまして、3,000億円の公共事業等の予備費もまた、こうしたことも十分配慮して、せっかくここまで押し上げてきた景気を、逆に軸足を動かしてはいけないと、軸足をずらしたらせっかくここまできたことが、すべてまた元に戻ってしまうということを、私どもは一番考えてこの予算編成をやらなければないらない、ということを第一に考えた予算編成であることは、是非御理解をしていただきたいと思うんです。

 ただし、景気に軸足は置いておりますけれども、できる限り今、御指摘がありましたように財政の効率化、あるいは質的な改善はやはり進めなければならないというふうに思っております。

 具体的には、いまだしと言われた意見もありましたけれども、党が大変協力をしてくれまして、思い切って公共事業の見直しもしていただいて、270件以上の事業を中止するということにもなったわけです。これは、正に従来から考えれば画期的なことだというふうに思っております。それから、ODAにつきましても、質的な改革を進めたということも、御承知のとおりだというふうに思います。

 そういう中で、さらに地方財政につきましても、地方における特例地方債の発行を導入いたしまして、国・地方を通ずる財政の透明化を進めることも、その一例であったわけです。こうした結果、前年に比べまして、4.3兆円の公債発行額を縮減をいたしたわけであります。

 さて、具体的にその2%うんぬんという御指摘がありましたけれども、今まだ政府としては軸足を景気回復にきちっと置いて進めていくということは、私は依然として変わらない考え方で進めていきたいというふうに思っております。しかし、依然、この財政は極めて厳しい状況にあるわけでありますから、この財政構造改革は必ず実現しなければならないテーマであります。そういう意味で、21世紀の我が国の経済・社会の在り方とは切り離して論ずることはできないわけでありますから、引き続き財政の効率化、あるいは質的改善を進めながら、我が国経済の景気回復の道筋を確かにして、その上で今後の我が国の経済社会のあるべき姿を展望して、検討していくものだろうというふう思っております。

 幸い、経済財政諮問会議も1月6日からスタートするわけでございますし、当然こうした会議の中におきまして、様々な議論を専門の皆さんの御意見をいただきながら、どういう道筋を立てていけるだろうかということなども、確か6日の日が最初の第1回目の会議になっておりますので、最初は恐らくそういう幅広い議論を展開していくことになるんだと思います。

【司会】以上をもちまして、森内閣総理大臣の年頭会見を終わります。

【森総理】本年もよろしくお願いいたします。