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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN+3首脳会議後における小泉内閣総理大臣内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2001年11月6日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

【小泉総理】今回、ASEANの会議、私初めての出席ですが、ASEANプラス日中韓、この会議で今後とも協議をしながら協力強化のための話し合いを進展することができ、お互いの協力を確認できたということは、非常によかったと思っています。

 地域間の課題というのはさまざまな問題があります。特に各国、実情が違います。そういう中でお互いが協力していくということに意義があるのではないかと。我々としては、各国の努力を評価しながら、それぞれの国情、国力に応じて改革の進め方は違うと思います。その国に適した日本からの支援・協力は何ができるか。また、日本からの支援・協力を各国がどのように効果的に活用していくか。こういう面について率直な意見交換ができて、これから協力を確認していこうということができてよかったと思います。

 特に、日本はASEAN重視ということをこの二十数年間強調してきました。今日の最後の日本とASEANとの会議におきましても、たとえ総理が代わっても、ASEAN重視は変わらない。この十数年間で私は十人目の総理でありますけれども、総理が代わってもASEAN重視の姿勢は変わらないということについて高い評価を得た。そして、各国から日本の支援・協力に対して謝意を述べてくれ、評価してくれている。日本も今までのASEAN重視の姿勢に過ちがなかった。これからもこのASEANと協力して、二国間、ASEAN地域間、そして世界の平和と経済の発展に協力していこうということで確認できたというのは非常によかったと思います。

 私からは経済面、特に貿易投資の面、あるいは日本がこれから5年間でITの先端国家となるという取り組みも進めておりますけれども、ITの面においての協力、更には、メコン地域の開発の問題、そして、協力を活かすための人材養成、教育面、人材育成、こういう面についても、その重要性を認識して、お互いが人材育成の面においてその国々の発展にどのように寄与していくか。日本が今まで教育を重視してきた、人材育成に大きな投資を行ってきた。貧困解消の上にも、経済発展の上にも人材育成、教育は欠かせないという共通認識を持ったということは非常に有意義であったと思います。

 また、中国と韓国との3国会談、日中韓、この首脳間における朝食会も行いまして、3国協力について意見交換を行いました。二国間においては、中国と韓国と先月の10月8日と15日に行い、更にAEPCの会合が上海で行われましたが、その間にもそれぞれ意見を交換を行いましたけれども、今回改めて朱鎔基総理、金大中大統領との会談を行うことができ、率直に意見交換できたと。特に今後、首脳会談のみならず、経済大臣、財務大臣会合に加えて、外務大臣会合も行おうではないか。そういう面においても、合意に達することができた。

 更に、これからは国境を越える問題として環境の問題、国際犯罪の問題、そして文化交流の面、さまざまな分野で日中韓の友好増進・協力というのは、ASEAN全体にとっても、世界にとっても重要だという認識がお互いに分かちあえることができたと思います。3国がともにアジア太平洋の安定と経済の発展、繁栄のためにそれぞれ協力していこうということで合意ができたということは非常に意味のある3国間の会談だったと思います。

 私も中国、韓国首脳との会談を短期間のうちに何回か重ねるうちに本当に親近感を持ち、和気あいあいの雰囲気の中で、お互いわだかまりなく、意見交換ができ、相互の友好関係が大事だという認識を共有できたということは、私にとりましても、大変喜ばしく、うれしく、心強く思っております。これから日中間、日韓間、そして日中韓、ASEANとの協力、特に日本においては日中韓ASEAN、これは本当に重要な二国間関係、多国間関係だなという認識を強く持つことができました。

 更にテロ問題について、これは日中韓の首脳間会合におきましても、これから3国は協力して、毅然としてテロに立ち向かわなければならないという確認をすることができ、これからさまざまな資金凍結、あるいは航空等の安全問題、海賊の問題、感染症の問題、いろんな面において協力していかなければならないと。これがひいては日中韓の共通の認識がASEAN諸国との間でもお互い共通の認識を持つことができた。これからのASEANと日中韓の相互協力を増進していく上においても、日中韓の首脳会談は大変意味のあるいい会談だったと。しかも、非常に穏やかな、お互い心から笑いが起こる、いい雰囲気での会談を持つことができたと思います。今後の日中韓の友好協力というのは、ASEAN諸国との友好関係を増進していく上においても、よかったのではないか。また、意義のあるものではないかなと思っております。

 また、今回のASEANとの会議のあい間におきまして、ミャンマーのタンシュエ首相とラオスのブンニャン首相との会談を行うことができました。それぞれ大変困難な国内事情を抱えているということ、そして、国内、それぞれの国が国づくりに大変な苦労をし、努力をしているということを率直に伺うことができました。日本としても、その国に必要な支援協力は何かということを考える意味においても、直に首脳から苦労話を聞くことができた。また、改革への意欲を伺うことができたということは、私にとりましても、やはり首脳間同士、お互い顔を会わせて、顔を見ながら意見交換ができる首脳間の会合というのは、やはり大きな意味のあるものだなと。「百聞は一見に如かず」という言葉がありますけれども、電話会談もいいんですけれども、実際に顔を見て、声を聞いて、表情を見ながら意見を交わすということについて、お互いの友好関係を確認し、お互い協力していこうという気持ちを持つことができたということは、首脳間会合の大きな意味のあるものだということを改めて感ずることができました。

 今回の日本とASEANの会合、更には先の上海でのAEPC会合、そして、7月のジェノバにおけるサミットの会合、わずか半年、短期間の間ではありますが、お互い多国間会合、二国間会合、国際会議、それぞれの首脳との意見交換をすることができまして、日本にとりましても、外交の重要性、首脳間が直接顔を会わせて意見交換することの大きな意義ということを再認識することができまして、私にとりましても、いい経験になった。これからの日本外交を進めていく上において、ますます二国間協力、多国間協力、日本の外交努力が必要だなということを確認できたということは、私にとりましても、また、日本にとりましても、大変いいことだと思いました。

 以上でございます。

【質疑応答】

【記者】アジアの将来について伺いたいと思うんですけれども、今回のASEAN10か国と日・中・韓の3か国の枠組みの中では、この地域、東アジア地域を自由貿易地域にすることの必要性とか、あるいはこの東アジアのサミットということについても言及されたということであります。

 ただ、こうした動きを一気に加速することについては、日本国内にも戸惑いもあると思います。こうした動きを加速することを総理は賛成されるんでしょうか。

 また、日本と東アジアの将来について、総理はどのような将来像を描いていらっしゃるんでしょうか。

【小泉総理】日本とASEANとの関係、これは各地域内においてそれぞれの違いが随分あります。文化の面においても、宗教の面においても、あるいは人種の面においても、更には経済力の面においても、それぞれ大きな差があります。しかし、そういう中で協力をしていくということに意義があるんではないでしょうか。

 これから、こういう首脳レベルの会合、あるいは各大臣レベルの会合、事務当局間の会合・調整、こういうものを通じて幅広い交流ができますから、これが目に見えない形で、大きく各国間の友好、協力に発展していくと思います。そういう意味において、お互いの違いを認めながら、多様性を認めながら協力していこうということは、今までも重要でしたけれども、今後更に重要になるんではないかと思います。

 いろいろ協力できる分野と、そして相違点を認めながら、どういう協力をできるかという前向きの対応が必要ではないかと、そう思っております。

 今後、サミットにおきましても、あるいはどういうレベルの会合におきましても、積極的な国内問題、二国間問題、あるいは国境を越える問題にお互い関与しながら、関心を持ちながら進めていくことが重要だと思っております。

【記者】先ほどの話の中で、ASEAN重視ということをたびたびおっしゃっていましたけれども、そのASEANは中国と自由貿易協定を組むことで基本合意したと聞いています。交渉を開始するということですね。

 ASEANの中で、中国をどう捉えているかはともかく、中国とASEANとの関係が強まることは間違いないと思います。そのときに、日本はどのような立場になるのか、アジア統合の中で、日本が取り残されることになるのかどうか、更にこういうASEANと中国との関係強化について総理はどのようにお考えになるのか、日本はこれからどうするのか、その辺を具体的にお話し願いします。

【小泉総理】ちょっと自虐的な見方が、日本の新聞には多いと思います。日本が取り残される、その心配は全くありません。今日の日本とASEANとの会合でも、各国首脳から今までの日本とASEANとの関係、日本の協力について高い評価と感謝の言葉を率直に述べていただきまして、私も心強く思いました。中国とASEANの関係が深まることは日本も歓迎します。日本が取り残されるとか、日本がASEAN諸国に快く思われていないのではないかというのは、あまりにも自虐的な、日本がやることは低く評価しようとする、日本のマスコミの悪い面ですね。そうではないと思います。日本というのは、本当にASEANから感謝されています。評価を受けています。二十数年間、総理がくるくる代わっても、日本のASEAN重視の姿勢は変わらないという評価を受けている。非常に心強く思いました。これまでのASEAN重視の基本姿勢、間違っていなかったなと、これからもその国に必要な協力を日本は行っていきたい。

 多国間協力、日中韓、日本・ASEAN間、この協力を今後とも今までの基本方針というもの間違っていなかったと、この基本方針どおり進めていきたいと。余り日本はダメだダメだと思わない方がいいんではないかと。

【記者】日本ではなくて、なぜ中国になったと思いますか。

【小泉総理】それは、日本との関係は、今まで大変友好的であります。中国との友好関係を持つということは、日本も歓迎したいと思います。

【記者】ですから、なぜ中国になったと。

【小泉総理】それぞれの国も各国との友好関係を増進していくというのは、当然だと思います。

【記者】 首脳会談で総理は、自衛隊の海外派遣について説明をされました。ASEAN諸国の中には、アメリカのアフガン攻撃について慎重姿勢をとる国もありますけれども、この点を含めて、総理は、自衛隊の派遣はASEAN諸国に理解を得られたというふうにお考えでしょうか。

【小泉総理】これはたびたびAPECの会合でも今回のASEANの会合でも申し上げましたとおり、日本は経済大国になっても、軍事大国にはならないという、福田元総理のスピーチにあるとおり、この方針は今後も変わらない。自衛隊が今回のテロに対して、後方支援に派遣する場合になっても、武力行使はしない、戦闘行為には参加しないということで各国から理解は得られたと思っております。日本のこういう姿勢を各国も評価していただいている、理解していただいているということを受け止めることができてよかったと思います。

【外国記者】今おっしゃった中で、特に日本はASEANとの関係に重きを置いてきたというお話がありました。しかし、別のシナリオとして、ASEANは中国とともに一歩先んじて自由貿易協定を進めていくという話もありました。日本としては、このコミットメントをどのように解釈なさるんでしょうか。特にブルネイなどとの二国間協議においてですね。日本というのはブルネイにとっても重要な貿易相手国であります。日本はブルネイとの関係も重視されていると思うんですが、こういった点についてのお考えをお聞かせ願えるでしょうか。

【小泉総理】日本とブルネイは、大変現在でも友好的な関係を深めておりますし、石油と天然ガスとの関係が特に深いわけでありますけれども、国王陛下も日本に何回か訪れて、日本に大変親近感を持っておられます。お互い、皇室、王室、そういう制度を持っている国として、更に石油や天然ガスの資源、エネルギーの問題だけでなく、観光面、あるいは人的交流、そういう面においても今後交流を深めていきたい、そう思っています。

 非常にいい関係をこれまで維持してきましたから、このいい関係を更に広げていきたい、深めていきたいと思っております。今回もASEANの会議を国王陛下、手際よく適切に進められて、このASEANとの会合も有意義に終了することができた、国王陛下の御努力、そして、会議の運営の手腕に対して厚く敬意を表し、感謝を申し上げたいと思います。

【外国記者】ここでは自由貿易地域をつくるという話が出ていますね、ASEANと中国だけではなくて、日韓も含めてということなんですが、日本の関心というのはどれぐらいなんでしょうか。そして、現実的な考えでしょうか。特に日本の米市場を考えたときには、現実的な構想でしょうか。

【小泉総理】それぞれ困難な事情を抱えております。そういう中で、前向きに、困難を乗り越えて貿易の必要性、自由貿易の重要性を確認しながら前に進んでいく。これが私は大事だと思います。一気に進まないにしても、大きな目標を持って、一歩一歩踏み出していくということが必要ではないかと思います。

 私は、そういう意味において今回の首脳会議、いろいろな会議に何回か出まして、私はこういう会議を何回か重ねていけば、これは必ず実りあるものになっていくだろうと、時には、一歩も進まないときもあるでしょう。あるいは摩擦が起こるときもあるでしょう。しかし、大きな方向性として、首脳同士で自由貿易の重要性、多国間貿易のもたらす恩恵がそれぞれの国に必ずあるという、そういう認識を持つことができたことはいいことでありまして、これからも多少の摩擦があっても、この流れ、方向というものをまっすぐ進めていく必要があると、その努力が必要だと思っております。必ずそれができると確信するに至りました。

以上