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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見(第二次小泉内閣発足)

[場所] 首相官邸
[年月日] 2003年11月19日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 去る11月9日に行われました衆議院総選挙におきまして、お陰様で国民の信任をいただくことができました。本日、衆議院本会議で首班指名選挙が行われ、私、再度総理大臣の重責を担うことになりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。

 私、2年半前、初めて総理大臣に就任して以来、改革なくして成長なし、民間でできることは民間に、地方にできることは地方に、これに沿って改革を進めてまいりました。この改革の種をまいてきて、ようやく改革の種に芽が出てきた、そういう時期に再度総理大臣の重責を担うことになりましたが、これからも改革推進に向けて、国民の御理解と御協力を得ながら、全力を尽くしてまいりたいと思います。

 私は、総理大臣に就任する際に「天の将に大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ」という孟子の言葉を引用いたしました。

 天が大任を降さんとするときには、必ずその人の心身を苦しめ、疲労させる。これに耐えていかなければならない。重責を全うするために、あらゆる困難に耐え、改革に邁進していかなければならない。そういう決意を胸にしっかりと秘めてやってきたつもりでございます。

 これからも、総理大臣の重責には変わりないと思っております。毎日が緊張と重圧の中にいること、今後も変わらないと思います。しかしながら、総理大臣としての責任を全うするために、あらゆる困難にめげず、いかなる批判を浴びようとも耐えて、しっかりと改革の芽を大きな木に育てていきたいと思いますので、今後ともよろしく御指導、御協力をお願いしたいと思います。

 以上でございます。

【質疑応答】

【質問】 当面の一番の課題でありますイラクへの自衛隊の派遣の問題ですが、我々の世論調査などでは、治安の情勢の悪化を受けて、反対論も強まっているようですが、イラクの復興支援として、なぜ自衛隊の派遣が必要であるとお考えか、その念頭に置かれている派遣時期も含めて、改めてお考えをお伺いさせていただければと思います。

【小泉総理】 イラクの安定は日本のみならず、全世界極めて大事な問題だと思っております。イラクの復興支援、人道支援、そしてできるだけ早期に、イラク人の、イラク人による、イラク人のための政府をつくらなければならない。これに対して、アメリカ始め国際社会が協力していこうということは、既に国連の安保理決議でも採択されたように、日本としても、国際社会の責任ある一員として、イラクの復興支援、人道支援に当たらなければならないと思っております。

 その際、今までの議論にあるとおり、日本は戦闘行為には参加しない。しかし、イラクの安定のために、民主的な政権樹立のために、日本の国力にふさわしい支援をするべきだと考えております。

 情勢は厳しい状況でございますが、日本として民間人、あるいは政府職員、そして自衛隊も活躍できる分野があれば、私はこの国際社会の責任を果たすために積極的に貢献すべきだと思っております。

 ただし、日本の自衛隊なり、あるいは民間人なりを派遣する場合には、その状況を見極めて、安全面に十分配慮して、派遣しなければならないと思っております。

 そういう観点から、今後もよくイラク情勢を見極めながら、いつ派遣すべきかという点については、状況を見極めながら判断したいと思っております。

【質問】 第二次小泉内閣では、さきの衆議院選で掲げたマニフェスト、政権公約をいよいよ実現、実行する段階に入ります。しかし、自公連立政権になって、その政策調整の難しさも指摘されています。

 国民との契約であるマニフェストの重要性をどのように考え、どう実行して、どのように具体化していくのか、フォローアップシステムの構築も含めてお考えを伺います。

【小泉総理】 今回の総選挙において公約を示しました。この公約実現のために、自民党、公明党協力して、全力を尽くしていきたいと思っております。

 今までの連立体制の中で培われた信頼関係の下に、私は自民党と公明党、それぞれ党の事情は違いますが、調整は十分できると。そしてお互いの立場を尊重しながら協力できる、そういう信頼関係が既に今までの連立政権協力した中で生まれておりますので、この信頼関係を大事にして、お互いの政策におきましても、総選挙で掲げた国民との間の約束、いわゆる公約をいかに実現していくかについて、私は十分話し合いの上に行っていきたいと。ある問題については、党が違いますから考えの違いもあると思います。しかし、それも今までの経験で十分調整が可能だと。お互い補い合いながら、支え合いながら、公約の実現に向けて努力していきたい。十分可能であると思っております。

【質問】 北朝鮮の拉致事件に対する対応についてお伺いします。

 政府が、北朝鮮の拉致事件の解決を最重要課題として取り組み、更に国際社会の理解が進んでいるにもかかわらず、この問題の前進というのはなかなか見られない状況が続いています。

 総理としては、この問題を第二次小泉内閣としてどのように取り組むのか、また今、北朝鮮の対応を、どのように認識しているのかをお聞かせください。

【小泉総理】 私は昨年北朝鮮側が私をピョンヤンに招待したということ自体、北朝鮮側も日本との国交正常化を求めている意思の現れだと思っております。私もその際、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることが、北朝鮮にとっても、日本にとっても、朝鮮半島全体にとっても、また国際社会の中にあっても重要であるということを金正日総書記に話しました。

 そういう中で、拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題、総合的、包括的に解決して、将来日朝国交正常化につなげていこうという話し合いが行われたわけでありますが、拉致の被害者の一部の方が帰国されましたが、まだ被害者の家族の問題が残っております。こういう点について、私は北朝鮮側に誠意ある対応を今までも求めてまいりました。これからもこの話し合いの場、二国間でどのようにその話し合いの場を設けるかということについて、北朝鮮側の誠意ある回答を今でも求めております。

 同時に6か国、6者協議、これが第1回の会合が行われましたが、まだ、次の会合が行われておりません。時期はまだわかりませんが、いずれ6か国、6者協議が行われると思いますが、その場におきましても、国際社会全体の問題と、また日本の立場というものを各国の理解を得ながら、粘り強く北朝鮮側に誠意ある対応を求めるように努力を続けていきたいと思います。

【質問】 総理は2年半前、改革をするには痛みが伴うと公言して政権運用をされて、この2年半国民は痛みに耐えてきたと思います。

 本日、第二次政権が発足するに当たって、小泉内閣で国民は、まだ痛みに耐えねばならないのでしょうか、それはいつ頃まで続くとお考えなんでしょうか。

【小泉総理】 改革には痛みや抵抗や反対が伴う。既得権を手放さなければならないという方々にとっては痛みであります。

 しかし、現状維持で痛みが将来こないかというと、私はもっと大きな痛みが来ると思います。

 そういう点から、抵抗、反対を恐れず、やるべき改革をやるというのが改革には痛みが伴うという私の考え方であります。

 今、ようやくその改革の必要性を多くの国民が理解してくれたからこそ、こういう厳しい状況にあるにもかかわらず、自民党が単独で総選挙において過半数を上回る議席を獲得することができた。

 また、この改革を進めてきた与党全体で、安定多数の議席を確保することができたということは、やはり国民が改革を進めろという声だと受け止めております。この声をしっかり受け止めて、ようやく出てきた改革の芽、いわゆる金融改革1つ取りましても、不良債権処理は進んでおります。

 税制改革、これも経済活性化のための税制改革、厳しい財政状況でありますが、単年度ではなく、多年度で考えようという税制改革も行いました。

 規制改革、これは今までできなかった特区構想、地方の意欲が出ております。全国的な規制でできないんだったら、1地域に限って、規制を緩和しよう、改革しようということで、各地域がやる気を出して、そういう改革も進んでおります。

 歳出の分野におきましても、一般歳出を実質前年度以下に削減しながら、必要な分野を増やす、不必要な分野を削っていくという歳出の改革も進んでおります。

 そうした中で、政府の公的資本形成が投入されなくても民間がやる気を出していると思います。

 地方が自ら財政を援助してくれ、あるいは税制優遇してくれということなしに、地方のやる気が出て、自分たちがやらなければいかんという意欲も出ております。そういう意欲、やる気を民間においても、地方においても支援していかなければならない。

 だからこそ、私は今、厳しい状況でありますが、政府の見通しを上回って、実質経済成長率の名目成長率も若干プラスに上向いてきたと。この芽を育てるということは、今まで進めてきた改革路線は正しいと、進めろという国民の審判だと今回の選挙の結果を受け止めておりますので、私が最初に2年半前、総理大臣に就任したときとは打って変わって、今回の衆議院選挙においても、自民党も改革政党に変わったと。かつての3年前の選挙の自民党では考えられなかった民営化路線、中央から地方への路線、これは堂々と公約に掲げて、これを今後進めていこうということで、与党で合意ができております。

 そういう点におきまして、今回の選挙の審判というものは非常に力強く、激励だと受けておりますので、この公約に沿って自民党、公明党の連立政権協力の下に、更に改革を推し進めていきたいと思っております。

【質問】 今の地方の関係の話なんですが、三位一体改革に関して、昨日の経済財政諮問会議で、税源移譲も行えるようにという指示をなされましたけれども、政府の中では異論もあるように聞いていますが、これをどうやって年末にかけて進めていかれるのか。

 それと初年度の税源移譲の規模も8割程度と考えてよろしいのか、その辺りをお考えがあればお聞かせください。

【小泉総理】 これは年末には具体的な数字が出てまいります。また、出さなければいけないわけであります。

 その際に、3年間で4兆円補助金を縮減するということであります。

 三位一体改革というのは、補助金、交付税、税財源、これを一体として改革していこうということでありますので、初年度、地方への裁量権を拡大していこうということで、1兆円を目指して補助金を縮減していこうと、地方への裁量権をいかに拡大していくか。その際にはやはり税源も移譲していこうと。これは補助金と交付税と両方、地方が自主的に判断したいという点が、個別に今いろいろ問題点が出てきておりますし、それを今、調査中であります。そういう点については、公約どおり、補助金と交付税と税財源、三位一体の改革の芽を出すべく、年末の予算編成に向けて全力を尽くしていきたいと思っております。