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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見[平成16年度予算成立を受けて]

[場所] 首相官邸
[年月日] 2004年3月26日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 本日、16年度予算が成立いたしましたが、これは自民党・公明党一致結束した賜物でありまして、関係者の皆さんに厚く御礼申し上げます。

 また、野党の皆さんにも審議に御協力をいただきまして、お陰様でこのように年度内成立をみることができました。関係者の皆さんに改めて御礼を申し上げたいと思います。

 これから、まだ重要法案が山積しております。より一層気を引き締めて、後半国会審議に臨んでいきたいと思います。

 また、国際情勢を見ましても、テロに対する備え、テロの脅しに乗らないで、いかにこの脅威に適切な対処をしていくか、これは大変大きな問題であり、国民の皆さんも不安に思っていると思います。総理大臣として、この国民の不安にいかに対処していくか、そして国民の安全確保にどのような対応をするか、これは毎日毎日頭を離れたことはありません。しっかりと関係府省、また各国と情報交換等、緊密な連携を取りまして、テロを起こさせないような対応をしっかりしていきたいと思います。

 また、同時に国民の皆さんにも、日ごろから外出する際におきましても、心構えと言いますか、どの地域でもテロというのは起こる可能性があるわけであります。御自身の注意は勿論、社会全体というのは自分たちが守るんだというような認識を持っていただければと思っております。

 イラクの復興支援・人道支援でございますが、陸・海・空の自衛隊の諸君が、今、現地で任務を立派に果たしております。昨日も、イラク統治評議会の議長、関係者の皆さんと会談をいたしましたけれども、イラクの方々が日本の自衛隊派遣を歓迎してくれている。自衛隊の活動に感謝してくれている。これを直に、イラクのこれからの国を担う方々、イラクの国づくりのため、自分たちが立ち上がらなければだめだと思っている方々から、直に自衛隊の活動に対しまして高い評価をいただいたということは、大変心強く思いました。サマーワで活躍しております自衛隊のひげの佐藤隊長からもイラク便りをいただいておりますが、皆さんから歓迎されていると、当地の住民の皆さんとよい関係を築きながら、自分たちの任務を果たしていきたいという手紙をいただいております。佐藤隊長からは、自分たち自衛隊は日本国民の善意の代理者である、実行者であるという気持ちを持って、肝に銘じて自らの任務を果たしたいという、そういう非常に心強いお手紙もいただいております。日本政府としても、自衛隊の諸君が元気に、無事に活躍できるように全面的な支援をしていきたいと思います。

 北朝鮮との問題でございますが、これは拉致された御家族の皆さん、一日も早く残された御家族と一緒になりたいお気持ちは、毎日毎日変わることはないと思います。日本政府としても、この拉致の問題、核の問題、包括的に解決して、早く北朝鮮と正常の関係が構築できるように努力していかなければならないと思っております。

 今のところ、思うような成果を上げることができませんが、これは関係国間、いわゆる六者協議等、力を合わせて北朝鮮に対してこれから働きかけを強化して、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることが北朝鮮にとっても最も利益になるんだということを今後も繰り返し繰り返し、あらゆる機会を通じて伝えていかなければならない。そして、拉致の問題も核の問題もできるだけ早く解決に結び付けるような努力をしていかなければならないと思っております。

 経済の面について言いますと、久しぶりに3月危機という言葉を聞かないで予算成立をみることができました。言わば、経済の面におきまして明るい兆しが出てきたなと。これはそろそろ本物になるのではないかという期待を現実のものにしていかなければならないと思っております。

 私が就任当初、「改革なくして成長なし」ということを言っておりましたが、必ずその際には、いや違うと、デフレ経済の状況の中に改革を進めていけば、ますます不良債権処理の額はたまっていくと。「成長なくして改革なしだ」という批判を常に浴びてまいりました。

 しかし、まず金融機関の不良債権処理をしない限りは成長はないんだということで不良債権処理を進めてまいりましたけれども、これも当初の予定どおり、不良債権の額においても、率においても、当初の予定どおり目標を達成することが目の前に見えてまいりました。

 失業率もまだまだ5%程度と厳しい状況でございますが、だんだんと雇用者数におきましても、有効求人倍率にしても改善の兆しも見えております。不良債権処理を進めると倒産件数がますます増えると言われておりましたけれども、現実には18カ月連続、倒産件数は減少しております。

 こういう企業の収益改善、今、主に大企業が中心となって業績を上げておりますが、これを中小企業にも、そして各地方にも広げていくのは、これからの大きな課題だと思っております。

 言わば、「改革なくして成長なし」、この路線を今後もしっかり堅持していかなくてはならないということを痛感しております。

 これからも国民各位の皆さんの改革路線、御指示をいただいて、これを着実に推進して、経済活性化の実現に向けて、これからも精一杯頑張っていきたいと思います。

 官から民へ、そして中央から地方へ、民間にできることは民間に、地方にできることは地方に、ようやく道路公団民営化も審議に入れるような状況になってまいりました。そして、改革の本丸と就任以来掲げておりました、郵政の民営化につきましても、今年の秋までにはどのような民営化案かという目処がついてまいりました。来月には、郵政民営化準備室を発足させたいと思います。その際には、今までこの郵政の問題になりますと、旧大蔵省と旧郵政省の百年戦争だと言われておりましたけれども、そういう問題じゃないと、政府全体、日本の官の分野の構造改革だという観点から、そういう小さな役所の縄張りにとらわれないで、全省的な取り組みが必要だという観点から、この民営化の準備室の室長には、前農林水産事務次官の渡辺好明氏に担当していただきたいと思っております。同時に、渡辺氏には郵政民営化を担当する内閣総理大臣の補佐官に就任していただくことになっております。いずれ4月にはかなり具体的なメンバーの人選も進んでいくと思います。改革すべきことは山ほどありますけれども、これからも政治は国民とともにあると、「改革なくして成長なし路線」これを堅持して、日本経済の活性化、復活に向けて努力していきたいと思いますので、よろしく御指導・御協力お願い申し上げます。

【質疑応答】

【質問】 今、入ったニュースですが、尖閣諸島に不法上陸して逮捕された中国人5人が、送検されずに入国管理局に身柄を引き渡されるということが決まったようですが、政府としては中国との関係が悪化するのを避けるということで、早期の決着を図るという御判断をしたということでしょうか。

【小泉総理】 この尖閣諸島・魚釣島の不法侵入に対しましては、法に基づいて適切に処理するということで対処してまいりましたし、同時にこの問題が日中関係に悪影響を与えないように、大局的に判断しなければいけない。そういう基本方針に沿って関係当局に指示しておりますので、その指示に従って適切に対処していかなければならないと思っております。

【質問】 総理、イラクへの陸上自衛隊の派遣もほぼ完了しまして、サマーワでの復興支援活動を本格化しております。その一方で、イラク国内でのテロ、そしてスペインでの列車爆破テロなど、混乱がなかなかおさまらないんですけれども、今後派遣されている陸上自衛隊の部隊に万一のことがあった場合に、あるいは日本国内でのテロがあった場合、陸上自衛隊その他の自衛隊部隊の撤退というのは、選択肢に入るんでしょうか。

【小泉総理】 テロを起こさないように、今、神経を使いながら政府挙げて万全の対処をするように努力をしているんですが、テロが起こったらということを考えるよりも、イラク復興支援を失敗させてはいけないと。このイラクの復興支援をどうしても成功させない限り世界は安定しないと。そういう観点から日本はイラク復興支援のために何ができるかということを考える必要があると。その1つが今回の自衛隊の派遣であります。

 私は、そういう観点からこれからも日本として自衛隊でできること、民間でできること、政府としてできること、そういう中でどのような事態になろうとも、イラク復興支援に日本は責任を果たしていく、そういうことでいろんな事態に対処していきたいと思います。

【質問】 後半国会に入ることになりますけれども、今度の国会は参議院選挙を控えていることもあって、会期延長はなかなか難しいという中で年金、道路、それに有事関連法案などもありますが、この後半国会にどのように臨むのかということと、もう一つ、年金法案を巡っては抜本改革にほど遠いという指摘が出ている中で、これをあくまで今国会での成立を目指す方針に変わりはないのか、その辺をお聞かせください。

【小泉総理】 私はできるだけ審議を通じて、この年金にしても道路にしても有事関連法案にしても成立させたいと願っております。お互い、与党、野党、意見が違いますが、いずれ野党も対案を出されてくると思います。

 今の年金の御質問でありますけれども、これは私は給付と負担を考える非常に大きな改革だと思っております。そういう中で今国会に是非とも成立させたい。そして、制度面においては民主党が考えている案、これからどういう対案を出されてくるか、いまだはっきりしない点がありますけれども、制度を根本的に変える案というのが出てくるのかどうか。それは実際に出した段階で、改革というのはこれっきりだけではありませんから、そういう点についてお互い胸襟を開いて協議するという状況が生まれれば、それはそれでいい。しかし、今回の政府が出した改革法案が成立すると、これから対案が話せなくなるという問題ではないんです。政府の出した案というのは給付と負担、これをはっきり数字で示していますから。そして、基礎年金の部分については2分の1に引き上げるというのも入っておりますから、この政府の案が成立した後にも将来のことを考えて協議ができるんです。その点の対案を出せば柔軟にこのことについては協議して、もし協力できれば、それもいいかなと。しかし、今国会において、今出している政府の法案というのは是非とも成立させたいと思っております。

【質問】 先ほど総理はテロに関して国民一般への呼びかけとして、日ごろから外出する際にも心構えをというふうにおっしゃいましたけれども、これは具体的にどういう心構えを持てということなのか。あるいは今、日本がそのテロの脅威にさらされているとすれば、これは政府として総理としてイラク戦争を支持し、自衛隊を派遣したということと無縁ではないと思いますけれども、万が一の場合の総理御自身の責任、その点の御覚悟をどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか。そこを聞きたいと思います。

【小泉総理】 まず、それぞれ治安を考えると、あらゆる政策を遂行することを考えても、治安の維持、イラクに限らずもっとも多くの国民が心配しているところでありますので、警察だけに頼るのではなくて、地域の治安状況も住民の皆さんのボランティア的な活動が犯罪を抑止している面も随分あります。

 そういう点から、やはり日ごろから人々に迷惑をかけないような行動を各自が心がけていただきたいと。不審なものに対して見て見ぬふりをするというよりも、何かおかしいなという点があったら、やはりそれなりに注意していくような対応も必要だと思っております。

 また、テロが起こった場合に、私の責任ということでありますが、テロを起こさせないような万全の体制をとることも私の責任でありますし、どのような責任をとるかというのは、私は常に政治の最高責任者として考えております。それは自分でそのときの状況を見ながら、どういう責任の取り方があるかという点は、私は自分で考えていきたいと。どういうことがあったら、私はどういう態度をとるということは、今の時点で言うのは適切ではないと思っております。

 ありがとうございました。