[文書名] 第159回通常国会終了後の小泉内閣総理大臣記者会見
【小泉総理冒頭発言】
昨日150日間にわたります通常国会閉会いたしました。1月から始まりましたが、2月早々、補正予算のときから、審議拒否をされて、この国会どうなるのかと心配しておりましたが、お陰様で与党・野党皆さんの御協力をいただきまして、重要法案等始め大事な法案の成立を見ることができました。厚く御礼を申し上げます。
中には、対立する法案もありましたけれども、国民を保護する、一朝有事があった場合にどう対応するかという有事関連法等は、与野党の協力をいただきながら成立することができました。
また、民間にできることは民間にという、ひとつの特殊法人の象徴的な道路公団民営化、この法案を成立を見ることができまして、いよいよ来年からこの道路公団も民間会社として発足する準備ができました。今まで多くの方々から批判、あるいは御叱正いただいておりました年金等の問題、これは未納の問題等、あるいは社会保険庁の無駄な施設等、無駄遣い、厳しい御批判を受けました。こういう点を真摯に反省して、今後はよりよい改善策を講じていかなければならないと思っております。
また、その中で、自由民主党、公明党、民主党との間で、いわゆる三党合意がなされましたが、それは制度に関わる大きな問題です。年金一元化の問題、今、国民年金、厚生年金、共済年金、それぞれかなり以前から年金一元化の問題が出ておりましたけれども、この問題については、国会の審議の中でも大変国民生活、これからの年金制度を考えますと、大事な問題であります。これをどのように今後社会保障全体の在り方の中で考えていくか。この問題は一元化ということについても、賛成、反対いろいろあります。また、総論で一元化に賛成したいという中にも、いざ各論になってまいりますと、厚生年金にしても、国民年金にしても、就業の形態が違います。そういう点を考えますと、これをどう進めていくか。共通の認識を得ることにもかなり議論する時間が必要ではないか。しかも、税制にも絡んできます。年金だけではありません。医療保険、介護保険も絡んでまいりますので、そういう全体の取り組みを見ながら、今国会中でなされた議論を参考にして、今後、真剣にこの社会保障全体の在り方を見直していかなければならないと思っております。
また、イラクの復興支援の問題でございますが、過日アメリカのジョージア州シーアイランド・サミットに出席いたしましたが、その間、国連安保理におきましては、全会一致でイラクヘの主権移譲、イラクの復興支援に国連の加盟国が協力しようという決議がなされました。日本としても、6月30日を境に、イラク人へ主権が移されるわけであります。そういう中でイラクの暫定政府が国連に要請する形で多国籍軍が形成されることになります。多国籍軍は人道支援、復興支援活動を含むということであります。日本は今までの考え方からいって、武力行使はしない。そして、非戦闘地域に限る。また、現在のイラク支援特別措置法の枠内であると。そして、日本の自衛隊の活動は日本の指揮下にあると。この4点をきっちり守って、日本にふさわしいイラクの国民が自らの力で再建しようとする、その意欲を助ける形で人道支援、復興支援活動をしていかなければならないと思っております。
また、北朝鮮の問題でございますが、先月私は再度ピョンヤンを訪れ、キム・ジョンイル氏と会談をしました。
一昨年9月17日、キム・ジョンイル氏と私の間で日朝ピョンヤン宣言を発出いたしました。これは申すまでもなく拉致の問題、核廃棄の問題、ミサイルの問題、これを総合的、包括的に解決して日本と北朝鮮の不正常な関係を正常化していこう、この文書であります。これを誠実に履行するということが両国にとって極めて大事だと。今の不正常な日朝間の敵対関係を友好・協力関係に発展させていかなければならないという、この認識を確認しなければならないということで、再度訪朝し、キム・ジョンイル氏と会談したわけであります。これに沿って、今後、日朝間の正常化に向けて努力していかなければならないと思います。
現在、御家族が一部帰国されましたが、まだ、安否不明者の問題、この再調査の問題もあります。それと、曽我ひとみさんの御家族がまだ帰国されておりません。ジェンキンズ氏の問題もあります。そういう点も含めて、できるだけ早く曽我さんの意向を組み入れて、第三国で曽我さん御一家が会えるような状況を早くつくっていきたいと思っております。これはまだ時期、場所未定でございますけれども、できるだけ早く曽我さんとジェンキンズさんと2人のお子さんが、じっくりと話し合える環境を日本政府がつくっていかなければならないと思っております。
いろいろ問題が内政、外交多岐にわたっております。厳しい状況下でございますが、最近、ようやく経済の面におきましても、明るい兆しが見えてまいりした。各企業の業績、そして、GDPの成長率も政府の見通しを上回って成長の兆しが見えております。今後、この回復傾向を更に本格的なものにしていかなければならない。今まで日本はどちらかと言いますと、外需、輸出に頼っておりました。しかし、今の経済指標を見てみますと、いわゆる内需ですね。日本国内の設備投資と個人消費の回復傾向が今の経済を引っ張っていく傾向が見えております。
こういう中でアメリカ経済も好調であります。そして、中国経済も目覚しい発展を続けております。この外部環境のいい影響を日本もチャンスととらえて、日本国内の改革を進めて、明るい兆し、言わば改革の芽を大きな木に育てていきたいと思っております。
一日も気を緩めることはできませんが、今後とも日本の経済をしっかり支え、そして国際社会の中で日本としての責任を果たし、この役割をしっかり果たして、私の内閣としての責任を果たしていかなければならないと思っております。
参議院選挙目前でございます。今後とも精一杯頑張りまして、小泉内閣の信任を国民から得ることができるよう誠心誠意努力していきますので、今後ともよろしく御支援御協力のほどお願い申し上げます。
【質疑応答】
【質問】 イラクへの自衛隊の多国籍軍への参加の問題ですが、これまでの自衛隊の海外派遣での活動の枠組みを一歩踏み出すもので、国民の中には自衛隊の海外での活動が際限なく広がってしまうのではないかという懸念があると思うんですが、総理はそういう懸念をどう受け止めて、これに対してどのように答えていくお考えでしょうか。
【小泉総理】 私は日本がどのような形でイラクの復興支援に関わっていくかという問題につきましては、日本独自の考え方がございます。アメリカやイギリスのように、武力行使をするということは考えておりませんし、日本としてできること、それは主として、現在サマーワで活動している自衛隊諸君の支援活動、これが中心になります。多国籍軍という中で参加するにしても、そのような人道支援、復興支援に限定していかなければならないと思っております。
それと、今回、サミットにイラクの暫定政府の大統領が出席されました。そのイラクの大統領は私と直に話し合ったんですけれども、イラクでの自衛隊の活動は他の部隊に比べても、ひときわ歓迎されている。今後とも日本の自衛隊の支援活動を是非とも継続してくれという要請を受けました。
自衛隊の諸君が本当に住民の皆さんと友好的に活動しているんだなということを思い、心強く思いました。日本としても先ほど申し上げたように、多国籍軍に参加する形で、イラクの安定した民主的政権のためにお手伝いをいたしますが、それはあくまでも人道支援、復興支援、日本の憲法の枠内は勿論、イラク支援特別措置法の枠内でこれからの活動を継続していきたいということを、これからも選挙を通じて、あるいはいろんな機会に国民に理解と協力を求めていきたいと思っております。
【質問】 先ほど年金問題についてもお話しになりましたけれども、今回の改革法が成立した後に、最新の合計特殊出生率が明らかになったりということで、今回の改革法について国民から不信感が高まっていると思います。
与党の裁決強行をきっかけに、3党合意の実現というのも危ぶまれているような状況なんですが、先ほどおっしゃった未納問題とか、社会保険庁の改革等も含めて、制度への信頼をどのような形で取り戻されるお考えなのか、今の時点で何か具体的なお考えをお持ちでしたらお示しください。
【小泉総理】 制度に対する考え方は、それぞれの政党で異論があるということは承知しております。しかし、私は、今国会で自由民主党と公明党と民主党の間で合意された、年金一元化を含んで、社会保障全体の在り方を見直すという協議会、これをできるだけ早く立ち上げたいと思っております。民主党に呼びかけていきたいと思います。
それと、政府としても、経団連と連合双方の会長から、奥田経団連会長、笹森連合会長から、経済界も労働界も一緒に入った形で、この年金を含んだ社会保障全体の協議機関をつくるべしというお話がございます。この要請を受けて、政府としても自民、公明、民主の合意もありますが、これは国会の問題でありますが、政府としても政府の中にそういう経済界なり労働界からの方々の参加を得ながら、社会保障の在り方について協議する機関をつくってもいいのではないかということで、官房長官にどういう方々が入る会がいいか今、指示しているところでございます。
そこで、この問題は単に社会保障という、年金だけじゃないんですね、税制も深く関わってきます。それと、今、出生率の話が出ましたが、戦後一時期、1年間で270万人ほどの赤ちゃんが誕生していました。一番多いときですね。ところが、現在、120万人を切っています。こういうことを考えますと、もう半分以下になっています。ますますこれから年金給付を受ける方々が増えてまいります。もう生まれる方が今、半分以下ですから、負担する方々が減ってきます。これを考えると、もう受け取る年金が多い方がいいというのは、これはもうだれも望むところでありますが、これやはり負担する方の問題も考えなければいけないと、そうすると受け取る方と負担する方だけでは、この公的年金成り立ちません。負担しきれないという問題が出てきます。だから、税金を投入するわけです。この税金をどの程度投入するかというものも、所得税あり、消費税あり、いろいろあります。これも国民的な議論をよく考えていかなければならない。
一元化の問題なんですけれども、この一元化でも、たとえて言えば、厚生年金と共済年金の一元化というのは、国民年金との一元化に比べれば、私は比較的容易ではないかと。簡単とは言いませんが、比較的容易ではないかと、国民年金との一元化に比べると。国民年金と厚生年金と共済年金を一元化するという問題がこれ実に難しい問題なんです。これを与野党協議会、あるいは政府の経済界、労働界が入った協議会で、どういう方向に進めていくか、まず所得把握の問題、納税者番号制度一つ取っても、賛成論、反対論あります。年金だけ税を考えればいいのかと、民主党の中には年金目的消費税という提案がありますが、私は社会保障全体の中で考えた場合に、医療の医療保険も高齢者がどんどん増えてきます。介護保険を考えると、これまた高齢者がどんどん増えてきます。そうすると、年金だけで目的消費税でいいのかという問題も出てまいります。
そういうことがありますから、これは仮に与野党間での協議機関、政府の経済界、労働界が入って、政府ともにこの社会保障、年金問題を考える協議会、いずれにしても大きな問題です。1年で結論が出る問題ではありません。
そういう点もよく国民の方々の意見を聞き、今、言った問題点、総論賛成、年金一元化賛成という方多いです。しかし、具体的に自営業者と、いわゆるサラリーマン、公務員、これ本当に所得一緒にできるのか、納税者番号本当に賛成してくれるのかという問題もありますから、これは今後よく議論していかなければならない。いずれにしても、そういう具体的な問題を議論の俎上の乗せるように、与野党の協議機関も、政府間の協議機関も立ち上げる必要があると考えております。
【質問】 今の年金問題ですが、民主党などは消費税と言っているわけですが、今、総理の御発言を聞いていると、つくられる協議機関では消費税の議論も当然なされて、その結果として消費税を何らかの形で、社会保障制度に財源として投入するということもあり得るということですか。
【小泉総理】 私は、私の在任中は消費税を上げないとはっきり言っています。というのは、私の任期は2年後の9月ですから、どんなに長く私が任期を務めたとしても、あと2年ちょっとです。この総理大臣としての任期せいいっぱい辞めるまでは全力投球いたしますが、その間に消費税を上げる環境にないと思っているわけです。しかし、議論は妨害するものではありません。議論は大いに結構です。どんなに早く結論が付いて、消費税を上げようという結論が付いたとしても、2年以内に上げる環境にはありません。それは消費税を上げろという方も、その辺は理解してくれているんじゃないかと思っております。しかし、議論は大いに結構です。この問題、当然社会保障の在り方を考えてくれば、消費税の議論が出てくるでしょう。消費税の議論をしてはいかんということは、私はしないし、むしろ税制全体の在り方として消費税の議論をするのは大いに結構だと思っております。
しかし、私の在任中は、消費税を上げることはありません。議論は結構です。
【質問】 多国籍軍の関係なんですが、イラクに引き続き自衛隊が駐留するために、暫定政府と個別に協定を結ぶ方法もあると思うんですが、なぜ今回その方法ではなくて多国籍軍への参加なのかを説明してください。
【小泉総理】 これは、イラクの暫定政府が国連に要請しているわけです。多国籍軍が引き続きイラクの治安確保も含めて復興支援に当たってほしいと。
多国籍軍全体がそれぞれの国と、どういう協力ができるのか、国によって協力の仕方が違います。ある国は治安活動にも協力できるでしょう。しかし、日本はそういう武力行使を目的とした治安活動には協力できません。しません。それは、もう多国籍軍全体の中で考えますが、あくまでも日本は日本のできること。日本にふさわしい支援活動を国民の理解を得られる形でしていかなければならないと。そういうことは、今もはっきりと米英とも了解を得ておりますので、しかも現在のイラク支援特措法の範囲内での活動を自衛隊諸君には継続してもらうということでありますから、それぞれの国がイラクの暫定政府と、特に個別に契約するということではなくて、国連の要請に基づいた形で、多国籍軍の中で日本にできることをしていきたいと考えております。
【質問】 引き続き、その多国籍軍についてなんですけれども、総理は先ほど人道・復興支援にできるだけ限定していくんだとおっしゃいましたけれども、実際にイラクで活動している自衛隊は、航空自衛隊が米兵を輸送するような、安全確保支援活動もやっているわけですね。これは、サマーワでの人道・復興支援活動とは違って、今後はより多国籍軍との連携が求められると思うんですけれども、その場合でも多国籍軍の指揮下には入らないと言えるのか、その米英政府が了解しているという話ですが、実際に現場ではどういうふうに対処されるんでしょうか。
【小泉総理】 これは、今までも人道支援、復興支援が中心でありますが、中にはそれは米軍に対して機械等を支援活動する、必要な部品等、実際の生活をする面において輸送などをする場合もあるでしょう。主として、日本は人道支援、復興支援活動でありますが、そのような各国との協力関係を考えますと、各国が必要な生活、あるいは活動をする場合に、どのような支援が必要かというのは、その国々との協力関係を考えながら支援をしていきたいと思っております。
主として、人道支援、復興支援であります。
【質問】 先ほど総理はこの人道・復興支援活動について、憲法の枠内でということをおっしゃいましたが、この憲法の解釈を巡っては、歴代いろいろとあって、これまで参加できなかったわけですけれども、今回これが憲法にそぐうというふうに判断された根拠というのは、どういうところにあるんですか。
【小泉総理】 まず、国連でイラク開戦の経緯には対立がありました。しかし、今回、その開戦時の対立の経緯を乗り越えて、国連安保理で全会一致のイラク復興支援決議が採択されたわけですね。
そして同時に、6月30日にイラク人に主権が移譲されます。そのイラク暫定政府の大統領が、日本に対しても直接自衛隊の活動を継続してくれという要請が来ております。私は国際社会の責任ある一員として、国連重視、国際強調、そしてイラク人が自らの力で、自らの国で立ち上がろうとするときに、多国籍軍だから参加してはいけないという理由にはならないと思います。
しかし、多国籍軍というのは、武力行使をするものだと、今までの観念から誤解する人がいます。しかし、今回の多国籍軍は、武力行使をする部分もあるでしょうが、日本はその多国籍軍の中でできる人道支援、復興支援活動、その部分に参加するということであります。
私は、今、イラク人が一番苦しんでいる、国際社会の支援を要請している、日本の自衛隊の活動は高く評価されている、そういう際に、今までの活動を停止するということが果たしてイラクの国民にとって喜ばれるかどうか。イラクの方々は自衛隊の活動を継続してくれという要請をしています。そして、日本としてもイラクの復興支援に手を貸すということは、中東全体の安定、また、イラク人の復興支援を手助けするという意味において意味のある活動であると。将来必ずイラク国民から一番自分たちが苦しいときに、日本の国は支援の手を差し伸べてくれたなという評価をいただけるような復興支援活動をやっていきたいと思っております。