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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見(第2次小泉内閣改造後)

[場所] 首相官邸
[年月日] 2004年9月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 私は、今回、内閣改造をいたしましたが、就任以来3年数か月経過いたしました。この間、外交にあっては日米関係の重要性、そして世界各国と協調していく、いわゆる日米同盟と国際協調、これを両立させていくのが日本外交の基本であると。いまや、世界の平和と安定の中に日本の発展と繁栄があるんだということから、実際に日米関係を重視し、そして国際協調体制を図っていくということを実践してきたつもりでございます。この方針に、今後も変わりはございません。

 内政にあっては、経済を活性化していく。金融改革、規制改革、税制改革、歳出改革、現状維持では新しい時代の変化に対応できないと。「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」、この基本方針にのっとって政治を運営してきたつもりでございます。

 その間、私の改革路線に対して、経済が低迷していると、不況であると、デフレであると、こういう時期に諸改革を進めていく、構造改革を進めていくと、ますます経済はだめになる、失業は増えていく、企業の倒産件数は増えていく、小泉内閣の進めている改革は間違っていると。今は、改革なくして成長なしではない、まず成長ありき。成長なくして改革なしなんだという、改革なくして成長なしか、成長なくして改革なしか、この論戦が私の就任直後から1、2年続きました。

 ようやく、やはり改革なくして成長なしだなという路線の正しさが国民にも理解できたことだと思います。現実に改革を進めることによって、不良債権処理も進み、金融機関もより健全性に向かって努力をし、経済も上向いてまいりました。

 いわば、そういう改革をこれからも断行していかなければならない。わけても小泉内閣の「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」、この方針のとおり、これからも進めていかなければならない。その改革の本丸というべき郵政三事業の民営化、いよいよ基本方針が閣議決定され、来年には郵政民営化の法案が提出される運びになりました。

 今まで、「地方にできることは地方に」、これは総論賛成であります。そのために、国が地方に与えてきた補助金、もっと地方が自由に、裁量権を与えて使いやすくしようじゃないか。税財源も地方に移していこうではないか。交付税、ほとんどの地方自治体が国から足りない分は交付税交付金をもらって、地方のいろんな事業を賄う。こういうものを改革していこうじゃないかと。補助金一つ取っても、国がどの補助金を廃止して地方に任せるのか、どのような税を地方に与えるのか。交付税交付金、これはなくなると困る、ほとんどもらいたい、現状維持がいい、1つ変えるとほかも変えなければならない、難しい、それなら一緒に全部3つを変えようと。補助金、税源、地方交付税、全部難しくてできなかったものを、それでは一緒に変えようということで三位一体の改革、約4兆円の補助金を削減しようと。今年は1兆円を削減し、あと3兆円。あと2年かけてこの3兆円の補助金改革をしようと。それに合わせて税源と交付税も改革していこうと。この三位一体の改革を実施に移していかなければならない。これは年末にかけて大きな課題であります。

 更に、今まで民間にできることは民間にということで、総論は賛成。ところが現実に民間にできるものでも民間にさせないというのが、この郵政三事業の問題でありました。郵便局なくせなんて私は一言も言っておりません。郵便局の運営は、役人、国家公務員でなくてもできると、民間に任せた方がはるかにサービスは多様化するのではないか、無駄な税金も使わなくて済むのではないかということから、果たして今の郵便局の運営は、40万人にも及ぶ国家公務員じゃなければできないのか、民間人にもできるのではないかという、いよいよ「民間にできることは民間に」の本丸に入ってきます。

 いずれにしても、郵政事業に関わる約40万人の根強い現状を維持したいという要望に各政党がすくんじゃっている、動きがとれなかったこの問題にようやく本格的にメスが入れられようとする段階に入ってまいりました。

 いわば、今まで進めてきた改革を更に進める、そのための今回の内閣改造と役員の改選であります。これからも基本方針にのっとって、更に改革を推進していきたいと思いますので、国民各位の特段の御支援、御協力をいただければありがたいと思います。

【質疑応答】

【質問】 総理ご苦労様です。

 まず、党の方の人事の方からお尋ねいたします。武部さんを幹事長に据えられて、また安倍さんを幹事長代理にされたと、こうしたややサプライズ人事とも言える人事のねらいと、この人事によって挙党体制が確立されたとお考えかどうか、まずお聞かせください。

【小泉総理】 まず、今回の三役人事におきましては、党内の体制を整備していこうと。今まで役員改選時には党の人事を一新しようということが慣例でありました。それに合わせて内閣改造もしてきたわけでございますが、今回もある程度人心も一新した方がいいのではないか、挙党体制を取った方がいいのではないか、また、参議院選挙を闘って新しい気分でもって改革を進めていった方がいいのではないかということから、武部幹事長、久間総務会長、与謝野政調会長という布陣にしたわけでございますが、安倍幹事長も参議院選の結果を受けまして、51議席の目標を1議席下回ったということから、参議院選挙直後辞意を表明され、その意向が強かったわけであります。

 しかし、安倍幹事長も党改革等、自分のやるべきことはまだ残っているということから、あの参議院選挙の結果、やはり目標の51議席を獲得できなくて、1議席下回ったけれども、51議席を上回ることを目標としてきたから、自分としてはやはり幹事長は辞すべきではないかという強い意向でありました。

 そういう意向を尊重して、今回、それでは幹事長を替わるけれども、やるべき党改革、更に今後自分としても執行部に残って、また汗をかこうと、今まで幹事長として多くの方々に支えられてきたけれども、今度は幹事長を始め、いろんな方々の意見を反映すべく汗をかいて、みんなを支える立場に立とうという気持ちになっていただいて、武部幹事長を始め、執行部の一員として残るのは、自分の残したやるべき改革を実現していく道であろうという判断をされたんだろうと思います。私は、それをよしと思っております。

 また、武部幹事長は、今まで農水大臣あるいは議運委員長等、いろいろ実績を積んでまいりました。各党におきましても信頼があり、国会対策等においても苦労されております。

 これから国会運営におきましても、また改革におきましても、先の選挙におきましても、党の公約をまとめ上げるために、非常に努力をしてきた方でありまして、小泉内閣の進める郵政民営化は勿論、改革路線、これを後戻りさせてはいけないという強い使命感を持っている方であります。そういうことから、武部さんに幹事長をお願いしたわけであります。

 私は、今回いい体制ができたなと思っております。

【質問】 総理が、今、お話になられたように、人事を前にいたしまして、郵政民営化に協力する勢力を今回結集するとおっしゃっておられましたが、今回の人事で郵政民営化を推進する観点から、思いどおりに協力勢力を全体的に結集することができたと判断されていますでしょうか。

 そして、もう一つ質問ですが、去年の内閣改造の際、総理はこの内閣を改革推進内閣とネーミングされていましたが、今回はどう名付けられますでしょうか。

【小泉総理】 私は、郵政民営化が改革の本丸だと位置づけているのは、総論ではみんな「民間にできることは民間に」ということは賛成なんです。そうしたら、今の郵貯にしても、簡保にしても、郵便事業にしても、実際民間人がやっているんです。なぜ役人じゃなきゃできないのか、公務員じゃなきゃできないのかということから、それでは民間に任せようじゃないかと言うと、労働組合、あるいは特定郵便局、それぞれ各政党の大事な支持基盤ですから、支持勢力、選挙でお世話になっていると。このような人たちは現状維持がいいんだから、変える必要ないんじゃないかということで、ほとんど全政党がこういう支持基盤を大事にするためには既得権を維持し、現状維持がいいということだったんですが、やはりむしろ官業は民業の補完だと。それより一歩進んで、民間人でも公的な事業ができるんだということを考えれば、民間人でも公共的な仕事に携わってもらった方がいいということから、この郵政民営化をかねてからとらえてきたわけであります。

 そういうことにようやく理解を示してくれておりますし、閣議決定もできたわけですから、これからこの閣議決定に沿って法案化作業を進めてまいります。

 ようやく、昨年の総裁選挙でも私は主張の大きな課題に郵政民営化を掲げました。勿論、反対論者おりましたけれども、結果的に私を自民党員、国会議員は自民党総裁に選んだんです。選出してくれたんです。11月の総選挙でも同じようなことを訴えて、自由民主党が過半数を得て、公明党との連立を維持して政権を運営してきました。

 参議院選挙においても、自民党、公明党、併せて安定多数を参議院でも、いわば、衆参ともに安定多数を得た。そういう状況で、私が主張してきたこの大きな課題、これを実現していくのが当然だと思っております。そういう理解者、協力者を今回結集しましたし、それにのっとって挙党体制ができたと思います。

 自由民主党は、結論が出るまでは、賛成、反対、いろんな議論が出ます。しかし、最終的には反対していた議論も、時代の方向、日本の行く末を見極めて、一定の結論に協力してくれると思っております。いわば、今は反対していても、結論を出す段階においては、私に賛成、協力してくれるものと思っております。

 いわば、今まで3年間、いろいろ賛否両論の問題も結果を見れば、反対していた方も、道路公団民営化にも賛成してくれました。郵便事業の民間参入、これも反対していた方々も最終的には賛成してくれました。今回も、現在では郵政民営化に反対の方々も、結論を出すべき段階には、賛成、協力してくれると確信しております。でありますから、ようやくこの方針が閣議決定された。この閣議決定に沿って、今これから法案作成が始まる。いわば、今回、内閣の役割として、今までの推し進めてきた改革路線をいよいよ実現する段階に入ったなということから言えば、いわば「郵政民営化実現内閣」、「改革実現内閣」と名付けてもいいのではないかと思っております。

【質問】 総理は今回の改革で、外務大臣と防衛庁長官を交替させました。この外交、安全保障に対する体制を刷新なさった理由をお聞かせください。

 同時に、かねてこの分野に詳しい山崎拓さんを補佐官に指名した理由も、外交・安保の強化、そんなところにあると理解してよろしいのか、御説明をお願いします。

【小泉総理】 今までも、川口外務大臣、石破防衛庁長官、よく外交、防衛、努力して、日本の外交、防衛、過ちなきを期していただいたと思います。

 今回、川口外務大臣は、総理大臣の補佐官として今後も小泉内閣に協力して、いわゆる国会議員、忙しいですから、国会議員を離れた立場で世界の外交問題、外務大臣経験者としていろいろ支えてくれると思っております。

 そして、町村外務大臣、外務政務次官も経験しておりますし、過去、文部大臣、あるいは党の総務局長をして、経験も豊富であります。今後、日本の外交の重要性をよく認識している方であります。

 また、石破長官もかねてから防衛政策、安全保障政策の理論家、論客として、この難しい防衛論議にも巧みな答弁、そして、防衛政策の重要性を訴えて、よく努力してくれたと思います。

 今回、大野防衛庁長官に替わりましたけれども、大野防衛庁長官も、これまた自由民主党の国防部会長も経験して、防衛政策には極めて詳しい方でございます。

 そういう方々に今回、新しい気持ちで、お互い協力しながら、安全保障と外交というのは一体で進めていかなければならない。

 そして、山崎拓さんには、新たに総理大臣の補佐官として政治全般の相談相手になってもらう。特に、安全保障の分野においてはこれまた非常に見識を持っている方でありますので、党内のいろいろな難しい情勢も私に対しては力になってくれるのではないかと期待しておりますから、非常に心強いと思っております。

 いずれも、町村外務大臣にしても、大野防衛庁長官にしても、外交、防衛問題には今までも勉強してきた方であり、詳しい方であるので、川口外務大臣、石破防衛庁長官に劣らない活躍をしていただけると期待しております。

【質問】 今回の内閣では、これまでとは違いまして、民間人の入閣はなく、また、女性閣僚も2人と非常に少なくなりました。こういった点につきまして、小泉政権が今までと少し性格が変わるものなのかどうか、総理の御見解を伺いたいと思います。

【小泉総理】 女性議員をできるだけ起用したいという気持ちは、今でもあるんです。しかし、全体的に見回してみて国会議員全体、自民党全体から見ると女性議員は少ないです。そういう中から、女性だからいいという気持ちはありません。女性でも、それにふさわしい方、適材を起用しなければならないと。

 経験を積んだ方、そういうことも必要であろうということから、今回、3人から2人になりましたけれども、これからも女性で適材はできるだけ起用していきたいと思っております。

 更に、民間人が減ったということでありますが、竹中さんは民間人から参議院議員に当選されました。川口さんも、外務大臣を退任されましたけれども、引き続き総理大臣の補佐官として活躍してくれる。

 民間人をあえて起用しようということではなくて、民間人でも適材ならば活用したいという気持ちに変わりありません。

 しかし、民間人からすれば、大臣になるといかに制約が強いか、これにやはり打診しても躊躇する人が多いですね。まず、資産を公開しなければならない、家族が嫌がる、国会答弁、これを見ているだけでとてもあれにはたまらんと、そういう方もかなり多いわけであります。

 そういうことから、なかなか民間人が政界に入ってきて、この批判に耐えてやっていくというのは大変難しい面があると思いますので、能力のある方も政界に入って、あえて自らの力を発揮してやろうというのは、なかなか少なくなってきたというのも事実でございます。

 幸いにして、今回国会議員の方でも見識を持った適材をそろえることができたと思っておりますし、民間人が減ったといっても、小泉内閣の性質、方針が変わったわけではありません。

 これから私の就任以来の初心をいかに実現していくか、そういう体制が今回の改造内閣であると。この3年間、多くの方々の協力を得てきた、自民党議員の皆さんも、公明党議員の皆さんも、よくこの構造改革の重要性を理解して、途中の経過では反対論、慎重論、抵抗論あったにしても、最終的にはよく協力していただいて、ここまでやってきたわけであります。

 あと、私の任期が許す限り、何とか「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」という基本路線を少しでも実現させていく、その大きな課題が今回の郵政の民営化でありますから、この問題について自民党も公明党もよく協力してくれると思っておりますし、その方向で実現を目指して、後戻りできない改革路線を軌道に乗せていきたいと思っております。

【質問】 総理、あと2年間のうちに衆院を解散、あるいは内閣を改造するといったこともあり得るんですか。

【小泉総理】 今の時点では、いかに進めてきた改革を推進していくかでありますので、衆議院議員が解散される状況は、今の時点で想像しておりません。

 というのは、まだ1年経っておりませんし、去年11月が衆議院選挙、そして今年の7月が参議院選挙、今の時点ですぐ解散するという状況にはないと思います。

 私は、これから先ほど申し上げましたような改革を実現するために、精一杯頑張ろうと、そういう状況だと思いますので、今の時点で解散は考えておりません。