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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア・アフリカ首脳会議の際の小泉総理内外記者会見

[場所] インドネシア
[年月日] 2005年4月23日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 夜遅くご苦労様です。今回、アジア・アフリカ首脳会議という歴史的な会議に出席し、また今日はスマトラ沖大地震・津波の被災地バンダ・アチェを実際に視察できたことは大変有意義だったと思う。また、会議の合間に、今回の会議の共同議長であるインドネシア・ユドヨノ大統領、また、南アフリカのムベキ大統領、そしてアフガニスタンのカルザイ大統領、また、アナン国連事務総長と意見交換・会談ができた。そして今日は、中国の胡錦濤国家主席とも会談し、率直な意見交換が出来たことはきわめて有意義であったと思っている。今回のバンドン会議50周年記念式典を兼ねたこのような大勢の首脳が参加した会議、ユドヨノ大統領の格別のご尽力に心から感謝申し上げるし、インドネシア国民からの暖かい歓待に厚く御礼申し上げる。あとは、ご質問に答えたいと思う。

【質疑応答】

【質問】 さきほど、中国の胡錦濤国家主席と会談されたが、将来の日中友好を確認したいという総理の会談の目的は達成できたのか、それから、今、反日デモで冷え込んでいる日中関係を今回の首脳会談を踏まえて、どのように改善していこうという風に考えるか。

【小泉総理】 今回の胡錦濤国家主席と私の会談においては、お互いが一時的な対立とか意見の相違、あるいは反日デモとか日本の嫌中感情、こういう動きに惑わされないで、日中両国の友好発展がいかに日中両国にとって重要か、さらには、アジア全体、国際社会にとって日中両国の協力が重要かと、この認識を共有できるような会談にしよう、冒頭からそのような気持ちで私は臨んだ。胡錦濤国家主席も全く同じだと思う。そういう意味においてきわめて有意義な実りある、友好関係を大事にして、これからいろんな分野において日中協力をしていこうという、そういう会談だと思っている。きわめていい会談が出来たと私は思う。

【質問】 昨日の演説の中で、現在GNP比0.2%であるODA額をGNI比0.7%に増加すると述べられたが、どのようにこれを実現する考えか。人によっては、日本の国連安保理任理事国入りのための動きだという人もあるが如何。

【小泉総理】 将来の日本のODAを(GNI比)0.7%に引き上げていこうということであるが、現在(GNI比)0.2%、この0.7%への引き上げは容易ではない。期限を区切ってこれを具体的な形で実現していこうということはなかなか難しいのであるが、将来を展望すると、日本のODAは世界の平和と安定にとってきわめて重要だと私は認識している。そういう中で、過去、日本のODAに対して、日本は積極的に努力をしてきたが、最近の日本の財政状況の悪化により、日本国民からも、ODAに対する見方がきわめて厳しい状況である。そして、ODAの中味がどのように有効に使われているかということは、国会でも日本において盛んに議論されており、見直しが必要だと言うことで、その見直しにつとめてきた。そういうことから、ODAをいままでのように増やすことはできなかったわけであるが、最近においては、日本国民もODAがどのように使われているか、日本国民の貴重な税金によってこのODAが使われている、厳しい見直しが必要であると、そして各国に有効に使われていることが必要である、という観点も私はかなり理解されてきたと思う。今後は、このODAを減らすということではなく、引き上げていく必要があるということも、日本国民に理解されてきたと思うので、0.7%への引き上げを、年限を区切ることは出来ないが、私はこの日本の各国へのODA現状をそれぞれの国がたぶん評価していただいていると思うので、日本としては、このODAが有効に使われ、そして世界の平和と安定ために資するという観点から、日本も引き上げていく必要性を十分認識しているので、各国と協力しながら、ODAの拡大につき、今後努力を続けていきたいと思う。

【質問】 先程総理から日中首脳会談について極めて有意義だという言及があったが、その会談の各論について3点お尋ねする。一つ目は、中国の反日デモについて日本側ではかねてより謝罪と補償について言及があったが、総理からどのような表現でこの問題についての言及があり、中国側がどのように答えたのか。次に2番目として、総理自身が靖国神社の参拝問題を含めた歴史認識について、中国側からどのような言及があり、どのようなやりとりがなされたのか。3番目について、総理はかねてから温家宝首相の訪日を招請されていたが、これについて中国側からどのような回答があったのかをお聞かせ願いたい。

【小泉総理】 この今の3点については、日本の町村外務大臣、中国の李肇星外務大臣の間でも話されたことである。最初に、今回の胡錦濤主席と私の首脳会談は、町村・李肇星の両外務大臣の会談と同じである必要はないと、外務大臣会談と首脳会談の中身は違って当然だと述べた。そして、反日デモについては、中国側が、適切な対応をとってもらいたいと、日本の大使館、領事館、また日本の中国における企業活動、民間人の活動、これについて適切な対応をしていただきたいという要請をした。靖国問題、歴史問題等について、胡錦濤主席から、それぞれ話が出された。しかしながら、同時に、胡錦濤国家主席は、一々討論する気はないと、話されたので、私もその意見に賛成であったので、今回、一々討論する場ではないと。今回の首脳会談というのは、日中の友好・発展関係をもつことが二国間の利益のみならず、アジア全体、国際社会全体にとって、いかに友好関係が大事かということを認識する場であるという大局的見地に立って話をしたので、この問題については、時間の関係もあり、私からは靖国の問題、歴史の問題について具体的には触れなかった。また、温家宝首相の訪日招請については、かねてからお話ししているので、あえて触れなかった。しかしながら、今までいったこと、これを変えたわけではない。

【質問】 これはフォローアップの質問になると思うが、これまでアジア・アフリカ諸国に対し、開発協力を実施してきたが、昨日、日本がODAをアフリカに対して二倍にするという話もあった。日本にとってのメリットは何か。日本はこのような援助から何を得るということになると考えるか。

【小泉総理】 アジア・アフリカに対して、日本の援助が日本にとってどういうプラスになるのか、利益になるのかという話であるが、日本の発展と繁栄は、世界の平和と安定の中にあると私は思っている。直接的に日本の支援が日本にどうプラスになるかというよりも、全体的な日本は、世界の平和と安定ということに対して、いかなる役割を果たすことができるか、そして日本は平和国家として発展してきた、経済大国となっても軍事大国にはならないという戦後60年間の方針を実践に移してきた、そういう実績もふまえて、アジア・アフリカ諸国に対する平和構築そして紛争防止、安定して発展するということは、長い目で見て日本の発展と繁栄に資する、そういう観点から、その国々に必要な支援をすることが日本の利益になると。その国々が、政治の安定の基に、経済発展をなす、そのことが日本にも巡り巡って利益になる、そういう大局的見地に立って支援するのが、日本の大きな利益になる、という観点からこれからも支援を続けていきたいと思っている。

【質問】 先程胡錦濤主席のほうから靖国神社についても話があったということだが、中国側はかねてから、この靖国参拝が日中関係の障害となっているという発言を繰り返している。総理自身の決断が日中関係全体に陰を落としている状況であるが、総理は靖国神社参拝についてどのように対応していくつもりか。

【小泉総理】 靖国の参拝についてはかねてから話している通り、適切に判断していくということに変わりはない。歴史問題あるいは靖国の問題、又台湾の問題については、過去30年来にわたり日本がとってきた、日中共同声明、日中平和条約、日中共同宣言、この方針に全く変化はない。そして今ほど日本と中国の相互依存関係が深まった時はないと思う。人的交流においても益々拡大しているし、貿易額においても今まで第一位であったアメリカを凌ぐ状況になってきた。今ほど、日本と中国がお互いを必要としている時代はないと思う。この友好関係を更に増進させていきたい。いちいち過去の非をお互いがあげつらうのではなく、敵対感情を煽るよりも友愛の精神をもって両国の友好発展に資するということが日中両国に最も利益になるということが確認できた会談だと思う。

【質問】 胡錦濤主席と現在の二国間の危機的状況を打破するためにどんな話をされたのか。対日感情をどのように取り扱う話をされたのか。

【小泉総理】 日中間の友好関係が如何に両国にとって重要かということをお互い話し合った。確かに中国においては反日デモに見られるように反日感情が強いのも事実である。又、日本についてもあのようなデモを見て、嫌中感情というのか、反発している感情も一部にある。しかし全体的に見て言葉に出さなくても、日中両国の友好関係を発展させるということが両国にとって最も利益になるということは、大方の国民が理解していると思う。特に政府の指導的立場にある方々は、両国にとってこのような敵対を煽るような行動は厳に慎むべきだという共通の認識が今回の一時的な対立から生まれてきている。逆に、このような対立を煽ることが好ましくないということが強く両国の指導的立場にある方は考えてきたと思う。このような一部の反日感情や嫌中感情に踊らされることなく、日中友好が如何に重要かということが共有できた会談だった。その考えを今後お互いがしっかりと胸に置いて、友好発展関係に向け努力していきたいと思う。