[文書名] 南西アジア及び欧州訪問の際の小泉総理内外記者会見
【小泉総理冒頭発言】
今次外遊ではインド・パキスタン・ルクセンブルク・そして今日オランダを訪問した。各国から、暖かい歓迎を受け、感謝申し上げる。
インドでは、カラーム大統領、シン首相と会談をした。インドは、10億人以上の人口を持つ大国であり、二国間の経済関係拡大に触れ、今後の関係を強化する思いで会談をした。インドの持つ潜在力、可能性に比べ、インドと日本の関係はまだ十分ではないのではないかということを含め、より積極的に協力関係を拡大していきたいと思っている。特にインドとは、国連常任理事国入りについても同一の見解を有し、G4という4ヶ国が常任理事国入りを支持し合う、国連改革を望むという点でも一致しているので、今後インドとの関係は、大変重要になると思っている。日印共同声明を発出し、カラーム大統領と協力することを確認した。
パキスタンにおいては、ムシャラフ大統領、アジーズ首相と会談をした。パキスタンがアフガニスタンとの関係から、今までの厳しい状況の中で、テロに毅然とした態度をとっていることに対して、私は高い評価をしている。パキスタンとの協力として、円借款を決定するなど、両国関係は新たな関係に入ったと思う。日・パキスタン共同宣言を発出し、今後経済のみならず、あらゆる分野において協力を密にしていこうと思っている。特に私が強く思ったのは、インドとパキスタンの関係においては、国連常任理事国入りについて(の立場は)違うが、インド・パキスタン両国とも極めて親日感が強いことを改めて感じた。そういう観点から、この極めて強い日本に対する好感度に見合った関係を、築いていくために、日本も一層努力が必要であると思う。
ルクセンブルクでは、日・EU定期首脳協議に出席することで訪問した。EU側議長である、ユンカー首相及びバローゾ欧州委員会委員長と会談をした。今後EUと日本の戦略的な対話・行動といった面で、忌憚ない率直な意見を交わした。今年は日EU市民交流年である。各地域で互いに交流があるので、これを機会に関係を拡大していきたいと思う。また、日本とオランダの間には、過去一時期不幸な時期もあったが、現在基本的に良好に推移している。その長い交流の歴史を象徴するシーボルトハウスにて、バルケネンデ首相と会談した。特にイラクでの日本の自衛隊のオランダ側の協力に対して謝意を示した。二国間関係、国際的課題についても意見交換をし、先程ベアトリクス女王陛下にも謁見をした。いずれも短期間ではあったが、実り多い訪問になり、改めて各国の歓待に誠に感謝している。
【質疑応答】
【質問】今回の4カ国訪問では国連改革が一つのテーマであったが、それぞれ訪問国の対応は様々だったと思われる。今、国連加盟国の中で、すべての国で同意が得られる努力をさらに行うべきであるとの意見が勢いを増す中で、9月までに結論を出すためには、多数決も辞さないと考えるか。
【小泉総理】国連改革については、今ほどその必要性の機運が高まった時期はないと思っている。もとより全体の合意というかコンセンサスができた上での改革が望ましいと思うが、それぞれの国と会談してみると、意見・立場が違う。なかなか全会一致というのは困難かと思うが、この全会一致が困難であるからもっと十分議論する時間を持とうと、9月にこだわる必要はないのではないかという議論もあるが、私は今まで十分議論してきたし、この改革に対していろいろ意見が違うから(結論を出す時期を)伸ばそうと言って果たして出来るかどうか疑問に思っている。であるので、アナン事務総長も言っているように、9月の首脳会談までに結論を出すことが望ましいと思っている。それに向けて日本は今後各国と協力しながら取り組んで行きたいと思っている。
【質問】本日、時間的に先の大戦のオランダ人被害者に会うことが出来なかったということであるが、本来、会うべきではなかったのか。また謝罪の意味ということはこういった人々に対し、補償金を支払わなければならないのではないか。
【小泉総理】オランダとの間には、過去400年に渡って極めて友好な関係を維持している。60年前、一時期不幸な時期もあったが、それを乗り越えて現在は極めて良好である。そういう中で、今指摘のあった過去の問題に対し、どのような補償なり謝罪が必要かという点については、公的にはサンフランシスコ条約、或いは二国間協定等で解決済みである。しかしながら、オランダ国民の感情的な問題もあり、この問題については、今後よく話し合いながら、未来に向かって友好関係を発展していくためにはどういう対応が必要かというなかで、解決していくべき問題だと思っている。
【質問】国内問題について伺う。総理は郵政民営化関連法案の今国会の成立に向けて強い自信を示されているが、その具体的な根拠、情勢判断について聞かせて頂きたい。さらに、法案成立後に、総理が優先的に取り組む政策課題としてはどのようなものを考えているか。
【小泉総理】この郵政民営化問題については我が国の国内問題であるが、バルケネンデ・オランダ首相との会談でも話題になった。民営化については、オランダはすでに達成し実現しているわけであるので、その点も参考にしながら取り組んでいるという話をした。なぜ私が成立に自信があるかと言うことであるが、私が就任する前には、日本の全政党が郵政民営化に反対であった。考えてみれば、これを成立させるのは、政界の人たちから見れば、奇跡だと思っているのも事実であろう。しかし、民間に出来ることは民間に任せようと言うことについては、大方の国民は賛成している。総論は賛成なのである。しかし、なぜ郵政民営化は反対か。郵政三事業に対してなぜ27万人の国家公務員ではないと出来ないのか。これが不思議でならない。貯金も、保険も、郵便配達、小包配達、民間でやっていることである。そういった観点から、27万人の国家公務員がいまの公務員の身分の方がいい、民間と同じようなサラリーマンになるのが嫌だ、ということで、果たして国民から理解が得られるであろうか。選挙の時に、この公務員が、与党野党の候補を応援している、その支持団体の声を聞いて、反対・反対と叫んでいるその勢力は与野党に多い。一国の首相、自民党の総裁として、一部の支持団体の言うことを聞くのは大事であるが、やはり国民全体の利益を図ることが大事だと考えている。そういうことから、いまなお根強い与党・野党からの反対があるが、帰国してから、国会が始まって、審議を進めていけば、私の言っている民営化論に対して、大方の国民の理解と賛成を得られると思っている。その声を無視して、与党議員が、政治家としての責任として依然として反対を続けていくことが出来るのかどうか、疑問に思っている。最終的には、現在反対でも、やはり、時代の要請に応えて、郵政民営化は必要だという風に、変わってくれると期待しているし、これは断固成立させなければいけないと考えている。その後どういう政治課題があるかということであるが、まずはこの根強い反対勢力の中で、成立させることが容易ではないと言うことは承知しているが、これを成立させれば日本の政界も変わったなという状況になってくると思う。そして問題は山積している。日本の政界にも、あるいは、評論家の中にも、郵政民営化のほかに、たくさん重要な問題はあるではないか、あるいは、郵政民営化以上に外交、内政、重要な課題があるではないか、他の課題に重点を移すべきではないかという批判があるが、これは間違っていると思う。郵政民営化をしないで、それでは、外交・内政の重要な課題を解決できるか、そうではない。それは郵政民営化をしたくないから、そういうことを言っているだけであって、私は、外交・内政の重要な課題と同時に郵政民営化に取り組んでいるのである。私が総理大臣でなかったら、この郵政民営化を口に出す総理はいなかったであろう。敢えて、外交・内政の重要な課題と同時並行的にこの郵政民営化法案を国会に提出する運びになったのである。いまだにこの提案すら認めない勢力が与党の中にある中に、提案をしたのである。であるので、郵政民営化法案を成立した後には、私は、外交の問題、国連常任理事国入りの問題、あるいは、北朝鮮の問題、イラクの安定した民主的な政権を作るための努力、アフガン政権がこれまた、タリバン政権の専制政権から、カルザイ政権に移行して、安定した民主的な政権作りに努力している、そういう国際社会の中で、日本に相応しい責任を果たして行かなくてはならない。それと、内政においても、年金を含む社会保障の問題、医療保険の問題、介護保険の問題、まさに問題山積である。地方に出来ることは地方に、中央政府の役割、地方政府の役割、地方分権の問題、どれをとっても今まで根強い反対の問題が多かった。それを敢えて承知で、総論賛成・各論反対の中、各論に突き進んでいるのが小泉内閣である。郵政(民営化法案)が成立した後も息つく暇はない。来年9月の任期いっぱいまでは、総理大臣の職責を果たすことが出来るよう全力を尽くしていきたいと思う。
【質問】EUそして東アジアの安定に関し質問したい。非常に忌憚のないところでもっていろいろ話をされたというなかで対中武器禁輸解除の問題があったかと思う。しかしそのことではなく、もっとEUが東アジアにおいて貢献できる役割がどういったものであるかについてお聞きしたいと思う。EUは東アジアに対し野心を持っている、同時にまた東アジアにおける経験というのは浅いと思う。したがってそういった中でEUは東アジアにおいてどのような貢献ができるのか、東アジアの安定・安全においてどういった貢献ができるのか。
【小泉総理】EUと東アジアの関係についてであるが、現在でも、ASEMという会議がある。ASEANプラス日中韓、それとEUとの協議である。そういう協議の中でもEUは単にEU域内ではなくて、東アジア全体に強い関心をもって、目を向けてきている。世界全体の大きな勢力、そういう関係から、EUが東アジアに関心を持ってくれる、あるいは協力の姿勢を持ってくれるということは、EUの野心とは離れて東アジア全体にとっても利益になると思っている。
日本とEUとの関係もこれまた重要ではあるが、日本も東アジア全体のこれからの多様性を活かしながら、どのように協力をしていくか、極めて重要な問題だと思っている。かつて、私の学生時代、40年前には、EUの以前、ECというヨーロピアンコミュニティーというが、この問題、学生同士でもよく議論された問題である。しかしながら、40年前は一つの夢として、あるべき姿として、このECというのは望ましいという議論をしていたが、まさか、このEUという、こういう形になって実現するとは、当時思わなかった。それが現実に実現している。東アジア全体をみると、EU諸国よりもより多様性のある、また、政治経済の制度体制においても違いが多いが、将来を展望すると、この東アジア全体の共同体的な共有の認識なり、協力が必要だと私は思っている。そういうことを考えると、EUと東アジアの協力は国際社会の中でも極めて重要だと、それはEUにとっても東アジア諸国にとっても大きな刺激になる、励みになると思っている。そういうことから私は、EUが今後とも日本のみならず東アジア全体に積極的な関わりをもっていただきたいと期待している。それがまた世界の安定に、東アジアの安定につながっていくのではないか、繁栄につながっていくのではないかと思う。(了)