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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福田内閣総理大臣記者会見[20年度予算成立と道路関連法案の年度内未成立について]

[場所] 首相官邸
[年月日] 2008年3月31日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【福田総理冒頭発言】

 明日から新年度が始まります。その20年度予算は先週成立いたしました。歳入面では4年連続で新規国債発行額を減少させ、財政の健全化に向けた動きを更に推し進めることができました。

 また、歳出面では、科学技術など成長強化につながる政策、医師確保対策や防災対策など、国民生活の安全・安心のための政策、地域活性化対策といったような必要な政策課題に重点的な予算配分を行い、めり張りのある予算となったと考えております。

 しかし、予算成立の一方で、その前提となる歳入のうち、ガソリン関係の税制改正法案は、本日まで成立をしないという異例の事態となりました。この状態が続けば、町のガソリンスタンドで大きな混乱が懸念されるほか、また国・地方においても予算に大きな穴が空くことになります。

 国民生活を守るという総理大臣の責任を果たすために、最後の最後まで野党の皆さんと話し合いで解決できないか、ぎりぎりの努力を続けてまいりましたけれども、野党が多数を占める参議院では1か月間一度も法案の審議が行われることなく、ついに時間切れとなりました。政治が本気になれば防ぐことができた、地方財政や国民生活への混乱を防げなかったことは残念でなりません。

 このように与野党間で解決できなかったとはいえ、政治のつけを国民の皆さんに回す結果となったことについては、まずは心よりおわびを申し上げます。

 私は先日この場所で、見直すべきは大胆に見直す。こうお約束をいたしました。まず第一に、道路予算に大きく依存している公益法人の廃止、民営化を進めるとともに、不適切な、不透明な天下りを徹底的に排除するなど、ずさんな無駄遣いの根絶。

 第二に、ガソリン税などの使い道を道路整備だけに限定するのではなく、地球温暖化対策や医療、少子化対策など、さまざまな政策に使用できるようにする道路特定財源制度の廃止、一般財源化。

 第三に、10年間の道路整備計画の5年間への短縮、新たなデータを用いた計画内容の見直し。

 これら、国会審議の中で明らかとなった問題に対応するためであり、これをきちんとやり遂げてまいる決意であります。

 新たな提案を行ったにもかかわらず、民主党との話し合いはつきませんでした。参議院では民主党が多数を占めているのだから、民主党の意見を丸のみすれば混乱は回避できたのではないかという御指摘もございました。しかし、暫定税率を廃止して、ガソリン税などを引き下げるという民主党の主張については、日本の現状、将来を考えて、譲るべきではないと考えました。税金は少しでも安い方が、国民の皆さんにとってよりよいことは間違いありません。現在のような物価高騰の折であれば、なおさらでございます。

 しかし、地方を含めた国民生活、日本経済全体に責任を持つ私としては、率直に国民の皆さんにお願いを申し上げなければなりません。

 まず世界では、ガソリンに対する税金を引き上げる傾向に今あります。これは、世界が地球温暖化問題に立ち向かうため、ガソリン価格の引き上げが、CO2を排出するガソリンの消費を抑えることに役立つと考えているからであります。この結果、ガソリン価格は今、イギリスでは1リットル250円です。フランスやドイツでも1リットル220円であります。もしここで日本がガソリンの税金を25円安くすれば、ガソリン価格は125円となり、イギリスの半分になってしまいます。地球温暖化対策に取り組んでいる世界に対して、日本はガソリンの消費を増やそうとしているんではないか、という誤ったメッセージを発することになりかねません。時代逆行の動きであります。

 今年7月には北海道洞爺湖において各国首脳が集まり、この地球温暖化問題への対応を検討します。そのとき、ガソリンは安い方がよいということでは、各国の首脳が果たして納得してくれるでしょうか。

 今、私たちは京都議定書の6%削減を達成しようとしております。少なくとも環境問題を重視すべきこの時期に、ガソリンの税率を引き下げることは適当ではないと考えております。またここで、もし民主党が主張するように、ガソリンの暫定税率が廃止となれば、消費税1%分に相当する2兆6,000億円の財源が失われてしまいます。

 20年度に予定している道路建設や立体交差の建設に必要な財源が失われ、地方公共団体によっては福祉や教育などの住民サービスの見直しにつながるおそれも生じます。更に私は、21年度からガソリン税を一般財源化するという思い切ったお約束をしております。

 一般財源化することで、勿論、必要な道路は都市でも地方でもつくりますが、それ以外にも環境、医療、少子化など、さまざまな政策に使用できるようになります。また、地球温暖化は世界共通の課題であります。環境問題の解決には、革新的なエネルギーの開発が不可欠であります。これには巨額の開発費用が必要になります。

 こうした行政ニーズが高まる一方で、今、国・地方の財政はともに大きな借金を抱えております。ガソリン価格の引き下げだけを主張し、人気取りに走ることは簡単であります。しかし、しっかりとした見通しのないままでは、子どもや孫たちに将来世代へのつけを回すだけになってしまいます。私としては、この国の子どもたちの将来のためにも、暫定税率の維持をお願い申し上げたいと思います。

 明日、暫定税率が時間切れで事実上延長できないことになりますが、もしそうなったとしても私はこうした考えを繰り返し国民の皆さんに説明するとともに、民主党を始め、野党の皆さんにも粘り強く御理解を得てまいりたいと思います。そして1日も早く参議院で結論が出ることを期待しております。

 道路予算における無駄の排除は、既に先日の会見でお約束したところでありますが、私は更に幅広く、国の支出全体について抜本的な改革を行い、行政全体の無駄の排除に取り組んでまいる決意であります。

 更に今般、道路予算に限らず、契約方式の徹底的な見直し、行政と密接に関係のある公益法人の集中点検を実施して、支出の無駄と不透明な天下りを是正していく考えであります。国民からお預かりした税金である以上、一円たりとも無駄があってはなりません。無駄ゼロに向けて全力を尽くしてまいります。

 いずれにしても、明日から暫定税率が廃止となれば、さまざまな混乱が懸念されます。経緯はともかく、こうした結果となった以上、その中での混乱を最小限にとどめることも私の責任であると考えております。ガソリンスタンドにおける混乱や、地方の財政運営への支障を生じることのないように、必要な措置を講じるべく、先ほど関係閣僚に対して指示をいたしました。直ちにできるものについては、直ちに措置するとともに、明日からも緊張感を持って状況の推移を監視し、必要があれば追加的な措置も講じてまいります。

 原油価格の高騰、景気の先行き不安が生じている現状に対して、原油高騰対策や中小企業の資金繰り対策などを着実に実施するとともに、今週末には成長力強化のための早期実施策をとりまとめ、中小企業の体質強化、雇用の改善、公立学校耐震化事業の早期実施など、万全を期してまいります。

 私が先日御説明した道路特定財源の改革について、本当にそんなことができるのかという御意見もございます。しかし、国民のための改革に反対する人がいるでしょうか。自民党の立党宣言にある言葉でありますが「政治は国民のもの」という原点が共有される限り、結論はおのずと明らかであります。私はいかなる困難に出会おうとも、国民のための改革をひるまず進めていくという覚悟でございます。皆さんの御理解・御支援をお願い申し上げます。

 以上です。

【質疑応答】

(質問)

 暫定税率の執行についてお伺いいたしますが、総理は民主党の理解を得るために全力を挙げるということだと思うんですけれども、どうしても民主党の賛同が得られない場合には、衆院の3分の2の賛成多数を使って再議決する決意で臨まれるのかどうか。

 それと、そういった事態になった場合は、民主党が総理の問責決議案を出す事態も考えられますが、参院で総理への問責決議がされた場合は、どのように対応するお考えなのか。

 その2点についてお伺いします。

(福田総理)

 その2点、まとめてお答えしますけれども、私はただいま申し上げましたように、明日から実際に暫定税率がなくなるわけでありますけれども、こういう事態がいかに問題が大きいのかということを訴えていきたい。そして、御理解をいただく努力をしてまいりたい。こういうことを申し上げておるわけでありまして、その努力は今日明日、これは、その問題を解決するまでずっと続けていきたい。このように考えておるわけであります。ですから、その先、どういうことになるか。それは、私は今、考えておりません。

(質問)

 民主党との党首会談について、民主党の幹部の方から正式な申し出があれば応じる用意があるというふうに発言されておりますが、これについての御対応をお聞かせください。

(福田総理)

 民主党の方からということですか。

(質問)

 自民党の方が、正式な申し出があれば応じる用意があるということです。

 もう一つですが、一般財源化の問題について、これは正式な、オーソライズされたものではないということで、更に確約が欲しいと要求しています。

(福田総理)

 それは民主党がということですか。

(質問)

 そうです。それについてお伺いします。

(福田総理)

 お答えします。まず、党首会談のことでありますけれども、私の方はそういう会談を申し入れたいと思います。ただ、会談を申し入れて、その中身がどうなのかということも考えなければいけないと思います。そして、柔軟に考えてくださるということであれば、私の方は会談したいと思います。そして、よい結論が得られるということであるなら、私は喜んで会談をしたい。このように思っております。

それから、もう一つは。

(質問)

 道路財源の確約についてです。

(福田総理)

 これは民主党の方がそういうことを言っているわけですね。

(質問)

 はい。

(福田総理)

 これは、私が責任を持ってとりまとめましたけれども、本日、関係閣僚も集めて確認をいたしました。これを具体的に詰めていこうということであります。今、与党の方とも相談しておりますけれども、与党の方も一致して、この考え方を支持していくというお話をいただいております。

(質問)

 先日、予算委員会で提案されましたが、閣議決定については、いつごろされるお考えでしょうか。

(福田総理)

 これは、必要に応じて閣議決定したいと思います。ただ、内容について、野党と協議するように申し上げておりますけれども、そういうような状況も考えながら閣議決定することになると思いますので、まだもう少し先であります。それよりも与野党間協議をしたいということであります。しかし、その前に、今、出ている法案について参議院で一日も早く結論を出してほしいというのが私の本当の期待であります。

(質問)

 暫定税率の期限切れに関してですけれども、先ほど総理は冒頭に心よりおわびを申し上げるという話をされましたけれども、振り返って、これまで最後まで努力をするということでしたが、総理自身のこういう事態に至ったことの責任については、改めてどのようにお考えでしょうか。

(福田総理)

 私は、責任のことについて言えば、全体の責任を持っていると考えております。ですから、こういう結果になったことについての責任もあると考えております。責任は重く感じておるところであります。

 しかし、この結論、結果が出てこないことについては、私どもの努力だけでは済まない問題だということもありますので、これは今後とも、結論を得るべく協力を求めていきたいと思っております。これはやはり国会の中で行われることでありますので、国会の中での結論を早く出していただきたいということであります。そのために、私はこれからも全力で進めたい。それが私の責任であります。

(質問)

 暫定税率は、明日をもって一旦下がることになりますけれども、採決するかどうかという手段はともかくとして、とにかく、これを一旦、元に戻すべきだとお考えになっているかどうかという点と、来年度以降、21年度以降は引き下げることも含めて検討されるのかどうか。

(福田総理)

 先ほど、私、申し上げましたが、この暫定税率が下がるということは、その分だけ財政に穴が空くということです。年間で消費税の1%に相当する2兆6,000億円と申し上げました。ですから、そういう穴は空けておいていいのかどうかということがございます。

 一方で、予算の方は、歳出の方、支出の方は、これはもう既に決まっているんですよ。それが決まっているということは、その裏づけとなる歳入がその分だけなければいけないんです。その分、2兆6,000億円足りないということになったら、その2兆6,000億円を一体どこから調達するかという問題があります。このことについて、野党の方からも、特に民主党からの説明は、今までお聞きしておりません。ですから、納得のいく説明を聞いておりません。ですから、そういうことについての説明も必要なんだと思います。

 そういうことを、是非、国会でもしていただきたいと思いますし、もし、そういうような財政に穴が空くということになれば、その分の予算支出ができない。そのことによって、地方にも迷惑をかける。そして、また、その影響は地方だけではなくて、中央の予算の削減、場合によっては所得といったようなものに影響が出てくるということは否定し得ない。

 もしくは、赤字国債を発行するということでありますけれども、今の財政状況を考えて、赤字国債を、今、出すかどうか、それは大きな判断が必要である。私は、そういうときではないと思っております。

 それから、来年以降、暫定税率を下げるかどうかということでありますけれども、今のような環境問題を考えると、また、社会福祉が年々増加するというような状況を考えて、歳入が減少する、今よりも下がるということはなかなか考えにくいと、率直に申し上げて思っておりますので、来年、暫定税率が、来年に暫定税率と言うかはわかりませんけれども、それは税制の抜本改革時に検討していただくという課題でありますけれども、暫定税率水準、今の暫定税率水準が来年も維持されるということは可能性が高いと私は思っております。

(質問)

 来月27日に投票が行なわれる山口の補欠選挙は、福田政権が発足後、初めての国政選挙になりますけれども、その時点で、暫定税率が廃止されている状況が続いていた場合には、選挙戦で暫定税率を元に戻すという主張をされるんでしょうか。

(福田総理)

 その選挙は、山口県の選挙で、山口県の方がどう考えるかという選挙でございますから、どういうような影響を与えるのか、私は正直申しまして、お答えするのは難しいと思います。この問題をどのように、この地域の方々が、その地域特有の問題に合わせて考えられるということですね。

 そもそも、その時期にまだ事態が解決しないということがあるのかどうか、そういうことも考えていかなければいけないということで、今の想定の上でお答えをするのは難しいと思います。

(質問)

 先ほど総理は、今回のことで、与野党間で政治的に解決できないことになるのは非常に残念だということをおっしゃっていまして、日銀総裁人事も、今回のガソリン税の問題も、民主党の戦略と申しましょうか。はっきり言って、福田内閣を倒すか、解散に追い込むか、その確信犯的な戦略だと思うんです。それに対して、総理は粘り強く話し合いをしていきたいということで、協議を訴えられているわけですけれども、正直申し上げて、それがいつまで奏効するか。総理の本音をお話しいただければと思います。

(福田総理)

 今、衆議院と参議院で議決が異なる、そういうことがあるわけです。重要課題において、今までずっとやってきたんです。テロというか、インド洋の補給支援活動、これもやりました。そしてまた衆議院の予算審議でもやりました。また今回、参議院における結論も、本日のところは違っているんです。衆参の状況が違うという状況の中では、これは起こり得ることなんです。起こり得ることなので、そういうことが許されるかどうかということを考えていかなければいけないと思います。

 私は、そういうことで、国政が停滞するということは、あってはならないと思います。こういうふうな状況でもって、外国から見て、どういうように思われているかということも考えていかなければいけない。

 やはり外交力という面からも、これは決してゆるがせにできない問題だと思います。やはり日本の国民にとって何がいいかということを国会全体で考えていただきたい。そういうことを申し上げまして、やはりこういう事態はどう解決していくかといったら、やはり話し合いじゃないでしょうか。話し合いでお互いによりよい方向を探るということだと思います。

 この方策しかないんだという、非常に限定的な、断定的な政策を打ち出していると、また、私どもが取り付く島もない状況は、決していい状況ではないんだと思います。

 私も、この政権を担当しまして、半年、6か月経ちましたけれども、そういう大事な場面において、常に議決が異なる、話し合いが十分に行われないということは、誠に残念なことというように思っております。是非そういう状況は打開しなければいけないと思っております。そのために、今後とも忍耐強く努力をしてまいりたいと思います。