[文書名] 福田内閣総理大臣記者会見[歳入法案の再可決について]
【福田総理冒頭発言】
新年度が始まりまして、今日でちょうど1か月経ちました。既に4月1日から歳出予算の執行が開始されておりますが、その裏づけとなる歳入法案の参議院審議が始まってから2か月が経過して、ついに賛否を決することもなく、修正の表明もなく、本日を迎えることになりましたことは、国会運営上のこととは申しながらも、誠に残念なことであります。
今や国・地方合わせて800兆円もの借金を抱える中で、この1か月間で1,8000億円の歳入が失われ、そしてこの状態が続けば、毎日60億円もの歳入が国・地方の財政から失われることになります。こうした歳入不足への不安から、既に皆様の地域の道路を含めて、全国で5,000か所を超える事業が凍結され、また全国各地の自治体から教育や福祉といった住民サービスにまで支障が生じ、地域経済にも悪影響が及ぶことを懸念する声が挙がっております。身の周りの物価が上昇する中にあって、ガソリン価格の値上げに反対する声が多いということは十分承知しております。
一方で、医療や少子化対策など、社会福祉の充実を求める切実な声もある中で、果たしてこの歳入不足の状態をそのまま放置してよいものでしょうか。国全体の財政を預かり、国民の福祉、地方の景気にも責任を持つ私としては、まず歳入不足が継続するという無責任な状態を解消することが必要であると判断し、本日衆議院において歳入法案を可決し、成立させることといたしました。
明日から、ガソリンの暫定税率が復活します。1か月前の税率に戻すだけだとは言いながら、その結果再びガソリン価格が上がることとなります。国民の皆様お一人お一人が、家計のやり繰りに苦労しているときに、再び負担をお願いするということは、本当に苦しい判断でありました。こうした事態を迎え、何よりもまずガソリンスタンドなど流通の現場での混乱を回避するため、政府として全力を挙げてまいります。
また、この機に応じて便乗値上げが行われないよう、しっかりと監視するとともに、中小企業の方々にしわ寄せが行くことのないよう、目を凝らしてきめ細かな対応を行ってまいります。
結果的に政治の混乱のつけを国民生活に及ぼすこととなりましたが、私はこれを、いわゆるねじれ国会のせいだという一言で片付けるつもりはございません。これまでの国会審議などを通じて、道路特会での無駄遣いの実態が明らかとなり、道路整備計画の信頼性にも大きな疑問が投げかけられました。本来、道路財源であれ何であれ、国民の税金をお預かりしている以上、1円たりとも無駄があってはならないことは言うまでもありません。道路財源に関する無駄遣いについては、不適切な支出を直ちにやめること、随意契約を競争的な契約に変えること、不要の天下りを徹底排除することなどを決めました。問題は、これが着実に実行されることであり、外部有識者による監視も強化し、具体的な予算の削減につなげてまいります。
無駄な予算の根絶は、すべての改革の大前提であります。この際、すべての省庁、独立行政法人、関連公益法人に至るまで、無駄な歳出を徹底的に洗い出し、無駄ゼロに向けた見直しを断行してまいります。また、公務員制度改革や公益法人改革を徹底することにより、いわゆる天下り制度についても抜本的に是正することをお約束いたします。
我が国はもう道路をつくる必要はないといった極端な意見もありますが、地方の発展に必要な道路はつくらなければなりません。また、地方財政への配慮も必要です。しかしながら、道路財源の在り方について問題が明らかになった以上、私はこれに正面から取り組む覚悟であります。この場をお借りして道路財源の一般財源化について皆さんに改めて私の考えを率直に説明させていただきます。
去る3月27日に行った記者会見で、私は道路特定財源制度を廃止して、21年度から一般財源化すること、そして10年間の道路計画を見直して5年に短縮することをお約束いたしました。これは、道路財源の在り方に議論の端を発していることではありますが、我が国の在り方そのものを問う問題であります。少子・高齢化の本格化という社会構造変化への対応、そして地球環境問題への対応は、まさに喫緊の課題であります。社会保障や環境対策の充実を求める国民の皆さんの声に応えていくためには、道路整備は、国民生活にとって優先度の高い順に、コストを徹底的に削減して行うこととし、それによって生み出された財源を一般財源として積極的に活用していかなければならないと決断いたしました。
先日私は、子ども病院を訪問し、産科、小児科医療の現場を視察いたしましたが、小児科医の不足や救急医療の厳しい現実を目の当たりにして、子育てに直面しているお父さんやお母さんが安心して産み育てることができる社会をつくり上げる必要性を感じました。
また、心配なときはお医者さんに診てもらえるという当たり前のことが、お年寄りを始めとして地方にお住まいの方々には、当たり前でないという医師不足の問題もあります。
長寿医療制度については、この一月でいろいろな問題点が指摘されました。今回の新制度は、費用の5割を税金で、4割を若い世代の保険料で御負担いただき、残りの1割を高齢者の方々にお願いするものであります。このように、高齢者の方々の医療費を国民全体で分かち合っていく仕組みや、高齢者の方々の医療を守っていくためにも必要であります。
しかし、今回の新制度は、これまでにない大きな改革であり、定着するまでに半年程度の試運転が必要だと思います。
6月には、第2回目の年金からの保険料の天引きがございますが、それまでの間に、今回の制度が実際に運用されるに当たって、どのような問題が生じているのかを集中的に点検いたします。
そして、そこで浮き彫りになった問題点については、各自治体において必要な対応が取れるよう、きめ細かな手当を講じてまいります。
その際、財源が必要ということになれば、まずは、道路特会などの行政の無駄を排除する中で捻出してまいります。
地球環境問題への対応も忘れてはなりません。今や、地球温暖化の影響は他人事ではなく、我が国が誇る技術力を生かして、率先してこの問題に取り組んでいかなければなりません。そのためには、革新的な太陽光エネルギーや燃料電池の開発、省エネ機器の普及など、低炭素社会の実現に向け、取組みを本格化していく必要がございます。
そのほかにも、高等教育の充実など、教育問題への対応など、解決しなければならない問題は山積しております。
医療を始めとして、福祉や環境など、国民の皆さんからすれば、現在の政策を更に充実してもらいたいという気持ちが強いと思います。
しかしながら、こうした政策を進めるためには、必要な財源を確保していかなければならないということについても、是非、御理解を賜わりたいと思うわけであります。
少子高齢化、地球環境問題といった構造変化に直面している中にあって、これからは国民や消費者の目線に立った行政を進めていかなければなりません。私は、今、消費者の目線で行政を進める新しい役所として消費者庁をつくろうとしていますが、この道路財源についても、生活者の目線で、その使い方を見直していきます。
私の言う、一般財源化とはまさに国民生活者が主役となる行政への転換を示すものであります。
つまり、道路特定財源から脱却し、これを生活者である皆さんが求めているさまざまな政策に使うための言わば、生活者財源へと改革をしてまいるものであります。
こうした考え方については、現在、策定中の「骨太の方針2009」において、より具体的な姿を皆様に提示するつもりでございます。 経済財政諮問会議での議論を加速するとともに、例年よりも早い時期に政府税調における抜本税制改革に向けた議論を開始いたします。
以上、申し上げた一般財源化に関する私の提案は、政府与党として既に決定した方針です。一昨日も自公両党で21年度からの一般財源化に向けて、早急に与党協議会を設置し、必要な法改正について年内に成案を得、国会に提出し、成立を図ることを決定いたしました。
今後は、現在、まだ参議院で審議中の道路財源特例法案の成立に向けて全力を尽くす考えであります。
この法案は、7,000億円の地方への交付金の根拠となるものがありますが、凍結した事業を再開し、地方経済を下支えするためにも、1日でも早く成立させなければなりません。この法案について、野党の皆さんから一般財源化の方針と矛盾するのではないかとの声も聞かれますが、いずれにせよ、私は与党の方針どおり、21年度からの一般財源化を実現する決意でございます。
野党の皆さんに道路財源の一般財源化を実現したいという気持ちがあるのであれば、参議院で多数を占めているのですから、責任ある対応が可能なはずであります。私は、政党の枠にとらわれることなく、国の将来を思い、責任ある行動をとるつもりであるすべての議員方に対して、この場を借りて協力を呼びかけたいと思います。
最後に私が進めようとしている一般財源化、生活者の立場からの改革に対する国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願いを申し上げます。
以上です。
【質疑応答】
(質問)
本日の暫定税率の可決については、民主党は民意に反しているのではないかと主張しております。
ちょうど、先の衆議院山口2区補選でも自民党の後任候補が大敗したということもありまして、この際、解散をして国民に真を問うのが筋なんではないかと、こういう声が強まっているんではないかと思うんですけれども、総理には衆院解散という選択肢はないのでしょうか。
(福田総理)
解散を現時点で考えておりません。一つひとつの課題について解散をしなければいけないということではないと思います。総合的に判断して決断する問題だと思っております。今、その時期ではありません。
(質問)
暫定税率が1か月間失効したことによって、ガソリンの値段が一旦下がって、または急激に上がるという国民生活に大きな混乱が生じました。この間の経緯について、そうしたことが生じたことについて、総理として、どのような御責任をお感じでしょうか。
(福田総理)
このことは、なぜ起こったのかということを考えなければいけないと思いますね。これは、結局、国会審議の問題であったと思います。野党が参議院でもって国会審議に応じてくれないということがございました。いまだに結論を出してくださっていないということでありますので、そのことにより、こういう決断をしなければいけないということになったわけです。その間にガソリン税の法律が切れてしまうという事態が発生したということであります。
また、国会のことについては、これは3月末までに十分な議論の末、修正をもって可決するという両院議長の裁定があったんです。ですから、私どももそういうルールというものは守るべきではないのかなというように思っていた、ちょっと甘い考え方をしたということもあったと思います。
そして、また、野党の皆さんが望んでいる一般財源化ということも、私の方から提案をいたしたということもございましたけれども、それに対してお返事がないということであります。
そういうことがあったといたしましても、国民の皆様には、余計な心配をおかけすると、手間もおかけしたということもございます。また、地方自治体の方々にも、大変財源について心配させ、また景気等にも決していい影響はないですよ。悪い影響だけあったと思いますけれども、そういうようなことを地方に迷惑をおかけしたということもありました。
また、小売店、ガソリンスタンドですね。それから、供給側にもいろいろな、余計な御苦労をおかけしたということがありますので、そういうような御迷惑をおかけしたことについては私も責任を感じておるわけであります。
(質問)
一般財源化のことについてお伺いするんですが、まず一つは道筋です。いつごろのタイミングで閣議決定をされて、法案の提出は、これも年内臨時国会というふうなお考えなのかということが一つ。
もう一つは、一般財源化は、総理もおっしゃいましたように、野党でも賛成する人がほとんどだと思うんですけれども、暫定税率分の上積みのことで少しひっかかって、なかなか歩み寄ることができない。その部分はやはり一般財源化したときは今の水準を維持するのかどうかということは白紙で臨まれるのか。その辺のお考えをお聞かせいただけますか。
(福田総理)
暫定の上積みというのは、今年度分ということですか。
(質問)
いいえ、21年度以降の話です。
(福田総理)
そのことは再三申し上げ、また、政府・与党でも合意をしている、決定をしていることでありますけれども、21年度から暫定といいますか、20年度の秋に抜本改正をするという中でもって、21年度からこの特定財源というものはやめるということを再三申し上げているわけです。その方針は変わらないわけでありまして、その方針を貫いていくために着々と、その方向に向かって具体的な詰めをしていく。「骨太の方針」は6月ですけれども、この議論をもうそろそろ開始する時期になりましたけれども、勿論「骨太の方針」には載せますし、その前に閣議決定がございましたね。閣議決定も、来週のいつになりますか、12日にあれですし、その近辺に閣議決定をする準備をいたしております。
そして「骨太の方針」が決まりまして、また税制議論もございますから、当然のことながら、経済財政諮問会議でもその話を進めなければ、加速しなければいけないと思いますが、それと同時に、政府税調でも環境税の問題とかいろいろありますので、いろいろその準備をしていただく、そういう作業に入っていただくことになります。そして、秋に備えることになります。
(質問)
野党側は、今回、問責決議案の提出を見送りましたが、来月、仮に総理に対する問責決議案が参議院に提出されて可決された場合、どう対応されるつもりですか。衆議院の解散総選挙や内閣総辞職を行う考えはおありでしょうか。
(福田総理)
先のことは、私は今、仮定の話をする必要もないと思いますけれども、その前に、まだ時間がありますから、私どもの提案に同調してくれないかどうか。野党の皆さんの考えていることと、これはほとんど変わらないと思うんです。であるならば、余計な混乱を生じないように、やはり政治家として対応していただくことは必要なのではないでしょうか。私はその先のことは特に考えているわけではありません。
(質問)
先ほどの質問と関連するんですけれども、総理は使い道については一般財源ということを打ち出されていますけれども、税の徴収の仕方です。一つは暫定税率という考え方をこれからも基本的に続けるのか。あるいは環境税を先ほど少しおっしゃいましたけれども、環境税的なものを導入するお考えはあるのかどうかということをお願いします。
(福田総理)
今の暫定税率はガソリン税ですね。これを続けるかどうかは、やはり税制の抜本改革時にガソリン税が妥当なものかどうかはよく議論していただく必要があると思います。ただ、世の中を見回したときに、今、ガソリン税を下げるところはないんでしょう。上げることはあっても下げることはないことを考えますと、環境問題対応を含めて今の暫定水準は、少なくとも今の水準は維持していくというのは妥当な考え方だと思いますけれども、その先のことは、この抜本改正時に考えていただくことになります。
(質問)
水準は維持した上で、税の取り方をいろいろ検討していくということなんですか。
(福田総理)
維持しながら税の取り方というのは、どういうことですか。
(質問)
税の今の水準は維持した上で、税目についていろいろ検討されるということですか。
(福田総理)
ですから、それも特定財源という制度はなくなるわけですから、また、全部、一般財源という形になりますから、それはそういう中でどういう名目にするかということも含めて考えなければいけない、そのときの課題だと思います。
(質問)
先ほど総理は後期高齢者医療制度、いわゆる長寿医療制度について総点検という方針をお話しされましたが、総点検の結果を受けて、それは法改正を伴うような制度変更も視野に対応されるお考えなんでしょうか。それとも、現在の激変緩和措置の延長など、あくまで運用改善での対応にとどまるということなんでしょうか。
(福田総理)
残念ながら今の段階で、それを明確に申し上げることはできないんでありますけれども、しかし、制度の骨格、考え方、これは必ずしも悪いわけではないと思います。やはり高齢者、長寿社会、この長寿社会を維持するために、どういう仕組みがいいのかということなんですけれども、日本は一番世界の中でも長寿化が進んでいるという、ほかの国にない状況なんです。そういう状況の中で、どういう仕組みがいいのかということ、それを長年かかって考え抜いてできた制度でありますから、基本的な考え方が悪いのではないんだと思います。
ですから、この制度を定着させるために、何が必要なのかということを緊急対策として問題点を洗う、すなわち実態をよく調べてもらうということが必要なんでありまして、それをとりあえず大至急やってもらおうということであります。
問題は、議論はその先に始まると思いますが、先ほど申しましたように、私は、骨格は決して悪くはないと思っておりますので、その上で、そういう点検をしてもらおうと考えております。その点検結果ということでお考えいただきたいと思います。