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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福田内閣総理大臣記者会見(福田改造内閣)

[場所] 首相官邸
[年月日] 2008年8月1日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【福田総理冒頭発言】

 昨年9月、私、総理大臣就任以来、今までの政治や行政の在り方を国民本位のものに変えていくということを思いながら、国民目線での改革を推し進めてまいりました。しかし、国民の皆さんの多くが、日々の生活において、そうした改革の実感がない、むしろガソリン価格や食料品価格の高騰、上昇の影響で、昨年と比べて生活が苦しくなったと感じておられる方が多くなったということも実態であります。

 内閣として、中長期的な政策課題に取り組み、進めていくことは、これはもう当然でございますけれども、皆さんの日々の暮らしに目を向けて、不安や痛みの声にしっかりと向き合っていくことも、これまた国民目線での政治にほかなりません。

 引き続き、国民本位の政治・行政の改革を強力に推し進めていくためにも、国民の皆さんが生活改善を実感できる政策の実現を重視した、そういう新たな布陣を敷いたわけでございます。この内閣の使命は、政策を実現・実行することであります。

 現在、資源・エネルギーの価格は異常かつ急激な高騰を見せておりますが、新興国の旺盛な需要を考えますと、これは一時的な現象というよりも、今後もある程度の水準が継続することを覚悟しなければなりません。

 また、国内社会に目を転じれば、本格的な少子高齢化社会を迎えつつあります。我が国が直面している、このような2つの大きな構造変化を、どのようにして乗り越えていくかが、現下の大きな課題であります。この課題を解決するためには、雇用の拡大や所得の増大など、将来にわたって経済成長を続けていくことが基本であります。国内の英知を結集して、経済社会の仕組みを資源高と少子高齢化という変化に対応したものにしていかなければいけないということであります。

 まず、地球温暖化、資源高騰時代にあっては、低炭素社会と両立する経済成長を実現することが必要でございます。このためには、私たちのライフスタイルの転換を進め、家庭や企業において省エネ技術の導入を加速していく必要がございます。世界をリードする我が国の環境・エネルギー技術のさらなる開発を加速化していくことが、最も重要であります。

 また、穀物価格の高騰に対しては、農商工連携、流通改革などを通じて、我が国の農業の構造改革、競争力の強化を力強く進め、そして自給率を向上させていかなければなりません。

 更に、本格的な少子高齢化時代に対しては、年金、医療、介護といった社会保障制度の在り方について、逃げることなく根本からの見直しを行うことが必要です。新内閣の下でも、これらの根本的な問題の解決に正面から取り組んでいく覚悟ですが、本腰を入れて取り組んでいくためにも、今、国民の皆さんが感じている生活不安に対してしっかりと対応していくことが必要です。

 その第一は、資源価格高騰を始めとする物価高への対応であります。現下の原油価格や食料価格の急激かつ異常な上昇は、皆さんの生活を始めとして、中小企業や農業、漁業を営む方々に深刻な影響を与えると同時に、景気の先行きを不透明なものといたしております。

 相次ぐ値上げでやり繰りも大変になってきたというのが、皆さんの実感でしょう。物価高の下で、我が国の国民経済は今、大きな困難に直面しつつあります。農業や漁業、遠隔地にお住まいの皆さんの燃料負担の軽減や、価格転嫁ができずに苦しんでいる中小企業の資金繰り支援を行うなど、さまざまな不安の声にしっかりと応えていくことが政治の役割であると考えております。

 新内閣が一丸となって物価高と景気低迷という、国民経済が直面する困難を解決していく決意であります。

 第二は、年金、医療、雇用など、国民の皆さんの暮らし向きについての不安をどう取り除いていくかということが課題であります。社会保障制度の抜本改革には、どうしても時間がかかることもあって、年金、医療などに対する国民の皆さんの不信は、依然拭い去ることができておらず、社会保障制度もまたいろいろな欠陥があることが判明し、困難に直面していると言わざるを得ません。抜本改革の完成を待つまでもなく、1日でも早く国民生活のセーフティーネットを充実させるためには、まずは先日発表した5つの安心プランのうち、可能なものについては、前倒して実施していくことが必要であります。

 具体的には、不足している産科・小児科医療や、救急医療に対する緊急対応や、待機児童が多い地域での保育所整備の加速、労働者派遣法の見直しや、正社員を目指して職業訓練中の若者の支援などの施策について早急に実施に移してまいります。

 国民の皆さんのニーズに応えるため、きめ細かな政策を実施することで、少しでも目に見える形での安心を感じていただけるように、今、申し上げた国民生活は直面する二つの困難を解決していくこと、これこそが改造内閣のイの一番に取り組んでいく課題であります。

 消費者行政の一元化、行政のムダ・ゼロ、低炭素社会への実現、防衛省の改革、年金記録問題への対応や社会保障制度改革など、国民目線での改革、これらは着実に進んでおります。今後取り組むべき具体的な課題が明らかとなり、青写真が明確となりました。今後は、改造内閣の下で、一つひとつの政策の着実な実行を図り、国民目線での改革を更に加速してまいります。

 外交面では、今後とも地球温暖化など地球規模でのさまざまな課題に積極的に取り組むとともに、平和協力国家としてPKOやテロ対策、復興支援など国際協力を進めてまいります。

 また、日米同盟を基礎とする積極的なアジア太平洋政策を展開するとともに、北朝鮮の核ミサイル、拉致問題の解決に全力を傾注してまいります。

 私たちは今、国内外で大きな時代の転換点に差しかかっています。世界的な資源価格の高騰と国内的な少子高齢化の進展は大変な困難な課題であります。

 しかしながら、私は我が国の将来をしっかりと見据え、逃げることなく、正面から改革に取り組んでこの困難を乗り越えていく覚悟であります。

 それと同時に、常に国民の皆さんが日々の生活でどのような実感を持っておられるかについても、常に思いをいたし、さまざまな不安に対して、きめ細かな政策も実施してまいります。まさに国民目線、生活実感を踏まえた改革を新しい内閣の下でしっかりと実行していく決意でありますので、国民の皆様の御理解と協力をお願い申し上げる次第でございます。

 以上です。

【質疑応答】

(質問)

 今回の内閣改造を受けて政局の焦点は、任期満了まであと1年余りになって衆院の解散総選挙に移るわけですが、与党の一部には支持率の低迷が続くような場合は、新たな首相の下で選挙を闘うべきだというような声も漏れ伝わっていますが、総理は御自身の手で解散を訴えられるのか、その決意を、まず、お聞かせください。

 それと解散の時期について、総理が先ほどおっしゃったように、政策課題への取組みを優先させるお考えを示していらっしゃいますが、これも与党の一部には、来年度予算の成立を待たずに、この年末年始までに早期解散を打つべきだという声もあるようですが、現段階で、解散のタイミングについてどのようにお考えでしょうか。

(福田総理)

 私は、解散を論ずるよりは、今は政策を実行する、そういう社会経済の状況だと思います。ですから、今、直ちに解散とか、そういったことを考えているわけではなく、まず、今、掲げている、ただいま申し上げたような課題に正面から挑戦をしていく、そして国民生活に対して少しでも安心を増やしていく、そういうことを目指してこれからの政治を進めてまいりたいと思っております。

 それは、いろいろな意見はございましょう。しかし、私の考え方は、今、申し上げたとおりでございまして、政策の実現、そのことを通じて、今の不安をできるだけ小さくしていこうと、こういうことに取り組んでまいりたい。そして、将来に対して我々行く末の道筋を示していきたい。このように思っております。

(質問)

 今回の内閣改造と役員人事の具体的な人選に当たっての基本方針とそのねらい。特に党のかなめである幹事長に麻生太郎氏を起用した理由をお聞かせください。

 もう一点、今回の改造内閣を御自身で命名されるとしたら、どのようなネーミングになりますでしょうか。以上、2点お願いします。

(福田総理)

 今回の改造内閣のポイントは、政策実現であります。政策を実現できるような、そういう布陣を敷いたつもりでございます。特に経済のことにつきましては、今のような経済情勢の中において、この問題にどう対応していくかということは、これは喫緊の課題だと思っておりますので、そのことを中心に考えております。

 ネーミングということでございますが、今、申しましたように、政策を確実に実現していくと、そして安心を勝ち得るという意味において、安心実現内閣、そのように申し上げたいと思っております。

(質問)

 麻生幹事長の起用の理由をお聞かせください。

(福田総理)

 麻生幹事長に御就任いただいたのは、それは麻生幹事長に、自民党をしっかりとリードしていただきたいという思いであります。これは、私はかねがね考えていたことでありまして、昨年の秋に総裁選挙を闘った仲でございますけれども、しかし、できれば、麻生先生に入閣をしてもらうといったようなことをお願いをしたかった、こういうことがございました。ですから、今回、それが実現したということであります。

(質問)

 今回の内閣改造では、例えば与謝野大臣始め経済閣僚に消費税に理解を示すメンバーが目立つように思います。総理のムダ・ゼロなどの歳出削減努力というものは承知しておりますけれども、今回の配置が消費税増税に向けた、いわゆる環境整備というねらいがあるのかどうかを伺いたいと思います。

(福田総理)

 消費税のことについては、財政再建を考えた場合に、だれもが考えていることではないかと思います。消費税なしで財政再建ができるということもとても考えられないし、また同時に、国民の安心できるような社会保障制度も成り立たないと思っております。

 ただし、それをいつ実現するのか、実行するのかということになりますと、それはさまざまな意見がございますけれども、しかし、今すぐ、それをやろうということを、例えば、今、おっしゃったような方々が言っているというふうにも思いません。それは、消費税についてはしっかりと議論する。そして、消費税をどういうふうにこれから扱っていくかということについて、きちんとした道筋を立てていく。そして、国民に十分説明をしていくことが大事なんだと私は思っております。

(質問)

 臨時国会の召集時期についてお伺いします。

 この召集時期については、与党内で8月下旬にすべきとか、9月下旬にすべきとか、意見が分かれて、今もってまとまっていないんですが、総理は現時点でどのようにお考えですか。

 それと、この問題に関して、意見の違いから自民党と公明党との間に溝が生じているのではないかという見方もありますけれども、これについてはどのように認識されておりますでしょうか。

(福田総理)

 この国会の開会の時期等について、今まで決めたわけではございません。ですから、いろいろな意見を言われるということもあっていいんだろうと思います。そういうようなことが政治的な問題になってはいけないと私は思っておりますので、したがいまして、今日の党首会談におきまして、解散の時期については、新体制ができたので、これから十分に協議をしていこうということでありまして、それは協議の時期を特に決めておるわけではありませんけれども、近々、協議を開始するという状況であります。お互いに理解を深めて、同じ考え方で歩もうということを今日は結論をしたところでございます。

(質問)

 今、解散のことについては新体制の下で協議を開始しているという趣旨のことをおっしゃっていましたけれども。

(福田総理)

 新体制で協議というのは、会期のことです。解散ではありません。

(質問)

 それで、臨時国会で最重要法案として、新テロ対策特別措置法改正案の処理の問題がありますが、これについては公明党の中で慎重論もあるようですけれども、総理としては衆議院の3分の2による再可決を使ってでも臨時国会会期中に成立を目指すお考えでしょうか。

(福田総理)

 今、おっしゃった問題については、テロとの闘いとか、それから、イラク、アフガンの復興とか、こういったような国際社会との関連において極めて重要な問題でございますので、また、同時にこのことは我が国の国益にも直結している問題でありますから、関係国が、今、大きな犠牲を払ってやっているようなことについて、これは我々としても無視することができない。そういう状況は十分認識していなければいけないと思います。

 ただ、具体的な対応の仕方についてはさまざま検討いたしておりまして、現時点でそれを申し上げる段階ではございません。そういうような状況、国際情勢を念頭に置きながら、我が国としてできることはしっかりと対応していくことが必要なんだろうと思っております。

(質問)

 総理、対民主党ということでお伺いしますが、選挙も近づいてくるとなると、民主党の方はますます対抗姿勢を強めてくるのではないかと思われますが、国会のねじれ現象は相変わらず続いております。総理は対民主党ということで、新布陣でどう対峙していくお考えなのか。これについてお聞かせください。

(福田総理)

 民主党さんも、9月になりますと代表、党首の選挙がございますから、どういう対応をされるか。そのこととの関係も無視できないと思っております。

 しかしながら、国民生活がこのような状況にある中で、ただいたずらに対決するということが、本当にいいのかどうか。そのことは、我々は当然考えますけれども、しかし、野党の皆さんにも、民主党の方々にも十分考えていただきたいと思っております。でき得れば、国会において、話し合いによって、よりよい政策を立案し、そして、実行できるようにしていただきたい。これが私どもの願いでございますから、今後とも対話の姿勢は崩していかないというつもりでおります。