[文書名] 金融・世界経済に関する首脳会合内外記者会見
【麻生総理冒頭発言】
先ほど、「金融・世界経済に関するサミット」を終えたところです。その成果とともに、私の考えるところをお話しさせて頂きたいと存じます。
世界は今、ご存じのように新しい時代に入ろうとしておると存じます。世界の金融というのは、グリーンスパンという人の言葉を借りるまでもなく、100年に一度というような大変な危機に見舞われております。しかし、危機というものは同時にチャンスでもあります。歴史は危機というものを克服したときに新しい秩序ができる、もしくはできたということを示しております。危機に対してうろたえているだけではだめです。1929年の大恐慌は、そのうろたえた結果を示していると思います。
しかし、今回、今は全く違っていると思います。協調の枠組みができているからです。したがって、1929年の教訓に我々は学んだ、そして日本は、併せて1997年、98年の危機にも学んだと思います。
今回の会合に際して、私は、日本に対する期待の大きさ、もしくは日本が果たさなければならない役割の大きさというのを感じたところです。
一つは、日本の経験を示すことだと思います。バブルが崩壊し、それを克服してきた経験です。あの大変な危機を日本は一国で乗り越えました。もちろん大変な犠牲を払っての上であります。
もう一つは、新しい時代の枠組みづくりを日本が主導することだと存じます。私は、それに応えるべく具体的な提言というものを行いました。それが首脳会談の宣言にも反映されております。もちろん、それを実行することは直ちに簡単にできるわけではありません。しかし、今回の提言が必ずや一つの礎になることを信じております。
首脳会合の成果を簡単に説明します。各国は、現下の金融危機と、世界経済の減速への対応そして国際金融システムと金融規制・監督の改革の方向性と具体策で、一致をしております。
まず、危機への短期的な対応については、各国が協力して行動を一緒にしていくことを確認しております。日本の場合の例を引かせてもらい、1990年から約15年間で、土地と株式の資産価格は日本のGDP3年分、1500兆ということです、下落したんです。しかし、日本のGDPそれ自体は、500兆円を大きく落ち込むことなく維持することができたと、これが日本の歴史です。私からは、こうした経験を踏まえて、次のように強調しております。どうしてそれが可能だったかといえば、銀行等にあります不良債権というものを徹底かつ早くに開示をしております、示した。金融機関に対しては、その不良資産というものを償却した後、少なくとも資本を増強する必要にあっては、公的資本を投入した。また、マクロ経済政策によって、実体の経済、金融だけじゃなくて、実体経済を支えること、この重要性というものを話しております。
次に、中期的に、危機の防止策を考えねばなりません。この点については、今回の危機において影響を受けた中小国、新興国への支援を進めることが大事です。そして、IMF等の国際金融機関の資金の基盤というものが弱い、それを増強する必要性が皆さんとともに共有されております。そのため、日本としては、IMFに対して増資するにしても時間がかかりますので、今は時間が急ぎます。従って、日本としては1,000億ドルという資金の融通をする用意があるということを表明しております。
三番目には、金融の規制・監督の改革ということになるんですが、有機的な、国際的に連携した機能の強化が必要です。一国だけでは対応できなかった。今回、それははっきりしています。そして、格付会社というものがありましたけれど、これはかなりシャビー、あまり信用のあるものではなかったということだと思いますんで、規制と監督体制を導入すべき。そして、市場の混乱している時には、時価会計基準というものを適用できるかといえば、市場がなくなれば時価会計基準は存在し得ないことになります。従って、その扱い等々、私が色々指摘をさせてもらったものに関しましては、世界各国の協調的な取り組みの必要性について共有をされたところです。
また、これと反対に保護主義については、これを拒否し、決して内向きにはならないこと。更にドーハ・ラウンドの交渉の今後の枠組み、いわゆるモダリティと称するものですけども、については、年内に合意することについて努力していくことでも合意をしております。
最後に、長期的な通貨体制のあり方として、次の点を申し上げております。今回の問題の起きた根底というものには、貿易の不均衡というものがあります。これを是正しなければならんのであって、是正をするためには、基軸通貨国は赤字の体質を改めてもらう。また、過度に、必要以上に外国の需要、外需に依存しているという国は内需拡大に努めてもらう必要があります。こうした、すべての国の政策協調というものによって、ドル基軸通貨体制というものを支える努力を払うべきだということを申し上げたところであります。
他方で、アジアなど、域外に開かれた地域協力は、グローバリズムを補完するものだと思っております。日本としては、12月のASEAN+3や東アジア首脳会議等に向けて、アジア地域の金融協力の強化と自律的な発展のため、取り組みを進めていきたいと考えております。
日本としては、今回の会合の成果を具体的な行動に移していかなければならないと思っています。また、新しい世界経済と金融というものに対応した、国際的な経済システムの実現に向けて、引き続きリーダーシップを発揮して参りたいと思っております。
最後に、参加各国の協力とともに、急な呼び出しではありましたけれど、米国政府及び米国国民の皆様の歓迎とおもてなし、対応に対し、心より感謝と敬意を表して、挨拶なり発表に代えさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
【質疑応答】
(問)
今回の合意について、総理は改めてどのように評価されているか。また、日本が特に指導的な役割を果たしたと強調されているが、今後、特にどのような面で指導的な役割を果たすとお考えか。
【麻生総理】
今回の会合は、歴史的なものだったと多分後世言われると思うが、少なくとも、先進国と新興国の双方の首脳が一堂に会して20人という人数を限って議論したこと、また、首脳会談の宣言も、始まる前まではどこまで纏まるのかという危惧があったが、少なくとも、今回の金融危機への対応は、短期的なものと中長期的なものとに分かれるが、これを盛り込んだ、結構具体的な、行動的なものとなった点は高く評価をされて然るべきと思っています。それぞれ抱えている問題は違う。かたわらは被害者だと思っていますし、そういった意味ではかなり意識は違うんですが、少なくともこの金融危機をまた起こさないために、これ以上その被害を大きくしたくないために、いろいろな意味もあったと思いますが、合意がされたと思っております。また、先ほど申し上げましたけれど、IMFの増資というか、IMFに対する融資を始め、少なくとも格付会社の話とか、また、監視機能を今ある組織を使ってやっていくんで、新しい組織を作るよりそちらの方がいい等々、色々申し上げましたけれども、具体的な形として取り纏めて頂きましたので、こういった私どもの提案を生かされておりますので、そういったものを現実にやっていくと言うことになろうと思います。
また日本がやりました、不良資産というものを外して、それを銀行の中ではバランスシートから外したというような経験など、これは直ぐになかなか出来ているところはないと思いますし、いまそれをやれている国もありませんから、そういったことをやった結果、日本はあの金融危機をしのいだ、そういった経験というものは、日本としては、その経験を率直に言える、そういう資格もあるでしょうし、それが世界の役に立っていくんだと思っています。
(問)
1000億ドル日本が資金融通としてIMFに出す用意があると言われたが、中国や産油国も同様に資金をIMFに融通すべきだとの御意見だったが、公式には、或いは公けの所では、中国はそうした発表を行っていないことを残念に思っているか。
【麻生総理】
この種の話に対して、日本の申し出に対して、アジアの少なくとも今外貨準備高の多い国、例えば産油国とか今言われた中国とか、そういう国からも融資があっても喜ぶべきことだと言ったけれど、(それらの国々からの)発言はありませんでした。今回に限りませんけれど、大体、中国という国は、こういう席でみんなの前でその種の発言をしたという例は過去にありませんから、後でこの種の話しを持ち帰って協議の上、発言なり賛意なりということは言いますけど、その現場でimmediate reactionというものをあまりしない国だと思いますので、言わなかったからだめなんだ、という訳でもないと思って、その点は期待をしています。I hope interpretation is working O.K.
(問)
今後、来週はAPECが開催され、日中韓首脳会議、ASEAN+3、東アジア・サミットという首脳レベルの会議が続くが、今回の金融サミットの成果をどのようにフォローアップしていく考えか。
【麻生総理】
中小国とか新興国とかいろいろな表現があるが、今回の金融危機が実体経済にどのような大きな影響が出てくるかということが、多分一番の懸念なんだと思います。今、間違いなくインフレーションを心配していた国がデフレーションになるかもしれない。これは英国などが皆言うところですが、日本はついこの間までデフレをやっていた訳ですが、戦後、世界の中でデフレーションで不況ということを経験した国は日本だけです。そういった意味で少なくとも、こういったものは放っておけば自然に景気の波動で自立的に回復するというような状況ではない。今回は。従って、何らかの人工的な若しくは政治的な政策というものを加えないと、なかなか上手く景気回復の軌道にはのらない。中でも景気回復のいわゆる伸び率の高いアジアの、世界の成長センターと言われるのは、どう考えてもアジアです。アジアの中で経済成長を促していくということが必要であり、そういう意味では、APECやASEAN+3、東アジア首脳会議といった一連の会合はこれから開かれる訳だが、その中で各国の自律的な経済成長を各国で意図的にやってもらわないといけない、金融さえきちんとすればそういうものはできるはずであるので、少なくとも経済成長率が5%から10%の間くらいの国が多い訳なので、そういった意味ではやってもらわないといけない。
それから、地域の協力というもの、いろいろな地域協力をやっているので、チェンマイ・イニシアティブなどいろいろ具体的な名前があるが、そのようなものを含めてやっていってもらわないといけない。金融の決済のシステムがよく出来ていないので、これは今からこういった国々でやらなければいけないことは基本的なところで言えば多分統計。統計というものがどれだけきちんととれているのか、その統計をどれだけ上手く活用しているのかと言ったようなことは長い間の経験というものを先進国は皆持っているが、それがないとなかなか経済というものは生き物であるので、きちんとした数字の把握をしておかなければならない。そのようなことなどについて日本としてはいろいろ一緒にやっていくことができると思うので、そのような基本的なところのフォローアップができないと、たらたら目先だけ発展しても格差がついたり、バランスがとれなかったりするということになると思うので、そういった細かなところにフォローアップが必要ではないかと思っています。
(問)
米国の次期大統領に対しては、より大きな信頼(greater confidence)を持っておられるか。今後、日米関係はどうなると考えるか。
【麻生総理】
この間、オバマ次期大統領から電話がかかってきたので、電話で話しました。電話で話をしただけなので、それで直ちに相手の人物なり性格が分かる訳ではありません。ただ、その時にインドネシアによく行っていたので、ハワイから日本経由でインドネシアによく行った話や、アジアに関する興味が示されていたのが印象に残ったのが一つ。今、米国務省でアジアに詳しい人がどんどん減ったので、その意味ではアジアに関心をもってもらうという人は大変我々にとっては大事であり、世界にとっても、人口の半分がアジアであるので、その意味では非常に大きいと思いました。二つ目は、電話で話をしていて、とにかくこれから貴方との個人的な人間関係の確立を是非という話もしたので、そう言った意味では電話で話しただけだが、何となくインテリジェンスのとても高そうな英語だったという記憶が私(総理)にはあります。I hope the interpretation will be right interpretation. Not distorted, I hope. Okay?
(問)
最後になるが、総理はとても言葉も上手であり、メディアもいろいろと得意である。今後は日本の経験を活かして、どういう形でメディアも含めて顔が見える形のリーダシップをとっていくのか。また、先ほどのオバマ次期大統領の話に関し、今後はオバマ政権と上手くどういう形でいかそうと思われているのか。
【麻生総理】
オバマ政権のスタッフが、どういった方がなられるのかということは、今から1月20日までトランジション・チームがずっと動き始めるので、それまでどういう方が出て来られるのか、ちょっとうわさだけですからね。新聞のうわさくらいあてにならないものはないでしょう。こういう人たちが作っている話ですから。あまりヒラリーが(国務長官に)なるとか、本当になるのか、誰がなるのか、毎日違う話を皆されるので、なるべくああいうのは見たり聞いたりしないようにしていますんで。答えが出れば、2ヵ月後には分かるんだと思って、そういうことは2ヵ月経ってからの話だと思っていますけれども。
今の話で、やはりいろいろな意味で、これから金融というのはかなりプロフェッショナルな話である。金融のおかげで銀行の決済ができない、銀行間同士の決済ができない、マネー・マーケットが全然成り立たないというような話を殆どの人が全然興味もないし、分かりもしない。しかし、これが一番の決済の元ですから、その決済の元が止まったということは、えらいことであると思う。しかし、そのような重要性を、大変なんだと書いた新聞などありませんから。少なくとも日本ではない。そういうことをわかりやすく説明をするという努力を政治家がするなり、何なりしていかなければ、新聞は書かない、また誰も読まないということで、これはテレビとか街頭でやるとかいろんな形で直接言わないと、今のような危機に当たって、今、時間を急ぐ話に関し、どうしてカネを出さなければならないのか、多分米国のtax payerも全部ノーと言ったんですけれども、日本も97年、98年にノーと言ったために、対応が遅れて後で巨大なカネがかかることになった。あれは、前で決済しておけばよっぽど少ないおカネで済んだんですけど、後になった結果あれだけ大きくならざるを得なくなった。多分、米国も同じです。従ってそういった意味では、早い段階でこの必要性を政治家として訴えていくということは、メディアとの関係は非常に大きな要素を持っているのではないかと思って、努力をしないといけないと思っています。