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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 麻生内閣総理大臣記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2009年4月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【麻生総理冒頭発言】

1(経済危機対策)

 本日、政府と与党は新しい経済対策を決定しました。その概要と私の考えを皆さん方に御説明をしたいと存じます。

 今回の対策は、経済危機対策です。私はこの約半年余りの間に3度にわたり、事業総額75兆円の経済対策を打ちました。その結果、中小企業の資金繰りや雇用対策など、着実に成果を上げつつあると思います。

 しかし、なお日本の経済は輸出・生産が大幅に落ち込むなど、急速な悪化が続いております。また、雇用情勢についても急速に悪化をいたしております。経済危機とも言うべき状況にあると存じます。

 先日、開かれたロンドンサミットにおいても、各国とともに最大限の財政・金融上の対策をとっていくことを確認し合ったところです。私は国民生活を守るため、そして、世界各国とともにこの危機に対処するため、断固とした対策を打ちます。

(目的)

 今回の対策は、経済危機対策であります。その目的は第一に、景気の底割れを防ぐことです。

 しかし、単に景気対策のために需要を追加するだけではなく、次の2つのことに力を入れました。

 その1つは、生活者の安心であります。この不況の直撃を受ける人たちへの対策です。そのため雇用や社会保障、子育て支援に力を入れます。

 もう一つは、未来への経済成長につなげることです。経済回復の先の社会を見すえた成長政策を考えました。そのため、今年だけでなく、多年度、複数年度を視野に入れたものとしました。

 景気に加え、安心と未来がキーワードです。

(概要)

 今回の対策の規模は事業費で約57兆円、財政出動、いわゆる真水で15兆円となります。過去最大のものだと存じます。対策の主なものを紹介したいと存じます。

(1)まず第1は、景気の底割れの回避です。雇用対策と資金繰りがその柱になります。

 雇用対策としては、まず雇用調整助成金。これは従業員を解雇しなかった企業を支援するお金です。今年の2月だけで187万人の雇用を下支えしました。これに6,000億円の手当てをし、大幅に拡充します。

 解雇され、雇用保険が支給されない方々に対して、今後3年間、7,000億円の基金をつくり、職業訓練の拡充や訓練期間中の生活保障を行います。

 また、企業の資金繰り対策として、中小企業向けの保証枠を現行の20兆円から30兆円に広げます。

 同時に政府系金融機関のセーフティネット貸付を現行の10兆円から17兆円にします。

 さらに、政策投資銀行と商工中金の中堅・大企業向けの危機対応業務など20兆円追加します。

 なお、このほか、株式市場の価格発見機能に重大な支障が継続するような例外的な場合に備えて、政府の関係機関が市場から株式などを買い取る仕組みを整備し、50兆円の政府保証をつけたところです。

(2)第2に、安心と活力の実現です。

 子どもは日本の未来です。経済危機の中にあっても、子どもの将来を守るということは何より大事です。

 現在、1,000億円の子ども基金を2,500億円に増額します。これにより保育サービスの充実、母子家庭のお母さんに対する職業訓練や在宅就業を支援していきます。例えば職業訓練中の低所得の母子家庭に、訓練の全期間、月約14万円の生活資金を支給します。

 子育て応援特別手当として、平成21年度は第1子から、就学前3年間の児童に3万6,000円を支給します。

 私立学校での授業料の滞納がこのところ急激に増加しております。この生徒たちを支援するために、授業料の減免や奨学金に対する緊急支援を実施します。

 また、女性特有のがん対策として、がん検診への支援を行いたいと存じます。

 次に医療・介護です。

 地域医療の再生のため、総額3,100億円の交付金をつくります。地域内での医療機関・従事者、役割分担を進めることによって、効率的で十分な医療サービスの提供を支援したいと思っております。

 また、よく話題になります介護職員の処遇改善のために、4,000億円の基金をつくります。現在、低い給与で大変な仕事をされておられる介護職員の給与を引き上げたいと存じます。

(3)第3、これは未来への成長です。

 今回の対策は、中長期の成長戦略の第一歩となるものです。

 低炭素革命を推進するため、住宅やオフィスへの太陽光パネルの設置に補助金を出したいと存じます。

 また、公立の小中学校への太陽光パネルの設置を進めて、今後3年間で、これまでの10倍の1万2,000校にパネルが設置されるよう、大幅な予算配分を行いたいと存じます。

 また、環境対応車を新車で購入した場合、10万円支援します。さらに、13年を超えて使用している古い自動車をスクラップし、一定の燃費基準を満たす自動車に買い替えていただいた場合には、25万円助成します。

 エコポイントの活用によるグリーン家電の普及にも取り組んでいく予定であります。エアコンや冷蔵庫などの省エネ家電を購入した場合は価格の5%、さらに地デジ対応テレビを購入していただいた場合には、追加でさらに5ポイントの還元をいたします。

 また、今後3年間から5年間にわたって、世界最先端の研究を強力に支援するため、30程度の研究課題を設定し、総額2,700億円の基金を創設いたします。

 三大都市圏、環状道路などにおいて、これまでミッシング・リンクと言われた分断された道路をつなげ、国土を結合します。そのため、国幹会議の議を経て、多年度にわたるプロジェクトである、例えば東京外環道の整備を進めます。

 これらの事業を進めるため、地方公共団体の負担についても後押しします。

 ・公共事業の地方負担を軽減するため1兆4,000億円、

 ・地方活性化のための交付金として1兆円、合わせて2兆4,000億円を手当ていたします。

 最後に税制改正です。

 住宅を購入するための資金の贈与を受けた場合には、従来からの非課税枠に上乗せし、相続時精算課税を利用する場合には、最大4,000万円まで、それ以外の場合は610万円まで贈与税を無税とすることにいたしたいと存じます。

(財政規律)

 こうした対策の財源は、財政投融資会計の積立金、経済緊急対応予備費、そして国債を発行いたします。この結果、公債金発行額は、当初予算の33兆円からさらに増加することになります。

 私は、繰り返して申し上げているとおり、短期は大胆、中期は責任と考えております。

 今回のこのような大胆な財政出動をするからには、中期の財政責任というものをきちんと果たさなければなりません。

 多くの借金を子どもたちに残していくことをやめるため、消費税を含みます税制抜本改革は、景気をきちんと立て直すことを前提に、必ず実施をいたします。

(オールジャパン)

 以上が今回の対策の概要です。

 安心と成長のための政策総動員と申しあげます。

 今回の危機は、戦後最大、国民の総力を挙げた挑戦が必要です。

 対策の策定に当たり、私は多くの有識者から、この難局の克服方法について御意見をちょうだいしました。

 このうち、今回の対応には、約6割の御意見を提言に盛り込ませていただきました。残りの御意見についても、引き続き経済財政諮問会議などで検討してまいりたいと存じます。

(補正予算等)

 今回決定した経済対策を実行に移すため、必要な補正予算、関連法案を早急にとりまとめ、国会に提出いたしたいと存じます。

 野党の御理解もいただき、成立を急ぎます。

 それが景気を回復させて、国民生活を守ることになると存じます。

2(東アジア・サミット)

 さて、私は、本日この後、タイに向けて出発をいたします。

 ASEAN諸国や中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドなどの諸国との首脳会談に出席するためです。

 東アジアは、多くの国が高い経済成長率を達成してきたところです。

 しかし、現在、世界経済が危機に見舞われている中にあって、東アジア経済も大きな転換点にあると存じます。

 私はこの会議の機会に、

 I 直面する危機に対し、必要な資金の確保や保護主義を毅然として防ぐなどの対応で、各国が協力し合うべきこと、

 II 中長期の対応として、成長力を強化し、各国が内需を拡大するためのアジア経済倍増へ向けた成長構想を提案したいと存じます。

 アジアは、世界で最も大きな潜在力を持っており、また、開かれた経済の成長センターでもあります。

 日本は、今後ともアジアとともに成長していく、そういう考え方が必要であります。

 そのためのリーダーシップを発揮してまいりたいと考えております。

3(北朝鮮)

 最後に、日本の対北朝鮮措置について、一言だけ申し上げておきます。

 北朝鮮は、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の解決に向けて、その姿勢に変化を全く見せておりません。

 加えて、国際社会の自制を求める声を全くかえりみず、ミサイルの発射を強行しております。

 これを受け、本日政府は、

 I 北朝鮮籍船舶の入港禁止

 II 北朝鮮からの輸入禁止

 につき、1年延長する閣議決定を行った上で、追加的に資金の流れに関する措置を表明しております。

 政府は北朝鮮に対し、拉致、核、ミサイルの解決に向けた具体的な行動を速やかにとるように、改めて強く求めるものです。

 あわせて、国際社会と連携しつつ、このための最大限の努力を行っていくことを表明します。

 皆様方の御理解と御協力をお願いいたします。

 私からは、以上です。

【質疑応答】

(問)

 経済危機対策の財政支出が15兆円という、過去最大規模になるということが決定しましたが、景気回復に有効な事業の積み重ねに必ずしもなっていないのではないかという指摘も出ております。最終的に15兆円になった根拠について、まずお願いしたいと思います。

 また、厳しい財政状況の中で、巨額の財政支出になるということで、今後の財政再建に向けた道筋についてもお願いいたします。

(麻生総理)

 今回の対策において、最初から2%とか3%とかというのを頭に置いて逆算したわけではありません。まず、景気の底割れを絶対に防ぐ。雇用を確保して国民の痛みというものを軽減する。同時に未来の成長というものを強化するということが重要であると考えていて、こうした分野に重点化する。そして、一つひとつの政策を積み上げていった結果、財政支出で約15兆円、GDP比3%という最大級の経済対策となったということです。

 一方、今回、このような大胆な財政出動をするからには、中期の財政責任というものをきちんと示さなければならない。これも前から申し上げてきたとおりです。多くの借金を次の世代、子どもたちに残していくことをやめるためにも、消費税を含む税制の抜本改革は、景気をきちんと立て直すということを前提に必ず実施していかなければならないものだと思っております。今の御質問に関しては、中期的には財政改革ということを当初より申し上げてきた。そのとおりに私どもとしては実行していかねばならないものだと思っております。

(問)

 北朝鮮の弾道ミサイルの発射関連でお尋ねしたいんですけれども、総理は先ほど国際社会とも連携しつつ最大限の努力を行っていくとおっしゃいました。日本は新たな決議を求めていますけれども、アメリカも議長声明の素案を提出するなど、日本にとっては一層困難な状況になっているように思います。日本政府としてどのように対応していくお考えかということ。

 もう一点、総理は今夜タイに向けて出発をなされますが、現地では日中首脳会談も予定されています。中国側にその場でどのような働きかけをなさっていくお考えかお聞かせください。

(麻生総理)

 今回のミサイルの発射に関する限り、北朝鮮は国際社会の自制を求める声を全く無視して、国連決議1695及び1718号に違反する行動を取ったということは明らかです。

 これに対して国連においては、国際社会全体の強い意志を早期に示して、北朝鮮に正しいメッセージ、明確なメッセージを送るということは極めて重要なことだと私は考えております。

 今、交渉中ですから、各国の立場についてコメントすることは差し控えますが、我々としては、議長声明、決議いろいろあります。決議だからといって、その内容が緩くても意味がない。そういうことも考えておりますので、いずれにしても全力を尽くしてこれをやりますが、今、中国との関係で御質問がありましたが、タイにおいて温家宝総理と会談を行う予定にしておりますけれども、このような立場というものは、きちんと日本としての意見というものは温家宝総理にも伝えていかなければならないものだと思っています。

(問)

 先ほど消費税を含む抜本改革について総理がおっしゃられていましたが、対策には中期プログラムの改定という部分があると思います。具体的にどのような方向で改定をされようと考えていらっしゃるのか。例えば時期については景気回復後ということですけれども、上げ方、昨日は女性議員の先生方が、食品については上げるときは下げるとか、そういう提言もされておりますけれども、具体的にそういう上げ方についてより踏み込んだ考え方を示そうというようなお考えはないのか、お話をお聞かせください。

(麻生総理)

 中期プログラムについては、昨年末決定をさせていただいた以降、やはり累次の経済対策、また経済財政状況というものが想像以上に悪化、予定しておりました税収の落ち込みなど、いろいろありましたけれども、そういった悪化を考えて、見直す必要があるとは思っております。

 ただ、改定の時期とか内容とか、そういったものについて、今、具体的にこうしたいと、こうするということを決めているわけではありません。今の御質問はごもっともだと思いますけれども、今後検討させていただく内容だと思っております。

(問)

 先ほども北朝鮮に関する安保理の決議のことで質問がありましたけれども、重ねてかぶるところはあると思うんですが、国際社会が一致したメッセージを出すというところが最重要だと思います。そういう意味では、議長声明になっても、これはやむを得ないということなのか、改めて見解を伺いたいです。

(麻生総理)

 日本としては、これは拘束力を持っております決議というものが、国際社会の意識というものを伝える意味においては、私は望ましいと考えています。率直なところです。しかし、同時にさっきもちょっと言いましたけれども、決議にこだわったために内容が何となくわからないというものになるのでは意味がない。明確なものであるべきなんだと、私はそう思っています。

 したがって、基本は日本を含む北東アジアという地域の平和と安全を守ることが一番ですから、このために最も適切な結論というのを得るべく、今後最大限の努力することであって、それが声明、決議文、いろいろなものがあるんですが、そういったもので我々としてはきちんとした国際社会のメッセージが伝わるというのが一番大事だと、私もそういう具合に考えております。

(問)

 政治と金の問題についてお伺いします。

 この問題は次の総選挙でも重要な争点の1つになると思うんですけれども、民主党は将来的に企業団体献金を全面禁止するという方針を決めましたが、国民の政治不信を払拭するためにも、政府与党としても何らかの具体的な提案を行うべきだと思いますけれども、総理はいかがお考えでしょうか。

(麻生総理)

 これは安部さんも古くて新しい話でして、これは政治献金の在り方というものを各党がいろいろ議論されるというのは、私はいいことだと、ずっとこれも同じことを言っております。

 問題はその上で、各党が議論して決めた法律をそれぞれの政治家が守ってもらわなければいけない。そこが一番肝心なところなんだと、私はそう思っています。

(問)

 解散総選挙で1点だけお伺いします。総理、昨日の日本記者クラブで追加経済対策に民主党が丸々賛成したらどうするんだと、争点がなくなってしまうなということをおっしゃっていたんですけれども、これは話し合い解散というものは、総理の頭の中には、もうまるっきりないと理解していいのか、それとも別に排除しているわけではないということなのか、どうでしょうか。

(麻生総理)

 野党がどう対応するかということは、今、見えない段階で仮定の質問ということになりますので、なかなかお答えのしようがありませんが、私は選挙というものは、政権を選ぶ、小選挙区というのはそういう制度ですから、そういった意味では争点を明らかにした上で、国民に信を問うのが正しいんだと、私はそう申し上げてきました。

 解散の時期については、これはいろんな方が今いろんなことをおっしゃっていますし、時事通信もいろいろ書いておりますが、だけれども、そういったものがいろいろあることは承知しています。承知していますけれども、そういった要素というものをいろいろ勘案した上で、最終的にしかるべき時期に、私が判断する。そうしかお答えようがありませんし、これはずっと同じことしか申し上げてきてないと思いますので、しかるべき時期に私の方で判断をさせていただく、ということであります。

(問)

 昨日の記者会見でも、麻生総理は、この経済対策を対立軸にするようなお考えもにじませていましたけれども、民主党も同様に緊急経済対策というものを、2年間で21兆円のものをまとめています。これと比べて、麻生総理は、今回の対策がどのような点で民主党より優れていると、対立軸になり得るとお考えなのか。そして、やはり自分の経済対策に賛成してもらえなかった場合は、解散に打って出る決意がおありなのかどうか、率直にお伺いいたします。

(麻生総理)

 我々の対策、政策というものに関して自信があるかといえば、間違いなく自信があります。少なくとも財政の裏づけという意味においても、我々はきちんと裏づけをしております。これまで何となくこの種の話は、この種の話というのは補正の話が出たときには、いわゆる公共事業というものの比率が非常に高かったと思いますが、今回の中で、いわゆる公共事業の占める比率は、2兆4,000億ぐらいですから、15兆分の2兆4,000億ということになりますので、その意味では6分の1とか、そういったことになろうと思います。

 したがって、今、我々としては、自分たちが出している補正予算というものは、民主党が出された文を、正確に全部読み比べているわけではありませんけれども、まず財政の裏づけのある点などなど、我々としては自信がある、圧倒的に我々の方が効果が高いと思っておりますし、責任もきちんと取れるものがあると思っているのは確かです。

 ただ、争点がなくて、何となく、何を争点に総選挙だからというのでは、国民は政権選択ということを考えたときに、より安心感がある、不安がない、そういったような点を、やはり自分の払ったお金の使い方ですから、そういったことを考えて選んでいただくというのが正しいと思っていますが、ただ、選挙というのは非常にそういったきちんとした理屈だけでというものではなくて、何となく見てくれの方がよかったり、若かったりというだけで選ばれているという例があったり、いや、何でと、いろんな例がありますから、こういったことを考えますと、我々としては、何を争点にということは極めて大事なものなのであって、似たようなものだった場合は、その人物を見て、何となくこっちの方がポスターの写りがよかったぐらいで選ばれたりすると、不幸なことになりますし、きちんとした争点というのははっきりさせて選挙をした方が、私は民主主義がより成熟していくために、また、小選挙区制度というのを今後とも持続させる、そして政権交代というものを可能ならしめるために小選挙区制度というのを導入するということを、あのとき大いにみんなで論議した上で決まったわけですから、その意味では、私は政権交代たり得る政策の内容というものが大いに議論されてしかるべき、経済政策に限りません、外交政策、国防政策、政策にはいろいろありますけれども、そういったものをきちんと比較できるようなもので選挙はされるべき。

 そういったことだと思いますので、私は今、この案に賛成して話し合い解散ということを、言われる方もいらっしゃるんですが、何を基準に何の話し合い解散をするのか、言葉だけがおどっていて、正直内容がよくわからないので答えようがないんですが、少なくとも小選挙区における総選挙というものはきちんと2大政党の政権構想もしくは政策というものをきちんと比較対照した上で選んでいただくという方向であった方がより望ましい小選挙区制度上の民主主義というものができるのではないかと、私自身はそう思っています。