データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日中首脳会談内外記者会見

[場所] 北京
[年月日] 2009年4月30日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【麻生総理冒頭発言】

 日中間では、毎年、一方の首脳が他方の首脳の国を訪問するという合意があります。今回の訪中は、この合意に基づいて、中国政府からの招待によって実現したものです。昨日、温家宝国務院総理と会談を行い、先ほど、胡錦濤国家主席との会談を終えたところです。胡主席、温総理とは、この半年余り、半年強になりますが、それぞれ4回ずつ会談をさせていただきました。日中両国が、緊密な意思疎通が行われる関係にあることを、大変喜ばしく思っております。

 両指導者との会談では、いま深刻化しつつあります「新型インフルエンザ問題」について、日中双方が密接に情報交換を行い、必要に応じて感染防止についての協力を行っていくことで一致をしております。その上で、日中間の「戦略的互恵関係」の推進を具体的に図っていくということで一致をしました。

 具体的な成果としては、次の三点が挙げられます。

 第一に、経済・ビジネス分野についてです。世界金融・経済危機に関しては、今月初めのロンドン・サミットの合意を、迅速かつ着実に実施することで一致をしております。その上で、内需拡大を中心とするマクロ経済対策の推進、保護主義の抑止、アジア諸国への支援等で、日中両国が共に取り組んでいくことを確認しております。

 第二に、環境、エネルギー、気候変動問題で、対話と協力を一層進めることで一致をしております。石炭火力発電の省エネ、黄砂・酸性雨などの広域大気汚染などに対応するため、協力を進めていくことで一致をしております。また、気候変動問題では、京都議定書の後の2013年以降の国際的な枠組み作りへの中国の責任ある参加を促しております。

 第三に、日中両国民間の交流の一層の推進に関しましても、大きな成果が得られたと思います。本年も、引き続き、日中双方で4,000名の青少年交流を行います。特に、我が国は、「四川大地震」被災地域の中学・高校生約100名を、日本へ招待することをお伝えしております。また、羽田空港と北京の首都空港の間の定期チャーター便を、本年10月から開始することで、一致をしております。

 現下の深刻な問題である北朝鮮をめぐる諸懸案も取り上げました。先般の北朝鮮のミサイル発射に関して、国連安全保障理事会において、迅速に、国際社会の一致したメッセージを出すことができたことを歓迎しました。同時に、六者会合の再開に向けて、日中双方が緊密に協力をしていくことを確認しております。

 最後に、今般の訪中に際し、中国政府、北京市民、中国の国民の方々より、温かい歓迎とおもてなしを頂いたことを、心より御礼を申し上げる次第です。

 なお、この場をお借りしまして、国民の皆様に新型インフルエンザ対策について一言申し上げます。政府としては、適確な情報を提供すること、水際対策を徹底するなど、万全の対策をとります。国民の皆様には是非冷静な対応をお願いします。私の方からは、以上です。

【質疑応答】

(問)

 まず、新型インフルエンザ対策についてお聞きします。WHOが警戒水準を4から5に引き上げました。首脳会談で日中が連携して対策に取り組むことで一致したということですが、今後の日本政府の対応について具体的にお聞かせください。

 もう一点は、首脳会談で、北朝鮮に6カ国協議復帰を促すことで一致したということですが、北朝鮮は国連安全保障理事会が謝罪しなければ核実験を行うと反発しております。日本政府の対応をお聞かせください。

(麻生総理)

 まず、新型インフルエンザの問題につきましては、今回の首脳会談において、現下の事態の深刻さを考えて、日中両国間でも協力して対処していくことで一致をしております。また、日中両国は、今後の状況の推移を踏まえて、タイムリーな情報交換とか予防措置についての協力を行っていくこととなります。また、WHOが警戒水準を従来のフェーズ4から5に引き上げたことに伴って、日本政府の対応としては、まずは、水際対策を一層徹底し、仮に日本において感染が見つかった場合、その速やかな対応、必要な対応を講じる。また、行動計画というものを作っておりますので、その示された対策のうち、必要なものから弾力的にすすめていくということで既に指示を出しております。

 北朝鮮に関しましては、これは国際社会におけるいかなる緊張も高めるというような行為は建設的ではありません。六者会合が早期に再開されることが重要という認識で日中は一致を致しております。これは、国際社会全体の考え方でもあろうかと思います。北朝鮮が、先の国連安全保障理事会の議長声明を重く受け止め、国際社会の平和と安定というものを損なう行動は慎み、国連安保理決議を守ることを改めて求めたいと思います。六者会合は、北朝鮮の問題を解決する上で、最も現実的な枠組みでもあると思っております。政府としては、六者会合のいわゆる議長国・中国を含みます関係国と今後とも緊密に連携しながら、六者会合の再開に向けて努力をしたいと考えております。

(問)

 現在、中日両国は金融危機の挑戦に直面しています。戦略的互恵の前提の下、両国は、省エネ、環境保護、情報通信、エコ経済、ハイテク技術等の分野で積極的に協力を広げていくと思われますが、これらの協力の具体的な内容はどのようなものとなるでしょうか。

 もう一つの質問は、総理の個人的な事柄に関わることですが、総理は1976年のモントリオール五輪に射撃の選手として出場されていますが、今現在でも射撃をやられていますでしょうか。

(麻生総理)

 いろいろ質問を世界中で受けておりますが、これだけ脈絡のない質問は初めてで、すごく印象に残りました。

 日中両国は、戦略的互恵関係の立場から、これまでも、昨年の5月、胡錦涛国家主席が訪日された時に、70の項目にわたって協力の合意をしております。そのうち大体8割ぐらいまでできあがりつつあると思っております。また、環境、省エネ分野の官民合わせて505件の協力実施など、広範な分野で、多くの協力を実施してきております。今回の訪中におきましても、温家宝総理との首脳会談において、省エネ、環境保護等の分野では、汚染が深刻になっております湖などの浄化、また、石炭火力発電所の省エネ、環境対策などの、「省エネ・環境総合プラン」を新たにスタートさせることで、一致しております。

 また、発展というか進展が著しい情報通信分野においては、情報通信関連の法律の整備、また、次世代、次世代というのはnext generation、3G、色んな言い方がありますけれど、次世代通信の研究開発等の新たな協力を進めることで一致をしております。具体的な内容を詰めるため、来月、5月4日、5日に鳩山総務大臣を訪中させることにしておりますので、細目はそちらに聞いていただけると分かると思います。

 モントリオールのオリンピック以来、鉄砲はどうだという、まことに適切なご質問、というとちょっとおかしいか、ご質問をいただきましたけれど、翌年に、青年会議所の会頭やら何やらをやり、その翌年に国会議員になって選挙やら何やらで、以来、鉄砲をああいった世界選手権レベルで争うというのはちょっとなかなか遠くなりましたし、目も、昔は百円玉をこうやって投げて、ばっとつかんで裏か表か見えるぐらい動体視力がよかったんですが、今は自分のゴルフボールも見えないくらい目が悪くなりましたので、残念ながら鉄砲はたまにという話で、射撃の選手としてはもうとてもじゃないけど引退です。

(問)

 衆議院の解散についてお伺いします。総理は先に、「補正予算案や関連法案、海賊対策の法案などがある中で、補正予算だけ成立させて、あとは終わりという状況にはないと、みんな思っているはずだ。」と、いうふうに発言されています。今日も、昼間におっしゃっていましたが、エコカーを買った人に対する補助とかですね、新たな経済対策を実施するためには、その裏付けが必要になります。与党内にも、補正、関連法案成立した後の解散を求める声が多くなっていると思うんですが、政局より政策という姿勢でこられた総理としてはですね、補正予算案、あるいは関連法案、重要法案の成立を解散よりも優先させる考えでしょうか。

(麻生総理)

 補正予算及び関連法案や、また、年金法案、海賊対処法案等いろいろ重要法案がありますので、いずれも、これは消費者庁法も含めて国民生活にとって、きわめて重要、かつ急がなければならないものだと思っております。これは国民感情も同じだと思っておりますので、少なくとも、野党の皆さんにも、この補正予算はもちろん、関連法案ももちろん、重要法案についても協力をいただきたいと思っておるのが基本的な姿勢です。十分協議の上、早急に結論を出していただきたいと思っておりますので、解散するか否か、それは最終的に私が決めます。

(問)

 世界で第2位と第3位の経済大国である日本と中国ですが、双方ともに東アジアに属しております。そのような日本と中国は、金融危機に打ち勝つためにどのように連携して対応していくのでしょうか。そして、アジア経済の回復をどのように確保していくのでしょうか。

(麻生総理)

 大変いい質問だと思います。今回の訪中において、胡錦涛主席、及び温家宝総理との間で、世界経済並びに世界の金融危機について、日中が協力していくことで一致をしております。

 具体的にはいくつかありますが、先ず、アジアを含む世界経済回復のためには、4月のロンドンのサミットで議論をされました点をよく踏まえて、今、劉さんとおっしゃるんだっけ、「第二、第三の経済大国である」という表現をされましたが、日中両国が、自分の国の内需拡大、輸出ではなく内需拡大を中心とする国内経済対策に全力を挙げるべきだと、その重要性を確認したところです。

 また、さらに、両国とも、外貨準備、いわゆる資金の流動性というものをもっている数少ない国ですから、途上国への資金フロー確保のために、IMFや国際開発金融機関による積極的な対応、そして、保護主義の抑止、また、ドーハ・ラウンドの早期妥結、そういったことの重要性というものを確認をしております。

 また、アジア経済の回復、これはアジアは経済回復における経済成長のセンターとしてはもっとも重要な地域だと考えますが、このアジア経済を回復させるためには、貿易をやっていくときに、保険、金融、そういったものの支援がないとなかなか難しくなっている面があります。また、チェンマイ・イニシアチブというものが、これはバイ、つまり1対1になっているものを、マルチ、つまりみんなでやっていく、また、アジア開発銀行(ADB)の一般増資の早期実施等が重要であることについて確認をさせていただきました。これは、今まで随分議論のあったところですけど、これを話をさせていただきました。あわせて、金融が安定すればいいというだけではなくて、やはり実体経済というものが発展をしていくためには、アジアの成長力の強化とそのための内需拡大というものが重要なんだということを確認したということが、今回、色々これまでの議論を詰めさせていただきましたが、この点に関して双方で合意ができましたので、この線にそって、今後日本としても、また中国としても、国内の経済対策やら、また、国際金融に関しての貢献やら、色々な義務をきちっと履行して、以て経済の回復、金融危機の克服というものに日中が手を携えてやっていく意思というものを明確に確認しあったというところが一番大きな成果だったと思います。