データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鳩山総理の国連総会及びG20ピッツバーグ・サミット出席内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2009年9月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

■冒頭発言

 ご案内のとおり、日本の、日本は民主主義の世の中ではあるが、戦後初めて選挙により政権が交代した。そのダイナミズムの中で外交を開始した。こちらに来たのも政権が発足してまだ6日目であった。その意味では慣れない中での外交のデビューだったが、国連、G20と、それぞれ仕事ができたなと感じている。まず、何としても築きたかったのはオバマ大統領との信頼関係であった。まだ見ぬ方との信頼関係をどう築くか、最初はそれなりの思いがあったが、今は先方からは由起夫、私の方からはバラクと呼んでいる。そんな関係にこの数回の会議を通じてなることができたと思っている。別れ際に、「今朝、パメラのパンケーキを食べた。」と言ったら、大変嬉しそうで、「一緒にいたかったな。」と、そんなやりとりもあった。皆様の中では、安全保障の踏み込んだ議論はなかったと、そのような話もあった。最初にお会いした時には踏み込んだ話はあえて遠慮すべきと思っているし、安全保障の話は包括的にレビューを行いながら、お互いの信頼関係を構築する中で、お互いにとって利益のある解決策を導いていくことができる、そのように感じているからである。その意味で、オバマ大統領との間で信頼関係を構築することがかなりできたのではないか、まず、皆様方にそのことを報告したい。さらには、胡錦涛国家主席をはじめとして、多くの方々とバイでの会談もできた。英、豪、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、ロシアのメドベージェフ大統領とも会談することができた。最初の外交デビューで、一気にこれだけの方々と、やはり、G20、国連という場を通じてだからできたわけだが、このような会談ができたことは、私にとって、あるいは日本の外交、日本の政治が変わるぞという思いを彼らに幾分かでも与えていくことができたのではないかと感じている。

 日本の政治の変化だが、気候変動の枠組みに関する議論を国連の中で行った。そのことも、多くの世界の皆様に日本の変化を実感してもらうきっかけになったのではないかと感じている。確かに、90年レベルに比べて温暖化ガスを25%削減するというのは並大抵の話ではないと思っているし、今まで、日本の政府がそのような大胆な発言ができなかった、それだけに大胆な発言を新しい政権がしたぞと、注目を浴びたのは間違いない。多くの方から、「君の演説はよかった」、「頑張れ」と言って頂いたのは何よりであった。

 また、唯一の被爆国として、核廃絶に向けて、4月のオバマ大統領のプラハでの演説を引き合いに出しながら、日本としては、当然のことながら、核軍縮、核不拡散、そして終局的には核廃絶に向けて、もっともっと強いリーダーシップを発揮してこなければならなかったと思っているし、これから、オバマ大統領とともに、その先頭を切っていくぞという思いを日米首脳会談の中でも申し上げたし、核不拡散・核軍縮の安保理会合での発言でも述べたところである。この演説に関しても、それなりにお認め頂いたのではないかと思う。

 最後に、国連で一般討論演説をしたが、私は、日本が1956年に国連に入った時の総理が偶々私の祖父一郎であった、その時の外相の話を引きながら、日本が新たな架け橋になるぞと、東と西とか南と北とか様々ある。途上国と先進国との架け橋になるべきと思うし、先ほど述べた核の問題でも、核を持っている国と持っていない国の架け橋にもなれるに違いないと、様々な架け橋の役割をもっと積極的に演じられる日本になりたい、日本にしなければならないとその思いを世界の皆様の前で、国連で述べたことを大変感慨深く思う。昨日からは、ここピッツバーグに来て、G20で何度か発言し、経済に対してG20の果たす役割というものを痛感したところである。駆け足であったが、国連とG20、それぞれ極めて充実した様々な活動を行うことができたなと今はそのように感じている。この私どもの活動に対して様々なところで力を貸してくれた多くの皆様に感謝申し上げたい。長くなったが、私からの冒頭発言は以上である。

■質疑応答

(問)

 今、総理からも言及されたが、温室効果ガス25%削減の中期目標について、並大抵のことじゃないと仰ったが、実際、このように国際公約をした以上、達成を目指すということだろうが、負担を強いられる国民、そして日本の産業界等にどのように説得、説明をしていくお考えなのか。そして、具体的にどのような達成の見通しをお持ちなのか。自信はお有りなのか。非常に厳しい目標だということを認識されていると思うが、それについての御見解をお伺いしたい。

(鳩山総理)

 これは、気候変動の議論をG20においても、或いは潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の夕食会においても、様々行ったわけであるが、国民の皆様、世界の皆様に理解をしていただきたいのは、この約束が守られなければ、結果として生命が脅かされる、人間の存在が脅かされる、という事態になるわけである。その時にもっと多くのコストがかかる。人間が生き延びていかなければならないためにもっともっと大きなコストがかかるということを考えたときに、そうならないために我々は今から準備をするということである。したがって負担というものは、我々、産業がここまで発達をしてきた中でかかったことは間違いないが、しかし、一番大事なことはこのままにしていたらもっともっと我々の子どもや孫、さらにその先の世代に多くの負担というものが強いられることになる。それを避けるために我々の世代で何を目指すべきか、何を掲げるべきか、我々とすれば大胆な公約を国民の皆様とともに世界の皆様方に申し上げたのである。したがって、国民の皆様に十分に辛抱強くご理解を頂くまで、ご理解を頂くように努力をする、ということが政府にとってまず最もやらなければならない話であると、そのように思っている。当然、一部の産業界の方々からはとてもとても無理だと、日本はもう既に十分に頑張っているのだから更にということは無理だという話は当然ある。しかし、私は、日本が今日まで高い目標を掲げることによって、世界の誰も到達できなかった目標というものをいち早く、科学の力、或いは技術力によって到達をしてきたという、その彼らの立派な科学技術力というものを展開させれば決して不可能ではない、十分にできることだとそのように思っている。その意味では、自信は私にはある。日本人を信じている、日本人の科学技術力を信じているので、十分に自信はあるし、見通しという意味では十分にそのことは見通すことができる。いうまでもなく、太陽パネル、或いは燃料電池、様々なグリーンテクノロジーと言われているが、水素エネルギーというのも将来出てくると思う。こういった代替エネルギー、石油に依存しないエネルギーというものを、日本が世界に先駆けてリード役を務める、そして、発展途上国などにもその技術力というものを上手く進めていくということが極めて肝要ではないか。その中で、いわゆる固定価格の話とか或いは排出権の取引の問題とか、そういった議論も当然必要になってくると思う。総動員をしながら、この問題は十分に、ある意味で日本らしい、日本が先頭を切って走ることが最も望ましい、それが気候変動問題だとそのように理解を頂きたい。私はそう思っている。

(問)

 G20が求めている枠組みというのはグローバル・インバランスを削減するという訳であるが、日本の政権はこの枠組みにあうような形での内需刺激策をどのようにおとりになるか。そしてもっと策を講じるように圧力をかける、そして日本の消費支出を増大するようにとの圧力がG20のパートナーから出てくると思うか。また、強い円は、日本の消費支出を増大するにあたり、助けとなるか。

(鳩山総理)

 今、お話があった、今回の会議でも様々議論があったが、特にG20の中での議論だが、米国の強い需要、或いは消費というのがあった時期、日本は外需に依存しながら大変発展を遂げることができた。今でも日本の産業界は外需に対する依存度がまだかなり高い、というのが現実の姿である。しかし、世界が米国を中心として、金融危機の中で消費が減退をする、貯蓄を米国人もこれからは高めていかなければならない。そういう時代になったときに、必ずしも日本の外需に依存する仕組みというものが日本の景気というものをリードするということができなくなった。したがって、私たちは新しい政権として、今まで以上に消費というものを刺激する政策を大胆に行わなければならない。そのような発想になってきたのである。いわゆる内需というものを振興させるということに、思い切って経済を転換させていくということである。

 その一環として二つ、三つ申し上げるならば、その一つが5.5兆円という莫大なお金が毎年必要になるわけであるが、いわゆる子ども手当というものを拡充する。中学卒業するまで一人あたり2万6000円、年間にすると31万2000円。家庭に対して支出する、手当をするという施策である。これによって、お子さんを持ちたいけれども、なかなか経済的に難しいという、そういう御家庭に対して大変大きな支援になると私共は確信している。ただそれは、日本にとって少子化問題というものが最も大きな、厳しい問題だと考えていく中で、この少子化対策として大変大きな手立てになると感じているところである。消費を刺激するために最も有効な手立てだと感じているところである。

 もう一つは、いわゆる30数年間続いていた暫定税率、或いは軽油等の引取税、ガソリン税の暫定税率というものを撤廃するということである。これは一部で、このようなことをやれば、むしろ気候変動問題に対してマイナスの要因になるのではないか、そのような懸念も議論されている訳であるが、私は必ずしもそうは思わない。車を使うような方々は安くなったから、半分になったら2倍車を使うわけでは必ずしもない。いわゆる経済に与える弾性値は必ずしもそういった意味では大きくない、あまり変動はないということが理解をされているところである。それは余談的な話であるが、このことを通じて景気を刺激する、消費を拡大するということに十分につながるのではないか、私共はそのように思っている。

 同じようなコンテクストの中で高速道路の無料化ということも行っていきたい。大事なことは、内需を刺激する施策というものを、我々とすれば、外需に頼りすぎていた今までの経済というものを大きく転換させるための施策として極めて必要だと感じているところである。このことは海外からも理解をされ得る話だとそのように思っている。海外からのそういった圧力ということよりも、むしろ日本自身が必要とする大きな経済政策の転換だとご理解を願いたいと思う。

 為替の問題に関しては、総理大臣から多くを述べるべきではないと思っており、為替は安定的であることが最も望ましいという一言だけ申し上げておきたいと思う。

(問)

 日米関係について伺う。来年1月に海上自衛隊の給油活動の根拠法が期限切れを迎えるが、この問題に対しては、延長しないという方針で変わりないか。また、11月にオバマ大統領の訪日を控えて、その際にアフガニスタン支援に関しての代替案を提示することになるのか。その場合、具体的にはどのようなものを想定しているのか。さらに、昨日、総理は、米国側の関心が、アフガニスタン問題が優先していて、再編問題については、必ずしも急がなくてもいいのではないかという認識を示したが、普天間移設の問題については、いつごろ、どのような形で結論を出すべきだと考えるか。

(鳩山総理)

 まず給油問題、さらにアフガニスタンの支援問題について述べたい。いわゆるインド洋の給油支援に関して、来年の1月に期限が切れる。このことに関し、単純に延長するということは考えていない。その発想は今でも変わっていない。私が申し上げたいことは、給油をしないから代わりにアフガニスタン支援をやるという発想ではなく、本当にアフガニスタン、あるいは米国をはじめとする国際社会にも喜ばれる日本の支援のあり方は何かということをしっかり調査して、最も望まれている支援を積極的に行いたい。

 このことは、先般、オバマ大統領との日米首脳会談においても、若干申し上げた。すなわち、日本として何ができるのかという発想の中で、日本が得意とするような支援、たとえば農業、あるいは職業訓練といった支援ができるのではないかと検討してみたい。本当の意味で、結果として、米国を含めた国際社会も日本としてそういったことをしてくれることは有難いことだという思いを彼らにも持ってもらえるような支援をやることを現在考えている。オバマ大統領にとって、内政の医療保険改革と外交におけるアフガニスタン支援が二つの大きなテーマだと理解している。そのテーマに対する日本の支援のあり方をしっかりとみつめて、日米の間で緊密な連携をとりながら結論を見出していくことが、日米の同盟関係を今まで以上に力強く発進させることができることになると思う。その意味で優先したいと考えている。当然、米軍再編の中での普天間の問題も、沖縄県民の心情を考えれば一刻の猶予もない問題だと理解しているが、橋本政権でスタートした問題が未だに解決をしてこなかったということは、前政権の大変大きな失点ではないかと思う。そう考えればあまり時間的な余裕がないことも事実だと思っており、この問題に関しても、包括的なレビューの中で、最終的な結論を、あまり引きずらずに、一定の時間で見いだしていく必要がある。くどいようだが、そのときには日米両政府だけでなく、特に沖縄県民の思いに十分理解を示していきながら結論を作り上げていくことが肝要だと思う。

(問)

 G20の代表の一人がG8はいわば死の床にあると今日述べていたが、G8がなくなるべきと思うか。そうなると日本及び世界にどのような影響をもたらすだろうか。

(鳩山総理)

 私は、G8はなくすべきではないと思っている。なぜならば、昨日のワーキングディナーでも述べたが、G20は、20人から25人が集まって議論をして、そこで結論を出すのは至難の業。そうなると、政治指導者が20人、25人集まって結論を出そう、なかなかでない、出すためにはどうしたらよいか、頻繁に集まれないとなると、官僚の皆さんが事前に様々な調整をすることになりかねない。結果として、G20でいい結論を出そうとすればするほど、逆に官僚の皆さんの思いが前面に出てくるような中身になってしまうと思う。だから、G20で結論を出せないというわけではないが、今回もそれなりに立派な成果を上げたと思うが、私としては、あのような大人数で結論をだすようなテーマは極めて限られるのではないかと考える。

 G8であれば、政治家同士の中で活発にフランクに議論が行える。今日、短い時間ではあったが、カナダの首相との首脳会談を行ったときに、カナダの首相はまさに私の思っている通りのことを述べた。価値観が近い者が、思う存分自分の言葉で話すこと、これがG8の良さであるとのことであった。したがって、私は、G8、先進国の首脳が集まる政治的な意味はこれからもあると考える。一方、G8は、G8として必ずしも先進国だけではない、(アウトリーチなどで)途上国の方々も入ってくる、そのような中で、必要な議論というものも十分あると思っている。G20がプライマリーに重要になるという発想はそれ自体結構だと思うが、それによってG8の意味が無くなったとは感じていない。