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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 野田内閣総理大臣記者会見(2011年11月11日)

[場所] 
[年月日] 2011年11月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【野田総理冒頭発言】

 本日は11月11日ということでございます。東日本大震災の発災から8カ月目の節目を迎えます。この節目に当たりまして、改めて震災からの復旧・復興、そして福島原発事故への対応に最優先で取り組んでいく決意をまず表明をしたいというふうに思います。

 TPPへの交渉参加の問題については、この間、与党内、政府内、国民各層において活発な議論が積み重ねられてまいりました。野田内閣発足後に限っても、20数回にわたって、50時間に及ぶ経済連携プロジェクトチームにおける議論が行われてまいりましたし、私自身も、各方面から様々な意見を拝聴をし、熟慮を重ねてまいりました。この間、熱心にご議論をいただき、幅広い視点から知見を提供いただいた関係者の皆さまに心から感謝を申し上げいと{前3文字ママ}思います。

 私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました。もとより、TPPについては、大きなメリットとともに、数多くの懸念が指摘されていることは十二分に認識をしております。

 私は日本という国を心から愛しています。母の実家は農家で、母の背中の籠に揺られながら、のどかな農村で幼い日々を過ごした光景と土の匂いが、物心がつくかつかないかという頃の私の記憶の原点にあります。

 世界に誇る日本の医療制度、日本の伝統文化、美しい農村、そうしたものは断固として守り抜き、分厚い中間層によって支えられる、安定した社会の再構築を実現をする決意であります。同時に、貿易立国として、今日までの繁栄を築き上げてきた我が国が、現在の豊かさを次世代に引き継ぎ、活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかなければなりません。このような観点から、関係各国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものについて更なる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていくこととしたいと思います。私からは以上でございます。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、質疑に移ります。指名された方は、まず所属とお名前をおっしゃってから質問をお願いいたします。

 坂尻さん、どうぞ。

(記者)

 朝日新聞の坂尻です。

 今、総理、冒頭でTPPに関して、関係国との協議に入ると明言されましたので、これは交渉への参加方針の表明だと受け止めて、質問させていただきます。

 質問は二点あるんですが、まず一点は、昨日の政府・民主三役会議で、総理は一日ゆっくり考えさせて欲しい、とおっしゃって、この表明を今日まで一日延期されました。ただ、民主党の方ではまだ、慎重派の議員の方々が反発を強めていらっしゃいまして、党内では分裂や混乱、ということを懸念する声も出ています。こうした情勢を、総理としてはどのように受け止めていらっしゃるか。これが一点目です。

 二点目はですね、今回のその政府側の対応なんですが、直前にあったように、閣僚委員会ということの確認にとどめていらっしゃいますけれども、この閣僚委員会は全閣僚の方がメンバーでいらっしゃいます。全閣僚ならば、きちんと閣議に格上げしてですね、閣議決定をするという手法もあったかと思うのですが、内閣としての姿勢や覚悟、国民に対する示すに{前3文字ママ}ふさわしいテーマだと思うんですが、閣議決定というプロセスを取らなかった理由は何なのでしょうか。この二点を。

(野田総理)

 まず第一の質問でございますけれども、経済連携PT、先ほども申し上げた通り、大変長時間にわたって闊達なご議論をいただきまして、そして提言をまとめていただきました。その提言について、昨日前原政調会長からご報告をいただきましたけれども、要は、APECにおいて交渉参加の表明をすべきか。この議論については時期尚早である、あるいは表明すべきではない、という意見と、表明すべきである、という議論があって、前者の方がその意見は多かったと。従って、慎重に対応を、ということがご提起でありました。そういうご提起もございましたし、それを踏まえて、まさに熟慮をした、ということでございますが、政府・民主党の三役会議を断続的に行い、関係閣僚とも断続的協議を行った結果、今申し上げたような方向性を打ち出させていただいた、ということでございます。

 二点目が、何故閣議決定ではないのか、ということでございますけれども、これは別に、TPPの協議に入るか、入るという話で、協議に入る前に閣議決定、という外交交渉はありません。これはいかなる場合もそうであって、閣議決定が必要なのは、例えば政府が署名をする場合、あるいはいわゆる批准をする場合、そういう時には、これは閣議決定でありますけれども、これが外交交渉でありますので、そこは誤解のないように。でも、全閣僚の、まさに参加をしている関係閣僚委員会において、今申し上げた方向性、方針については私からご説明をさせていただきましたので、この方針に基づいて、これから対応をしていきたいというふうに思います。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 山崎さん、どうぞ。

(記者)

 テレビ朝日、山崎です。

 TPPの交渉に参加する、ということですけれどもですね、アメリカの議会ではですね、原則関税を撤廃するルールに対して、日本側はどこまでやる気があるのか、というふうな意見も出ていますし、今総理も言いましたけれども、国益の視点に立ってTPPの、関して結論を得たいとおっしゃいましたが、各国ですね、激しい外交交渉がこれから待ち受けていますけれども、具体的にどのような視点で、国益というものを勝ち取るのでしょうか。

 そしてですね、また、国益にそぐわないと判断した場合は、これは途中で離脱する、ということはあり得るのでしょうか。例えばですね、先ほど農業についても触れられましたけれども、農業についてこれまで、国会答弁で触れた4次補正予算案を含めて、どの段階でどういうふうに農業の対策を打つのでしょうか。

(野田総理)

 3点、ということですか。基本的にはこれTPPは、原則として関税を撤廃をしていくと、10年以内になくしていく、ということでありますが、その中身、例えば即時撤廃がどれぐらいあるのか、とか、あるいは長い時間をかけて段階的な撤廃、ってどういうものができるのか、とか、あるいは例外というのはあるのか、とかを含めてまだ、これ定まっていないというふうに思います。従って、協議に入る中でですね、国益をまさに実現をするために、しっかりと協議をしていきたいというふうに思います。

 それで、二つ目が農業だったですか。

(記者)

 離脱の話です、離脱です離脱。途中で離脱するか、です。

(野田総理)

 これは、協議に入る際には、守るべきものは守り抜き、そして、勝ち取るものは勝ち取るべく、ということの、まさに国益を最大限に実現をするために全力を尽くす、ということが基本であるというふうに思います。失礼いたしました。その上で、農業、4次補正の話・・。

(記者)

 含めてですね、農業対策ですね。

(野田総理)

 この間国会でご質問いただいたのは、二重ローンはどうするんだと。これは3次補正、今、衆議院を通過しましたけれども、ようやく与野党で合意した二重ローンの予算措置はどうするんだ、ということのお尋ねがあった中で、二重ローンの問題も含めて、あるいは追加財政需要が出た場合には予算措置をします、という言い方を私は申し上げていて、別に第4次補正という言い方はしていません。

 その予算措置はやるということなのですが、その上で農業に向けての予算措置、のお尋ねだと思いますけれども、これは10月に、食と農林漁業再生のための基本方針と行動計画をまとめさせていただきました。そこにはですね、規模の集約化、規模拡大、あるいは6次産業化、等々の項目があります。これを5年間で集中的に行っていく、というのが基本方針、行動計画です。それに基づいて、必要な予算措置を行っていきたい、というふうに思います。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 犬童さん、どうぞ。

(記者)

 日本経済新聞の犬童です。

 総理はこれからAPECのホノルルに出発されて、その方針を伝えることになると思うんですけれども、それはTPPの関係国の会合の場でおっしゃるつもりなのか、それともオバマ大統領との会談の場でおっしゃるのか、どういう場を想定して日本の意思を伝達されるおつもりなのかお伺いしたいということと、せっかくの記者会見なので消費税について、これからのTPPの次は消費税だと思うんですけれども、TPPのこの反対派との関係で、消費税の問題に影響はないか、あるいは自民、公明党の議員の論者の人たちは、消費税に反対の、今回の引き上げについて否定的な、その協議開始にですね、否定的な考え方を示されていましたが、党内と対野党で、消費税の準備法案について、どのような見通しを持っていらっしゃいますか。

(野田総理)

 明日ホノルルに向かってAPECを、というよりもですね、いわゆるTPP関係国との会議もあると思いますので、そこはちょっと扱いがまだオブザーバーなのかどうなのかわかりませんが、そこで可能ならば、その意思をお伝えをすると同時に、これは日米の首脳会談もございますし、議長国はアメリカでございますので、その際にもお伝えをするなど、関係国にはそれぞれしっかりお伝えをしていきたい、というふうに思います。

 それから消費税の話でございますが、これは税と社会保障、社会保障と税の一体改革、成案を6月にまとめて、それを具体的に今詰めていくという作業を行っております。社会保障の安定財源を確保するために消費税を充てていく、ということ。この議論は、厚生労働省の中の部門の下で、社会保障に関連するいろいろな審議会のご議論も行われていますし、税はこれから、税調において本格的な議論になっていくというふうに思いますが、それはまさに、成案で書いてある通りの具体化をしていくなかで、それは与野党も是非参加をしていただいて、野党にも参加をしていただいて、是非成案をまとめていきたいと思いますし、これは法律上は、平成21年度の税制改正法の附則に書いてある通り、23年度末までに法案を提出する、ということになっていますので、その準備をしっかりやっていきたいと思います。その可能性のお話だと思うんですが、これはもう大きな山ばっかりでありますけれども、今各地域でポスター貼らせていただいていますが、一つ一つ乗り越えていく、ということでしっかりと対応していきたいというふうに思います。

(内閣広報官)

 それでは次の方。

 廣川さんどうぞ。

(記者)

 アメリカの通信社のブルームバーグの廣川と申します。

 総理はTPP交渉への参加を内外に向けて表明したわけなんですけれども、ただ、今、国際的なビジネスの世界では、オリンパスの損失隠し問題が一企業の問題にとどまらず、日本企業の企業統治の在り方全体、日本の金融・証券市場の信頼性全体の問題になって捉えられています。TPP交渉参加以前の問題として、日本政府はこのオリンパスで起こった問題をどのように受けとめ、再発防止、信頼回復に取り組むおつもりか、お考えをお聞かせ下さい。

(野田総理)

 オリンパスについての不適切な会計処理があったということは、誠に遺憾であるというふうに思います。もともと政府としては、会計処理については厳格かつ透明にするようにすべきであると、またそのことが極めて重要であるというふうに考えてまいりました。従いまして、このような不適切な事例が出た場合には厳格な対応をしなければいけないというふうに思います。そういうことによって、日本の金融市場における信頼というものを是非とも確保していきたいというふうに考えております。

(内閣広報官)

 それでは次の方。

 それでは岩上さんどうぞ。

(記者)

 フリーの岩上安身です。

 総理は、なぜ国会でTPP交渉参加をすると断言した上で、ご自身の意思をお示しになった上で、十分な論議に臨まれなかったのでしょうか。それが一点目。

 それからもう一つ。PTで50時間論議したということですが、この論議は公開されませんでした。なぜ非公開で、密室での議論にとどめたんでしょうか。

 3点目。このPTにおいて圧倒的に少数派であった推進派の方から出た主張というのは、経済的なメリットを主張するよりも、これが本質的には安全保障問題だと、中国の脅威というものを指摘した上で、米国との関係を深める、安全保障上関係を深める上で必要なんだという意見でした。これは前原政調会長もよくおっしゃっておりますけれども、こうした安全保障問題との絡みでこのTPPを論じるというのは、公の場でなされていたことが非常に少ないと思います。総理のお考えをお示しいただきたいと思います。

(野田総理)

 最初の、まず国会の中で、国会審議の中で方針を示すべきだったんではないかというお尋ねでございますが、もちろんそれは間に合えばそういうことができたと思うんですけれども、政府、民主党内の意思決定のプロセスを経ることによって、結果的には今日は衆参の集中審議が終わったあとにその決定、結論を出したということになりました。これは結果的にはそうなったということでありますけれども、ただし、基本的な、例えばTPPのメリット、あるいはデメリットの問題については、これは審議ができたと思っていますし、これからも国会でのいろいろな審議の場においてはしっかりとご説明をしていかなければいけないというふうに思います。

 それから、2点目は、これはPTとしての何か決め方があったんだろうとは思うんです。その運営の仕方については、詳しくは承知をしておりません。その中で、党内の議論はそういう形でやっていただきましたけれども、ただ、このTPPの問題については、例えばネットで公開をしながらの討論会などもやってまいりましたので、できるだけ多くの人たちに、国民的議論に供するような、そういう工夫を、これから政府内においても与党内においても、していかなければいけないなというふうに思います。

 それから、安全保障との観点でこのTPPを論ずる議論があったというご指摘ですけれども、私自身は、あくまでアジア太平洋地域における、まさに成長力を取り込んでいくという経済の観点。特に貿易立国、投資立国である日本が、アジア太平洋地域において、よりフロンティアを開拓をしていくというところに意義があると思っておりまして、アジア太平洋地域における、まさにこれからの日本の存在感はどう考えるべきかということを、まず経済を中心に考えていて、その方向性を考えたということであります。

(内閣広報官)

 予定の時間が迫っておりますので、あと1問とさせていただきたいと思います。

 それでは、今市さんどうぞ。

(記者)

 TBSの今市です。

 TPPについて確認になりますけれども、総理はTPPの交渉参加に向けて関係国と協議に入ることにしましたとおっしゃいました。ストレートに交渉に参加しますという表現にならなかった、総理が使われたこの表現になったのは、昨日から一日じっくり考えたいとおっしゃったと聞いておるんですけれども、こういう表現になった理由についてお聞かせ下さい。

(野田総理)

 これは、TPP参加に向けて協議に入ると。それは、まさに国益を最大限実現をするための、まずプロセスの第一歩であるということであります。これまでは、昨年の11月、包括的な経済連携のための基本方針をまとめた中で、TPPについては情報収集のための協議ということでございました。その段階を、更に歩みを前に出すことによって、まさにTPP交渉参加に向けての協議という、そういう位置付けになったということであります。

(内閣広報官)

 それではこれをもちまして、総理記者会見を終了いたします。どうも大変ありがとうございました。