[文書名] APEC首脳会議内外記者会見
【野田総理冒頭発言】
APECは、各エコノミーの自発的な意思によって、アジア太平洋地域における経済面でのつながりを深め、地域の未来を語り合う場として、その創設以来、日本が主導して、そして育ててきた地域経済統合の試みである。太平洋のど真ん中に位置し、青い海と空が広がる美しいホノルルで、世界成長の牽引役であるアジア太平洋地域の確かな可能性を各首脳と改めて確認することができた。改めてこれからはアジア太平洋の時代だと実感した次第である。昨年我が国が議長国としてまとめた「横浜ビジョン」の理念を踏まえて、我が国として積極的に議論に貢献し、地域経済統合や経済成長推進の観点から、具体的な措置をとることに合意した。
特に、以下の3点は、我が国として大きな成果であると思っている。第1に、地域全体の経済成長を促すため、貿易を制限せずにイノベーションを促進するための共通原則、グリーン成長のための環境物品の普及のための取組に合意した。
第2に、APEC全体でのエネルギー効率向上の目標設定に合意した。私も、オバマ議長の求めに応じて、エネルギー効率向上に関するこれまでの我が国の経験と教訓、今後の挑戦について説明して議論をリードした。
第3に、アジア太平洋自由貿易圏、いわゆるFTAAPの実現に向けて、唯一交渉が開始されているTPPについて、我が国は交渉参加に向けて関係国との協議に入ること、この旨を紹介し、いくつかのエコノミーから歓迎の意が表明された。
二国間の会談においては、まず議長国のオバマ大統領をはじめ、胡錦涛中国国家主席、メドベージェフ・ロシア大統領、ウマラ・ペルー大統領との会談を行い、良好な雰囲気の下、2国間関係の強化やアジア太平洋地域における協力につき有益な意見交換をすることができた。オバマ大統領とは、APECでの協力に加え、来週開かれる東アジア首脳会議において米国が初めて参加することを踏まえて、日米両国がこの地域でリーダーシップを発揮していくことを確認した。
各エコノミーと協力し、来年のウラジオストク会合で更なる成果を目指していきたいと考えている。世界の成長センターたるアジア太平洋地域の活力を我が国の再生に取り込んでいくべく、経済外交を推進していく。
【質疑応答】
(共同通信・杉田記者)
冒頭で述べられたとおり、今時のAPECの機会に、日本のTPPへの交渉参加方針について説明され、オバマ大統領をはじめ複数の首脳から歓迎の意を受けられた。一方で国内では、これは正式な参加表明ではない、参加を前提としていない等の見方が強く、途中離脱を期待する声もある。このような国内外の認識のギャップをどのように受け止め、埋めていくのか。また今後、各国の事前協議をへて正式に交渉入りする際、政府・与党内の意志決定プロセスをもう一度経る必要があると考えるか。
(野田総理)
国内での記者会見においても、オバマ大統領をはじめとするTPPに既に参加している各エコノミーの指導者との会談の中においても、自分から述べたのは、TPP交渉参加に向けて関係国と協議に入るということである。すべて言葉は同じであり、それ以上でもそれ以下でもなく、そのまま受けとめていただきたい。今後のプロセスについては、関係国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものは何かということをしっかり把握、情報収集し、十分に国民的議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得る、というプロセスである。
(AFP・タンドン記者)
総理は、TPP参加交渉を開始されるということに関しても、ホノルル訪問に際しても、ルールに基づく秩序の構築がアジアに必要だといつも言及してこられたが、中国のTPP交渉参加に関し、どういった見方を持っておられるか。これは潜在的に有益なものなのか。また、中国の昨年の尖閣諸島付近での事件以来の変化をどう見ておられるか。中国は国際的なルールや基準をより受け入れるようになってきたと思われるか。そうではなくなってきているとお考えか。
(野田総理)
これは第三国の立場がどうかということを私が申し上げることは、これは僭越だと思われるが、いずれにしても、TPPについては、このAPECに参加をしているエコノミー全てに開かれているという事実を踏まえていただきたいと思う。全てに開かれており、それぞれの参加をするエコノミーのご判断だ、という風に思う。我が国としては、先ほどの議論にもあったとおり、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入るということであるが、ご指摘のあった中国との関係では、たとえば日中韓、あるいはASEANプラス3、ASEANプラス6と、FTAAPを実現する道筋はいろいろある。それらを我が国は、いずれにしても、積極的に推進をしていきたいという立場であるので、中国も含めAPECに参加をするエコノミーとは引き続き連携をしていきたいと考えている。
それから最近の中国の変化という話があったが、近年急激に発展を遂げている中国は、これは胡錦濤国家主席との会談でも申し上げたが、これはわが国を含む国際社会にとってはチャンスであると、中国の発展はそれはチャンスであるという認識の下、その中国と日本が両国の関係だけではなく、地域あるいは世界の平和、安定、そして繁栄にお互いに責任をもって役割を果たしていくということが、そして関与をしていくということが、肝要であろうと思っており、こういう大局的な観点から胡錦濤国家主席とは意見交換をさせていただいた。これからもさまざまな国際経済や金融の問題、グローバルな課題についてお互いに連携をしながら、協力をしながら、対応していくということが重要であると思っている。
(朝日新聞・金子記者)
消費税問題についておたずねしたい。APECでの、総理のTPP交渉参加方針で、消費増税問題がキックオフとなり、今後議論が本格化する。今回のTPP交渉参加方針は、賛成派から見ると「交渉参加」、反対派から見ると「事前協議」という、ある意味あいまいな決着のように思える。TPPより強い反発のある消費増税問題で、どうやって民主党内の理解を得ていくのか。総理は自ら政治生命をかける覚悟と気概を持ってことに臨んでいくお考えか。また、消費増税法案の成立について、「早期成立」との言及にとどまっているが、来年の通常国会会期内での成立を目指すということか。
(野田総理)
社会保障と税の一体改革、すなわち、社会保障がこれから本当に持続可能なのかどうか、若い世代も不安を持っているわけである。それを支えるための安定した財源を確保していかなければならないということで消費税が位置づけられているが、この問題は、どの内閣でも避けて通ることの出来ない、先送りの出来ない課題である。このような前提に立って申し上げると、TPPと比べてのお話があったが、我が党でも色々な意見があるが、消費税増税に反対をしているわけではなく、その前に経済の好転であるとか、様々な条件をしっかりと考えていこうという議論が多いと思っているので、それこそ丁寧な議論をしていくことが大事であると思っている。いずれにしても、6月に社会保障と税の一体改革の検討本部で成案をまとめた。その成案の具体化をしっかりとやっていきながら、法律上は、平成21年度の税制改正法附則第104条で、平成23年度末までに法案を提出するということであるので、法案の準備を政府与党でしっかり議論しながら、そして、野党にも協議を呼びかけながらまとめていきたいと思うし、法案を提出する以上は、全力を尽くしてその成立を目指すということが、基本的な姿勢である。
(ブルームバーグ・イトウ記者)
今回のAPEC会合でも議題の中心になったのではないかと思うが、欧州の債務危機の悪化についてお聞きしたい。世界の経済大国の一つとして、日本は、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)債の起債の内2割を購入するなど支援を続けてきたが、今月初めには1割程度しか購入せず、欧州が最も支援を必要とするときに日本の対欧州支援が縮小しているのではないかとの懸念がある。なぜ日本はEFSF債購入割合を縮小させたのか。今後、欧州の債務危機に対する支援について、日本はどのような支援策を考えているか。
(野田総理)
様々な意見交換はあったものの、自分だけではなく、今般ホノルルに集まったAPEC首脳のほぼ共通認識は、今時の欧州危機の問題については、まずユーロ・ゾーン、すなわち欧州の中で、先般合意された包括的な戦略の合意を着実に実施していただきたいということである。すなわち、まずは欧州で頑張っていただくということである。それが本当に市場に信任を与える第一歩である。そのことをしっかり行っていただきたいという思いが、各首脳の共通の思いであり、自分もそのように思っている。その上で、従来から申し上げてきたが、欧州が一体となって危機を克服する姿勢が示されれば、欧州金融の安定化は世界が望んでいることであり、協力できることは我々も行っていくつもりである。ESFS{前4文字ママ}債の割合については、元々固定的な割合を決めたことはなく、欧州が固まって対応するならば、相応の協力をこれからも行っていく用意があるということである。