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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN関連首脳会議内外記者会見

[場所] バリ
[年月日] 2011年11月19日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【野田総理冒頭発言】

 カンヌでのG20、そしてホノルルのAPEC、それに続いての今回のバリにおけるアジア・ASEAN諸国との諸会合に参加して、3週連続で大事な国際会議、外国訪問を行った。各首脳と短期間で何度も顔を合わせることによって、首脳同士の個人的な信頼関係を深める貴重な機会になったと思う。実に意義深い3週間であった。

 今般のバリでの会合の最大のテーマの一つは、ASEANとの「絆」を更に強化するという点であった。

 まず、日・ASEAN首脳会議についてであるが、8年ぶりに新たな日本とASEANの共同宣言「バリ宣言」と「行動計画」を採択した。ASEAN内の幹線道路や港湾の整備などを通じて、域内の人やモノの流れを円滑化する「連結性」の強化、及び日本とASEAN双方の経験を踏まえた、互いに自然災害の多い国であるので、防災協力の強化を確認した。また、民主化が進展しているミャンマーの開発計画に我が国として協力していく旨を表明した。

 次に東アジア首脳会議(EAS)についてである。今年から米国とロシアが新たに加わって、政治・安全保障面での取組が強化されることとなった。特に、アジア太平洋地域を連結する公共財である海洋に関して、国際法の重要性を確認することができた。我が国の提案を踏まえて、EAS参加国の間で海洋について協力・対話を進めることで理解を得ることができた。また、経済成長に結びつく低炭素社会の構築についても、我が国が提唱した構想につき各国の理解を得ることができた。今回の会議をきっかけとして、EASが、首脳が主導して共通のビジョンを培っていくための、ますます重要な場となっていく先鞭をつけたと位置づけている。

 自分は、これまで、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けて、様々な道がある旨を強調してきた。今般の会合では、TPPだけではなくて、いわゆるASEAN+3、ASEAN+6をベースにした経済連携の枠組み作りにも、我が国が先頭に立って貢献することを主張し、多くの国から賛同を得ることができた。特に、今回のASEAN関連首脳会議で、東アジア自由貿易圏構想(イーフタ)と東アジア包括的経済連携構想(セピア)について、日中の共同提案を踏まえて、ASEAN諸国と関係国との間で作業部会が設置される方向となったことは前進であると思う。

 続いてバイ{前2文字ママ}会談の結果、成果についてお話をさせていただく。今日行われました、日中韓の首脳会議では、日中韓FTAについては共同研究を年内に終えることで合意した。そのさきがけとなる日中韓投資協定についてはあと一歩のところまで来ているが、その合意に向けて強く自分の方から働きかけを行った。また、北朝鮮等の地域・国際情勢につき有益な意見交換を実施した。拉致問題の解決に向けて、引き続き中国・韓国の協力を要請した。

 中国の温家宝総理とは、短時間の懇談であったが、自分の訪中の際にじっくり話し合うことを確認した。

 ミャンマーのテイン・セイン大統領との会談では、ミャンマーの民主化と国民和解に向けた一定の進展を評価した。先方からは、我が国の支援への期待の表明がなされた。

 一連の首脳会議を通じて、ASEAN諸国から日本に対する熱い眼差しを肌で感じることができた。先人たちが培ってきた日本とASEANの友好協力関係を引き続き大事に育てて、豊かで安定したアジアの秩序形成、地域の共通のルール作り、協力のネットワーク強化を図っていきたいと考えている。

 会議の成功に尽力された、ユドヨノ大統領を始めとするインドネシア政府と国民の皆様に改めて感謝を申し上げて、自分からの冒頭発言とさせていただく。

【質疑応答】

(NHK 山口記者)

 本日、米国と中国の首脳による会談が急遽もたれた。米中関係は緊張しているかのようにも見えるが、その緊張を解くために、総理は日本の外交的な役割をどのようにお考えになっているか。また、日本自身が、尖閣諸島の漁船衝突事件で傷ついた日中関係をどのように立て直していくのか、お聞かせ願いたい。

(野田総理)

 中国との間では、まず、先般のホノルルAPECで胡錦涛主席と会談した。その時には、単なる二国間の関係を強化するのではなく、日中がまさに連携することは、地域と世界の平和・安定・繁栄に繋がるということをお互いの認識として共有した。それを踏まえて、戦略的な互恵関係を深化させていこうということが、先般の会談の共通認識である。今回短い時間であったが、温家宝首相ともそういう議論をして、自分の方からは、中国の発展は、日本を含む国際社会にとってはチャンスであり、来年は国交正常化40周年であるので、その年に向けて戦略的互恵関係を深めていこうということで、これも基本的な認識で一致した。その、まさにきっかけとなるような、年内の訪中を実現したいと考えている。

 先ほども少し触れたが、今回の一連の首脳会議において、東アジアの自由貿易圏構想(EAFTA)、これはいわゆるASEAN+3であるが、これに加えて、東アジアの包括的経済連携構想(CEPEA)、これはASEAN+6であるが、これについて、日本と中国が、作業部会を設置することをこれまでも提案しているが、その議論を加速化させていこうと、両国が今回ASEANに対する働きかけを強めた。基本的にはASEANも前向きな姿勢であるが、そういうような関係をしっかりと具体的にこれからもやっていきたいと考えている。

(コンパス紙 フィトリアント記者)

 米国の軍事力のアジア太平洋地域における拡大について伺いたい。米国はオーストラリアに米海兵隊を駐屯させるということであるが、これは、日本にとって長期的にどのような影響を与えるのか。どのような評価をしているか。

(野田総理)

 我が国としては、安全保障だけではなく、経済の面でも今回のEASへの米国の参加、あるいはAPECでの議論もそうであるが、アジア太平洋地域において、米国の関心がこの地域に高まって、加えて関与を深めていこうとすること、そのこと自体は歓迎すべきことであると、基本的にはそのように思っている。先ほど申し上げたとおり、今回EASに初めて米国が参加した。従来のEASの実務的な議論に加えて、政治や安全保障の対話を深めていく契機にもなるだろうと思っている。

 いずれにしても、日米同盟というのは、このアジア太平洋地域においては公共財であると思う。したがって、日米同盟を通じてこのアジア太平洋地域において、この地域における平和と安定に貢献していきたいと思っている。

(日本経済新聞 犬童記者)

 来年度予算編成が始まるのでそれについて質問する。復興債を除いて国債発行の水準は今年度を上回らない形でできるのか。消費税の増税につき、年末までに具体案を政府として閣議決定をすることはできるのか。閣議決定後に、自民・公明・野党側との協議を始めるのか。

(野田総理)

 今予算編成を一生懸命やっているところである。一定の経費についてはそれぞれ削減しながら、そこから捻出されたものを重点化枠という形で組み替えていく作業を行っているが、いわゆる国債発行を約44兆円に抑えるということは、中期財政フレームである。その中期財政フレームに基づいて予算編成をするので、44兆円以内に抑えるということを踏まえて、遵守しながら、また、遵守できるように最大限努力していくというのが基本的な姿勢である。

 税と社会保障の一体化の成案は6月にまとめられている。それに基づく具体化の中で社会保障改革の議論もあるが、それを支える消費税を含む税制の抜本改革を行うことになっており、これは基本的には年内を目処に結論が出るようにこれから政府税調を中心に議論が深まっていくことになる。それがまとまったら閣議決定というわけではない。国会が始まって、国会に法案を提出する時が閣議決定である。それ以前にこれは単に政府与党でだけではなく、社会保障の将来を持続可能なものにする、それを支えるための財源をどうするかということは、どの政権であってもやらなければいけない、先送りのできないことであるので、その前から与野党とは真摯な政策協議を行っていきたいと考えている。

(ロイター通信 ニシカワ記者)

 最近、金融市場の危機がある。投資家としてユーロ圏の債務危機に懸念を持っていることのあらわれであるが、アジアはどの程度欧州の問題に脆弱なのか。また、アジア諸国がいわゆる不測の事態への対応策を持っておくべきだということに賛成するか。もしそうであればどのような対応策が議論されているのか。

(野田総理)

 今日の日中韓の首脳会議でも国際経済の問題についてはそれぞれが意見を開陳した。その他のバリにおける一連の首脳会議においても、欧州の危機の問題について、それぞれの首脳が何らかの形で問題意識を共有している。その意味では、これは対岸の火事ではないということは誰でも思っていることであるが、そのショック、危機に対してアジア経済が脆弱化かというと、必ずしもそうではないと思う。総じて、アジアの通貨危機以降、マクロ経済政策については慎重を期してきており、健全な政策運営をしてきているということと、総じて経常収支の黒字化が進んできているということと、外貨準備も高水準にあるということなので、対外的ショックに対する対応力は従来よりも増していると基本的には思う。

 その上で、そうは言っても欧州の危機をいわゆるファイアーウォールできないで、伝播してくるような状況があれば、当然悪影響が出ることは間違いない。そのための対応はしていかなければならないが、その対応は基本的には金融面における協力であると思う。

 既にASEAN+3の枠組みの中でチェンマイ・イニチアティブを推進してきた。こういう実績もあるが、先立って10月にソウルを訪れた際に、日韓両国間に通貨のスワップをまとめた。従来の総額130億ドルから700億ドルに拡充するというものである。その後ほどなく中韓でも通貨のスワップを行った。こういう取り組み、いざという時に共同して対応しようという姿勢をそれぞれの国が持っておくということが大事であるし、今さらに日本が主導して議論をしているのは、危機予防の機能の導入の議論、地域レベルでの危機予防をどうするかという議論を主導している。これについても早急にまとめていく必要があると思うし、今回のASEAN+3の首脳会議でも自分から提唱させて頂いているところである。