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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 野田内閣総理大臣記者会見(2012年年8月10日)

[場所] 
[年月日] 2012年年8月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【野田総理冒頭発言】

 本日、社会保障一体改革の関連法案が参議院本会議におきまして可決・成立をいたしました。

 まず、この一体改革について、その意義を語る前に、2つのことから私は、お詫びしなければいけないと考えています。

 消費税を引き上げるということ、国民の皆様に御負担をお願いするということは、2009年の総選挙で私ども民主党は勝利をさせていただきましたけれども、そのときのマニフェストには明記してございません。記載しておりませんでした。このことについては、深く国民の皆様にこの機会を利用してお詫びをさせていただきたいと思います。

 2つ目は、中小零細企業の皆様など、日々の資金繰りに大変御苦労されている皆様がいらっしゃいます。家計のやりくりで厳しい生活の中で大変御苦労されている皆様がいらっしゃいます。そういう皆様にも等しく御負担をお願いする、そういう法案でございます。

 国民の皆様に御負担をお願いするということは、政治家としては、なるべく自分の任期中は避けたい、逃げたい、先送りしたい、そういう切ないテーマです。減税をするときは胸を張って言えるかもしれません。でも、増税をするときは本当に心苦しい、そういう気持ちでいっぱいであります。そうした2つの申し訳ないという気持ちを持ちながらも、なぜ社会保障と税の一体改革をやらなければ今、いけないのか、幾つかの観点から御説明をさせていただきたいと思います。

 1つ目は、社会保障の安定財源を早急に確保し、社会保障を支えていかなければならない状況に陥っているということでございます。

 長い人生の中で、残念ながら、時には病気になったり、けがをしたりすることはどなたにもあり得ることであります。だんだん年を老いていくということは、これは人の定めであります。そのときの生活をどうするのか。こういうときに出番があるのが社会保障の恩恵です。国民皆年金、国民皆保険、介護保険、こうしたさまざまな社会保障の恩恵にどなたもどこかの段階で浴さなければならない、私はそういう運命だと思います。

 この国民生活に直結をしている社会保障でありますけれども、人類が経験をしたことのないような世界最速のスピードで少子高齢化が進んでおります。その社会保障費は毎年1兆円規模で膨らみ続けています。その社会保障を支えるためにだれかが負担をしなければなりません。負担なければ給付なし。打ち出の小づちのようにどこかからお金が湧いてくるわけではありません。

 今回、消費税の引き上げという形で国民の皆様に御負担をお願いいたしますが、その引き上げられた分は、増収分はすべて社会保障として国民の皆様に還元をされる。すべて社会保障として使われるということをお約束させていただきたいと思います。

 2つ目は、未来を搾取するという、そういうやり方は、もはや通用しない、とるべきではないということであります。

 社会保障の給付は、高齢者中心、そして、負担は現役世代の所得税や保険料中心というやり方では、社会保障の持続可能性はありません。現役世代の負担だけでは足りなくて、将来世代にツケを回し、将来世代のポケットに手を突っ込んで、今の社会保障を支えるというやり方は、これは持続可能性がありません。

 従って、今回は、給付、負担、両方を併せて世代間の公平を図るという、そういう改革の理念の下で法案をまとめさせていただきました。未来を搾取するという社会には、将来に不安を抱いたまま、将来に夢を持たない社会が続くということであります。その流れを変えていく改革であるということを是非国民の皆様には御理解をいただきたいと思います。

 3つ目は、私どもの暮らしの安定のためには、日本という国の信用が失われてはいけないということでございます。

 今、欧州の債務危機、世界中が懸念をしている状況となっておりますけれども、ひとたび国の財政に対する信認を失ったときに、それが金融不安、経済不安、信用不安につながっていき、ひとたびそうした不安が広がった暁に、急いで対応をしようとするならば、年金等の社会保障を削り、公務員の給与をカットし、国民生活に甚大な悪影響を及ぼすようなことをやらなければ、そのような緊縮策をとらなければならないということを我々は目の当たりにしています。日本をそのような国にしてはなりません。

 長期債務残高は世界一の水準です。でも、金利が低利で推移をしている今のこの状況の中で社会保障の安定財源を確保し、財政健全化を同時に達成するということを今から歩み始めていくことが大事であるということについても、是非国民の皆様には御理解をいただきたいと思います。

 4点目は、このような困難を伴う課題解決でございますので、大変多くの御賛同をいただくということは容易ではございません。だからこそ、今までやらなければならない課題であると多くの政治家がわかっていながらずっと先送りしてきたのがこの一体改革だったと思います。

 今求められているのは、決めなければいけないときに先送りをせずに決めきる政治だと思います。決断しなければならないときに決断する政治を行うことこそ最大の政治改革だと思います。こうした必要性から、今回の一体改革を国会でお諮りをし、今日成立をさせていただきました。

 この改革を行っていくことは本当に困難を極めます。先輩政治家たちが消費税を導入するとき、あるいは税率を引き上げたとき、筆舌に尽くしがたい大変な御苦労をされたことを私も承知しております。実際、私自身も今日の成立に至るまでは、想像を超える厳しい困難があったということを体感させていただきました。

 よく私が、この改革には政治生命をかけると言っているけれども、なぜ震災復興や原発事故との戦いや経済の再生に政治生命をかけないのか、こういう御質問をいただきました。震災復興も、原発事故との戦いも、経済再生も、行政改革も、これは与野党問わず、どなたもやらなければいけないテーマだと思っています。全身全霊を傾けてやらなければいけないテーマだと思います。国民の皆様もほとんどの方が御賛同いただけると思います。しかし、国民の皆様に御負担をお願いするこのような一体改革は、国論を二分するテーマであり、政治生命をかけるという覚悟がなかったらば、ブレたり、逃げたり、避けたり、ひるんだりする可能性がありました。だからこそ、あえてこのテーマについては政治生命をかけるという不退転の覚悟の思いを述べさせていただきました。

 今日、こうして成立をさせていただき、3党合意に知恵を出し、汗を出し、そして審議を通じて御賛同、御支持をいただいたすべての議員の皆様、御賛同はいただけなかったけれども、多角的な観点から議論に参加をしていただいた議員の皆様、すべての議員の皆様に万感の思いを込めて感謝を申し上げたいと思います。

 なお、この一体改革をもってすべてが終わりではございません。国会審議を通じても、様々な宿題や検討課題をいただきました。こうした課題もしっかりとこれから取り組んでいかなければならないと思います。併せて、国民の皆様は一体改革とともに経済の再生、政治改革、行政改革、包括的にやってほしいと思ってらっしゃる、そういう御期待があると思います。そうした思いにもしっかり応えていく政治というものをこれからも実現していきたいと考えております。

 なお、最後に、別件ではありますけれども、本日、韓国の李明博大統領が竹島を訪問しました。今回の竹島訪問は、竹島が歴史的にも国際法上も我が国固有の領土であるという我が国の立場と相入れず、到底受け入れることはできません。私としても、李明博大統領とはお互いに未来志向の日韓関係をつくろうということで様々な努力をしてきたつもりでございますが、このような訪問はそうした中で極めて遺憾に存じます。

 日本政府としては、毅然とした対応を取っていかなければならないと考えています。本日、その一環で、韓国側に対して玄葉外務大臣から、厳重に抗議を行ったところです。また、抗議の意思を示すために、武藤駐韓大使を本日帰国させることとした次第であります。

 以上を申し上げ、私の冒頭の発言とさせていただきます。


【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、質疑に移ります。指名された方はまず所属と名前をおっしゃってから質問をお願いいたします。

 藤田さん、どうぞ。

(記者)

 NHKの藤田です。

 2点お伺いします。まず1点目は、衆議院の解散の時期です。今回の法案の成立で、先の3党の党首会談で合意した解散の条件は整うことになったと思うのですが、近いうちにという以上、遅くとも秋までには解散するお考えがあるのでしょうか。また、総理は赤字国債発行法案と衆議院の選挙制度改革法案を今国会で成立させたいとしていますけれども、この2つの法案が成立しない限り、解散はしないというお考えなのでしょうか。

 次です。2点目は、民主党の代表選挙についてです。民主党の執行部の中からも総理の再選を支持する声が出ていますけれども、いつ立候補を表明されるお考えなのでしょうか。また、立候補しないという可能性はあるのでしょうか。立候補される場合は、何を重点課題として掲げるおつもりなのでしょうか。この2点をお願いします。

(野田総理)

 まず、おとといの党首会談におきまして合意したことは、3党合意を踏まえて早期に一体改革関連法案を成立させる、ここのことは今日実現できました。その暁には、近いうちに国民の信を問うということでございました。その近いうちについてでございますが、今、秋かどうかという御指摘がございましたけれども、これは特定の時期を明示的に具体的にお示しするということはふさわしい話ではないと思っています。近いうちにという意味は、それ以上でも、それ以下でもないということで、私がその解釈をコメントすることは控えたいと思います。

 それから、赤字国債法案、特例公債法案と政治改革のことですね。

一票の格差を是正しなければいけない。これは違憲状態、違法状態でございますから、これは何かの引き換えにやるということではありません。一票の格差の是正と定数削減と選挙制度改革を包括的に処理するということ。これは一刻も早く、一日も早くやらなければいけないことであります。

 それから、特例公債法案についても、これも何かと引き換えにという話ではありません。ずっとこのまま放置をされていくならば、予算の執行がだんだん窮屈になっていきます。国民生活や経済に悪影響を及ぼさないためにも、これも一日も早く対応しなければいけない、法案を成立させなければいけないと考えています。

 その上で、最後が代表選をめぐる幾つかの御指摘でございましたけれども、今、こうやって9月8日までは国会の会期でございますし、様々な今、御指摘いただいたような重要な法案も残っております。まずはこの国会で様々な重要法案をきっちりと仕上げていく、処理をしていくということが私の責任だと思っていまして、代表選云々ということは今、考えておりません。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 池田さん、どうぞ。

(記者)

 西日本新聞の池田です。

 本日の一体改革関連法案の参院採決、昨日は、内閣不信任案の決議で民主党内から造反する議員が出ました。党代表として、どういう方針で処分をするおつもりでしょうか。

 また、昨日ですが、輿石幹事長が9月の民主党代表選、自民党総裁選で両党の党首が替わった場合というお話で、先日の谷垣総裁と野田総理の合意事項等について、2人の話はそれで終わりになるのでしょうというような、今回の合意が無効になると受け止められるような発言がありました。公党間の合意事項が党首交代によって無効になるのか。そういうお考えであるのかお聞かせください。

 最後ですが、冒頭発言でありましたが、李明博大統領の竹島上陸の件です。この件について、森本防衛大臣の発言が問題になっているようですが、更迭などのお考えはおありでしょうか。

 以上です。

(野田総理)

 まず最初の、昨日の衆議院の内閣不信任案に対する我が党所属議員だった人たちの投票行動についてでございますけれども、これについては幹事長を中心に党の執行部において、それぞれ確認をさせていただき、最終的には常任幹事会において、その方針を決定すると。そういうプロセスをたどっていくということでございます。

 輿石幹事長の発言についてのお尋ねでございますが、私も真意を聞いているわけではございませんが、記者の方からの仮定の質問について、仮定の話をあまり言っても意味がないという趣旨の中での御発言だと私は受け止めております。

 なお、そのことについての私へのお尋ねですから、また仮定のお話でございますので、それにお答えをする必要はないと思います。

 今日の防衛大臣の発言でございますけれども、これは私なりに理解をしていることでありますが、さっき申し上げたとおり、竹島は我が国の固有の領土である。歴史的にも、国際法上からも、これは明々白々であります。そのことは森本大臣もよくわかっているはずでございますので、これを韓国の内政問題と彼がとらえて言ったわけでは勿論あるはずがありません。内政上の理由、すなわち国内上の理由によって大統領がそういう行動をされたのではないかという推察をされたのだろうと思います。その辺の真意がきちっと伝わっていなかった部分については、今日は2回目の会見もしたと聞いておりますし、参議院の外防の理事懇談会でもその御説明をしたと聞いています。しっかり御説明をして、誤解を解いていただきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 ミズ・シーグ。

(記者)

 ロイター通信のシーグと申しますけれども、2009年の民主党の歴史的な勝利と政権交代からほぼ3年が経ちました。そのとき、国民の期待と希望に与野党も含めて応えていないというのが、多くの人の気持ちだと言えるでしょう。

 一体改革法案が成立して、今までできなかったことができたという点について、一定の評価があると言えるでしょうが、新しいガバナンスのやり方、新しい政治主導の下で既得権より個人家庭の利益を一番大事にするという姿勢に変わっていないという批判が珍しくありません。

 そういった批判にどうお答えになるのでしょうか。

(野田総理)

 民主党が掲げてきた、これまでの理念、国民の生活を大切にしていくということ。あるいはチルドレンファースト、あるいは地方主権、政治主導、こういう基本的な考え方、新しい公共、こういう基本理念は私は間違えていなかったと思いますし、そうした理念を踏まえたマニフェストに明記をされてきたテーマについて、できてないものもありますけれども、確かに。だけれどもできるだけ任期中においては実現をしていきたいという思いは変わっておりません。そのことは、これから国民の皆様にしっかり御説明をしていきたいと考えております。

 税と社会保障については、今回、与野党間で合意できました。震災復興等の様々な施策についても、これはお互いに胸襟を開いて議論しながら成案を得ることができたテーマもあります。そうした話し合う姿勢、対話の姿勢の中から私どもが描いている理念で、まだ実現できていないものについても、これから御賛同いただきながら進めさせていただきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 上杉さん、どうぞ。

(記者)

 フリーランスの上杉です。

 今、今日もこの官邸の前では原発抗議行動が行われていますが、ちょっとその確認なんですが、野田総理は以前、原発抗議行動の行為に対して大きな音と言ったと報道されていますが、それが事実かどうなのかひとつ確認させてください。

 それと、その抗議行動に関して、13の団体の代表者とお会いするということをおっしゃっているようですが、それはいつお会いするのか。あるいは会わないような状況になっているのか。それをお知らせください。

 3つ目、ちょっと関係ないんですが、重要なことですが、間もなく8月15日、終戦ですが、靖国参拝に関して、閣僚の2閣僚が参拝を表明しています。野田総理も野党時代、小泉政権時代ですが、2005年質問主意書で、A級戦犯は犯罪人ではないというような質問主意書を出して、小泉さんの参拝に関して若干賛同の意を表明していますが、今回、総理御自身、その2閣僚の参拝についての御意見と、総理御自身の靖国参拝の有無について、どのような立ち位置かお知らせください。

(野田総理)

 3点あったと思います。私が今、官邸の前で行動されている皆様の声を音と表したことがあるかどうか。ありません。ありません。なぜそういう報道がでたのか、よくわかりません。音と声は違うと思います。そういったことはありません。

 それから、本来ならば今日、そういう行動をされている皆さんの代表の方と、今日というか今週中にお会いしたいという形の調整をさせていただいておりましたけれども、ちょっと御案内のような政治状況だったものですから、それができない状況になりました。お盆休み中にお会いすることもなかなか困難だと思いますが、その後ぐらいに何とか日程調整をして、会うことは実現したいと思います。

 いろいろなお立場があります。賛成の方、反対の方、それぞれのいろいろなお立場の方の声に耳を傾けたいと私は思っています。日程調整中ということで、御理解いただきたいと思います。

 それから、靖国参拝に関しては、昨年の9月に野田内閣が発足したときに、総理大臣、閣僚については、公式参拝は自粛するという方針を決めさせていただいておりますので、この方針にのっとって私自身も、それからその他の閣僚も従っていただけるものと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、予定の時間が過ぎましたので、これで総理会見を終了させていただきます。

 どうもありがとうございました。