[文書名] 安倍内閣総理大臣就任記者会見
【安倍総理冒頭発言】
本日、第96代内閣総理大臣を拝命いたしました。先般の総選挙の結果を受けて、自民党、公明党で連立政権を樹立いたしました。今回の総選挙の中において、全国を遊説で回りながら、国民からの期待として、この政治の混乱と停滞に一日も早く終止符を打ってもらいたい、そういうひしひしとした期待を感じました。一方、まだまだ我が党に対して、完全に信頼が戻ってきているわけではない、政治全般に対する国民の厳しい目が続いていることを実感いたしました。その中で、内閣を発足し、一日も早く結果を出していくことで信頼を重ねていきたい、信頼を得ていきたい、そういう緊張感で今いっぱいであります。
この3年間、民主党政治の結果として、経済においても外交・安全保障においても、あるいは教育、暮らしにおいてもさまざまな課題が山積をしておりますが、過去を振り返っても、あるいは前政権を批判しても、今現在、私たちが直面をしている危機、課題が解決されるわけではありません。我々は過去を振り切り、今から未来に向かって力強く第一歩を踏み出していきたい、こう考えています。
国家、国民のために目前の危機を打ち破っていくという覚悟において、本日、危機突破内閣を組織いたしました。総裁や代表経験者あるいは次世代を担うリーダー候補に入閣をしていただきました。人物重視、実力重視の人事を行いました。危機突破のために十分にその力を発揮していただきたいと思います。
この危機突破内閣の発足に当たって、全ての閣僚に対しまして、経済再生、復興、危機管理の3つに全力で取り組むよう、指示をいたしました。特に危機管理に対しましては、現在も北日本の日本海側では劇的な大雪となっており、大きな被害の発生も懸念されます。先ほど内閣危機管理監に対して、人命の保護を第一に警戒対応に万全を尽くし、今後の大雪対策に万全を期すべく、対策室の設置を指示いたしました。政権を担うことになった以上、その瞬間から、油断することなく、全力で危機管理に当たる責任があります。そのことを閣僚全員に徹底をいたしました。
東日本大震災の被災地は、2度目の寒い冬を迎えています。いまだに32万人の方々が仮設住宅などで避難生活、困難な生活を強いられています。復興の加速化が何よりも重要であると認識をしています。被災地、とりわけ福島の現場の声に精通をした方に復興大臣になっていただきました。被災地の心に寄り添う現場主義で、復興庁職員の意識改革、復興の加速化に取り組んでいただきます。特に福島については、除染や生活再建など、課題は山積でありますが、新設をした福島原発事故再生総括担当大臣を中心に、関係省庁の力を結集して、国が前面に立って、国の責任において、福島の再生に取り組んでまいります。閣僚全員が復興大臣であるという意識を共有し、あらゆる政策を総動員してまいります。これにより、単なる最低限の生活再建にとどまらず、創造と可能性の地としての新しい東北をつくり上げてまいります。
強い経済は、日本の国力の源であります。強い経済の再生なくして財政再建も日本の将来もありません。長引くデフレによって、額に汗して働く人たちの手取りが減っています。歴史的な円高によって、国内で歯を食いしばって頑張っている輸出企業もだんだん空洞化しています。強い経済を取り戻す、これはまさに喫緊の課題であります。経済再生の司令塔として、日本経済再生本部を創設いたします。経済財政諮問会議も再起動いたします。新たに経済再生担当大臣、デフレ脱却・円高対策担当大臣、産業競争力担当大臣を設けて、きめ細かな政策実施に向けた体制を整えました。
内閣の総力を挙げて、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略、この三本の矢で経済政策を力強く進めて結果を出してまいります。頑張った人が報われる日本経済、今日よりも明日の生活が良くなると実感できる日本経済を取り戻してまいります。
そして、国益を守る、主張する外交を取り戻さなければなりません。日中関係、日韓関係、そして日本の外交・安全保障の基盤である日米関係にたくさんの課題があります。アメリカ、ロシア、インド、ASEAN諸国など、世界地図を俯瞰するような視点で戦略を考えていくことが必要であります。総合力としての外交を戦略的に展開してまいります。何よりも、日米同盟の信頼関係を再構築しなければなりません。先日、オバマ大統領と電話会談をいたしました。その際、長期にわたって関係を構築していくことで合意をいたしました。日本外交の基軸である日米同盟の絆を改めて強化していくことが、日本の外交・安全保障立て直しの第一歩であると認識しております。
総理として、国民の生命、領土、美しい海を守り抜いていくという決意を示していきたいと思います。今、この瞬間にも、尖閣諸島沖では、海上保安庁や自衛隊の諸君が日本の海や空を守っています。日本の安全保障は人ごとではなく、今、そこにある危機であります。新たに国家安全保障強化担当大臣を設けました。司令塔となる国家安全保障会議の設置など、内閣を挙げて、外交・安全保障体制の強化に取り組んでまいります。
現在、子供たちの命と未来が危機的な状況にあります。いじめや学力の低下など、さまざまな問題により、危機に瀕している教育の再生は政治の責任であります。さきの安倍政権時代に教育基本法を改正いたしました。改正教育基本法のもとで公教育の最終責任者たる国が責任を果たしていく仕組みづくりなど、より具体的な改革を進めてまいります。子供たちに世界トップレベルの学力と規範意識、歴史や文化を尊重する態度を育んでまいります。
一つひとつの国民の暮らしの不安を払拭していかなければなりません。安心社会をつくり上げることも安倍内閣の重要課題であります。笹子トンネル事故は、高度経済成長時代につくり上げられたインフラの老朽化に対する国民の皆様の不安を高めました。国民の命を守るため、また、日本の競争力を高めていくためにも、国土強靭化対策を進めてまいります。
持続可能な社会保障制度の確立も喫緊の課題であります。三党合意に基づきまして、社会保障・税一体改革を継続してまいります。また、女性活力・子育て支援担当大臣を設置いたしました。女性が活躍をし、子供を産み育てやすい国をつくっていくことも安倍政権の使命であります。まず、隗より始めろとの精神に基づいて、党の4役のうち2人を有能な女性にお願いをいたしました。今回の人事でも、実力本位で、積極的に女性を登用いたしました。
最後に、繰り返しになりますが、この政権に課せられた使命は、まず、強い経済を取り戻していくことであります。人口が減少していくから成長は難しい。確かに難しい条件ではありますが、成長をあきらめた国、成長していこうという精神を失った国には未来はないと思います。我々は、決断し、そして、正しい政策を実行することによって成長していく。明るい未来を目指して国民一丸となって進んでいく国づくりを目指していきたいと考えております。
私からは以上であります。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、質疑に移ります。
指名された方は、まず、所属と名前をおっしゃってから質問をお願いいたします。
それでは、佐々木さん、どうぞ。
(記者)
時事通信の佐々木です。よろしくお願いします。
6年前の第一次安倍内閣では、いわゆる側近議員を重用したお友達内閣への批判、不満というものが自民党内外から出されて、これが内閣の崩壊の原因になったと言われています。毎年首相がかわる流れというのはそこから始まったわけですけれども、今回、前回の反省を踏まえた人事ができたとお考えでしょうか。冒頭発言と重なりますが、お願いします。
また、今回の閣僚の顔ぶれに中国、韓国から警戒する声も出ているのですが、それについてはいかがでしょうか。
よろしくお願いします。
(安倍総理)
6年前、私は、まだ52歳になったばかりでありまして、今よりも若く、そして、理想に燃えておりましたが、肩に力が入り過ぎていたのも事実であります。私と考えを同じくする、同じ方向を見つめている、志を同じくする人々を集めようということで、力が入り過ぎた結果、そういう批判を受けたことは事実であります。
今回は、そうした観点から、必ずしも私と完全に意見が一致する人ばかりではなく、広い見地から能力を重視しながら、幅広く安倍内閣に参加をしていただいたつもりであります。これは評価は皆様にお任せをしたいと思います。
外交においては国益が第一であります。国益を確保する上において、時には国益どうしがぶつかる場合がある。そのときには戦略的な外交を展開していくことは当然であろうと思います。民主党政権はどうだったでしょうか。民主党政権はまさに歓迎されたではないですか。結果はどうだったかということをよく見ていただきたいと思います。
(内閣広報官)
それでは、次の方、佐藤さんどうぞ。
(記者)
日本経済新聞の佐藤と申します。
具体的な政策課題について3点、補正、TPP、原発についてお伺いします。
まず補正予算につきまして、規模はどれくらいを想定していらっしゃいますでしょうか。財源の不足分は国債発行で賄うことになると思いますが、民主党政権が採用しました国債発行の44兆円枠、これを見直すお考えでしょうか。
2つ目、TPPですが、自公の連立政権合意で国益にかなう最善の道を求めるとしています。こうした方針は交渉参加に前向きに進めるということのあらわれでしょうか。今回の組閣での経済産業大臣あるいは農林水産大臣など、関係閣僚の布陣に込めた狙いとあわせてお願いします。
3点目、原発についてです。民主党の原発ゼロという方針をどのように見直していくお考えでしょうか。原発の新規建設を含めまして、今後の方針を具体的にお聞かせください。
(安倍総理)
まず初めにTPPについてでありますけれども、TPPについては我々自由民主党の公約においては、聖域なき関税撤廃を前提条件とする以上、交渉参加に反対をするという考え方でありました。そして、今般、公明党との連立合意においては、国益にかなう最善の道を求めて、これは当然の言わば合意であり、また、公約であったと思います。
言わば経済交渉においては結果が全てであります。結果、国益が守れたか、得るものが得ることができたかという観点から、国益を守ることができるかどうかということを言わば中心に置きながら、我々はTPP、まだ十分な情報を、今、政権についたばかりでありますから、まず十分な状況あるいは情報を分析しながら、これから総合的に検討していきたいと思っております。
続いて補正予算についてでありますけれども、補正予算については大型の補正予算になります。その理由は、デフレ脱却が我々の政権に課せられた使命であります。そのデフレを脱却していく上において、まずデフレギャップを埋めていくことが重要であります。
そして、もう一点は残念ながら選挙の時期の関係によって、予算の成立が遅くなる可能性が高い中において暫定予算を組んでいくことになる。それをカバーしていく必要があるのだろうと思います。そういう意味において、大型の補正予算を組んでいくことになります。
それと同時に、財源についての質問がございましたが、必要な財源、これは今の基本的な考え方の中において、もちろん中身についてもしっかりと見極めを行っていくのは当然でありますが、将来につながる施策を見極めた上において、それに必要な財源は確保していきたいと考えております。
もう一点は原発でありますが、原発については我々自由民主党の基本的な姿勢もございますし、また、公明党との公約もあるわけでありますが、我々は国民の生活、暮らしに責任を負う政権として、当面の電力需要にどう対応していくか。これも直ちに検討していかなければならないわけであります。そして、経済の競争力についてもしっかりと検討していかなければ、国内の例えばものづくりの空洞化が進んでいく危険性もあります。その中においてまずは半年間において、原子力規制委員会において厳しいルールをつくっていく。これは安全が第一でありますから、その精神のもとに厳しいルールをつくり、そして3年間において、稼働すべきかどうかという判断を進めていくと同時に、再生可能エネルギーなど、そうした分野における開発、またイノベーションを進めてまいります。そうした中において、10年間でベストミックスを考えていくという基本的な考え方であります。
(内閣広報官)
それでは、次の方、ホワイトさん、どうぞ。
(記者)
ロイター通信のホワイトと申します。
2006年から日本の政治において、日本の総理大臣がころころかわってきました。今回、新しく安倍政権が誕生したわけなのですけれども、これも総理になられて2回目だと思います。こんなに総理大臣がころころかわるというのは、根本的な理由が何か制度上に問題があるのか、もしくは違うところに問題があるのか、このあたりのお考えを聞かせてください。
あともう一点なのですけれども、今回の安倍政権は長く存続できるのでしょうか。もしそうであれば、その理由について少し教えてください。
(安倍総理)
まず、どうしてこんなにこの数年間で総理がかわったのか。私は96代の総理大臣でありますが、90代の総理でもありました。またもう一度最初に戻って、また同じことがあっては決してならないと思います。ですから、私は1年間で終わらざるを得なかった政権の担当者として、大きな責任を感じています。と同時に、政権を担った経験、挫折をした経験を生かしていきたい。そうした不安を国民の皆様に二度と抱かせることがないような政権運営をしていきたい。今、まさに求められている“政治の混乱と停滞に終止符を打つ”ためにも、安定的な政権運営を行っていくことが我々の使命であろうと思います。
制度的な問題点うんぬんの話については、この制度の中において小泉政権は長期政権であったわけでありますから、必ずしも制度に帰する問題ではないのだろうと思います。
今後、今日発足した政権が安定的な政権となるように、これから結果を出していくことによって、国民の皆様の信頼を得て、そして安定的な政権としていきたいと思っております。
(内閣広報官)
それでは、次の方、林さん、どうぞ。
(記者)
朝日新聞の林と申します。よろしくお願いします。
集団的自衛権についてお尋ねいたします。
総理は持論として、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更について主張していらっしゃいます。自民党もそういった流れに沿って公約をされていたと思いますが、先ほどおっしゃった日米同盟の強化とも絡んでくるのかと思います。
来年の夏の参院選までにこれを実行するお考えはあるかどうか。また、その場合には、こういった解釈変更に消極的な公明党との関係を見直すお考えはあるかどうかお聞かせください。
(安倍総理)
まずは、自公関係でありますけれども、自民党と公明党の連立政権は今日発足をいたしました。この連立政権によって政権基盤は安定し、政策を実行できるわけであります。つまり、この連立政権については、言わばさらに強固なものにしていきたいと基本的にそう考えているわけであります。これが私の基本的な姿勢であります。
その上において、集団的自衛権の行使、解釈の変更についてでありますが、さきの安倍政権において、安保法制懇の結果が、報告は福田政権において官房長官に対してなされたわけであります。あの類型でいいのかどうかということについても、もう一度あの報告を安倍政権において、あのときの有識者から伺うことによって、また検討を始めていきたいと思っております。
(内閣広報官)
それでは、時間がだいぶ過ぎておりますので、最後の質問とさせていただきます。
七尾さん、どうぞ。
(記者)
ニコニコ動画の七尾と申します。よろしくお願いします。
総理として、公職選挙法改正について改めてお聞かせください。来年夏の参院選で実施できるスピード感で、インターネットを利用した選挙活動の解禁を目指すのかどうか。目指すとすれば、その意義についてもぜひ教えてください。
(安倍総理)
結論から言えば、来年の参議院選挙までの解禁を目指していきたいと思います。
意義については、今の選挙法自体がポジティブリストになっているわけでありまして、この法律ができたのは随分昔の話なのですね。そして今、インターネットを多くの人たちが活用しています。少数の人にとどまっているのであれば、これはやはり問題があるのだろうと思いますが、今や相当多くの方々が活用しているわけでありますし、さらにIT戦略会議を活性化させて、担当大臣を置いて、このITにおいても、日本がIT国家としてさらに成長していくように努力をしていきたいと思います。
そして、それと同時に、今、選挙において、インターネットを使わないということは、私はむしろ不自然なのだろうと考えています。むしろ自分の考えを多くの方たちに知ってもらう上においては、予算もかからないわけでありますし、効果的でもあるわけでありますし、そして多くの人たちが同じ土俵で戦うことにもなれるわけでありまして、特定の候補者がこれを使うことによってほかの候補者が不利にならないということにならなければいけない。ただ同時に、その中においてルールをどう設定していこうかということも当然考えていく必要はあるのだろうと思います。
(内閣広報官)
それでは、以上をもちまして、総理会見を終わります。
どうもありがとうございました。