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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣年頭記者会見

[場所] 
[年月日] 2013年1月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【安倍総理冒頭発言】

 先ほど、第2回日本経済再生本部、それに続いて閣議を行い、緊急経済対策を決定をいたしました。私から対策の位置づけと、そして内容のポイントについて、簡単に説明をさせていただきたいと思います。

 安倍政権は、政策の一丁目一番地を経済の再生と位置づけています。額に汗して頑張って働けば必ず報われる真っ当な社会を取り戻していくためにも、長引くデフレと円高からの脱却が決定的に重要であります。残念ながら民主党政権においては、経済対策は分配ばかりを重視をして、国全体としてどう稼いで、経済全体のパイをどう大きくしていくか、広げていくかということについては、十分ではありませんでした。発想が十分ではなかったと言っていいと思います。

 安倍政権では、まず政策の基本哲学を変えていきます。「縮小均衡の再分配」から、「成長による富の創出」へと大胆に転換を図っていきます。「委縮し続ける経済」に決別をして、イノベーションや新しい事業が次々と生み出されていくような、そして、それによって雇用と所得が拡大をしていくという「強い経済」を目指してまいります。強い経済を取り戻していくためには、大胆な金融政策、そして機動的な財政政策、そして民間投資を喚起する成長戦略という三本の矢を同時展開していくべきだと考えています。

 デフレ・円高からの脱却のためには、政府・日本銀行の連携による大胆な金融政策が不可欠であります。あわせて、日本銀行が供給したお金を使うことが必要です。このため、まずは政府自らが率先して需要をつくり、景気の底割れを防がなければなりません。

 他方、いつまでも国の財政で需要をつくり続けることはできません。持続的に成長するためには、企業がお金を借りて積極的に投資をして売り上げを伸ばす、これによって雇用や賃金を増やすという好循環を生み出していかなければなりません。そのためには、日本経済は成長していくとの将来への確かな期待を持てるような成長戦略が極めて重要であります。同時に、プライマリーバランスの黒字化も目指してまいります。

 今回取りまとめた対策は、従来とは次元の違うレベルで、一体かつ強力に実行する政策パッケージの第一弾であります。内容面では、この三つの重点分野によって構成されているわけでありますが、まずは「復興・防災対策」、そして「成長による富の創出」、3番目は「暮らしの安全と地域活性化」であります。

 この3分野に重点化をしているということが特徴であります。例えば命と暮らしを守るインフラの再構築を図り、国道整備だけでも約50万件を緊急点検いたします。

 国民の日々の暮らしを大切にする姿勢もお示しするわけでありまして、具体例を挙げれば、若者には正規雇用に熱心な企業を応援する仕組みをつくります。働く女性のために、子供の一時預かり、保育士の就職支援といった措置を講じ、地域での子育て支援を充実してまいります。子供やお年寄りのために、通学路の安全確保やバリアフリー化にも取り組んでいきます。前向きな町工場には、民主党政権の事業仕分けで廃止された「ものづくり補助金」を復活をさせて、試作品開発などを支援をいたしてまいります。それによって1万社を対象にしてまいります。

 さらに、税制措置として、額に汗して働く人々には、企業の給与支払いを拡大するための措置をとります。お年寄りにはおじいさん、おばあさんがお孫さんに教育資金を贈与する際の非課税措置を盛り込んでいきたいと考えています。このように、国民生活の様々な場面にきめ細やかな対応をする多彩な施策を盛り込んでいます。

 規模の面では、補正予算による財政支出は13兆円、事業規模は20兆円を超える、リーマンショック時の臨時、異例な対応を除けば、史上最大規模となります。この対策によって、実質GDPをおおむね2%押し上げ、約60万人分の雇用を創出してまいります。経済再生への強い意思と明確なコミットメントを示す本格的な経済対策に仕上がっていると思います。

 昔の自民党のように、無駄な公共事業のバラマキを行っているんではないかという批判も耳にしますが、それは違います。安易なバラマキではないということは明確にしておきたいと思います。我々は、まさに古い自民党から脱皮をしたわけであります。国民生活を守る事業、成長や地域活性化を促す事業に対象を重点化し、無駄にならないよう、中身もガラス張りにして、費用と効果の比較も見えるようにしてまいります。

 また、ニーズが高く早期執行が可能な公共事業や早期の市場拡大につながる施策を重視してまいります。経済効果が早期に出るような工夫も随所に凝らしています。今後、政府を挙げて、政策の早期実行とわかりやすい説明に努めるとともに、国民生活の向上につながっているか、しっかりとフォローアップをしていきたいと考えています。

 私は、年頭の記者会見において、経済再生に向けてロケットスタートを切りたい、こう申し上げました。新年早々から日本経済再生本部を立ち上げ、経済財政諮問会議も再起動いたしました。今般の対策も、そうしたスピード感ある政策実行の一環であります。閣僚、与党議員、各省庁の職員を始め、年末年始返上で尽力をした関係者の皆様に改めて感謝したいと思います。

 今般の対策とともに、来年度予算編成や税制改正作業を早急に進め、日本経済の再生と中長期的に持続可能な財政の双方を実現する道筋をつけていきたいと考えています。

 私からは以上であります。

 【質疑応答】

 (内閣広報官)

 それでは、質疑に移ります。指名された方は、まず所属と名前をおっしゃってから質問をお願いいたします。

 それでは、どうぞ。

 林さん、どうぞ。

 (記者)

 朝日新聞の林です。総理、よろしくお願いいたします。

 今、総理も経済効果を早期に出す工夫をというふうにおっしゃいましたが、具体的にどのように、直ちに家計にプラスに反映されていくとお考えかどうか。

 また一方で、経済財政諮問会議の民間議員からも指摘がありましたように、新たな借金による財政の悪化とか長期金利の上昇といった懸念についてはどのようにお考えか。

 こういった中長期の財政規律についてのお考えと、それをどのようにして総理として実行・担保されていくとお考えか、具体的によろしくお願いいたします。

 (安倍総理)

 今、御質問をいただいた点が極めて重要なポイントだと私も考えています。企業の収益を向上させて、そして雇用や賃金の拡大につなげていきたいと考えています。この場をお借りいたしまして、企業の経営者の方々にも御協力をいただきたいと思っています。

 また、そうした流れをつくっていくために、税制面でも支援をしていきたいと思います。国民生活の向上につながっているか、しっかりと私たちはフォローアップしてまいります。

 財政規律は極めて重要であると私も認識をしております。プライマリーバランスの黒字化を目指してまいります。

 ただし、強い経済の再生なくして財政再建も日本の将来もないわけであります。今回の経済対策は、経済の先行き懸念に対して強力なてこ入れを行うために、財政支出13.1兆円という思い切った規模といたしました。その内容も、即効性や需要創造効果の高い施策を優先して取りまとめております。

 実質GDPを押し上げる効果は2%、そして雇用創出効果は60万人程度が見込まれるわけでありまして、今後、来年度予算編成について、財政健全化目標を踏まえつつ経済の再生を目指していくとともに、日本経済再生と中長期的に持続可能な財政措置の双方を実現をしていく道筋を検討していく考えであります。

 (内閣広報官)

 それでは、次の方。

 足立さん、どうぞ。

 (記者)

 テレビ朝日の足立と申します。

 総理は今日の午後、この経済対策を説明することも兼ねて、関西の方に行かれます。その際に、大阪の方で日本維新の会の橋下徹大阪市長と面会されます。総理は維新の会とも距離が近いとされていまして、持論の憲法改正では協力に期待感を示されています。

 通常国会の召集を控えたこの時期に橋下さんと会談する意図と、あと、どのようなテーマについて意見交換をされたいのか、お聞かせください。

 あと、夏の参議院選挙に向けて、維新の会は与党に対抗するために民主党や第三極との共闘を模索する動きもありますけれども、そうした動きをどのように受け止めて対応されるお考えでしょうか。

 (安倍総理)

 まず最初に、東京と共に日本の経済を引っ張っていく大阪、関西地域は極めて重要だと考えております。その中において、関西を訪問いたしまして、当然、県知事、そして市長とお目にかかって、実情や彼らの要望をお伺いするというのは当然なんだろうと、こう考えています。

 同時に、維新の会のリーダーの一人である橋下さんや松井知事とお目にかかって、この国会において補正予算を早期に通過させていくことが景気、経済、地域の発展にとって極めて重要だということはお話をしていきたい。協力についてもお願いをしていきたいと思います。

 また、夏の参議院選挙に向けて各党がそれぞれ、いかに戦力を拡大をしていくかという中で、戦略を練っていくというのは当然なんだろうと、こう思います。我々は、一貫して申し上げておりますが、自民党・公明党で安定した政権をとっていく。そして、衆議院・参議院で過半数を目指して、そして、安定的な経済政策を進め、日本の強さを、強い日本を取り戻していきたいと、この基本的な考え方には全く変わりがないということも申し上げておきたいと思います。

 (内閣広報官)

 それでは、時間も迫っておりますが、もう1問だけいただきます。

 フォスターさん、どうぞ。

 (記者)

 AP通信のフォスターです。

 外交問題についてお尋ねします。総理は就任後、初の外遊で東南アジアを訪問されますが、狙いは何でしょうか。その地域における中国の進出について、日本と各国の間では連携はありますか。日中間では、尖閣問題を巡る関係悪化で、日本企業は中国での相当な被害をこうむり、日本経済も影響を受けました。尖閣の領有権で強い態度を示し、同時に日本企業や経済を守るには、どのようにバランスをとればよいでしょうか。

 (安倍総理)

 まず、最初の訪問地域としてASEANを選びました。2015年には、ASEANは共同体となっていくということを目指しています。つまり、経済圏としても、大きな経済圏が誕生していくわけであって、人口も伸びていく、この伸びていくASEANと連携を深めていく、経済においてもそうでありますが、エネルギーや安全保障の分野においても協力を深めていきたいと考えています。

 このASEANの私が訪問する地域、このベトナム、インドネシア、タイ、日本の正にパートナーと言ってもいいと思いますが、連携を強めていくことによって、日本の外交力を強化をしていく。そして同時に、経済発展、成長を図っていく。さらには、更なる交流を進めていくことによって、地域の安定に資することになっていくんだろうと考えております。ですから、私にとって、このASEAN訪問は極めて重要な訪問になるわけであります。その際に、私の外交についての、また、アジア外交についての考え方についても述べさせていただきたいと思っています。

 そして、韓国においては、朴槿恵(パク・クネ)氏が次の大統領の予定者に決定をしました。韓国にも新しい指導者が誕生したわけでありますが、日本でも政権が交代した。1日も早く朴槿恵新大統領と信頼関係を構築をしていく中において、お互いに自由と民主主義、基本的人権、法の支配と、価値を共有する国同士であります。共有する国同士としての関係を強化していきたいと思っています。

 その上で中国でありますが、尖閣について、この海と領土、これは断固として守っていくという姿勢は、いささかも変わりがありません。この問題について交渉するということは、余地はないということはもう既に申し上げてきているとおりであります。

 問題は、政治的目的を達成するために、中国に存在して、中国の経済・社会にも貢献をしている日系企業に被害を与えたり、邦人に被害を与える、これは国際社会で責任ある国家としては間違っているということは、はっきりと申し上げたいと思います。それは両国の関係を毀損するのみならず、中国の経済・社会にも大きな悪影響を与えるわけでありますから、そのことをお互いに理解しつつ、そういう関係を尊重するというのが戦略的互恵関係でありますから、戦略的互恵関係に立ち戻って、日中関係を私は改善していきたいと、このように考えています。

 (内閣広報官)

 それでは、以上をもちまして、総理会見を終わります。

 どうもありがとうございました。

 (安倍総理)

 どうもありがとうございました。