[文書名] 第5回アフリカ開発会議(TICAD V)共同記者会見
1.冒頭発言
【安倍総理】TICADVが,熱気のうちに終わろうとしている。自分が今度教わったことは,成長はアフリカにあり,伸びるアフリカに投資すべきは今ということである。何十人という指導者の方々と連続して会い,自分はかえって元気になった気がしている。アフリカの指導者は,自信に満ちており,夢見る力に溢れている。自信,そして夢を見る力,日本が取り戻さなければならないものは,アフリカにある。日本は,アフリカとの関係を太くかつ深くしなければならない。アフリカと一緒に,日本は自信を取り戻す。夢見る力を取り戻す。
私は,我々の心の地図にあるアフリカの色を,明るい希望の色に今こそ一斉に塗りかえるよう,国民の皆様に強く訴えたい。21世紀に半ばにかけ,アフリカは間違いなく成長の中心になる。そこに今投資しないで,いつ投資するのか。今投資しないで,私たちは,子や孫のため,成長の種をしっかりまいたと胸を張ることができるか。繰り返す。成長はアフリカにあり,伸びるアフリカに投資すべきは今である。
TICADVに参加した首脳の皆様には,この日本の思いをアフリカ大陸に暮らす10億人の人々に届けていただきたいと思う。TICADVでは,「強固で持続可能な経済」,「包摂的で強靭な社会」,「平和と安定」をつくり上げるさまざまな方法,アイデアを議論した。TICADが考える成長は,ただの数字で語れない。確かな平和を土台とし,恩恵が広く,深く人々に行き渡るものを成長と呼ぶ。内から湧き出る力によって,自律的に続くものを私たちは質の高い成長と呼び,今回のTICADでは,まさにそういう成長をアフリカと日本が手に手をとって求めていこうと確かめ合った。
議論の成果として,先ほどの閉会式では「横浜宣言2013」と「横浜行動計画2013-2017」が満場一致で採択された。今回,私が表明した最大約3.2兆円の協力を含むアフリカ支援策に対しては,あらゆる方面から非常に高い評価をいただいた。自助と自律,成長の重視,日本の支援の思想は,期待と信頼に迎えられた。日本は,約束を守る国であり,言ったことは必ず実行する。そのことを示すためにも,私自身,なるべく早くアフリカに行きたいと思っている。TICADVの成功に尽力された内外全ての皆様の労をねぎらうとともに,心からの御礼を申し上げる。
【ハイレマリアム・エチオピア首相】過去3日間の会議が終わり,いくつかの課題が提起された。それらは,アフリカと日本の双方にとり,非常に重要なものである。会議期間中,さまざまな議題が話し合われ,非常に有益なものであった。議論を通じて,日本とアフリカが協力すべき優先分野が特定された。会議全体を通して,日アフリカ関係は更に深化・強化すべきとの認識が共有され,TICADの枠組みは今後も更に強化されることになる。
優先分野の1つであるインフラ整備に関し,日本が関与し,日本の民間投資が果たす役割の重要性が確認された。日本政府が,TICADIVで掲げた対アフリカODA倍増の着実な履行やその他の支援にアフリカは大いに感謝している。そして,更なる日本からの投資が雇用を創出し,付加価値の高い生産と技術移転をもたらすことの重要性を指摘したい。また,新たなるフォローアップメカニズムによって,横浜宣言及び横浜行動計画の内容が実施されることを願っている。この場をお借りして,日本政府に感謝申し上げる。特に,安倍総理には,そのリーダーシップに感謝申し上げる。安倍総理から提案されたABE Initiative (African Business Education Initiative)が,アフリカの若者の能力強化につながるものと期待している。最後に,安倍首相には,ぜひアフリカを訪問していただきたい。
2.質疑応答
【毎日新聞・影山記者】アフリカにおける中国の政治経済両面での影響力が大きい中,どのように資源及びインフラ面で,日本企業の投資を進め,日本の存在感を増していくお考えか。また,総理は平和と安定への取り組みも強調されたが,今年の夏にマリで国連PKOが発足する。今後のアフリカでのPKOについてはどう協力していくお考えか。
また,会議ではアフリカ側からTICADのアフリカ開催の要請や,5年に一度ではなく,2〜3年おきに開くべきだという意見も出ていた。次回TICADは,中国が主催するアフリカ会合と重なる可能性もあるが,今後のTICADのあり方についての考えをお聞かせいただきたい。
【安倍総理】TICAD期間中,約40の首脳会談を行い,どの首脳からも,異口同音に日本の支援に対する評価をいただいた。そして,ある首脳は,多くの企業がアフリカに投資をしているが,日本の企業だけが職場に倫理を持ち込んだと言っていた。そういう意味においては,日本の支援あるいは日本企業の投資の仕方は,高く評価されていると思う。
日本は,アフリカのインフラ整備及び人材育成の支援を約束した。同時に,アフリカによる自由で安全な投資環境整備への努力を呼びかており,アフリカの自助・自立の精神を尊重しつつ,人づくりに重きを置いた日本の長年の支援及びビジネスは評価されていることから,これを今後とも継続及び拡大をしていき,官民一体となってアフリカ支援を行っていきたい。日本のWin-Winの関係をつくっていくという姿勢が,アフリカ側から評価をされているのだろう。今後,日本の企業が投資を増やし,それがアフリカの成長を促す投資となっていく。こういう日本の姿勢をこれからも堅持をしていきたいと思う。
また,アフリカの平和と安定はアフリカの成長及び民生の安定にも極めて重要だと思う。アフリカを含めたPKO活動を通じ,引き続き積極的に貢献をしていく考えである。
今般の自衛隊の活動地域拡大を決定した南スーダンでのPKO活動の貢献を通じて,アフリカの平和と安定及び繁栄に貢献をしていきたいと考えている。
次のTICADについて,さまざまな意見があるのは承知をしている。日本で開催することの利点は,多くの個別企業と出会える場をより多く提供できることである。実際に多くの企業を訪問し,あるいは現場に行くほか,多くの責任者と話ができるというチャンスがあると思う。いずれにせよ,日本とアフリカ,ひいては国際社会にとって最も良い形になるよう,アフリカの皆様あるいは共催者とよく議論をして,次のTICADがより良い形となるようにしていきたいと思っている。
【The Day紙・アデドジャ記者】TICADの中核テーマは,アフリカの経済成長に関連したものだと思うが,現在の世界経済は,先進国がハイテク技術で牽引している。日本がその例だと思う。日本は,アフリカが世界経済のキープレイヤーになるよう,アフリカに対して日本の技術を移転する計画はあるのか。
【安倍総理】今回のTICADは,アフリカン・フェア等を通じ,日本が誇る技術力の一端を紹介した。また,カイゼン,農業技術,母子保健等といった日本の誇る知恵やノウハウがあり,こうしたものをアフリカに伝えていきたいと思う。先端技術の観点から言えば,例えば,日本式の地デジが既にボツワナで採用されているほか,数カ国が導入を検討していることは,極めて喜ばしいことだと思っている。日本は,官民が協力してこうした技術をアフリカとともに働いていく中で,手に手をとって伝えていき,日本の技術をアフリカの成長に生かしていきたいと思っている。
【日本テレビ・渡邊記者】今回,官民を挙げてアフリカに投資及び支援していく旨打ち出したが,それに関連して経済全般について質問する。
まず,1万5000円を突破していた株価が,1万3000円台に急落し,アベノミクスへの不安の声も一部で出ている。この株価急落をどう受けとめているか。また,今後どういう対応をとるべきと考えているか。
それに関連して,アベノミクス第三の矢として,成長戦略を次々に打ち出している。更に農業や医療面をはじめとした大胆な規制緩和や構造改革を求める意見が国内外から挙がっている。安倍総理は,こういった声にどう対応すべきと考えているか。また,先日,中国がTPPの参加を検討する意向を表明したことに関し,中国が正式に交渉に参加した場合,どう対応されるかということもあわせて答えいただきたい。
【安倍総理】市場の今後の動きについては注視していく。しかし,マーケットの動きについて総理大臣としてのコメントは差し控える。先般,日本銀行の黒田総裁が,内外経済の変調をうかがわせる指標は出ておらず,日本経済は順調に回復への道筋をたどっているというコメントを出している。また,実態経済について言えば,昨年の7-9月にマイナス3.5%と,成長率がマイナスになっていた。しかし,今年の1-3月は個人消費が大きく改善をして,プラス3.5%となった。まさにマイナスからプラスに転じた。4月には,雇用及び消費あるいは生産といった全ての数字が改善している。そういう意味においては,確実に我々の政策は実を上げつつあり,我々はもっと自信を持ったほうがいいと思う。次元の違う大胆な金融政策を行っている中において,市場がまだそれに慣れていないという人もいる。日本銀行が市場と対話を進めていく中で,徐々に落ち着いていくものと期待している。また,今回,TICADVにあわせて来日したコロンビア大学のサックス教授やノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授とお話をする機会があった。お二人とも安倍政権の経済政策は正しい方向に向かっていると評価していただいたし,昨日,会談したキム世界銀行総裁からも全面的な支持をいただいた。今後も,強い意志を持って,今,進めている政策をしっかりと前に進めていきたいと思う。
3本目の矢である規制改革については,規制改革こそ成長戦略の1丁目1番地と認識している。TPP交渉参加を決定したときもそうであったように,私(安倍総理)はひるむことなくやるべきことはやっていきたいと思う。国際先端テストや国家戦略特区の手法も使いながら,岩盤に立ち向かっていく決意である。世界との大競争時代で,これだけやれば十分という安住の地はないわけであり,新たなアイデアが出れば,そういう提言があれば,次々とそうしたものを取り上げていきたいと考えている。
中国のTPP参加については,TPPは開かれた協定であり,いかなる国においても,TPPの要求する高い水準を満たす用意がある上で,正式に参加表明する場合には,TPP参加国がこれを判断することになると思う。まだ日本は,TPPに正式に参加をしておらず、コメントする立場にはない。
【AFP通信・ルイルリー東京支局長】日本は,アフリカの協力において,確かに多くのことを約束し,実行している。例えば,無償資金協力,円借款ほか様々な形を通じて,アフリカ大陸が発展・安定し,治安面でも紛争地域が安定するために活動している。
しかし,日本もアフリカに対して支援をしている全ての他の国と同じように,慈善でこういうことでやっているのではないと思う。道徳的なあるいは政治的な満足感だけではなく,例えば,2020年東京オリンピック開催への支持,アフリカ市場のシェア拡大,天然資源(石油や天然ガスなど)の確保等,アフリカから何か具体的な見返りを期待しているのではないか。TICADVの間に,そのような話を石油や天然ガスが豊富に埋蔵されている国の指導者との間でしたのではないか。
【安倍総理】日本が目指しているものは,日本とアフリカがともに成長していくということであり,日本とアフリカの互恵的な関係をつくっていくということである。TICADのテーマも躍動するアフリカと手を携えてということである。
日本は,例えばただ天然資源だけを日本に持ち込むというようなことはしない。産業の発展が同時に起こり,雇用をつくり,アフリカの人々を豊かにする。それをアフリカとともに目指していきたいと思う。
同時に,もちろん日本の企業はアフリカに投資をする,そういう状況をつくってもらえるようにアフリカ側にもビジネス環境整備への努力をお願いしていく。投資によって,雇用が生まれ,アフリカの人々の生活を豊かにし,そして,平和と安定にも繋がるのである。短期的なものではなくて,長期的な視野で,ともにWin-Winの関係をつくっていく,これが日本の基本的な姿勢である。