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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見(第39回ロック・アーン主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ロック・アーン ヒルトンベルファストホテル
[年月日] 2013年6月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 今回のG8サミットは、私にとって6年ぶりのサミットであります。サミットは、各国の首脳が率直に意見をぶつけ合うものであります。私は、今回のロックアーン・サミット出席にあたり、2つ狙いを定めました。

 第一は、私の経済政策について、G8首脳の理解と支持を得ること。「三本の矢」、特にこの度策定した成長戦略について、サミット参加国の理解と賛同を引き出すことが第一の狙いでありました。第二は、我が国の外交政策について、北朝鮮の核問題及び拉致の問題について、国益を踏まえた明確な立場を主張することでありました。二日間のサミットを通じ、この二つの狙いを達成し、大きな成果を上げることができたと思います。

 まず、我が国の経済政策について、議長であるキャメロン首相の指名を受けて、サミットの最も大きなテーマである国際経済に関するセッションで、私自身から、経済政策について直接説明する機会を得ました。G8首脳からは、強い期待と高い評価が寄せられました。サミットにおいて、我が国の経済政策がこれ程注目されたことは、近年なかったことと思います。日本経済の発展が世界経済の発展につながり、日本と世界がウィン・ウィンの関係を築く。この点について、G8の各首脳から、大きな期待が表明されました。

 次に、外交政策について、私は北朝鮮に関する議論をリードいたしました。北朝鮮による核の保有は認められず、北朝鮮は安保理決議を完全に実施すべきであると強く訴えました。さらに、拉致問題の解決の必要性を訴えました。これに対し、G8各首脳から力強い支持が示され、これがG8のコミュニケにも反映されました。また、緊迫するシリア情勢、テロ対策等のグローバルな課題についても首脳間で突っ込んだ議論を行いました。私からは、日本の考え方や取組みについて、しっかりと説明をいたしました。

 最後に、G8においても、各国との二国間会談においても、私自身も驚くほど、日本の、私の経済政策、三本の矢への強い関心が示され、各国がいかに日本の再生に強い期待を抱いているか、印象づけられました。日本は、再び世界の中心に躍り出ようとしている、そう実感したサミットでありました。それだけに、今後三本の矢を成功させ、日本をデフレから脱却をさせ、強い経済を取り戻して、世界経済の成長に貢献をしなければならない、その責任を痛感いたしました。私からは以上であります。

【質疑応答】

(NHK 原記者)

 今のお話の中でのアベノミクスについて強い各国から期待が示されたとのことでしたけれども、各国の理解が得られたというふうにお考えでしょうか。また、最近の為替や株価の動向を踏まえて、野党側からはアベノミクスに対する懸念も示されています。株価や為替が不安定な動向を続けていることについて、国民に今後どのように安心感を与えようとお考えでしょうか。そして、成長戦略や骨太の方針を巡っては、歳出の削減に向けた具体策が示されていないという指摘もあります。社会保障費の見直しも含めて、今後歳出の削減をどのように進めていくお考えなのか、具体的にお話しください。

(総理)

 まず、国際経済についての議論の場においても、また、あるいは、二国間の会談においても、日本が進めている経済財政金融政策について説明をしてもらいたいという話がありました。それだけ日本の経済、あるいは経済政策、そして日本の成長に対する期待は強いんだろうと実感したところでありますが、私の経済政策について強い期待と高い評価を頂いたと思います。議論の中で、経済成長を促進する日本の取組みを歓迎するという発言もありました。また、1年前と比較して、日本の経済成長が見られるというコメントもありました。サミットでも、今申し上げましたとおり、二国間会談においても、大変関心が高かったわけでありますが、やはり日本の経済成長に対する期待が大変強いということを強く印象づけられたところであります。日本と世界とのウィン・ウィンの関係のもとで、必ずやデフレから脱却して経済を再生させていかなければいけないという決意を新たにしたところであります。そして、株や為替の水準については、総理大臣としてはコメントをしないほうがいいと思います。私が申し上げるべきなのは、実体経済は着実に改善していっているということであります。GDPの成長率は、昨年の7月、8月、9月は、マイナスの3.6%だった。しかし、それが今年に入って1月、2月、3月は、プラスの4.1%、マイナスからプラスに、ネガからポジに、私たちが進めている政策によって変わったんですね。そして4月の数値を見てみると、消費においても生産においても数値は改善しています。また、有効求人倍率は0.89、リーマンショック以来の水準、いわば、リーマンショック以前に戻ったといってもいいと思います。成長率、生産、消費、雇用の全て改善しています。今回のサミットにおいても、こうした実体経済が改善しているということを前提に、強い期待と評価を頂いたと思っています。大切なことは、自信をもって、ぶれずに、今進めている政策を着実に実行していくことだろうと、そして現在好転しているわけでありますから、国民の皆様に丁寧に説明をしていきたいと思います。そして、もう一点、社会保障費についての今後の改革についての質問ですが、今後、まず進めていく上においては、経済の再生と財政健全化の両立が必要であるということであります。先週閣議決定した骨太方針においては、その道筋を示すことができたと思っています。国、地方の財政収支について、2015年度までに2010年度に比べて半減し、20年度に黒字化する。その後、債務残高の対GDP比の安定的な引き下げという財政健全化の目標を明確にお示ししました。財政健全化の目標の達成に向けた具体的な取組みについては、夏までに中期財政計画を作ってしっかりとお示しをしていきます。歳出については無駄をしっかりと省いていかなければなりません。社会保障についても聖域はありません。しかし同時に抑制ありきということでもありません。必要な経費についてはしっかりと質を守っていきますが、無駄があることも事実ですから、医療のICT化など、合理化重点化を進めてまいります。今までメスが入っていなかった生活保護も基準を見直しをし、不正受給対策を強化する法律を今国会で提出いたしました。就労に繋げていく取組みや適正化など、今後しっかりと取り組んでいく考えであります。経済再生と財政健全化の好循環を目指して、三本の矢に全力で取り組んでいきます。

(フィナンシャル・タイムズ紙・スミス記者)

 アベノミクスの政策が日本の円安を引き起こし、通貨戦争を引き起こすのではないかということで、近隣諸国から真の懸念が表明されている。G8サミットの場でドイツなどが、こういった為替レートに対しての懸念を表明しなかったか。こういった円安は正当化できるのか。また、信頼できる財政政策の必要性は要求されなかったのか。こういった信頼できる財政政策はいつ実現されるのか。10月の消費税引き上げまでに実現されるのか。

(総理)

 私の「三本の矢」は、あくまでデフレ脱却・経済再生を目指すものでありまして、国内目的を達成するものであります。為替を目標とするものではありません。この点については、これまで、G7やG20等の場でも明確に説明してきておりまして、各国から理解を得られているものと思います。

 こうした取組みを通じて、日本経済が再び活力を取り戻すことは、間違いなく世界経済にも良い影響を与えて、ウィン・ウィンになっていくと確信しております。

 財政健全化についても、デフレから脱却しない限り、財政再建はできないわけであります。デフレから脱却して力強く経済を成長させていくそのことによって税収も増やしていきますし、そして来年、消費税を、伸びていく社会保障費に対応していく。そして、国の収入を確保するためにも、消費税を上げていくことは決まっているわけであります。もちろん、経済は生き物でありますから、大きな変化、或いはまた、デフレから脱却できていないかどうか、4月5月6月の数値を見ながら、総合的に判断をしていきたいと思っております。基本的には財政健全化に向けて、しっかりと歩みを進めていきたい。もちろん、先ほど申し上げたように社会保障費も含めて、無駄は撲滅をしていくという考えで進めていきたい。そうすれば必ず、我々は財政健全化と経済再生、二つの目標を達成することができると確信いたしております。

 ただ、G8の場において、私が進めているこの政策についての懸念の声はありませんでした。それをはっきりと申し上げておきたいと思います。一部首脳から、一般論として金融緩和の持つ課題について話が出たわけでありますが、我が国の金融政策について特段の懸念が示されたという風には受け止めてはおりません。

(毎日新聞 中田記者)

 原子力政策についてお伺いします。原子力規制委員会が近く新たな規制基準を決定します。新基準は7月上旬にも施行され、電力会社の申請に基づく審査が始まりますけれども、一方で、原発再稼働には批判は根強くもあります。規制基準に適合すると認められた原発の再稼働は政府の成長戦略にも盛り込まれておりますけれども、総理は条件を満たせばできるだけ早く再稼働をさせるべきだとお考えでしょうか。一方で、関連して、ワルシャワでの東欧4カ国との首脳会談で、日本の原発技術輸出について、どのような方針をお伝えになったのかもあわせてお聞かせください。

(総理)

 まず再稼働については、安全を最優先いたします。原発の安全性については原子力規制委員会の専門的な判断にゆだねます。委員会が新たな基準に適合すると認めた場合には、その専門的判断を尊重して再稼働を進めていきます。その際、原発が立地する自治体等の関係者の理解と協力が得られるよう、最大限取り組んでまいります。

 東欧4カ国の首脳に対しては、福島原発事故の経験と教訓を国際社会と共有し、世界の原子力安全の強化に貢献していくことは日本の責務であるという私の考えを伝えました。東欧4カ国の首脳からは、原子力に限らず、エネルギー分野での日本の高い技術力への大きな関心が表明されました。その期待に応えていくため、原子力に加えて、省エネや再生可能エネルギーを含めたエネルギー分野での包括的な協力を東欧諸国と進めていく考えであります。

(ベルファスト・テレグラフ紙 マクアダム記者)

 今回北アイルランドを訪問された印象如何。また、アベノミクスの影響が北アイルランドと日本の関係、特に投資・観光に対する影響について伺いたい。

(総理)

 今回私は、北アイルランドを初めて訪問いたしましたが、北アイルランドの人々に大変暖かくおもてなしを頂き、誠に感激いたしております。もっと早く来たかったと思っています。平和の進展を受けて、新たな成長の機会をつかみつつあることに心からお祝いを申し上げたいと思います。

 エニスキレンやここベルファストの街と、自然の美しさや、今申し上げたように、人々のホスピタリティや献身さに、強い印象を受けました。一方、日本、日本人と共通点もたくさんあるようにも感じました。

 そして、北アイルランドに進出している日本企業関係者との意見交換を行いました。日本企業はこの地において2700名の雇用を生み出し、日本の高い技術力を生かして、北アイルランドの未来を切り開くために日々貢献しています。英国全体でも約14万人の雇用を創出し、自動車や研究開発などの分野でウィン・ウィンの協力を進めていると思います。

 私の政権の最優先課題は日本経済の再生でありますが、日本が再びしっかりと経済を成長させていくことによって、世界経済にも、北アイルランドの経済、そして北アイルランドの成長にも、大いに貢献できると思います。これからも高い技術力と地元の方との協力を通じて、日本と北アイルランド、日英関係を強化していきたいと思います。

 英国からの対日投資にも期待しておりますが、北アイルランドからも近い将来、ロビンソン、マクギネス両大臣が日本にいらして、投資誘致を行っていただくことを期待しております。