データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2013年7月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【冒頭発言】

 地球儀を俯瞰する外交を、マレーシア、シンガポール、フィリピンの訪問から再開しました。日本の国益はもとより、地域・世界の平和と繁栄に貢献する戦略的外交を進めてまいります。ASEANはアジア太平洋地域の安定と繁栄のための重要なパートナーであり、経済成長と安全保障の両面から重視してまいります。今回の訪問では、三ヵ国の首脳からは、日本経済がアジアの活力を取り込んで再生し、日本がこの地域でより積極的な役割を果たしていくことへの強い期待が示されました。自由、民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値を共有する諸国と、幅広い分野で連携を強化していくこと、日ASEAN友好協力40周年を機に日ASEAN友好協力40周年を機に交流を一層促進していくことで一致を致しました。

 シンガポールを訪問中の米国のバイデン副大統領と会談を致しました。先方より、アジア太平洋重視政策を実施しているところであり、日本が果たす戦略的な役割を重視しているとの表明がありました。世界の成長センターたるアジア太平洋地域の繁栄のためには、これまで以上に安全保障面の安定が重要となっており、日米同盟は益々大きな役割を有し、さらに強化されるべきであることで一致を致しました。この文脈で、TPPはアジア太平洋全体に資する意義を持っており、日米両国が交渉の成功に大きな役割を果たすべし、との考え方で一致を致しました。

 シンガポールでは伝統と格式のある「シンガポールレクチャー」の第33代スピーカーとして招かれました。第33代スピーカーとして招かれました。約千人の聴衆に対し講演を行い、変革に必要な意思と力が日本の政治に戻ってきたこと、三本の矢、特に三本目の矢である成長戦略は、ASEANと日本の経済に一層のwin-win関係をもたらすことを強調致しました。アジアの未来は明るい。自由を尊び民主主義を着実に育て、法の支配を重んじるところ、アジアには穏やかで豊かな安定と平和が来る。スピーチには一月に発表した「ASEAN外交に関する五原則」の考え方を

 全体として盛り込みました。このような私の思いは聴衆の皆様や三ヵ国の人々にしっかり伝わったと信じています。

 今回の訪問を通じマレーシアシンガポール、フィリピン、そしてASEANとの関係に友好協力四十周年にふさわしい大きな弾みを与えることができたと確信しております。改めて温かく歓迎して頂いた各国に、感謝申し上げたいと思います。 

 【質疑応答】

 (NHK 松谷記者)

 戦略的外交について。総理は、今回の訪問も含めてASEAN諸国との関係強化を着実に進めているが、一方で中国、韓国との首脳外交は滞っている。中国には「対話のドア」は開いている。韓国とは「喫緊の課題がない」というスタンスだが、状況の打開に向けて、今後具体的にどのように取り組んでいくのか、また26日のバイデン米副大統領との会談で、同副大統領が沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題で、日中双方に緊張緩和に必要な措置を要請したが、これに対してどのように対応するつもりか。

 (安倍総理)

 日中関係は最も重要な二国間関係の一つ。隣国であるからこそ、様々な問題が生じるわけでありますが、切っても切れない関係であることを双方が認識の上、お互いに努力していくことが重要であります。これこそが「戦略的互恵関係」であり、私の原点はここにあり、中国もその原点に立ち戻ることを期待しております。

 まずはお互いが胸襟を開いて話をしていくことが大切であり、外交当局間の対話を進めるよう私から指示をしています。条件を付けることなく、なるべく早く外相・首脳レベルの会合を持ちたいと考えています。

 韓国は、日本にとって基本的な価値と利益を共有する最も重要な隣国であります。現在、外交当局間での意志疎通を図っているところですけれど、冷静かつ静かな雰囲気の中において対話を通じて、両国関係を着実に発展させていきたいと思います。パク・クネ大統領とは電話会談を行いました。お互いの世代もだいたい同じです。是非首脳会談ができることを楽しみにしています。

 また、バイデン副大統領との会談ではまずはアジア太平洋地域の戦略的環境が変化をし、日米の同盟の重要性が増している中で、日米の同盟関係をより強化していくべきであると一致しました。それを前提に、尖閣における日本の立場については、十分にアメリカ側は理解しているわけですが、いわばエスカレートしないような形で収束していくことを期待しているという話がありました。日本は実際に、エスカレートさせないように、我々は冷静かつ毅然と対応をしていると話をしました。日本の立場や日本の対応の仕方については、アメリカ側も評価しています。

 (フィリピン・スター紙 リー・ブラーゴ記者)

 2006年の第一次安倍政権時は、フィリピンを「戦略的パートナー」と位置づけていなかったが、今はフィリピンが戦略的パートナーであるとし、自由と民主主義の価値観を共有していると言っているが、なぜ、フィリピンを重要視するようになったのか。これは領土紛争が背景にあるのか。

 (安倍総理)

 日本とフィリピンは、元々6年前の第一次安倍政権のもっと前から、実質的には「戦略的パートナー」だったと言えると思います。国際場裏においても、両国が互いに協力をして、アジア太平洋の様々な課題に対応してきたと言えると思います。日本とフィリピンは海でつながる隣国として、長い友好の歴史を育んできました。両国は、アジア太平洋を、力ではなく、法が支配する、自由で開かれた地域としていくことの戦略的利益を共有しています。

 両国は、経済・人的交流の面で緊密な関係にあるのみならず、ともに米国の同盟国であり、安全保障の面でも様々な形で協力してきました。

 フィリピンは、これからも信頼すべき重要なパートナーです。政権発足後、早速、岸田外相が訪問し、自分が今、フィリピンを訪問しているのは、その現れ。我々の政権の意志と言ってもよいと思います。今後とも、政治・安全保障、経済、人的交流とあらゆる分野でフィリピンとの関係を強化していきたいと思っています。

 (共同通信 中久木記者)

 消費税率の8%への引き上げについて総理は、4ー6月期のGDP成長率などを見て秋に判断するとしている。一方で浜田内閣官房参与は「増税を急ぐことはない」という考えで、税率を1%ずつ緩やかに引き上げる案を提案しているが、こうした案も含めて、複数の案を政府として検討する考えがあるのか。

 関連して、8月上旬に中期財政計画が策定されるが、これは消費税増税を前提にした計画になる見込みである。秋に消費税増税を判断するとなれば、時期的なずれが生じるが消費税増税判断の前倒し、あるいは中期財政計画策定の先送りの可能性はあるのか。

 (安倍総理)

 まず、複数の案を出すようにとの指示はまだしていません。消費税率の引上げについては、今年の秋に附則第18条に則って、種々の指標を確認し、経済情勢をしっかりと見極めながら判断していく必要があります。

 しっかりと経済を成長させていくこと、あるいはデフレ脱却をしていくこと、同時に財政再建を進めていくことをしっかりと勘案しながら、経済の指標を見ながら、内閣として私が適切に判断します。

 中期財政計画については、9月上旬のサンクトペテルブルグ・サミットに出せるよう、来年度の概算要求基準とあわせて8月に策定することとしたいと考えています。

 いずれにせよ8月に策定する中期財政計画は、2015年度のプライマリーバランス赤字半減目標の達成に向けた大枠を示すものであって、消費税率引上げを決め打ちするようなものではない訳で、このことを決めることと、この中期財政計画の策定と消費税の判断の時期については矛盾するものではない。あくまでも判断は今まで通り判断していく。中期財政計画は、今申し上げた考え方にのっとって策定をしていきます。

 (AP通信 テベス記者)

 日本は世界でも有数の海・空の防衛力を保持しているが、軍事力を最大限利用するには憲法が制約となっている。その意味で、憲法を改正する予定はあるか。そして、領土を守るために防衛力を強化しながら、軍国主義の台頭だと懸念されないようにするにはどうするのか。特に例えば中国、フィリピン、第二次大戦中に侵略した国々からそうした懸念が起こらないようにしながら、どのように防衛力を強化するのか。

 (安倍総理)

 まず、私の考えの基本は、地域の平和と安定が日本のみならず、アジア太平洋の繁栄の前提であり、同時に経済の繁栄が地域の平和と安定をもたらすというものである。

 憲法改正については「平和主義」、「国民主権」、「基本的人権」を当然の前提とした上で、現在の日本にふさわしい憲法の在り方について議論を深めているところであります。

 国際社会全体の安全保障環境の変化を踏まえ、日本の安全を確保し、日米同盟そして地域の平和と安定に貢献していくとの観点から、防衛大綱の見直しを行い、「国家安全保障会議」の設置、集団的自衛権の行使に関する検討等を進めていく考えである

 これらは、他の国々、日本以外のほとんど全ての国々が当然に行いうることの一部を日本でも可能にしようとするものであり、平和主義が大前提であります。地域諸国に誤解がなきよう、丁寧に説明していきたい。今回の訪問を通じてそれぞれの首脳に説明をしてきたところです。もう一つ付け加えれば、戦後日本は米国とともに、アジアの平和と安定に大きく貢献をしてきました。そして、これからもそのような役割を十全に果たしていく考えであります。