[文書名] 内外記者会見
【冒頭発言】
「日本と湾岸諸国との新しい関係構築に向けた歴史的な訪問。」
湾岸6カ国からなる湾岸協力理事会の議長国である、バーレーンのハリーファ首相は、日本の首相として初のバーレーン訪問を、このように評価していただきました。本年3月のサルマン皇太子の訪日に続く、今回の私の訪問で、日本食品の輸入規制撤廃が決まりました。1934年に、バーレーンから最初の原油が日本に送られて以来、80年に及ぶ友情が、今、さらに大きな実を結びつつあります。
「湾岸戦争当時、日本から受けた支援は、決して忘れない。これは、その恩返しです。」
東日本大震災後、400億円相当もの原油を無償で支援してくれたクウェートでは、ナッワーフ皇太子やジャービル首相が、私の感謝の言葉に対して、このように答えてくれました。エネルギーを依存する関係を超えた、日本とクウェートとの強い絆を実感できる訪問となりました。
そして、ここカタール。日本にとって、原油やガスの主要な供給国であり、また、震災後、世界最大級の復興支援を頂きました。ここでも、タミーム首長から、「日本は、平和と繁栄の学ぶべきモデル。日本企業は、カタールで大変尊敬されている。」との温かい言葉を頂きました。タミーム首長は、かつて訪日した際、日本の新幹線や遊園地で、秩序とマナーの素晴らしさに感銘を受けたとのことであります。そして、日本式の教育に高い関心を持っておられます。今回の訪問を機に、教育、医療、農業などを含めた、幅広い分野で協力していくことで合意できました。
日本は、原油やガスといったエネルギーを、中東に大きく依存しています。中東なくして、日本の国民生活は成り立ちません。だからこそ、私たちは、エネルギーだけの関係にとどまることなく、中東の国々が発展するために、貢献していかねばなりません。教育・インフラ・医療・農業など幅広い分野で、官民の力を結集して、日本の技術やノウハウで貢献します。経済ミッションの成果は、日本の成長に資するだけではなく、中東の国々とより重層的な関係の構築につながるものと考えます。今回の訪問で日本と湾岸諸国との戦略対話の早期開催で一致しました。
そして、中東地域の平和と安定も、我が国の国民生活にとって死活問題であることは、言うまでもありません。この地域の諸国との間で安全保障についての対話を拡大し、この地域で積極的な役割を、責任を果たしていかねばならない。そのことを忘れてはなりません。
世界のコンテナの約2割が通過するアデン湾において、日本の自衛隊の活動を、日本の船舶だけでなく、世界が頼りにしています。ジブチでは、自衛官と海上保安官の諸君が、海賊対処行動にあたっています。砂煙が舞い、気温が50度にも及ぶ過酷な環境のもとでも、高い士気で任務にあたっている彼らの姿は、私の大きな誇りです。
「日本の自衛隊は、地域の安定にとって、素晴らしい貢献をしている。」
ジブチのゲレ大統領からも、バーレーンで会った多国籍連合海上部隊のミラー司令官からも、自衛隊は高い評価を受けました。日本への国際社会の大きな期待を、改めて実感することができました。
地域の平和と安定に、さらに貢献していかなければなりません。今回の中東・ジブチ訪問は、その決意を新たにする旅ともなりました。
最後に、現下のシリア情勢について一言申し上げます。日本政府としては、シリアにおいて化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えています。化学兵器の使用はいかなる場合でも許されるものではありません。シリア情勢の悪化の責任は、人道状況の悪化を顧みないアサド政権にあることは明らかであります。日本政府は、事態の改善のため国際社会と緊密に連携していきます。
【質疑応答】
(NHK 長内記者)
今回の歴訪では、各国との協力関係の強化と地域情勢が取り上げられました。総理が掲げる包括的なパートナーシップの構築と総理自らのトップセールスの成果を、今後、どのように日本の経済成長につなげていく考えでしょうか。
また、総理はいまシリア情勢に言及されましたが、欧米諸国が軍事行動の検討に入る中で、日本政府としてどのように対応されますでしょうか。
(安倍総理)
日本の経済成長のためには、海外のダイナミックな活力を取り込み、日本の経済の成長につなげていくことが重要です。
今回訪問した各国との間では、「協働」、「共生と共栄」、「寛容と和」の3つの柱を基に、二国間関係を更に深化させ、エネルギーのみならず、政治、安全保障、経済、農業、医療、教育・人材育成といった幅広い分野で「安定と繁栄に向けた包括的なパートナーシップ」を構築することで一致をいたしました。
日本を代表する民間関係者と共に各国を訪問して、トップセールスを行い、日本企業の一層の進出への期待感や日本の技術力への高い信頼など、確かな手ごたえを感じました。JETROセミナーに600人もの方々が来られ、手応えを感じました。実際に日本の企業との出会いにつなげることができたと思っています。今後この今回の出会いが実を結ぶことに期待したいと思います。
次にシリアについての質問でありますが、私は、今回の湾岸諸国訪問において、現下のシリア情勢についての強い憂慮を伝えました。冒頭申し上げたとおり、シリアにおいて化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えています。化学兵器の使用はいかなる場合も許されません。シリア情勢の悪化の責任は、人道状況の悪化を顧みないアサド政権にあるのは明らかです。日本政府は、事態の改善のため国際社会と緊密に連携をしていきます。
なお、シリア情勢に対する日本政府の支援として、これまでに9,500万ドルの人道支援を行った他、ヨルダンに対する1.2億ドルの円借款を決定しています。シリア国内の反体制派掌握地域に対する保健分野等での支援も実施する方針です。今後の対応については、各国ともよく連携をとりながら、また情報収集しながら、この事態の改善に当たっていきたい。
(カタール国営通信・ルヘイラ記者)
カタールと日本の関係は、非常に高い協力レベルに達しています。今回の訪問により、二国間の協力が更にどのように進むと思われますか。
(安倍総理)
カタールは、日本にとって第2位のLNG供給国であり、第3位の原油供給国であります。また、日本はカタールにとって最初のLNG輸入国であり、カタール産LNGの世界最大の購入国でもあります。両国は、エネルギー分野を中心とした堅固なパートナーシップを基礎として、40年余りに亘る互恵関係を築いてきました。
今次訪問では、カタールとの間で、「安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ」を構築することで一致をしました。特に、私の立ち会いの下、外交当局間の政策対話、石油・天然ガス開発に関する協力、LNG分野でのカタール人研修生受け入れに関する3つの文書への署名が行われました。
今回、カタールとの投資協定交渉の開始で合意できたことは、今後の二国間関係を一層発展させるものと確信しております。これらは、私が2007年のカタール訪問で蒔いた種が結実しているということの好例であると自負しております。
日本としては、官民が力を合わせ、両国の経済・エネルギーのみならず、幅広い分野での協力の深化・拡大に向け、カタール側と協力を強化していく考えであります。
(産経新聞・峯記者)
総理はこの度クウェートやカタールとの間で、原子力安全での協力に合意しましたが、一方で、福島第一原発でタンクから汚染水が漏れ出し、海への流出について国内外で懸念が高まっています。この問題にどのように対応されるおつもりでしょうか。
(安倍総理)
福島の事故は、東京電力任せにせず、汚染水対策を含めて、国として緊張感を持って、しっかりと対応していく必要があります。
私から、経済産業大臣及び原子力規制委員長に対し、原因の究明と対応の対策を指示し、経済産業大臣が新たな対策に着手しています。タンク漏水への対応については、政府を挙げて、全力で取り組んでいく所存であります。政府が責任を持って対応し、国内外にしっかりと発信してまいります。
(ロイター・バクル記者)
先ほど懸念を表明されたシリア情勢についてお伺いします。人道援助を超えて、日本は、例えば、安全保障面で何を提供するのか。例えば武器の援助はあり得るのでしょうか。また、安全保障に関して、中東は、日本にとって、石油・ガスの最大の供給地域ですが、石油価格について懸念を持っているでしょうか。西側のシリアに対する攻撃をどの程度憂慮しているでしょうか。
(安倍総理)
日本は、これまで湾岸諸国に対して武器輸出は行っておりません。武器輸出三原則があるのはご承知のとおりであります。
日本がエネルギーの大部分を依存する湾岸地域の安定は、日本の安全保障や国際社会の安定に直結しており、日本として、関係国とも協力をし、積極的な貢献を継続していきます。例えば、テロとの闘いのため、2001年から2010年までインド洋において、テロ対策海上阻止活動に係る任務に従事している諸外国の軍隊等の艦船に対し、洋上補給を実施しました。2004年から、イラクの国家再建を支援するため、自衛隊が人道復興支援活動を実施しました。現在でも、中東地域を含む国際社会全体の平和と繁栄に貢献するため、自衛隊の護衛艦と哨戒機を派遣し、アデン湾で海賊対処行動を実施しています。今後は更に、テロ対策・治安、地域安定化や民主化支援といった協力により、地域全体の安定に向けて一層の役割を果たしていく考えであります。
また、シリアの状況については、先ほど申し上げたとおりであり、いずれにせよ日本も、国際社会と共に、暴力の停止、政治的な対話を行っていくこと、そして難民・避難民への人道支援等、直ちにやるべきことについても、国際社会とともに取り組んで行きたいと考えております。
(テレビ朝日 吉野記者)
総理は東京を出発する際、オリンピック東京開催をすべての訪問地で訴えていくとおっしゃっていました。実際、歴訪を終えてみてどのような手応えであったでしょうか。
また、ブエノスアイレスが近づいていますが、改めてブエノスアイレスに対する意気込みをお聞かせください。
(安倍総理)
各国には、日本が、東京オリンピック、パラリンピック、招致にかける熱い想いが十分に伝わったのではないかと思います。
私も自らブエノスアイレスに乗り込み、ぎりぎりまでIOC委員に訴えかけを行っていく考えです。東京招致の実現のため、最後の瞬間までオールジャパンで、できることは全て尽くしていきたい。私が、1964年に味わったあの感動を再び、多くの子供たちや日本人に共有して頂ければと思います。