[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見
【安倍総理冒頭発言】
昨日、55日間にわたる臨時国会が閉会をいたしました。この国会は成長戦略の実行が問われる国会である、国会の冒頭、私はそのように申し上げました。民間投資を喚起するための産業競争力強化法、規制改革の突破口となる国家戦略特区法、電力自由化のための電気事業法改正、再生医療を促進する法律、そして、農業の構造改革を進めるための農地集積バンク法、成長戦略の柱であるこれらの重要法律の成立は、回復しつつある日本経済がさらに力強く飛躍する礎となると確信をしています。特定秘密保護法ばかりが注目されましたが、まさに成長戦略実行国会と呼ぶにふさわしい国会となったと考えています。
さらに、これらの成立に当たっては、与党のみならず野党の皆様にも広範な御協力をいただくことができました。特に産業競争力強化法、国家戦略特区法、そして農地集積バンク法については、国会審議を通じて、与野党で協議が行われ、法案の修正で合意された後に成立をいたしました。国家国民のため、与野党の違いを超えて、国会総がかりで成長戦略を実現する、その強い意志を内外に示すことができた国会ではなかったかと考えます。
これは成長戦略関連法案だけではありません。日本の外交・安全保障政策の司令塔たる、いわゆる日本版NSC、国家安全保障会議を設置する法案については、民主党、日本維新の会との協議を通じて、修正を行い、みんなの党にも御賛同をいただいて成立をいたしました。先般、中国によって力を背景とした一方的な防空識別区の設定が行われましたが、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している現実があります。他方で、いかなる状況にあっても、国民の生命と財産は断固として守り抜いていかなければなりません。こうした点について、与野党の立場を超えて認識を共有できたからこそ、幅広い合意のもと、法案を成立させることができたと考えています。
国家安全保障会議は、早速、先週発足いたしました。今後、このNSCが各国のNSCとの間で情報のやりとりを活発に行ってまいります。今年1月のアルジェリアでの人質事件の際には、イギリスのキャメロン首相から情報提供を受けましたが、こうした情報交換を進めることが、国民の生命と財産を守ることにつながると確信しています。NSCの新たな事務局長には、すぐにでも各国NSCとの連携と密にするため、1月から世界を飛び回ってもらわなければならないと考えています。
しかし、世界各国では、国家秘密の指定、解除、保全などには明確なルールがあります。そのため、我が国がこうした秘密情報の管理ルールを確立していなければ、そうした外国からの情報を得ることはできません。さらに、提供された情報は、第三者に渡さないのが情報交換の前提であります。いわゆるサード・パーティー・ルールです。その上でチェック機能をどうつくるかが課題となりました。日本を守っている航空機や艦船の情報が漏えいしてしまうという事態になれば、国民の安全が危機に瀕することになります。また、人命を守るためには、何としてもテロリストへの漏えいを防止しなければならない、そういう情報があります。国民の生命と財産を守るためには、国家安全保障会議の設置とあわせて、一刻も早く、特定秘密保護法を制定することが必要でありました。
国会審議を通じて、日本維新の会、みんなの党など与野党で幅広い御議論をいただいた結果、12の論点について法案修正がなされたことは大きな成果であり、よい法律にすることができたと考えています。
審議過程では、秘密が際限なく広がる、知る権利が奪われる、通常の生活が脅かされるといった懸念の声もいただきました。しかし、そのようなことは断じてあり得ない。今でも政府には秘密とされている情報がありますが、今回の法律により、今ある秘密の範囲が広がることはありません。そして、一般の方が巻き込まれることも決してありません。報道などで、友だちから聞いた話をブログで書いたら民間人でも厳罰とか、映画などの自由な創作活動が制限されるといった話を耳にして、不安を感じておられる方々もいらっしゃるかもしれません。しかし、そういうことは決してありません。むしろ、これまでルールすらなかった特定秘密の取扱いについて、この法律のもとで透明性が増すことになります。そのことは明確にしておきたいと思います。
外交・安全保障政策を国民の皆さんと情報を共有しながら、透明性を確保した上で、進めるべきことは、もとより言うまでもありません。今後とも、国民の皆さんの懸念を払拭すべく丁寧に説明をしていきたいと考えています。
先週、5.5兆円の経済対策を決定いたしました。景気の回復を、所得の上昇につなげ、消費を押し上げる。そのことがさらなる景気回復につながる。こうした経済の好循環を実現するためには、これからが正念場です。成長の実感を国民の皆さんへ、全国津々浦々にまで広げていくことができるよう、さらに努力を積み重ねてまいります。
今年も残りわずかとなりましたが、来年度予算の編成に全力を挙げてまいりたいと考えています。
私からは以上であります。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、これから皆様からの質問をお受けいたします。質問をされたい方は挙手をお願いします。私が指名いたしますので、所属とお名前を明らかにしてから質問をお願いいたします。なるべく多くの方に御質問をお願いしたいので、簡潔にお願いいたします。それでは、御希望される方、どうぞ。
では中田さん。
(記者)
毎日新聞の中田です。
まず、特定秘密保護法についてお伺いいたします。特定秘密保護法については、成立後も国会での審議は不十分だったというような批判が強く、報道各社の世論調査でもそれは表れていると思います。総理は、この法律について、批判はどこに原因があるとお考えになりますか。
もう一点。法律の施行日は公布の日から起算して1年を超えない範囲で定めるとされています。総理は既に発足したNSCを有効に機能させるために、できるだけ早い時期の施行を目指すお考えですか。それとも、世論の批判等を配慮して、できるだけ1年に近い準備期間を設けるお考えでしょうか。
(安倍総理)
まず、厳しい世論については、国民の皆様の叱正であると、謙虚に、真摯に受けとめなければならないと思います。私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと、反省もいたしております。
しかし、先ほどお話しをいたしましたように、今までの秘密について、秘密の指定、解除、保全ルールがなかった、そこに問題があるのです。例えば、いわゆるあの日米安保についての密約の問題。私は、官房長官や総理大臣を経験しましたが、その私も、あのいわゆる密約と言われた事柄について説明を受けなかった。
しかし、今回は、今後、この法律ができたことによって、今後は変わります。総理大臣は今後、特定秘密について、情報保全諮問会議に毎年毎年、報告をしなければなりません。ですから、当然、項目に応じた特定秘密について説明を受けます。受けた説明をこの諮問会議に説明をします。そして、諮問会議はその意見を国会に報告をする。これが大きな違いです。
ですから、今までのように総理大臣も知らないという秘密はあり得ない。そして、誰がその秘密を決めたかも明らかになります。そういう意味においては、まさにしっかりとルールができて、責任者も明確になるということは申し上げておきたいと思います。
また、今ある例えば特別管理秘密、42万件あります。この42万件のうち、9割は衛星情報です。恐らくこれは皆さんも御存じなかったと思います。私も知らなかったのですから、当たり前ですね。そこに問題があるのです。これからは、こういうカテゴリーが明らかになります。9割が衛星情報。そして、そのあと、多くが暗号です。そしてさらには、それぞれの自衛隊の艦船等、細かい性能も全部秘密になっています。そういうものがカテゴリーとして明らかになっていく。どういうカテゴリーになっているかということについては、いわば透明性は増していくということになります。
42万件も総理大臣は管理できるのかという批判もありましたが、まさにそういう中において、9割は衛星写真なのですから、その衛星写真というカテゴリーになります。この解像度自体がどれぐらい精密に撮れているかということ自体が秘密ですから、それはそれでひとくくりになっている。あとは、暗号、武器の性能、そして残りについては、さらにカテゴリーが分かれていくことになっている。それを総理大臣は把握をしますから、格段にそういう意味では、ルールのもとで指定が行われ、解除が行われ、さらには誰が責任を持っているかも明らかになっているということは、はっきりと申し上げておきたいと思います。
廃棄においてもルールができます。今まで4万件廃棄されたうち、3万件が民主党政権時代、たった3年間のうちに防衛機密、廃棄されました。どうして廃棄されたのか、誰に責任があったのか、これも明らかでないということも、この法律によって起こらなくなるわけでありますから、つまり、格段に透明性も責任もルールも明確になるのだということは、はっきり申し上げておきたい、このように思います。こういう説明をしっかりとしていけば、必ず私は国民の皆様の御理解をいただけると思います。
そして、いつ施行していくか。これは、まず1年ありきということでもありませんが、しっかりと、チェック機能も含めて、この制度設計を行っていく。今、申し上げたみたいな説明をしっかりと行っていく。その上において、しかるべき時に施行していきたい、このように考えております。
(内閣広報官)
それでは、次の御質問を受けます。
緒方さん、どうぞ。
(記者)
TBSの緒方です。
日中、日韓関係についてお聞きします。総理も先ほどお触れになったように、中国による防空識別圏の設定に関連しまして、不測の事態を回避するための方策、メカニズムは必要だというようにお考えでしょうか。
それから、第二次安倍政権発足から間もなく1年になりますけれども、中国、韓国との首脳外交は行われていません。対話のドアは常にオープンというように総理はおっしゃっていますけれども、首脳会談実現に向けた具体的な対応についてお聞かせください。
さらに、総理は日中関係等に配慮する形で、靖国神社の参拝を見送ってこられました。年内の参拝は行わないお考えでしょうか。
(安倍総理)
アジア太平洋地域の平和と繁栄のためには、日本と中国、韓国の間で意思の疎通を図っていくことは有意義であります。中国、韓国との首脳会談については、現時点で見通しがあるわけではありませんが、困難な問題があるからこそ、前提条件を付すことなく、首脳同士が胸襟を開いて話し合うべきだと思います。対話のドアは常にオープンであります。中国、韓国側にも、ぜひ同じ姿勢をとってもらいたいと思います。
防空識別圏の設定については、政府としては、これに毅然かつ冷静に対処していきます。同時に、日中間で無用の誤解や摩擦を減じ、不測の事態の発生を避けるため、防衛当局間の連絡体制を強化することが必要であると認識をしています。
第一次安倍政権の際に、日中首脳会談において、防衛当局間の連絡体制を強化をし、不測の事態の発生を防止することで一致をいたしました。その後、具体的な連絡メカニズムについて、大筋合意をいたしました。しかし、残念ながら、いまだ中国はその運用開始に合意をしていません。政府としては、引き続き連絡メカニズムの運用を早期に開始することを中国に働きかけていきます。中国がこれに応じることを期待したいと思います。
靖国参拝については、国のために命をささげた方々に尊崇の念を表することは当然のことであります。同時に、この問題が政治問題、外交問題化することは避けるべきであるというのが私の考えでありました。私が靖国神社に参拝するか否かについては、今、申し上げるべきではないと、こう考えています。
(内閣広報官)
それでは、次の質問。
では、阿比留さん。
(記者)
産経の阿比留です。
秘密の指定解除のルール化に関連して、1つお伺いいたします。国民が国政について正しい判断を下し、評価するには、政府からの正確で適切な情報の開示、提供が必要です。一方、最近では、菅政権が中国漁船衝突事件の映像を恣意的に隠蔽し、国民から判断材料を奪い、さらに目隠しした事例がありました。総理はこれについてどうお考えになり、あるいはどのように対処されていくお考えかを改めてお聞かせください。
(安倍総理)
菅政権が隠したあの漁船のテープは、もちろん特定秘密には当たりません。問題は、あのときにも発生したわけなのですが、つまり、誰がその判断をしたのか、明らかではありませんね。菅総理なのか、仙谷官房長官なのか、福山官房副長官なのか。誰が、本来公開すべき、国民の皆様にも公開をし、世界に示すべきですね、日本の立場の正しさを示すテープを公開しなければならないのに公開しなかった、間違った判断をしたのは誰か。このことも皆さん分からないではありませんか。しかし、今度の法律によって、そもそもこれは特定秘密にはなりませんが、もし特定秘密としたのであれば、その責任も全て所在は明らかになるわけでありますし、5年毎にですね、それはこの指定が解除されるかどうかということについてもチェックされることになるわけでありまして、大切なことは、しっかりとルールを定めて保全をしていく、保全はきっちりとしていくということではないかと思うわけであります。
そして、当然、そうした特定秘密もそうなのですが、秘密文書は、歴史の判断を受けなければなりません。つまり、国立公文書館にスムーズにそれが移管される。そのルールも今度はちゃんとでき上がるわけでありまして、現在の状況よりもはるかに私は改善されると、このように思っております。ですから、この法律が施行されれば、菅政権で行った、誤った、政権に都合のいい情報の隠ぺいは起こらないということは、断言してもいいと思います。
(内閣広報官)
では、関口さん。
(記者)
ダウジョーンズの関口と申します。
総理は今国会を成長戦略実行国会と位置づけていらっしゃいましたが、海外の投資家の間では減税や規制緩和がなかなか進まない中、アベノミクスの3本目の矢の弱さを指摘する声も聞こえております。特に、法人税減税がなかなか行われないことに対しての批判がありますが、復興法人税廃止よりも踏み込んだ減税への総理のコミットメントはどのようなものかお聞かせください。
あと、国家戦略特区での減税の見通しについてはどうお考えでしょうか。
(安倍総理)
まず、この国会において産業競争力強化法、また、国家戦略特区法、こうしたものも成立いたしました。また、農業を成長産業にするために40年以上続いてきた米の生産調整を見直し、いわゆる減反の廃止を決定いたしました。農業分野において減反の廃止なんか絶対に自民党できないと言われてきた。これを私たちはやったのです。やるということを決めました。
法人実効税率についても、来年度から2.4%引き下げることを決めました。さらにその後の法人税率の在り方についても、グローバル経済の中での競争力等も考えながら検討を進めていきます。
また、国家戦略特区における税制措置についても、研究開発や設備投資に関する税制を含め、現在、税調において議論をしていただいております。
安倍政権の改革に終わりはありません。年明けには、今後、実行する成長戦略関連施策を実行計画として閣議決定し、実施時期と担当大臣を明らかにしていきます。あわせて、成長戦略のさらなる深化を図るために、雇用、人材、農業、医療、介護といった分野のさらなる構造改革に取り組んでいきます。
(内閣広報官)
予定の時刻が過ぎておりますので、最後の質問にさせていただきます。
では、小川さん、どうぞ。
(記者)
読売新聞の小川です。日本版NSCについてお伺いします。
日本版NSCは外交・安全保障の司令塔として、首相官邸主導の外交を安定させるということが狙いだと思いますけれども、ここをもう少し具体的に、外交・安全保障政策の調整、立案、そして関係国、アメリカなどとの調整がどのように変わるのか、どのように変えるおつもりか、お伺いしたいと思います。
それに関連して、事務局となる国家安全保障局、これがまだ未設置ですけれども、さらに局長の人選、谷内内閣官房参与の名前も挙がっていますが、この人選をいつごろまでに終えるのか、国家安全保障局はいつごろまでに設置するおつもりでしょうか。
(安倍総理)
私は国家安全保障会議を外交・安全保障政策の司令塔として最大限活用し、政治の強力なリーダーシップのもとに国家と国民を守り、世界の平和と安定により一層積極的に貢献していくための外交・安全保障政策を推進していく考えであります。
国家安全保障局長には、谷内内閣官房参与を任命する予定であります。谷内局長のもとに国家安全保障局を年初にも発足をさせ、本格稼働させたいと考えています。
国家安全保障局が発足した暁には、谷内局長には、直ちに世界を飛び回っていただきまして、米国や英国を始めとする主要各国のNSCを訪問し、緊密に連携させていきたいと思います。いわば、日本を守るために、よりよい外交・安全保障の政策を立案をしていくためには、正しい情報の収集と分析が必要であります。日本の持っている情報だけでは不十分でありますし、政策立案をしていく上においても、政策協議をしながらアドバイスを受けていく必要もあるでしょう。そういう意味においては、谷内参与に英国、米国はもちろんでありますが、そういう国々との意見交換、情報交換、情報の提供を受けていくということをしっかりとやっていただきたいと思います。
もう既に、各国のNSCから、日本のNSC、そしてNSCの局長と、そうした意見の交換も行いたいという話も来ておりますし、また、情報については、まだ施行はされていませんが、日本の、秘密をしっかりと管理をしていくという意志を確かめることができたので、今まで以上に情報を提供しやすくなったという声も伝わってきております。
(内閣広報官)
以上をもちまして、記者会見を終了いたします。
どうもありがとうございました。