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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2013年12月14日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【安倍総理冒頭発言】

 微笑みを絶やさず、他人を思いやり、前向きで勤勉。ASEANの空気は私たち日本人をふるさとに戻ってきたような気持ちにさせてくれます。これまでに訪問したASEANの国々では、どこでも子どもたちが人懐っこい笑顔で迎えてくれました。

 ASEANからも日本へ多くの観光客の方々がいらっしゃいます。今年は昨年と比べて、タイから7割、ベトナムから5割、観光客が増えました。私たちのおもてなしの心を伝えることができた結果だと思います。

 あの東日本大震災の際には、ASEANの皆さんが惜しむことなく支援の手を私たちに差し伸べてくれました。インドネシアの若者が日本語で歌ってくれた「日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ」というエールは今も忘れることができません。

 フィリピンでのすさまじい台風被害では、日本の医療チーム、1,200人規模の自衛隊員らが緊急支援を行いました。互いに思いやり、困った時は助け合う。自然とそう思い、身体が動くのが私たち日本人であり、ASEANの人々です。

 日本企業は長年にわたってASEAN各国への投資を積極的に行い、貿易を拡大してきました。そこには向上心にあふれ、勤勉に働くASEANの人たちがいたからに他なりません。そして、日本が高度成長に成功し、経済大国へと発展したように、ASEANは今、活力溢れる世界の成長センターとなりました。

 私たち日本人とASEANの人々は似た者同士、ともに手を携えながら友好の歴史を紡いできました。南シナ海から東シナ海へ南北に延びるシーレーンを古来、多くの人々が自由に行き交っていました。1つの海に囲まれた、切っても切れない共同体、日本とASEANが真のパートナーとなるのは、歴史の必然であったと思います。

 パートナーであればこそ、さまざまな課題も生まれます。しかし、日本とASEANはそうした課題があるからこそ、対話を進め、対話の中から解決に向けた道筋を見出してきました。40年前の日・ASEAN合成ゴムフォーラムがそのスタートです。対話を重ねながら、ともに進歩し、ともに繁栄する。日本とASEANはそうやって40年間にわたり友好を深めてきました。今日の日・ASEAN特別首脳会議は、そのパートナーシップをさらに進化させる、次の40年間への素晴らしいスタートとなったと考えています。共同議長を務めてくださったブルネイのボルキア国王には心からの感謝の意を表したいと思います。

 カンボジアでは、ジャパン・ホスピタルとも呼ばれる母子保健センターが乳幼児の死亡率を半減させました。日本の女性たちがたくさんの子どもたちとお母さんの命を救っています。こうした保健・医療分野での協力は、ASEANの人たちの生活水準を押し上げます。災害対応においても日本は高い技術を持っています。エネルギー不足や公害といった制約を乗り越えてきた、日本の経験もまたASEANの人々のために、もっと生かせるはずです。ともに進歩する。日本とASEANは、よりよい暮らしのためのパートナーです。

 ミャンマーでは最近、寿司が好評だそうです。この1年で50軒以上の日本食レストランが次々と生まれています。ラオスの黒ビールが日本のコンテストで金賞を受賞して輸出されてくる時代です。

 今回、日・ASEAN包括的経済連携協定では、投資とサービスのルールについて実質的に合意することができました。日本とASEANとの間で、物の貿易だけではなく、サービスの取引や投資が自由に行き交うような経済圏をつくる。ともに繁栄する。日本とASEANは繁栄のためのパートナーです。

 ともに進歩し、ともに繁栄する、そのために日本とASEANはともに平和を守っていかなければなりません。自由な海や自由な空がなければ、互いに人々が行き交い、活発な貿易を期待することはできません。国際法に基づいた紛争の解決、法の支配といった原則は進歩や繁栄の基盤となるものです。だからこそ、日本とASEANは平和と安定のパートナーでなければなりません。

 今回の会議では、私は日本とASEAN諸国の防衛大臣による協議の場を持つことを提案し、今後進めていくこととなりました。災害対応やサイバー空間への対応といった分野での協力を進め、共通の利益である地域の平和と安定を守るために、政治・安全保障分野での対話を重ねてまいります。日本としても積極的平和主義の旗のもと、この地域の平和と安定に、これまで以上に積極的な役割を果たしてまいります。

 沖縄では、マレーシア代表のワンザック選手とナジール選手が大活躍しています。シンガポールのサッカーリーグでは日本のチームが頑張っています。来春には、ASEAN各国からサッカー少年たちが日本に集まり、日本の子どもたちと交流試合などで友好親善を図ることになりました。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、日本だけでなく、アジアが開催するオリンピック・パラリンピックでもあります。私はこの機に、JENESYS 2.0の枠組みなどを活用し、日本とASEANの若者たちのスポーツ交流をさらに深めていきたいと考えています。

 今年から仮面ライダーがインドネシアの子どもたちのヒーローに加わりました。ドラえもんの四次元ポケットにASEANの子どもたちが釘づけになる時代です。日本とASEANの子どもたちが一緒にスポーツで交わり、同じ文化を楽しむ。心と心のパートナーとして育まれた子どもたちが大人となって、日本とASEANの次の40年間を切り開いていってくれるものと期待しています。40年後の日本とASEANの姿はどうなっているでしょうか。これからもともに進歩し、ともに繁栄し続ける共同体、今よりももっと自由に人や物、サービスが行き交う平和な共同体、今日ここから新たな日・ASEANパートナーシップのスタートが切られました。40年後の日本とASEANの大人たちにそう思ってもらえるような会議になったと考えております。

 私からは、以上であります。

 【質疑応答】

 (内閣広報官)

 それでは、皆様からの質問をお受けいたします。質問を希望される方、挙手をお願いしまして、私が指名をいたします。所属とお名前を名乗ってから質問をお願いいたします。多くの方に質問をお願いしていただきたいと思いますので、簡潔にお願いいたします。

 それでは、日本の方から先に始めたいと思います。どうぞ。

 (記者)

 毎日新聞の中田です。よろしくお願いします。

 総理が掲げておられる積極的平和主義についてお尋ねします。本日の首脳会議では、積極的平和主義について、各国首脳から支持する声が寄せられたとのことですけれども、首脳の御発言を具体的に御紹介ください。

 そこと関連して、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更について、総理はいつ頃を目途に結論をお出しになるお考えなのかお聞かせください。

 以上、よろしくお願いします。

 (安倍総理)

 冒頭申し上げたとおり、本日の会議ではASEAN各国の首脳から積極的平和主義に基づく日本の安全保障政策について、多くの歓迎と期待の声が寄せられました。明確に日本が進めようとしている積極的平和主義を支持しますと述べられた首脳の皆さんもおられました。これは共同声明にも明記されているとおりであります。

 来週には、積極的平和主義の内容を具体的に示す国家安全保障戦略を発表する予定であります。この戦略についても、各国によく説明し、さらに理解を深めていきたいと思います。

 集団的自衛権の問題については、現在「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」において検討が行われておりますが、政府としてはこの懇談会の議論を、報告書の提出も含め、待っているところであります。

 (内閣広報官)

 続きまして、外国メディアからの質問を受けます。名前と所属をおっしゃって下さい。出来るだけ簡潔にお願いします。

 (記者)

 イレイン・リーズです。ロイターの者です。

 ASEANの諸国は今、経済的に繁栄をしています。日本の1960年代の経済の奇跡を今、彼らが実現していますけれども、同時に地域には現在緊張関係もあります。ASEANの諸国の間、そして日本の政府においては、経済のために使われるべき資金が国防のために使われるという懸念はないでしょうか。また、それはどの程度の懸念なのでしょうか。

 (安倍総理)

 今や世界の成長センターとなったASEANがさらに発展をしていくためには、力ではなく法が支配する、自由で安全な海と空が不可欠であります。これに対し、現在、一方的な行為により東シナ海、そして南シナ海の現状を変えようとする動き、自由な飛行を基礎とする国際航空秩序に制限を加えようとする動きが見られます。この地域の緊張が高まっていくことは、誰の利益にもなりません。我々はこのような動きを強く懸念をしています。恐らく、多くのASEANの国々の首脳の皆さんもその懸念を共有していることと思います。

 本日の会議では、日本とASEANは航行の自由、上空飛行の自由、そして民間航空の安全を確保するための協力を強化していくことで合意をいたしました。日本とASEANが繁栄のパートナーであるためにも、我々は平和の安定のパートナーとして地域の平和と安定に一層貢献をしていく決意であります。

 (内閣広報官)

 では次、再び日本側の記者の方。どうぞ。

 (記者)

 TBSテレビの松本でございます。よろしくお願いいたします。

 アジア太平洋地域の平和と安定にとって、懸念要因の一つになっているのが北朝鮮情勢だと思いますけれども、こちらについてお伺いします。

 北朝鮮は、金正恩第一書記の後見人であった、ナンバー2でもありました張成沢 (チャン・ソンテク)氏を処刑したと発表いたしました。これに対する総理の受けとめと、日本政府の対応をお聞かせください。

 また、日朝関係及び拉致問題への影響をどのようにお考えか、あわせてお聞かせください。

 (安倍総理)

 我が国としては、今、御指摘のあった件も含めて、北朝鮮内部の動向について、関係国と緊密に連携をしながら、緊張感を持ちつつ、冷静に情勢を注視し、情報収集に努めてまいりました。

 昨日、13日も関連報道を受けまして、官房長官のもと、迅速に関係省庁を集め、状況把握を行ったところでありますが、今後も対応に万全を期していきたいと思います。

 この今回の出来事がどういう変化をもたらす可能性があるかということについても、しっかりと分析をしていきたいし、情報収集をしていきたいと、こう思っています。

 日朝関係や拉致問題に対して与える影響等について、具体的にコメントすることは差し控えさせていただきたいと思いますが、我が国としては引き続き、対話と圧力という方針のもと、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて、取り組んでまいります。

 ASEANの国々からも、先ほどの会議において、朝鮮半島の平和と安定、そして拉致問題の解決を図るべく、各国が協力すべきであるとの意見が示されました。

 (内閣広報官)

 再び外国のメディアの質問をお願いします。

 (記者)

 ザ・ストレーツ・タイムズ、シンガポールの者 (アンドレア・オン)です。

 今週初め、ストレーツ・タイムズ紙の「アジアン・オブ・ザ・イヤー」の共同受賞者として、貴総理の国内改革とASEAN地域での外交への貢献を評価し、貴総理を習近平国家主席と共に選出しました。同時にこの共同受賞は、アジアにおける安定の維持に対する貴総理と習近平国家主席の大きな責任を示しています。受賞についてのコメントをお願いします。また、今回の首脳会議で議論されたことを踏まえて、日中関係は来年改善してくでしょうか。中国との対話に向け、貴総理から最初に働きかけるでしょうか。

 (安倍総理)

 「今年のアジアの顔」という栄誉ある賞をいただき、感激をいたしております。ASEANに対する私の思いと、我が国の貢献が評価されたものとこのように思いますが、日本が復活をすること、日本の経済が強い経済に戻ってくること、ジャパン・イズ・バックが歓迎されたのだとこのように思います。

 就任以来、私は地球儀を俯瞰する戦略的な外交を展開してまいりました。その中でASEANは常に特別なパートナーとして、その中心にありました。その証しに、就任以来、私は5回、ASEANへの歴訪を実現させました。1月のベトナム訪問から始まり、先月のラオスでASEAN10カ国を全て訪問し、ASEANの人々と交流をしました。全ての国で例外なく日本が地域や世界の平和と繁栄に貢献していくことへの大きな期待を感じました。

 今回の首脳会議でも各国首脳より、日本の果たすべき役割への大きな期待が表明され、ASEANとともに地域や世界の繁栄に貢献していきたいとの思いを強くしたところであります。

 日中関係については、私の対話のドアは常にオープンであります。問題があっても、関係全体に影響を及ぼさないようにコントロールしていくという戦略的互恵関係の原点に戻るべきであると思います。課題があるからこそ、首脳同士が胸襟を開いて話し合うべきなのではないでしょうか。ぜひ中国側にも同じ姿勢を取っていただきたいと思います。

 (内閣広報官)

 もう一問だけ、最後、松山さん。

 (記者)

 フジテレビの松山です。

 今回の会議で、地域の飛行の安全や航行の自由について確認があったということなんですが、一方で、中国が設定している防空識別圏に対して民間航空の飛行プランの提出に関して各国の対応が分かれています。日本は民間航空の飛行計画の提出をあえて行わなくてもいいと自制を呼びかけていますけれども、アメリカや韓国などはそれを容認する姿勢を示しています。

 総理として、今後、アメリカ、韓国、またその他の国に対して民間航空の飛行計画提出についての対応についても、日本と同調して同じような対応を取るように求めていくお考えはあるのでしょうか。

 (安倍総理)

 我が国としては、今回、中国が設定した東シナ海防空識別区は、国際法上の一般原則である公海上空における飛行の自由を不当に侵害するものであると考えております。中国側に対し、このような一般原則を不当に侵害する一切の措置の撤回を求めています。我が国の民間航空機にかかる対応について、我が国としては、これまでのルールどおりの運用を行っていくとの政府の方針を変更する考えはありません。

 いずれにせよ、民間航空機の安全が確保されるべきことは当然のことであります。米国政府は、中国による防空識別区の設定を深く懸念をし、当該空域における運航に関する中国による要求を受け入れないとの立場を明確にしています。また、韓国も今回の措置に関し、強い遺憾の意を表明をしています。今後とも政府としては、関係国とよく連携をしながら、引き続き中国側に対して公海上空の飛行の自由を妨げるような一切の措置の撤回を求めていく考えであります。

 (内閣広報官)

 以上で終了したいと思います。

 ありがとうございました。