[文書名] 内外記者会見
【安倍総理冒頭発言】
昨年、日本版NSCを創設をし、国家安全保障戦略を策定しました。そのもとで、今年も、戦略的に、「地球儀を俯瞰する外交」を展開してまいります。
そのスタートは、ここアフリカからです。
21世紀は、アフリカの世紀かもしれない。そう実感した旅でありました。
50年前、アベベ選手が、遠いアフリカからやってきました。東京五輪マラソンで、前人未到の二連覇。ゴールに向かってひたむきに走る姿に、私も含めて、多くの日本人が感銘を受けました。
あれから半世紀。もはやアフリカは、遠い存在ではありません。今まさに、世界で最も大きな可能性を開花せんとするアフリカ諸国。
アフリカは、確かに変わった。スポーツだけではなく、文化や経済などあらゆる面において、大いなる躍動感にあふれていました。
今回初めて訪れたアフリカの国、コートジボワールは、10%近い急成長を遂げている、
まさに伸び盛りの国です。この夏のサッカーワールドカップで、日本は初戦を戦うことになります。今回の訪問では、ウワタラ大統領をはじめ西アフリカ11か国の首脳が、わざわざ集まって、私を迎えていただきました。心温まる歓待に、改めて感謝したいと思います。
いずれも個性あふれる首脳ばかり。その個性を大切にしながら、3億人の人口を擁する西アフリカは、今、統合を進め、さらに力強く成長しようとしています。
道路や港の整備をはじめ、この地域の成長のために、日本には、貢献できる技術があります。食品や保健をはじめ、生活水準の向上でも役に立つことができます。
日本にとっても、大きな成長のチャンスです。今回は、日本から30近い企業や大学などのトップにも同行していただきました。
他方で、アフリカでは、今もまだ、貧困などを理由に学校に通えない子どもたちがたくさんいます。とりわけ女の子の就学率は低いという現実があります。
そうした女の子たちに、読み書きを教え、裁縫などの職業訓練を行う施設を、日本は長年支援してきました。
「一人ひとりが、自力で収入を得られるように。」この施設から巣立ち、貧困から脱し、
自立した女性が数多くいます。
教室では、日の丸がついたミシンで練習していた女の子たちが、あふれる笑顔で私を迎えてくれました。キラキラと輝く瞳。日本が援助したミシンは、彼女たちにとって、まさに「未来への希望」を縫い込むミシンです。
女性たちが活躍すれば、アフリカはもっと成長できるはずです。日本は、「女性が輝くアフリカ」をつくるために、今後とも、こうした活動を積極的に支援していきたいと思っています。
モザンビークでは、東日本大震災のあと被災地を訪れてくれた、女子バスケットボール代表の皆さんに会いました。
日本の女性たちも、音楽や体育を通して、未来を担う子どもたちの教育に、力を尽くしています。青年海外協力隊は、地方の農村に住む人たちに、品質の良い蜂蜜の採り方や、野菜を栽培する方法も教えています。
日本企業が投資をしたアルミ工場は、地域に1万人以上の雇用を生み出しました。
天然ガスや石炭など、モザンビークの豊富な資源は、日本だけでなく、モザンビーク自身にとって大きなチャンスです。それは、モザンビークが持続的に成長し、
人々の生活水準を向上させるものでなければなりません。
環境を守る。新たな産業をつくる。そして、人材を育成する。単に資源を得るだけではなく、将来を見据えたパートナーとして投資を行い、アフリカと共に成長する。これが、日本のやり方です。
そして、ここエチオピア。
「『働く』とはどういうことか、職場での倫理を教えてくれたのは、日本企業だけだ。」
昨年6月の横浜でのTICAD Vで、あるアフリカの首脳が、私に、こう語ってくれました。
日本と80年以上の交流の歴史がある、ここエチオピアでも、「カイゼン」という日本のものづくりの現場で生まれた言葉が、国づくりに活かされてきました。
アフリカ連合の本部がある、「アフリカの政治の首都」とも呼ぶべき、ここアジスアベバに、アフリカとして初の産業人材育成センターを設立します。ここから、アフリカの若者や女性の「可能性」を十二分に開花させていきたいと考えています。
成長への躍動感あふれる、輝かしいアフリカは、もはや「援助」の対象ではありません。人材の育成も、インフラの整備も、すべては、未来への「投資」です。
しかし、資源の獲得や、日本製品の輸出先を確保するといった、「日本のためだけの投資」という考え方を、私は採りません。
若者や女性を育て、農業の収入を増やし、新たな産業をおこす。日本の経験と知恵を活かして、アフリカに眠るあらゆる可能性を引きだすことは、「アフリカと日本が共に成長するための投資」です。
アフリカは、日本外交のフロンティア。
今回のアフリカ訪問は、日本とアフリカが、「21世紀の成長のパートナー」となる、大きなきっかけとなったと考えます。
今回は、オマーン訪問の機会も得て、8か月余りで、湾岸6か国すべてを訪問することができました。
ホルムズ海峡をはじめ中東地域の安定は、日本にとって死活的な利益であり、今後とも、トップ外交を進めることで、中東地域の国々とのパートナーシップを深化させていきたいと考えています。
トップ同士が、話し合うことで、物事が大きく動き出します。今年も、私自身が世界を飛び回り、戦略的な外交を進めてまいります。
情熱的な歌と踊り、人々の笑顔、女性たちの真剣な眼差し、そしてアフリカの大地を照らす太陽に、大きなパワーをもらった旅でもありました。
私からは、以上です。
【質疑応答】
(産経新聞 桑原記者)
今回のアフリカ訪問は、アフリカに住む人々ひとりひとりの自助努力を日本が後押ししていくという、日本流アフリカ外交の実現に向けた第一歩だったと思います。人材育成などは、人・モノ・カネを大量に投入する中国流とは違い時間もかかります。今回打ち出したアフリカ政策を加速化させるために、今後どういった取り組みを考えていますか。関連して、アフリカ再訪の具体的な時期や地域についてイメージはありますか。そして、中国の海洋進出等も念頭に、積極的平和主義の考え方をアピールされていましたが、日本の立場に理解が得られたと思いますか。
(安倍総理)
TICADⅤには、多くのアフリカ首脳が参加をしてくれました。今回の訪問では、その際に示された、日本の総理のアフリカ訪問をというアフリカ側の期待に応えるものでした。
日本の協力やビジネスは、アフリカの人々「一人、ひとり」が力を発揮して、アフリカが自分たちの手で成長することにつながるものであります。
同行した企業とともに総計13カ国のアフリカ首脳と会い、日本のビジネス促進への協力を求め、アフリカ側は、日本企業の投資への熱い期待を示しました。これに応えるためにも、TICADVの支援策を誠実に履行することによって、日本企業のビジネスを支援をしていきたいと思います。
また、私自身、今後、機会があれば、何度でもアフリカを訪問したいと思います。
日本は人材を育成し、日本の知見を伝え、さらにはともに汗を流すことによって、地域の皆さんがオーナーシップを持って自力で立ち上がっていく、そういう支援を行っています。アジアではそれが大きく開花をしたと思います。
一見すぐに成果が見えるものではないかもしれませんが、アフリカの皆さんには、このやり方こそ、アフリカの未来であると十分に理解して頂いているのではないかと思います。先ほど申し上げましたように、コートジボワールには、急な呼びかけにもかかわらず、ナイジェリアを始めとして、11カ国の首脳が急な呼びかけにもかかわらずに集まって頂いたということは、まさにその証左ではないかと思います。
そして各国の首脳会談においては、私から、日本は国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地域及び世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していく考えであることを説明しました。その際、モザンビークには,ポルトガル語で、コートジボワールでは仏語で書かれた簡単な説明をお渡し致しました。これに対して各国からは、支持や歓迎の意が表されました。
(AFP ボーガン記者)
今朝、貴総理は、南スーダンの平和協議に対して新たな支援を予定している旨発表したが、交渉当事者に対して貴総理はどのようなメッセージを有するか。日本は南スーダンの停戦、平和をもたらすためにどのような役割を果たすのか。日本は、アフリカ大陸における平和と安全に対しどのような役割を果たすのか。PKO部隊を派遣する、乃至は資金を提供する用意があるのか。
(安倍総理)
2011年7月9日に、南スーダン国民が歓喜に包まれ、一丸となって新たな国家を建設するとの理想を共有したことを、改めて思い起こしてもらいたいと思います。
その理想の実現に向けて、全ての関係者による敵対的行為停止の早期合意との履行、また民族間の国民和解への真摯な取組を期待致します。
日本は、エチオピアを始めとする周辺諸国の仲介が鍵と考えております。そして、その努力を支持致します。その旨、昨日の首脳会談におきましてハイレマリアム首相にもお伝え致しました。
また、日本は、「積極的平和主義」の立場から、地域や世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していく考えであります。
この観点から、日本はUNMISSに自衛隊を派遣し、また南スーダン情勢に対応するため2500万ドルの新規支援を準備しています。更に、中央アフリカやサヘル地域の安定化にも貢献していく考えであります。
日本は、引き続き、こうした取組を通じて、アフリカの平和と安定に向けたアフリカ自身の努力を後押ししていく考えであります。
(NHK 松谷記者)
東京都知事選挙について、本日、細川元総理大臣が脱原発を掲げて立候補することを表明しました。また、立場を同じくする小泉元総理大臣も積極的にこれを指示する考えを示しました。小泉総理は、「原発ゼロでも日本は発展できる」というグループと「原発なくして日本は発展できない」というグループの争いだと述べましたけれど、これをどう受け止めますか。また、国の新たなエネルギー計画の今月中の閣議決定が先送りされたましたが、原発を「基盤となる重要なベース電源」とした原案が変更される可能性があるのでしょうか。
(安倍総理)
記者会見においては、「東京が原発なしにやっていける姿を見せる」という話があったと承知をしております。
電力の一大消費地である東京が、省エネルギーを徹底して、エネルギーの自給率を高めていく、そういう方向で様々なアイデアを出していくのは素晴らしいことだと思います。
また、舛添さんも東京のエネルギー消費をいかに、省エネ、あるいは再生可能エネによって変えていくことができるか考えていきたい、アイディアを出していきたいということもおっしゃっておられる。ある意味ではそれぞれ大変頼もしいと思っています。エネルギー政策は、国民みんなの課題であり、様々な機会を捉えてこうした議論が行われるのは、望ましいことだと思います。
同時に、東京という日本の首都、大都市は、待機児童の解消や高齢者福祉の充実といった課題もあります。また、オリンピックの準備があります。東京が日本全体を盛り上げていく。また、パラリンピックに向けたバリアフリーなまちづくり。それを世界の皆さんに見て頂くという大きな使命もあると思います。また、首都直下型地震に備え、危機管理能力が私は必要だと思います。東京都が直面する諸課題についてもバランスよく議論され、そして都民の皆さんにとって、充実した選挙戦になることを期待したいと思います。
また、エネルギー基本計画については、現在、パブリックコメントを通じて国民の皆様からいただいたご意見を精査しているところであります。
また、先日、与党からも「時間をかけてしっかりと議論、調整してほしい」という要望もございました。責任あるエネルギー政策を策定するために、国民の皆様や、与党内のご意見も踏まえながら、しっかりと議論を進めていきたいと考えています。
(エチオピア・ヘラルド ビアゼン記者)
日本の産業からの知識及び技術の移転に関し、日本の「カイゼン」は、エチオピア産業の生産性向上に多大なる貢献をしている。日本の経験を共有するために、政府関係者間で政策対話を継続して行っていると承知。日本からの技術の移転は、どのような分野でさらに広がると期待できるか。
(安倍総理)
首脳会談では、私より、「エチオピアをアフリカ軽工業の牽引車としたい」とのハイレマリアム首相の考えを評価し、我が国の経済成長の経験を共有したいとお話を致しました。
現在、民間セクター開発のための産業政策対話を実施をしておりまして 、海外直接投資を通じた技術移転等が議論されております。
このような議論も踏まえまして、産業人材育成センターとして始動する、エチオピア・カイゼン公社 (EKI)での「カイゼン」の普及活動を基軸に、エチオピアの産業界のニーズを踏まえて実務教育を拡充致します。
また、ABEイニシアティブを通じて、「一人、ひとり」への技術移転を大切にする日本企業の経験・ノウハウも伝えていきたいと考えております。