データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2014年5月7日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【安倍総理冒頭発言】

 今回、欧州6か国を訪問しました。自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有する国々であり、かつ、世界の世論形成に大きな影響力を持つ国々です。

 経済や安全保障を中心に、私の政策について各国のリーダーたちの理解を得るとともに、協力関係をさらに深化させていくことで、合意することができました。

 欧州は、南米やアフリカなど世界の広い地域と言語や歴史の面で深いつながりを持っています。

 私が、「地球儀を俯瞰する外交」を進める上で、欧州は強力なパートナーです。

 今回の訪問では、スペインに加え、ポルトガルが持つグローバルなネットワークに日本も参加できることで合意できました。

 ロンドンでは、昨年も訪れた、世界の経営者や投資家が集うシティで、アベノミクスのこの1年間の進展について、スピーチをする機会を得ました。

 今後とも力強く改革を進めていく意志を、世界に発信することができたと思います。

 三重・広島の両県知事、 神戸・福岡の両市長もロンドンを訪れ、日本への投資を呼び込むべく、一緒にアピールを行っていただきました。

 今回の欧州訪問では、鉄道やエネルギーといった分野でも、具体的な案件が前進しました。

 世界に広いネットワークを持つ欧州諸国と、アジアやアフリカで協力してビジネスを展開することについても合意することができました。

 岡山、福井などのものづくり中小企業にも同行いただき、ドイツの中小企業との交流セミナーを開催しました。

 オランド大統領をはじめ、多くのパリの人たちには、和食の素晴らしさを実感していただきました。

 今、日本は、長く続いたデフレから脱却する、大きなチャンスを手にしています。日本経済の復活、雇用情勢の改善については、どの国でも強い関心が寄せられました。

 8回の首脳会談を通じて、アベノミクスが世界から評価され、日本経済の動向に世界が注目している。そのことを改めて実感した次第です。

 私たちは、改革を恐れてはなりません。

 日本は、OECDに加盟して、今年で50周年。この記念すべき年に、日本は議長国を務めます。パリでは、このOECDの閣僚理事会で、基調講演に臨みました。日本が現在進めている経済・財政政策と、世界経済への貢献について、世界に力強く発信しました。

 世界の経済パートナーとのEPA交渉を加速させる。その決意を表明しました。とりわけ、基本的価値を共有する欧州とのパートナーシップをもう一段深めなければなりません。

 そのために、日本とEUとのEPAを一日も早く成立させるべきであり、私の提案に対して、積極的な評価を得ることができました。交渉の加速化に向けて大きな弾みとなる欧州訪問であったと考えています。

 国際情勢は大きく変動し、東アジアでも、欧州でも、安全保障環境は一層厳しさを増しています。

 今こそ、日本と欧州が協調して対応することが求められています。

 7年ぶりに出席したNATOの北大西洋理事会では、「積極的平和主義」についてスピーチを行い、出席した各国代表から、高い評価と支持が、相次いで表明されました。

 イギリスとは、外務・防衛両大臣による協議、いわゆる「2+2」を実施することで合意しました。また、フランスとは、防衛装備協力など、安全保障面での二国間協力を強化していくことで、合意に至りました。

 ウクライナ情勢を巡っては、この機会に、各国首脳と直接、胸襟を開いて意見交換を行いました。来月、ここブリュッセルで、G7サミットが予定されています。G7の連携が、益々重要となっています。

 今月下旬の選挙で、正統性ある大統領を誕生させるとの基本路線を、G7が一体となって、明確にすべきです。同時に、ロシアとの対話を保たなければなりません。

 我が国にとっても、ウクライナ問題は、対岸の火事ではない。アジアにも関わる問題です。「力による現状変更は認めてはならない。」

 法の支配や海洋の自由といった原則を、すべての国と、改めて、確認できたことは、大変有意義でありました。

 我が国が進める 外交・安全保障政策は、間違っていない。その確信を得ることができた欧州訪問でもありました。

 今回の旅では、メルケル首相のほか、閣僚、経営者など欧州で活躍する女性の皆さんにも、たくさん出会うことができました。

 私は、9月に、世界で活躍する女性の皆さんを日本にお招きしたいと考えています。

 「女性の輝く社会」を実現する、大きなきっかけとなるに違いありません。

 今回の欧州訪問では、各地で心温まるおもてなしを頂きました。この場で、心から御礼を申し上げます。

 【質疑応答】

 (NHK 川野記者)

 総理の方から、今回の欧州歴訪では、「積極的平和主義」に高い支持を得たという話がありましたが、これに関連しまして集団的自衛権の問題について三点お伺いしたいと思います。総理は、懇談会の報告書の提出を受けて、「検討の方向性について政府としての考え方を示す」と仰っていますけれども、この「検討の方向性」とは具体的にどういう事をを指しているんでしょうか。また、その政府としての考え方ですけれども、懇談会の報告書の提出を受けて直ちに出すというお考えなのか、お聞きしたいと思います。あわせまして、閣議決定の時期につきまして時間を要することもあると仰られていますが、今国会中の閣議決定には、必ずしもこだわらないという姿勢なのでしょうか。

 (安倍総理)

 今回の訪問を通じ、欧州各国・機関の首脳達との間で、日欧の安全保障環境について共通認識を深めることができました。その中で、「積極的平和主義」を旗印に、世界の平和と繁栄に強くコミットしていくという私の決意についての幅広い支持と、その実践に対する期待が表明されたと思います。

 日本が「積極的平和主義」を実践していくにあたり、民主主義、そして法の支配等の基本的価値を共有する欧州は重要なパートナーであります。欧州訪問を通じて、二国間だけではなく、地域全体の安全保障に取り組むNAT0やEUとの間でも、安全保障分野の協力が具体的に進展しました。

 例えば、マリ、コンゴ民主共和国等におけるEUの平和・安定化のための活動との連携、そして、ソマリア沖・アデン湾の海賊対処のためのNATO・EUとの共同訓練、防衛装備技術に関する英国・フランスとの協力など、具体的な協力案件について合意することができました。これら合意を弾みにして、今後とも、欧州との安全保障分野の協力を進めていく考えです。

 集団的自衛権については、「安保法制懇」において、現在、最終的な詰めを行っています。今月12日の週にも報告書を提出していただく予定です。

 政府としては、報告書が提出された後に、その内容も踏まえまして、安全保障の法的基盤の再構築に関して政府がどのように検討を進めるかについての基本的方向性を示す考えです。

 その上で、内閣法制局の意見も踏まえつつ、もちろん、与党と相談の上、対応を検討していく考えです。憲法解釈の変更を行うことになる場合には、すでに国会で答弁をしているとおり、閣議決定を行い、そして国会でご議論いただくことになると思いますが、期限ありきではなく、まずはしっかりと与党においても議論をしていただきたいと考えています。

 (AFP通信 マクマヌス記者)

 日本は、ロシアと長年、北方領土について領土紛争を抱えているが、ロシアは主要な貿易相手でもある。ロシアとの関係を扱う上で、ウクライナ危機からどのような結論を導き出しているか。日本はヨーロッパと共通の立場を有しているか。

 (安倍総理)

 日本は、ロシアによるクリミア併合など力を背景とした現状変更を決して容認できません。これは、ウクライナという一地域の問題ではなく、東アジアを含めた国際社会全体にとって極めて重要な問題と考えています。

 先般のG7首脳声明では、ロシアに対し追加的な制裁を課すために迅速に行動することに合意しました。米国、EU等の追加的な制裁措置に続き、日本もウクライナの主権と領土の一体性の侵害に関与したと判断される計23名に対し、日本への入国査証の発給を当分の間停止することを決定しました。

 ロシアが、ジュネーブ合意の履行に真剣に取り組み、平和的・外交的解決に貢献することを強く期待しています。G7及び欧州諸国と連携を密にしつつ、日本としての役割を果たしていく考えであります。

 同時に、ウクライナの問題は、対話を通じて平和的に解決していく必要があります。日本としては、ロシアとの対話を維持しながら問題解決に貢献していく考えであります。

 (産経新聞 桑原記者)

 先程冒頭発言にもありましたが、総理は今回の外遊でヨーロッパ各国の首脳に対して、緊張感の高まる東アジア情勢について説明され、昨日のNATOでのスピーチでは中国の軍拡についても言及されました。その中国に対して、先日訪中された高村自民党副総裁を通じて、11月の北京APECの際に習近平国家主席との首脳会談を行いたいとの意向を伝えたとのことですが、その狙いについてお聞かせください。

 ただ、中国側は主として日本側に関係悪化の原因があるとして、尖閣諸島や歴史認識の問題での譲歩を日本側に迫ってきています。こうした中国側の要求に応じる事は難しいと思いますが、首脳会談の実現に向けてどのような具体的行動をとっていくのかお聞かせください。

 (安倍総理)

 従来から申し上げているとおり、日中間においては様々な分野・レベルでの対話や交流を積み上げ、より高い政治レベルでの対話につなげていくべきであり、高村自民党副総裁を団長とする日中友好議連の訪中においても、このような私の考え方を中国側に伝えていただいたものと承知しています。

 日本と中国は、地域と国際社会の平和と安定への大きな責任を有する大国です。様々な懸案はありますが、私としては、戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、大局的観点から関係改善を図っていくという立場に変わりはありません。お互いに前提条件を付さずに胸襟を開いて話し合うべきであり、私はいつも申し上げているが、私の対話のドアは常にオープンであります。中国側にも同様の姿勢をとってもらいたいと思っています。

 (ウォール・ストリートジャーナル紙 フィドラー支局長)

 ウクライナの情勢でヨーロッパに視線が集まっています。ヨーロッパのエネルギー安全保障も話題になっています。ヨーロッパは冬の到来前に天然ガスを備蓄しようと考えており、エネルギーの問題は非常に重要である。

 ご存じのように日本は天然ガスをより多く買い始めている。福島の事故以後、原子力発電所が閉鎖されて以来、日本は化石燃料を増大して使っています。そして、天然ガスの価格は上がっています。したがって、日本の原発は、ヨーロッパにも関係があり、世界にも関係してきますが、いつ原発の運転が再開されるのか。年内に運転再開は起こりうるのか。

 (安倍総理)

 我が国の、そして世界のエネルギー安全保障を強化するためにも、エネルギー源の多様化は極めて重要であると考えています。

 我が国では、電力供給における化石燃料への依存度が、第一次石油ショック当時よりも高くなっています。現在88%という現実があります。

 徹底した省エネルギー社会の実現と、再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、原発依存度は可能な限り低減をしていくことが、基本方針であるが、このような現実を考えますと、簡単に「原発はもうやめた」というわけにはいきません。

 原発については、福島の事故の教訓を踏まえ、安全を確保することが大前提となります。その前提の下、独立した原子力規制委員会が世界で最も厳しいレベルの規制基準に基づいて科学的、技術的に審査を行い、これは全く独立した審査となります。これに適合すると認められた原発については再稼働を進めていきます。その際、国も前面に立って、立地自治体関係者の理解と協力を得るよう取り組んでいきます。

 このようなプロセスを丁寧に進めていく必要があり、再稼働の時期については、いつまでにと決めているものではありません。

 (フジテレビ 鹿嶋記者)

 総理は 今回の外遊で各国首脳らに対し、日本に対する直接投資を訴えかけたと思いますが、手応えはいかがだったのでしょうか。そして関連して甘利大臣が今年6月にまとめる骨太の方針に、来年度からの法人税実効税率の引き下げを明記することを示しました。この方向性について投資を呼び込む観点からも、総理としてこの考え方は共有されるのでしょうか。

 (安倍総理)

 海外からの対日直接投資は、日本の雇用や成長においても極めて大切であり、 私の成長戦略の重要な柱であります。対日投資の動きを本格的なものとするため、日本の投資環境を魅力的なものとしなければならないと考えています。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指して、外国経営者の声も政府として直接伺いながら、規制改革、法人税改革、コーポレート・ガバナンスの強化を進めていく考えであります。

 さらに、私や関係閣僚もトップセールスを展開していく考えであり、今回の連休を利用して、私も他の閣僚もそのような観点から海外に出張しています。今回の欧州訪問でも各国首脳との会談や民間企業との意見交換を通じて投資の促進を呼びかけました。欧州側からは経済改革を図る中で日本との連携を重視しています。日本に対する投資への意欲を感じました。

 ジェトロに加えて、在外公館も総力を挙げて、外国企業による対日投資案件を発掘していく考えです。いわば、総力を挙げて取り組んでいく必要があると思います。

 こうした取組を通じて、2020年までに対日直接投資残高の倍増を実践することは必ず雇用においても日本の成長においてもプラスになると確信しています。

 そして、法人税の引き下げについては、安倍内閣の基本方針は、グローバル経済の中で、日本が強い競争力を持って成長していくことであります。政策をしっかり前に進め、競争に打ち勝っていかないと雇用を守ることも、成長を続けていくこともできません。

 こうした観点から、OECDの基調講演でも述べたように法人税の改革を一層進めていかなければいけないと考えています。既に政府及び与党における検討に着手していますが、国際競争に打ち勝っていく観点、及び財政再建という観点からも、実効税率や課税ベースのあり方なども含めて、党税調においても議論していくことになります。

 税の構造を成長指向型に変革していくため、しっかりと議論を深め、検討を進めていきたいと思います。