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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2014年11月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 【安倍総理冒頭発言】

 本日、衆議院を解散いたしました。この解散は、「アベノミクス解散」であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります。連日、野党は、アベノミクスは失敗した、批判ばかりを繰り返しています。私は、今回の選挙戦を通じて、私たちの経済政策が間違っているのか、正しいのか、本当に他に選択肢はあるのか、国民の皆様に伺いたいと思います。

 2年前を思い出していただきたいと思います。リーマン・ショックから4年もたち、世界経済は立ち直ろうとしていたにもかかわらず、日本だけはデフレに苦しみ、3四半期連続のマイナス成長となっていました。

 行き過ぎた円高は、多くの企業を海外へと追いやり、空洞化が進みました。私の地元山口県でも、若者たちを500人以上雇用していた大きな工場が行き過ぎた円高のために工場を閉めざるを得なくなりました。どんなに頑張っても、どんなに汗を流しても、どんなに良いアイデアを出しても、行き過ぎた円高のために競争に勝てない。そして、多くの雇用が失われていたのです。失業者が増え、下請企業は仕事がなくなり、連鎖倒産という言葉が日本中を覆っていました。当時、私は、野党の党首でありましたが、どこへ行っても、「安倍さん、この景気を何とかしてくれよ。」と言われたことを今でも忘れません。

 その日本全体を覆っていた強い危機感が、私たちの政権交代へとつながりました。強い経済を取り戻せ。これこそが総選挙で示された国民の皆様の声であると信じ、三本の矢の政策を打ち続け、経済最優先で政権運営に当たってまいりました。

 その結果、雇用は100万人以上増え、高校生の就職内定率は10%アップしました。9月末の時点で既に半分以上の学生が内定をもらっている。15年ぶりの出来事です。今年の春は、過去15年間で最高の賃上げが実現しました。企業がしっかりと収益を上げれば、雇用を増やし、賃金を上げることができる。その好循環を回していく。これがアベノミクスなのです。

 アベノミクスの成功を確かなものとするために、私は、消費税10%への引上げを18カ月延期する決断をいたしました。

 消費税引上げを延期する以上、社会保障を充実させるスケジュールも見直しが必要です。しかし、子育て世代の皆さんを応援する、その決意は揺らぎません。子ども・子育て支援新制度は来年4月から予定どおり実施します。2年間で20万人、5年間で40万人分の保育の受け皿を整備し、待機児童を無くしてまいります。更に「小1の壁」を突き破り、学童保育についても待機児童ゼロを実現していく。そのスケジュールは全く変わりません。女性の輝く社会を実現する。この安倍内閣が掲げた旗はこれからも高く掲げてまいります。

 この臨時国会では、女性の活躍推進法案は残念ながら野党の協力が得られず、廃案となってしまいました。しかし、私は必ずや実現させます。来年の通常国会では、確実に法律を成立させる。その決意であります。

 消費税の引上げ延期は野党がみんな同意している。だから、選挙の争点ではないといった声があります。しかし、それは違います。野党の人たちは、ではいつから10%へ引き上げるのでしょうか。その時期を明確にしているという話を、私は聞いたことがありません。そこは極めて大切な点であります。財政を立て直し、世界に誇るべき社会保障制度を次世代へと引き渡していく責任が私たちにはあります。私たち自民党・公明党、連立与党はその責任をしっかりと果たしてまいります。

 そのために、平成29年4月から確実に消費税を引き上げることといたします。今回のような景気判断による延期を可能とする景気判断条項は削除いたします。本当にあと3年で景気が良くなるのか。それをやり抜くのが私たちの使命であり、私たちの経済政策であります。

 今週、経団連の会長が、経済界は来年も賃金を上げて、経済の好循環に貢献していきたいと宣言してくれました。さらには、再来年、その翌年と賃金を上げていく。アベノミクスを続けることができれば、必ずや実現できると確信しています。

 良い話は大企業ばかりで、アベノミクスの風なんて中小企業には届いていない、という方がたくさんいらっしゃることも、私は承知しています。円安によってガソリンや原材料が上がって困っている。これについては、今度の経済対策でしっかり対応してまいります。

 しかし、アベノミクスが始まって、行き過ぎた円高が是正されました。そうした中で、空洞化の時代が終わり、仕事がいよいよ国内へと戻ってまいりました。日産自動車は、アメリカの工場に移そうとしていたエンジン生産を、福島県のいわき市で行うことを決めました。600人近い雇用が守られたのです。キヤノンは、この2年間の変化を見て、国内生産比率を半分の5割まで戻すことを決めました。アジアに出て行ってしまったプリンターなどの生産を、茨城や滋賀で行うそうです。海外へ逃げていった投資が国内で動き始めたのです。

 大企業が国内で投資をすれば、部品や材料をつくる中小企業の仕事が生まれます。足元では、企業の倒産件数は、民主党政権時代から2割も減りました。倒産が少ないのは24年ぶりのことです。もし、あの行き過ぎた円高に逆戻りしてしまうようなことがあれば、また空洞化、根こそぎ仕事がなくなってしまいます。仕事がある、これが皆さん、一番大切なのです。

 この臨時国会では、地方創生のための基本法案が成立し、大きな一歩を踏み出すことができました。中山間地や離島を始め、地方にお住まいの皆さんが、伝統あるふるさとを守り、美しい日本を支えています。まだまだ厳しい地方経済へと、景気回復の暖かい風を送り届けてこそ、アベノミクスは完成する。私はそう考えています。地方の皆さんの生活を豊かにしていく、これも必ずやり抜いてまいります。

 都市と地方の格差が拡大し、大企業ばかり恩恵をこうむっている、そうした声があることも私は十分承知しています。それでは、日本の企業がしっかりと収益を上げるよりも前に、皆さんの懐から温まるような、手品のような経済政策が果たしてあるのでしょうか。また、ばらまきを復活させるのでしょうか。その給付を行うにも、その原資は税金です。企業が収益を増やさず、そして、給料も上がらなければ、どうやって税収を確保していくのでしょうか。それこそが2年前までの風景ではありませんか。

 私たちは違います。私たちは景気を回復させて、企業が収益を上げる状況をつくり、そして、それが皆さんの懐へと回っていく、この経済の好循環を力強く回し続けることで、全国津々浦々に至るまで景気回復を実感できる、この道しかないのです。

 景気回復、この道しかありません。そのことをこの選挙戦を通じて、皆さんにしっかりと訴え続けていきたいと考えています。そして、国民の皆様の信頼と協力を得て、賛否両論、抵抗も大きい、その成長戦略をしっかりと前に進め、国民生活を豊かにしていく。その決意であります。

 私からは以上であります。

 【質疑応答】

 (内閣広報官)

 それでは、皆様からの質問をお受けいたします。質問をされる方は所属とお名前を明らかにされた上でお願いいたします。

 最初に幹事社から質問をお受けいたします。どうぞ。

 (記者)

 幹事社のNHKの高橋です。

 まず、解散の大義について伺います。野党側はアベノミクスの失敗隠しの大義なき解散だと、対決姿勢を強めているわけですけれども、今回の衆議院の解散に国民の理解は得られているというふうにお考えでしょうか。

 また、先に総理が示しました与党で過半数という勝敗ラインですが、現有議席を90議席近く減らしても勝利ということになります。与党側からは絶対安定多数の266議席や、少なくとも安定多数の249議席を目指すべきではないかという声もありますが、これについての受け止めをお願いいたします。

 (安倍総理)

 まず、アベノミクス隠しではないか。それは間違っています。今、申し上げましたように、この解散は「アベノミクス解散」だとこのように申し上げておりますし、我々はこの政策が正しいのか間違っているのか、ほかに選択肢があるか、堂々と、正に国民の皆様に問うているわけであります。

 そして何といっても、先ほど申し上げましたように、この選挙、消費税引上げを18カ月延期をしました。それを自民党は政権公約に書いていなかったではないかという批判がありました。だからこそ、私たちは選挙を行うのです。民主主義の原点は税制であります。税制に重大な変更を行った以上、選挙をしなければならないと考えています。そして、この選挙戦を通じて私たちの経済政策についてしっかりと訴え、そして、この選挙の大義についても国民の皆様の御理解をいただいていきたい。選挙によって皆さんの声を伺い、力を得て、初めて私たちの困難な難しい改革を遂行することができると思っています。

 そして、当選ライン、選挙の勝ち負けは政権選択、衆議院は政権選択です。どちらの党が過半数をとるのか、これは自民党、公明党、与党で共通の政策を訴えていきます。当然、どちらの勢力を選ぶのか、それが分岐点になると思います。小泉総理も、あの郵政解散、自民党、公明党で過半数をとったら私はこの政策を続けていく、取れなければ退陣する、そうおっしゃいました。私は野党時代、自民党の衆議院は議席119名しかありませんでした。それを倍増以上して政権をとる、それが私の約束だ、90名どころか100名以上、私は増やさなければ、私の責任は果たせない、こう申し上げています。

 ただ、もちろん選挙戦、私は自民党のリーダーです。300議席近い議席を私たちは持っている。私は当然、全員の当選を目指してまいります。

 (内閣広報官)

 それでは、もう一問、幹事社の方から伺います。どうぞ。

 (記者)

 西日本新聞の宮崎です。

 選挙の争点について伺います。総理は18日の会見、それから今の会見でも、消費税増税先送りの判断と、それからアベノミクス継続の是非と、これを問うとおっしゃいましたが、一方で、昨年の特定秘密保護法、それから、今年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定、それから、年明けにも見込まれる原発再稼働と、こういうテーマについては国民の意見が真っ二つに割れている状況です。総理はこの選挙戦で、こうしたテーマについても積極的に、単に自民党の公約に書き込むだけではなくて、積極的に争点として位置付けられる考えでしょうか。

 それから、2017年4月の再増税時期についてですが、総理は18日の会見で、再び延期することはないと断言すると、今の会見でも確実に引き上げるとおっしゃいましたが、これはどんな状況があっても必ず引き上げるという意味でしょうか。

 以上2点です。

 (安倍総理)

 まず初めに、私たちは昨年の参議院選挙、そしてまた、一昨年の総選挙においても、選挙において情報保全、しっかりとその仕組みを法整備をしていく。また、集団的自衛権の行使についても、原発、エネルギーについても、国民の皆様にお約束をしてまいりました。しっかりとそれを打ち出して選挙戦を戦ってきました。それが私たち自由民主党の選挙に対する、そして政治に対する基本的な姿勢であります。当然この選挙においても、我々はそうした全てにおいて国民の皆様に訴えていきたいと、このように思っております。

 そして、平成29年4月から10%に引き上げていく。今回、三党合意の中における、いわば成立した法律によって景気判断条項がありました。その景気判断条項を私たちもその上において、今回、景気判断を行い、18カ月延期しました。来年、私たちが国会に出す法律において、この景気判断条項を削除します。当然、今回のような景気判断による再延期は行わない。これは明確であります。

 (内閣広報官)

 それでは、これから幹事社以外の皆様からの質問をお受けいたしますので、質問を御希望される方は挙手をお願いいたします。私が指名いたしますので、所属とお名前を明らかにされた上でお願いいたします。

 それでは、竹本さん。

 (記者)

 ロイター通信の竹本と申します。よろしくお願いします。

 個人消費の盛り上がりがいまいち欠けております。安倍政権としては、企業に対して法人税減税を果敢に進めていらっしゃると思うのですが、どのような形で個人部門の刺激策としても、例えば所得税減税などはお考えでしょうか。仮にお考えでなければ、どのような形で個人部門の支出を増やすような対応策をお考えか、よろしくお願いいたします。

 (安倍総理)

 今般の経済対策においては、地域の消費の喚起など、景気の脆弱な部分でしっかりと的を絞って、スピード感を持って対応する必要があると考えています。そのため、こうした観点から交付金を創設をして、自治体の創意工夫を生かして後押ししていきたい。個人の消費を後押ししていきたいと思います。特に地方にしっかりと光を当てていきたいと思います。

 そこで今、御質問があった所得税でありますが、所得税の減税については、もともと所得税の負担のない方々に対しては、当然これは効きません。我々は、むしろ低所得の方々に的を絞っていくということが大切だろうと、このように考えています。

 (内閣広報官)

 それでは、続きまして、では円満さん。

 (記者)

 朝日新聞の円満と申します。よろしくお願いします。

 先ほど総理、エネルギーについては公約でとおっしゃいましたけれども、鹿児島県川内原発は早ければ来年に再稼働と言われておりますし、集団的自衛権を含む安全保障法制は春以降、法整備に入ると思うのですけれども、そういったことについてこの場で具体的にどんなお考えをお持ちか、お話しいただけますでしょうか。

 (安倍総理)

 まず、これは従来から申し上げているとおり、原発の再稼働については、規制委員会が安全と判断したものについては、地域の皆様の、地元の皆様の御理解を得て再稼働していきます。これはもう、従来から御説明をしているとおりであります。その考え方の下に実行していこうと思っております。

 そして、安全保障に関する法整備につきましては、今年7月1日の閣議決定にのっとって、切れ目のないシームレスな国民の命を守り、国民の生活を守るための法整備、これを行っていきたいと思います。これは広範な法改正になりますが、全体をまとめて実施していく必要があると。その方が国民の皆様にとっても分かりやすいのだろうと思います。現在その法整備を進めているところでありますが、来年の通常国会に提出したいと考えています。

 (内閣広報官)

 時間的に最後の質問になるかもしれませんが、それでは竹内さん。

 (記者)

 日本テレビの竹内です。

 消費税率の引上げを延期したことによって、来年度予算でいきますと、おおよそ1.5兆円程度の税収が減ることが予想されるわけなのですけれども、総理は今、会見でも子育て支援などは行っていくというふうにおっしゃいました。となると、税収減が予想される中、財源がやや厳しくなりますから、何らか、何かは続ける以上、何かはメリハリをつけなければいけなくなると思うのですけれども、この点についてはどういうふうに対応されるお考えでしょうか。

 (安倍総理)

 消費税率を引き上げないということになりますと、給付と負担のバランスから、社会保障というのは、給付するためには負担も必要であります。その関係から言っても、全て行うのは、それは難しいと思います。しかし、大切な社会保障の充実であります。これからずっと私たちは上げないと言っているのではなくて、18カ月分だと。18カ月分をどれぐらい確保できるか。できる限り充実に向けて努力をしていきたいと思います。しかし、その中において、子育てをしている方々を支援をしていく。これはしっかりとやっていく考えであります。先ほど申し上げましたように、2年間で20万人、5年間で40万人分の保育の受け皿はちゃんとつくっていく。このことは、はっきりとお約束をしたいと思います。

 (内閣広報官)

 それでは、予定をいたしました時間も経過いたしましたので、以上をもちまして安倍総理の記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

 (安倍総理)

 ありがとうございました。