[文書名] 内外記者会見(2015年6月8日)
【冒頭発言】
先月、福島で開催した太平洋・島サミット。ツバルのソポアンガ首相は、巨大サイクロン「パム」に襲われた時の恐怖を、こう表現しました。「私たちの島が、沈んでしまう。」地球の温暖化は、海面を上昇させ、南太平洋に浮かぶ美しい島を、消滅の危機にさらしています。首相は、更にこう訴えました。「もう時間がない。島に住む人々を、どうか、救ってほしい。」
日本は、東日本大震災と原発事故を乗り越え、温室効果ガスについて、野心的な削減目標を掲げました。しかし、地球規模で進む気候変動に対処するためには、「全ての国が参加する」新たな枠組みを作りあげることが不可欠であります。
今回のG7サミットでは、世界のリーダーたちと、その確固たる方針を確認しました。世界をリードする国々が年に一度集まり、世界が直面する課題について共に議論し、共に立ち向かう。G7サミットは、40年の長きにわたりその時々の課題に協調して取り組む場となり、世界の平和と繁栄に貢献してきました。
テロや感染症の脅威、女性の人権。今年のサミットでも、こうした新たな課題に、世界が手を携えて取り組んでいく。その強い意志を共有することができました。議長を務められた、ドイツのメルケル首相のリーダーシップに、心からの敬意を表する次第であります。
私たちには、共通の「言葉」があります。自由、民主主義、基本的人権、そして法の支配。基本的な価値を共有していることが、私たちが結束する基礎となっています。だからこそ、G7は連帯して、ウクライナの安定を支持する。この方針は、揺るぎないものであります。今回のサミットに先立ち、私は、日本の総理大臣として初めて、ウクライナを訪問しました。ウクライナ国内の改革を加速するため、日本は、これからも、あらゆる可能な協力を惜しまない。そのことをポロシェンコ大統領に申し上げました。
改革を進め、持続的な成長を実現するためには、何よりも平和と安定が必要です。力によって、一方的に、現状が変更される。強い者が、弱い者を、振り回す。これは、ヨーロッパでも、アジアでも、世界のどこであろうと、認めることはできません。法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は、明確であり、一貫しています。
ロシアやウクライナを含む、全ての当事者が、停戦合意を誠実に履行すべきであります。「いかなる紛争も、力の行使や威嚇ではなく、国際法に基づいて、平和的に解決すべきである。」こうした原則を、私は、国際社会において、繰り返し訴えてまいりました。今回のサミットでも、G7の友人たちから、強い支持を得ることができました。
そして、そうした平和的・外交的な解決は、「対話」なくしては、あり得ません。対立は、対話をやめる理由にはなりません。むしろ、課題があるからこそ、対話をすべきであります。
これがG7ではなくG8であったならば、この場に、プーチン大統領がいるはずでありました。冷戦終結後、私たちは、ロシアを受け入れ、「G8」として、世界的な課題に取り組んできた実績があります。
ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります。
来年は、いよいよ、日本が議長国となり、伊勢志摩に、世界のリーダーたちをお招きすることとなります。
眼下に広がる志摩の豊かな海は、太平洋から、インド洋にまでつながっています。アジアやアフリカのたくさんの国々の思いを胸に、日本は、議長国として、世界の平和と繁栄のため、世界のリーダーたちと率直に話し合いたいと思います。
さらに、せっかくの機会でもありますので、伊勢神宮を始め、日本の伝統や文化、美しい自然を、存分に味わっていただきたい。日本の「ふるさと」の素晴らしさを、世界に発信する機会にしてまいりたいと考えています。
私からは、以上であります。
【質疑応答】
(NHK 原記者)
今回のG7サミットでは、ウクライナ情勢への対応が一つの焦点となりましたが、ウクライナ情勢は対立が続いており、米露の対立も鋭くなっています。ウクライナ情勢、それに加えまして、海洋進出を強める中国に対しては、G7として今後どのように対応していくべきとお考えでしょうか。若干、G7の間にも温度差があるようですが、緊密に連携して対応していけるのでしょうか。また、総理はプーチン大統領との対話を続けていくとお話しになりましたが、米露の対立も鋭くなっています。プーチン大統領の年内日本訪問は実現できるのでしょうか。
(安倍総理)
私はこれまで、日本の基本的な立場として、まず法の支配、主権・領土の一体性を尊重すべきこと、そして次に、いかなる紛争も、力の行使や威嚇ではなく、国際法に基づいて平和的に解決すべきこと、を繰り返し主張してきました。
今回のサミットにおきましても、ウクライナ情勢であれ南シナ海、そして東シナ海の情勢であれ、世界の課題に取り組む上でG7の結束が必要であることを訴えました。こうした主張に対して、G7の首脳からは、強い賛同や支持を得ることができました。
我が国は、来年、G7サミットの議長国となります。議長国の立場としてG7が世界の課題に対応していく上で結束が必要であることを主張し、議論をリードしていきたいと思います。繰り返しになりますが、自由や民主主義や基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有するG7こそが、結束して出すべきメッセージを発出していくべきだと思います。
ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。
具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります。
(南ドイツ新聞 シュタインケ記者)
来年、伊勢志摩で、G8になるとの楽観的考えをしておられるか、またはG7になるか。プーチン大統領が東京に来る際、これについてお話される予定か。
(安倍総理)
G7サミットは、自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有する主要先進国の首脳が、世界が直面する議題について、率直に意見を交換するフォーラムであります。今回のサミットを通じ、他のフォーラムにはない、G7ならではの濃密な議論の意義と重要性を改めて認識しました。
来年は、日本がG7の議長国となり、伊勢志摩に世界のリーダーたちを御招待します。8年ぶりのアジアでのサミット開催となります。アジア太平洋地域の視点を取り入れながら、世界の平和と繁栄のため、世界のリーダーたちと率直に話し合いたいと思います。
ウクライナ情勢の現状に鑑みると、現時点では、ロシアを含めたG8で意味のある議論を行えるとは考え難いと考えています。
しかし同時に、シリア問題、あるいはイランの核開発の問題、あるいはまた北東アジアにおける北朝鮮問題等についても、ロシアの建設的な関与も必要である。これは、今回G7においても多くの首脳はそういう認識を共有していたのではないかと思います。
対立は対話をやめる理由にはならないわけでありまして、むしろ課題があるからこそ対話をすべきだ。冷戦終結後、私たちはロシアを受け入れ、G8として世界的な課題に取り組んできたという実績もあるわけでありますから、ロシアには責任ある国家として国際社会の課題に建設的に関与してもらいたい、そういう責任ある国となってもらいたいと考えています。そのためにも、私はプーチン大統領と対話をこれからも続けていく考えであります。
(中日新聞 高山記者)
今国会で審議中の安全保障関連法案について、伺います。先の衆議院憲法審査会で、与党推薦の方を含む、参考人3人の憲法学者全員が憲法違反であると明言しました。この学者の指摘をどのように受け止めていますでしょうか。それと各種世論調査でも反対が賛成を上回っている状況ですが、国民の声や学者の指摘を踏まえて、法案を撤回したり、見直されたりするお考えはありますでしょうか。
(安倍総理)
大切な指摘でありますので、私から正に今、国民の皆様に直接丁寧にお答えさせていただきたいと思います。
国民の命と幸せな暮らしを守っていく。そのことは、政府の最も重要な責務であります。
我が国を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています。脅威は容易に国境を越えてくる。今や、どの国も一国のみで、自国の安全を守ることはできません。私も数々の首脳会談を行いながら、日本の平和安全法制について説明をしてきたところでありますが、こうした認識については、ほとんどの国々と共有できていると思います。
このような中、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う、それこそが平和安全法制であります。この平和安全法制の整備が、切れ目のない対応をして、日本人の命を守るためには、不可欠であると思います。
今回の法整備に当たって、憲法解釈の基本的論理は、全く変わっていません。この基本的論理は、砂川事件に関する最高裁判決の考え方と軌を一にするものであります。
この砂川事件の最高裁判決、憲法と自衛権に関わる判決でありますが、この判決にこうあります。我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取り得ることは、国家固有の権能の行使として当然のことと言わなければならないとあります。これが、憲法の基本的な論理の一つであります。
こうした憲法解釈の下に、今回、自衛の措置としての武力の行使は、世界に類を見ない、非常に厳しい、新三要件の下、限定的に、国民の命と幸せな暮らしを守るために、行使できる、行使することといたしました。
その三要件とは、我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。そして、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。つまり、外交的な手段はやり尽くす。やり尽くした上で、国民の命を守るためには、これ以外に手段がないという状況になっているということであります。
そして、その上において、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、という新三要件があるわけであります。この新三要件を満たさなければ、国民の命を守るため、そして幸せな暮らしを守るため、武力行使は、それ以外にはもちろんできないわけでありますが、そのための武力行使におきましても、この三要件を満たさなければならないという、この三要件があるわけです。
先ほど申し上げた憲法の基本的な論理は貫かれていると私は確信しております。これは、今正にこの三要件を聞いてくださった皆様には、理解していただいたと思いますが、これは他国の防衛を目的とするのではなく、最高裁判決に沿ったものであることは明確であると思います。
政府としては、こうした議論を十分に行った上で、昨年7月に閣議決定を行いました。
(ブルームバーグ ウェッブ記者)
円安がユーロに対してあまりにも急激だと懸念しているか。日本政府が心地良いとする為替レートの水準は如何。
(安倍総理)
為替の水準等については、市場に不測の影響を与える恐れがあるため、総理大臣としては言及するべきではないと考えております。一般論として申し上げれば、経済のファンダメンタルズに沿って安定的に推移していくことが望ましいと考えています。
その上で、為替動向が経済に与える影響について申し上げれば、一般論として、円安方向への動きは輸出企業や海外展開をしている事業者等にとってはプラスになります。例えば、海外から日本にたくさんの旅行者がやってきています。
海外の人々が、安く日本に旅行できるというメリットがあるため、政権交代前は800万人だった海外からの旅行客は、昨年、500万人増えて1,300万人になりました。今年はこれを更に大きく上回りそうな状況になっています。
旅行客の国内での消費額は、昨年、初めて2兆円を超えましたが、これは政権交代前よりも1兆円増えている。海外からたくさんお客さんがやってきて、正に1兆円の富を日本で落としていることになっています。
他方で、円安方向への動きに伴う輸入価格の上昇は、原材料コストの上昇等を通じて、中小・小規模事業者の方々や、地方経済、消費者の生活にも影響を及ぼし得るのも事実です。その影響もよく注視していきたいと思います。