[文書名] 内外記者会見
【冒頭発言】
国連総会に出席するため、ここニューヨークを訪れるのも、3年連続となります。一昨年、私は、「女性が輝く社会」を創るべきだと提唱しました。昨年は、エボラ出血熱やテロの脅威に、世界が連携すべきだと訴えました。
毎年、課題は異なります。しかし、共通していることは、その時々の、人類が直面する危機に、国際社会が共に立ち向かう。国連の旗の下、世界中のリーダーたちが結集し、困難な課題に打ちかつために、力を合わせる。それが、国連総会であります。
今年の最大のテーマは、中東や北アフリカから、大量の難民が、欧州へと流入している問題です。
基本的価値を共有するパートナーとして、日本は、欧州に対して連帯を表明します。
生まれ育った祖国から、大勢の人々が、逃げ出さなければならなかった現実。その原因は、暴力やテロの恐怖、そして、貧困の恐怖であります。
貧困から脱出できる道を、彼らが見出すことができるよう、世界は協力しなければなりません。経済を立て直し、国家を再建する。人々の自立を手助けすることが、問題を解決し、平和を取り戻す、一番の近道であると考えます。
日本は、経済支援、教育・保健医療での協力を、積極的に行い、難民問題の根本的な解決に、大きな責任を果たしていく決意であります。
人々に寄り添い、貧困と闘う。60年前、インドの農家と共に汗を流し、農機具の使い方を伝え、スリランカの畜産者たちを悩ませる流行病と共に闘うことから、私たちはスタートしました。
日本が誇る「ものづくり」の現場の知恵や職業倫理を共有する。アジアやアフリカの若者たちのトレーニングも積極的に行ってきました。現地に足を運び、時間をかけて、人と向き合い、人を育てる。これが、日本のやり方です。今年の国連総会では、世界が手を携えて、貧困の問題に立ち向かう。持続可能な開発を実現する。その強い意志が、新しいアジェンダとして採択されました。
その中には、人間を中心とした「質」の高い成長、教育の重要性が、しっかりと明記されています。日本が、60年の長きにわたって培ってきた経験、ノウハウを、十分に生かしながら、大きな成果を得ることができたと考えています。
貧困だけではありません。感染症、気候変動、女性の人権、そして、津波など災害への備え。21世紀の世界が直面する多岐にわたる課題に、日本だからこそ出来る貢献があると考えます。
他方、創設70周年を迎えた、現在の国連は、残念ながら、こうした新しい課題に十分に対応できているとは言えません。インドのモディ首相、ドイツのメルケル首相、ブラジルのルセフ大統領と、「G4首脳会談」を行い、21世紀に相応しい国連安保理改革が必要であるとの認識で一致いたしました。そして、共に行動していくことを確認しました。
私たち日本人は、国連が理想とする、より良い世界を創るため、安全保障理事会の常任理事国として、一層大きな責任を果たす意欲と覚悟を持つものであります。
「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、これまで以上に、世界の平和と繁栄のために貢献していく決意であります。
世界の首脳が集まる、この機会を利用して、ロシアのプーチン大統領とは、11回目を数える首脳会談を行いました。首脳同士の信頼関係の下に、平和条約の締結を目指し、今後も頻繁に対話を重ねていくことで一致いたしました。
さらには、太平洋の島々、アフリカや中東の国々など、数々の首脳会談を行い、地球儀を俯瞰する視点で、積極的な外交を展開することができたと考えています。
明日は、あの「世界最速の男」、ウサイン・ボルト選手を生んだ、カリブ海の島国・ジャマイカを、日本の総理大臣としては初めて訪問いたします。カリブ共同体の主要国であり、民主主義や法の支配といった基本的価値を共有する国でもあります。シンプソン・ミラー首相と、二国間協力の大きな可能性について、語り合いたいと思います。
さて、ニューヨークは、かつてヤンキースで人気を博した松井秀喜さんを始め、多くの日本人が活躍する街であります。このニューヨークで、日本人の皆さんとも交流をする機会を得ることができました。
そして、ニューヨークは、政治だけでなく、経済、文化の中心地であり、世界中から人々が集まる街であります。日本の魅力を世界に発信するのに、これほど絶好の機会はありません。
アメリカを代表する投資家、経営者の皆さんに、私が、直接、第2ステージへと移ったアベノミクスを説明し、日本への投資を呼びかけました。これからも経済最優先で、強い経済をつくる。子育て支援と社会保障によって、少子高齢化に歯止めをかけ、「1億総活躍」の社会を創る。その決意を訴えてまいりました。
日本の「地方」が持つ「可能性」、美しい「ふるさと」、観光の魅力、和食の素晴らしさについて、コシノ・ジュンコさんや、林・横浜市長、伊勢志摩を擁する鈴木・三重県知事などの協力を得て、アピールすることができました。
日本の伝統、日本の文化を、世界中の人々に知ってもらう。日本のソフトパワーを前面に押し出す外交を、今後、一段と強化していく考えであります。
来年の春、日本は、その伊勢志摩に、世界のリーダーたちを招きサミットを開催します。美しい入り江、伊勢神宮を始め日本が誇る伝統、文化。落ち着いた環境の下で、世界の首脳たちと共に、世界が直面する様々な課題について、胸襟を開いて、議論を行いたいと考えています。
日本として、世界の平和と繁栄のため、しっかりとリーダーシップを発揮する。その強い意志を、今回の国連総会を契機に一層強力に発信してまいりたいと考えています。
私からは、以上であります。
【質疑応答】
(NHK 原記者)
日ロ関係について伺います。総理は今回プーチン大統領と会談されたわけなんですけども、ロシアは米国との間で、ウクライナ情勢、シリア情勢でも対立しておりまして、日ロ関係の先行きは米ロ関係の先行きに大きな影響を受けると思いますが、こうした事態をどのように打開するお考えでしょうか。また、プーチン大統領の日本訪問について、去年は先送りになったわけなんですけども、ベストな時期というのはいつ頃までに決定しようと総理はお考えになっていらっしゃるでしょうか。
(安倍総理)
昨日のプーチン大統領との会談では、日露関係そして喫緊の国際情勢について、率直かつ幅広い議論を行いました。戦後70年を経て、日露間で平和条約が締結されていない、それは異常な状態であると考えています。北方領土問題は、首脳間の対話なくして解決することはできません。プーチン大統領とは今後も、G20やAPECなど国際会議の機会を生かして、首脳レベルで対話していくことで一致をいたしました。ウクライナ情勢やシリア情勢など、国際社会が直面する重要な課題は、ロシアの建設的な関与を得ることが重要であります。昨日も率直かつ有益な議論を行うことができたと思います。今後も継続していくことを確認いたしました。
プーチン大統領の訪日の時期については、昨年11月のAPECにおける日露首脳会談での合意に基づきまして、準備状況など種々の要素を総合的に勘案をいたしまして、プーチン大統領とベストな時期での訪日を実現していくことで一致をしております。
(ロイター、ブラントロム記者)
アベノミクス2.0について伺いたい。なぜ、最初の三本の矢から、この新しい三本の矢に変えたのか。そして一部の批評家からは、非常に曖昧だという声もある。政府は、2%のインフレ目標を達成し、持続可能な成長を達成することはできない、あるいは成長を助けることはできないと考えているとの批判もある。それを達成するために、成長主体の計画をするために具体的に何をしようと考えているのか。また、シリアの難民については、日本は新しいお金をイラクにも出すとのことだが、日本が難民を受け入れるという可能性についてはどう考えるか。
(安倍総理)
日本はアベノミクスの三本の矢の政策によって、雇用、所得環境については明確に改善しております。これは、事実が我々の政策の正しさを示していると思います。そして、デフレ脱却までもう一息、というところまで来ていますし、我々は成長できる国へと確実に生まれ変わりつつあります。
しかしながら、日本には長年手つかずであった少子高齢化という構造的な課題があります。そこで、私は「1億総活躍社会」を目指すことにいたしました。この新しい三本の矢は、まさに私たちが目指さなければいけない目標を明確に定めたものであります。
従来の三本の矢の政策は、経済政策の手段を示すものでありましたが、アベノミクス第2ステージの新「三本の矢」においては、具体的な目標を掲げることにいたしました。第一の矢は、従来の「三本の矢」を強化することによって、戦後最大の経済に向け、GDP600兆円を目指す「強い経済」。その上で人口1億人の維持のため、第二の矢として、国民の希望する出生率1.8を達成するための子育て支援。そして第三の矢として、これは団塊の世代が介護を必要となる年齢に近づいていくわけでありますが、その子供たちの世代が、これは第二次ベビーブーマーの世代になるわけでありますが、彼らが両親の介護のために離職するという事態になれば、これは経済に大きなダメージを与えることになるわけであります。そうした不安を払拭していくことも我々に求められているわけであります。介護を理由に仕事を辞める人がゼロになるという社会を創っていくための社会保障という2本の矢を加えることにいたしました。いずれも一朝一夕には成しえないわけでありますが、この新たな三本の矢を全力で放ち、新たな国づくりを進めていきたいと思います。
そして、今回の難民に対する対応の問題であります。これはまさに国際社会で連携して取り組まなければいけない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々はいわば移民を受け入れるよりも前にやるべきことがあり、それは女性の活躍であり、あるいは高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります。同時にこの難民の問題については、日本は日本としての責任を果たしていきたいと考えておりまして、それはまさに難民を生み出す土壌そのものを変えていくために、日本としては貢献をしていきたいと考えております。
(共同通信、倉本記者)
内閣改造についてお聞きします。総理はこれまで国内の記者会見で帰国次第内閣改造を断行する考えを示されています。内閣改造、党役員人事を行う日程は決まったのでしょうか。また、老壮青、男女のバランスのとれた体制で臨んでいくと説明されていますが、改造の狙いやその方針についてお聞かせください。
(安倍総理)
内閣改造、そして党役員人事については、帰国した後10月7日に行う予定であります。
今後、「1億総活躍社会」を作っていく、そのために新「三本の矢」を放っていく。そうした新たな政策を進めていくために強力な体制を、新しい体制を作っていく必要があると考えています。自民党は老壮青、女性も男性も人材の宝庫と言ってもいいと思います。大きな骨格は維持しながら、できるだけ多くの方々にその能力を発揮をしてもらいたいと考えております。
まだ今の段階では人事については白紙でございますが、これから7日にかけてゆっくり考えたいと思います。幸い、ジャマイカから日本に帰るには、皆さんと共に20時間かけて帰るわけでありますが、その間は電話がかかってくることもございませんし、そうした時間を活用してゆっくり考えたいと思っています。
(NPR、フリードマン記者)
日本政府と沖縄県との間で、普天間飛行場移設問題について対立があるが、これにどう対応しようとしているのか。最近見つかった文書では、米軍が過去に日本の海の生物を殺戮する毒物を流していたとされているが、このようなことが基地移転後も起こらないとどう保証するのか。
(安倍総理)
沖縄の負担軽減を図ることは政府の責任であり、政治の使命であると思います。その中でも大切なことは、市街地の真ん中にある普天間基地の固定化を絶対に避けなければならないということであります。これは、政府と沖縄県の共通の認識といってもいいと思います。
先般、沖縄県と1ヶ月間の集中協議を行い、私からも、安倍内閣としての負担軽減や沖縄振興にかける思いを申し上げたわけであります。今後も対話を続けていく、という点も、県との共通認識であり、このため、新たに、政府と沖縄県との協議会を設置し、協議を行っていきます。
同時に、普天間の移設作業は、政府一体となって、関係法令に従いつつ、住民の生活や環境への影響に配慮しながら、しっかりと進めていきます。
今、環境についてのお話がございましたが、我々はまさに沖縄の海あるいはサンゴ等、自然環境に対して最大限の配慮を行っているわけであります。そのことは改めてはっきりと申し上げておきたいと思います。
今後とも、あらゆる機会を捉えて、地元、そして県民の皆様の理解が得られるように説明を尽くしていく考えであります。