[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見
【安倍総理冒頭発言】
本日、通常国会が閉会いたしました。この国会で成立した法律や予算によって介護休業給付の拡充、介護や保育の受け皿整備、不妊治療への100%助成、ひとり親家庭への児童扶養手当の増額など、一億総活躍社会の実現に向け、新たな取組が次々とスタートいたします。
少子高齢化の流れに歯止めをかけ、誰もが生きがいを感じられる社会を創る。一億総活躍の未来を切り開くため、大きな一歩を踏み出す。「未来へと挑戦する国会」になったと考えています。
他方、足元では新興国や途上国の経済が落ち込んでおり、世界経済が大きなリスクに直面している。こうした認識を先般、伊勢志摩サミットに集まった世界のリーダーたちと共有しました。
先般の熊本地震では、熊本や大分の観光業や農業、製造業など、九州の広い範囲にわたって経済や暮らしが打撃を受けています。
これらが、日本経済にとって新たな下振れリスクとなっている。最悪の場合、再び、デフレの長いトンネルへと逆戻りするリスクがあります。
今こそアベノミクスのエンジンを最大にふかし、こうしたリスクを振り払う。一気呵成に抜け出すためには「脱出速度」を最大限まで上げなければなりません。
アベノミクスをもっと加速するのか、それとも後戻りするのか。これが来る参議院選挙の最大の争点であります。
伊勢志摩で取りまとめた合意を議長国として率先して実行に移す決意であります。アベノミクス「三本の矢」をもう一度、力一杯放つため、総合的かつ大胆な経済対策をこの秋、講じる考えです。
最も重要なことは、構造改革を断行し、将来の成長を生み出す民間投資を喚起することであります。
TPPの早期発効を目指します。さらには、日EU・EPAなど「良いものが良い」と評価される自由で公正な経済圏を世界に拡大することで新しい投資機会を創り出します。
現下のゼロ金利環境を最大限に生かし、未来を見据えた民間投資を大胆に喚起します。
新たな低利貸付制度によって「21世紀型のインフラ」を整備します。リニア中央新幹線の計画前倒し、整備新幹線の建設加速によって、全国を一つの経済圏に統合する「地方創生回廊」をできるだけ早く創り上げます。
保育所や介護施設の整備など、未来の一億総活躍社会を見据えた投資を力強く進めます。
最大のチャレンジは、「多様な働き方」を可能とする労働制度改革です。
長時間労働の慣行を断ち切る。雇用形態に関わらない均等待遇を確保する。そして、同一労働同一賃金を実現します。「非正規」という言葉を日本国内から一掃する、その決意で全体の所得の底上げを図り、内需をしっかりと拡大していきます。
こうした諸改革と合せて、今なお地震が続く熊本地震の被災者の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、被災地のニーズをしっかりと踏まえつつ、本格的な復興対策を実施いたします。
G7で協力し、世界的な需要を強化するため、将来の成長に資する分野で大胆に投資を進める。人工知能、ロボット、世界に先駆けた技術革新を日本から起こす。しっかりと内需を支える経済対策を行う考えであります。
その上で、来年4月に予定される消費税率の10%への引上げについてお話しいたします。
1年半前の総選挙で、私は来年4月からの消費税率引上げに向けて必要な経済状況を創り上げるとお約束しました。そして、アベノミクスを強力に推し進めてまいりました。
現在、有効求人倍率は24年ぶりの高い水準となっています。それも、都会だけの現象ではありません。就業地別で見れば、北海道から沖縄まで47の都道府県全て1倍を超えました。これは史上初めての出来事であります。一人の求職者に対して一つ以上の仕事があるという状況を創り出すことができたのです。
リーマンショック以来、減少の一途をたどっていた正規雇用は昨年、8年ぶりに増加に転じ、26万人増えました。この春の高校生の就職率は、24年ぶりの高さであります。大学生の就職率は、過去最高となりました。政権交代前から中小企業の倒産も3割減少しています。ここまで倒産が減ったのは、25年ぶりのことであります。
所得アップについても、連合の調査によれば、中小企業も含めて、一昨年、昨年に続き、今年の春も3年連続で、今世紀に入って最も高い水準の賃上げを実現することができました。今世紀に入って最も高い水準であります。それを実現することができたのです。そして、パートの皆さんの賃金も過去最高を記録しています。一部の大企業で働いている方の給料が上がっただけでは、決してありません。パートで働いている皆さんの時給も過去最高となっているのです。どうかここも見ていただきたいと思います。
雇用を創り、そして所得を増やす。まだまだ道半ばではありますが、アベノミクスは順調にその結果を出しています。
しかし、世界経済は、この1年余りの間に想像を超えるスピードで変化し、不透明感を増しています。
最大の懸念は、中国など新興国経済に「陰り」が見えることです。リーマンショックの時に匹敵するレベルで原油などの商品価格が下落し、さらに、投資が落ち込んだことで、新興国や途上国の経済が大きく傷ついています。
これは、世界経済が「成長のエンジン」を失いかねないということであり、世界的な需要の低迷、成長の減速が懸念されます。
世界の経済の専門家が今、警鐘を鳴らしているのは、正にこの点であります。
これまで7回にわたって国際金融経済分析会合を開催し、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授やクルーグマン教授を始め、米国や欧州、アジアの経済の専門家から直接意見を伺ってまいりました。
その専門家の多くが、世界的な需要の低迷によって、今年、そして来年と、更なる景気悪化を見込んでいます。
こうした世界経済が直面するリスクについて、G7のリーダーたちと伊勢志摩サミットで率直に話し合いました。その結果、「新たに危機に陥ることを回避するため」、「適時に全ての政策対応を行う」ことで合意し、首脳宣言に明記されました。
私たちが現在直面しているリスクは、リーマンショックのような金融不安とは全く異なります。しかし、私たちは、あの経験から学ばなければなりません。
2009年、世界経済はマイナス成長となりましたが、その前年の2008年時点では、IMFも4%近いプラス成長を予測するなど、そのリスクは十分には認識されていませんでした。直前まで認識することが難しい、プラス4%の成長予測が一気にマイナス成長になってしまう。これが、「リスク」が現実のものとなった時の「危機」の恐ろしさです。
私は、世界経済の将来を決して「悲観」しているわけではありません。
しかし、「リスク」には備えなければならない。今そこにある「リスク」を正しく認識し、「危機」に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます。
今般のG7による合意、共通のリスク認識の下に、日本として構造改革の加速や財政出動など、あらゆる政策を総動員してまいります。そうした中で、内需を腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべきである。そう判断いたしました。
いつまで延期するかについてお話しいたします。
中国などにおいては、過剰設備や不良債権の問題など、構造的課題への対応の遅れが指摘されており、新興国経済の回復には時間がかかる可能性があります。そうした中で、世界的な需要の低迷が長期化することも懸念されることから、できる限り長く延期すべきとも考えました。
しかし、私は、財政再建の旗を降ろしません。我が国への国際的な信認を確保しなければならない。そして、社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たす。安倍内閣のこうした立場は、揺るぎないものであります。
2020年度の財政健全化目標はしっかりと堅持します。そのため、ぎりぎりのタイミングである2019年10月には消費税率を10%へ引き上げることとし、30か月延期することとします。その際に、軽減税率を導入いたします。
3年間のアベノミクスによって、国・地方を合わせて税収は21兆円増えました。その2年半の延期によって、その間にアベノミクスをもう一段加速する。そのことで更なる税収アップを確保し、2020年度のプライマリーバランスの黒字化を目指す考えであります。
1年半前、衆議院を解散するに当たって、正にこの場所で、私は消費税率の10%への引上げについて、再び延期することはないとはっきりと断言いたしました。リーマンショック級や大震災級の事態が発生しない限り、予定どおり来年4月から10%に引き上げると、繰り返しお約束してまいりました。
世界経済は今、大きなリスクに直面しています。しかし、率直に申し上げて、現時点でリーマンショック級の事態は発生していない。それが事実であります。
熊本地震を「大震災級」だとして、再延期の理由にするつもりも、もちろんありません。そうした政治利用は、ひたすら復興に向かって頑張っておられる被災者の皆さんに大変失礼なことであります。
ですから今回、「再延期する」という私の判断は、これまでのお約束とは異なる「新しい判断」であります。「公約違反ではないか」との御批判があることも真摯に受け止めています。
国民生活に大きな影響を与える税制において、これまでお約束してきたことと異なる判断を行うのであれば、正に税こそ民主主義であります、であるからこそ、まず国民の皆様の審判を仰いでから実行すべきであります。
信なくば立たず。国民の信頼と協力なくして、政治は成り立ちません。「新しい判断」について国政選挙であるこの参議院選挙を通して、「国民の信を問いたい」と思います。
「国民の信を問う」以上、目指すのは、連立与党で改選議席の過半数の獲得であります。
これは、改選前の現有議席を上回る高い目標でもあります。さらに、野党は政策の違いを棚上げして、政策の違いを棚上げしてまで、選挙目当てで候補の一本化を進めています。大変厳しい選挙戦となる。それは覚悟の上であります。
しかし、この選挙でしっかりと、自民党、公明党、与党で「過半数」という国民の信任を得た上で、関連法案を秋の臨時国会に提出し、アベノミクスを一層加速させていく。その決意であります。
9年前、私は総理大臣として、あの夏の参院選で大敗を喫し、その後、総理の職を辞することとなりました。
あの時の挫折は、今も私の胸に深く刻み込まれています。
困難な政策であればあるほど、国民的な理解を得て、国民と共に前に進むほかに道はない。これがあの時の反省であります。その反省の上に、この3年余り、国政に邁進してまいりました。
4年前の総選挙、3年前の参議院選挙、1年半前の総選挙、国民の皆様から大きな力をいただいて、アベノミクスを加速することができました。
その結果、世の中の雰囲気は確かに皆さん、大きく変わった。大きく変わったことは事実であります。まだまだ道半ばではありますが、雇用は確実に増え、所得も確実に上がっています。
この道を力強く前に進んでいこうではありませんか。4年前のあの低迷した時代に後戻りさせてはなりません。
世界経済がリスクに直面する今、ロケットが大気圏から脱出する時のように、アベノミクスのエンジンを最大限にふかさなければなりません。デフレからの「脱出速度」を更に上げていかなければなりません。
そのためには、もう一度、国民の皆様の力が必要であります。国民の皆様の御理解と御支持をお願いいたします。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、皆様から質問をいただきますので、質問される方は所属とお名前を明らかにした上で質問をお願いいたします。
初めに幹事社から。
(記者)
時事通信の松本です。
消費税についてお伺いいたします。
消費税について、総理は引上げを先送りした前回2014年11月の記者会見で、10%に確実に引き上げると明言されました。その発言を実現できなかった政治的責任を、まず総理はどうお考えでしょうか。
また、増税の次の時期について、19年10月に延期されましたけれども、御自身の自民党総裁としての任期は18年9月までで、その任期を超える設定となっております。野党などからは無責任ではないかという指摘もありますけれども、その19年10月の引上げをどのように担保されるのでしょうか。
さらに、社会保障などの安定財源の不足が懸念されていますけれども、これをどう確保していくのか、具体的なスケジュールも含めてお考えがあればお聞かせください。
(安倍総理)
冒頭申し上げましたように、中国など新興国の経済が落ち込んでいます。その中で、世界経済において、需要の低迷、また成長の減速が懸念されているわけであります。こうした世界経済のリスクについて、今回、伊勢志摩の地において、日本が議長国として行ったサミットにおいて、この世界経済の状況、リスクについて認識を共有したわけであります。そうした中において、新たな危機に陥ることを回避するため、適時に全ての政策対応を行うことで合意をし、これが首脳宣言に明記されたわけであります。
G7と協力して、日本としても構造改革の加速や財政出動など、あらゆる政策を総動員していかなければなりません。それが正に今回、議長国として首脳宣言を作成する、いわばリーダーシップをとった国の責任でもあろうと思います。正にこういうリスクのある中において、需要が低迷する、成長が減速する、このリスクの中でやるべきことを全てやっていかなければならないという中において、私たちが進めてきた、いわば「三本の矢」の政策を、G7でこの「三本の矢」の政策を進めていく。この認識を共有したわけであります。この認識を共有する中において、この議論を主導した議長国日本としての責任があるだろうと思います。
その中で、先ほど申し上げましたが、政治的な責任、かつて言っていたことと違うではないか。確かにリーマンショック級の出来事は起こっていませんし、大震災も起こっていないのは事実であります。ですから、新しい判断をした以上、国民の声を聞かなければならないわけであります。
代表なくして課税なし、税こそ民主主義。この考え方は私の考え方として一貫しています。国民生活に大きな影響を与える税制において新しい判断を行うのであれば、御指摘のような御批判も含めて、その判断は前の判断と違うではないかという御批判も受け止めて、そして国民の皆様の審判を受け止めた上で、秋の臨時国会にそのための法案を出したいと考えています。
正に民主主義とは何か。それは、選挙を通じて国民の声を聞くことであります。この政治の責任、国民の声を聞くことによって、我々はしっかりとこの選挙に、その中で勝ち抜いていく中において、責任を果たしていきたいと考えています。国政選挙である、この参議院選挙を通じて、国民の信を問いたいと考えた次第であります。
そして、この選挙でしっかりと過半数という国民の信任を得た上で、19年10月からの引上げを明記した関連法案を秋の臨時国会で成立させたいと考えています。加えて、総合的かつ大胆な経済対策を講じて、アベノミクスを一層加速させていく決意であります。
先般の伊勢志摩サミットの合意に基づいて、G7諸国と力を合わせて世界経済が直面するリスクに立ち向かうことによって、19年10月からの引上げが可能な環境を整えるべく、力を尽くしてまいります。
そして、総裁の任期を超えるのではないかという御指摘がございました。今回は、経済の再生のためには、アベノミクスを進めていく上において負荷をかけずに、正にそのエンジンを最大限に回転させ、正にアベノミクスを最大限にふかしていくことが必要です。そして、脱出速度を得てデフレから脱却をしていく。正に、このリスクに直面するG7で経済の牽引役を果たしていくという責任も、そこで果たしていきたいと考えています。
そのためには、先ほども申し上げましたように、できる限り延ばすということも考えたわけでありますが、同時に財政再建という、この旗を降ろすつもりはありません。その中で最適のタイミングが19年の10月であるという判断に立ったわけであります。むしろ、自民党の総裁任期で判断してはならないと考えたわけでありまして、それは国民生活にとって大きな影響がある経済です。
これを間違えれば、また20年間続いたデフレに戻る。どんなに頑張ったって仕事がないという状況に戻ってしまうのです。どんなに頑張ったって給料が上がらないという状況に戻ってしまう。それを単に私の任期がこうだからこの中で収める、そういう判断は私はしませんでした。経済的にそれは正しいという時期を選んだわけであります。
総裁任期によって判断を歪めてはならない。当然そういう御批判はあるだろうと思いました。しかし、例えば2020年度のPB(プライマリーバランス)黒字化目標というのも、私の任期を超えている目標ではありますが、この目標にもしっかりとかなう判断をしたところであります。この実現に向けた道筋を私の任期中にしっかりとつけていく。それが私の果たしていく責任であると、こう考えたところであります。
そして、社会保障については給付と負担のバランスを考えれば、10%への引上げをする以上、その間、引き上げた場合と同じことを全て行うことはできないということは御理解をいただきたいと思います。
民進党のように、赤字国債を発行してその給付を全て賄う、社会保障費を全て賄うということは、私は無責任だと思います。赤字国債を財源に社会保障の充実を行うような無責任なことは、私たちは行いません。自民党と公明党の連立与党はそういうことは絶対にしない、ということをまず明確に申し上げておきたいと思います。
しかし、安倍政権の下で子育て世帯を支援していく、この決意は揺らぎません。保育の受け皿50万人分の確保、来年度までの達成に向け、約束どおり実施いたします。
また、「介護離職ゼロ」に向けた介護の受け皿50万人分の整備も、スケジュールどおり確実に進めていきます。
さらに、保育士、介護職員等の処遇改善など、一億総活躍プランに関する施策については、アベノミクスの果実の活用も含め、財源を確保して、優先して実施していく考えであります。
この3年半のアベノミクスによって、国、地方を合わせて税収は21兆円増加をしました。私がこの経済政策を進めた時、税収がそれで増えていくということを言った人は少ないと思います。私は、必ず税収は増えていく、そう主張しましたが、随分それは批判にさらされました。そういう批判がありましたが、我々はこのアベノミクスを進めた結果、国、地方を合わせて税収が21兆円増えたわけであります。
ですから、この一事を見ても、私たちの政策が失敗したとは言えないと思います。民進党が、失敗したと言うのであれば、共産党と一緒になって、では、代わりの政策を示していただきたいと思う次第であります。
それは正に逆戻りにつながっていく。しっかりとこの道を進んでいくことで、私たちは税収を更に増やしていきたい。アベノミクスを一段と加速することによって、税収を一段と増やしていきたい。こう考えているのです。そして、その果実も使って、可能な限り社会保障を充実させてまいります。いずれにせよ、優先順位をつけながら今後の予算編成の中で最大限努力をしていく考えであります。
(内閣広報官)
なるべく多くの方に御質問いただきたいので、質問者は一人一問でお願いします。
それでは幹事社、もう一問、どうぞ。
(記者)
テレビ東京の宮﨑です。
参院選について、先ほど冒頭発言の中で争点や勝敗ラインについてお触れになられましたが、日程についてはどうお考えでしょうか。
そして、消費税増税を再延期する決断に当たり、衆参同日選挙で国民の審判を仰ぐ考えはなかったのでしょうか。今回、衆議院の解散は見送ったものの、与野党内では安倍総理の対応に注目が集まっています。2018年の12月に任期満了を迎えるに当たって、任期満了を迎えるのをにらんで、次の衆院選のタイミングをどういうふうに考えていらっしゃるのか、お考えをお聞かせください。
(安倍総理)
まず、参議院選挙の投票日は7月の10日といたします。公示日については、沖縄の慰霊の日に配慮して6月22日といたします。これを明日、閣議決定いたします。
そして、この参議院選挙の最大の争点は、正にアベノミクスを力強く前に進めていくのか、あるいは後戻りするのか、これを決める選挙なのだろうと、こういうふうに考えます。その中で、国民の信を問う選挙でありますから、改選議席の過半数を自民党、公明党、与党で獲得するべく全力で選挙戦を戦っていく決意であります。
そして、同日選挙についてでありますが、先ほど国民の信を問いたいと申し上げましたが、今週に入って、野党から内閣不信任案が提出をされるということに至りました。その中において、内閣不信任案でありますから、内閣は総辞職せよということなのだろう。それは当然、岡田代表はどういうわけかおっしゃらなかったのですが、解散を求めるという意味もあったのかなと思いますから、ですから、その時に衆議院を解散することについて、私の頭の中を解散についてよぎったことは否定いたしません。
しかし、熊本地震の被災地では、いまだ多くの方々が避難生活を強いられている中において、参議院選挙を行うだけにおいても、これはその準備でも大変な御苦労をおかけしている状況であります。こうしたことなどを考慮いたしまして、同じく国政選挙である参議院選挙において、国民の信を問いたいと、このように判断したところであります。
その中においては、参議院の全体の過半数であれば、前回勝利した分があります。大きなプラスがありますが、それは入れずに、信を問うというのであれば今回の改選議席の過半数、これは厳しい戦いになりますが、それを目標として定め、勝ち抜き、信任を得たい。そう決意をしたところであります。
そして、私の任期は18年の12月ではなくて9月まででありまして、この任期の間に選挙をやるかどうか、今の段階では、解散の「か」の字もないということであります。
(内閣広報官)
それでは、これから幹事社以外の方から御質問をいただきますので、御希望をされる方は挙手をお願いしたいと思います。
それでは、内田さん。
(記者)
朝日新聞の内田です。
参院選の目標議席について伺いたいのですが、総理は今、目指すのは与党で改選議席という目標をおっしゃられましたけれども、以前は改憲勢力で3分の2を目指す考えも示されていたと思います。改めて、今回の参院選でこの3分の2を目指すのかどうか、また、この3分の2を獲得した場合は任期中に憲法改正の発議を目指すのかどうか、お考えをお聞かせください。
(安倍総理)
憲法の改正というのは、衆議院、参議院それぞれ3分の2、それはそう簡単なことではないということは従来から申し上げておりますし、例えば自民党、公明党、与党で3分の2をそれぞれとることは、私は不可能であると申し上げてきました。正にそれは憲法審査会において議論を進める中において、逐条的な議論を例えば進めていく中において、それだったら賛成しましょう、あるいはここをこう修文すれば議員が増えていくということになって、初めてその可能性は見えてくるわけであります。
この選挙においても、我々は憲法改正草案を示していますが、これをやりますから3分の2になるために賛成する人は誰ですかということを募っているわけではありません。ですから、それはそう簡単なことではありませんし、いわば決意として申し上げているわけでありまして、選挙の勝負というのは常に、これは与党で過半数ではないでしょうか。そうでなければ、では、どちらが勝ったのだということになります。野党において全く政権から遠い状況でも、では、勝ったのかということになってしまいますから、これは常識として、これは世界の選挙の常識だと思いますが、例えば衆議院においては選挙で過半をとった勢力が政権を担います。ですから、そこが分岐点であるのは当然のことであります。それ以下であった政党が勝ったということ自体が、これはおかしいのではないでしょうか。つまり、正に勝負の岐点はどこかと言われれば過半数であろうと、このように思います。
ですから、私は再々、今申し上げておりますように、普通であれば、参議院全体の過半数としては、前回勝っておりますから、参議院というのは6年間という長いスパンでどちらが過半数をとるかということになりますから、既に私たちは前回、60を超える議席をいただいておりますから、これを足し込んだもので過半数ということになるのだろうと思います。ですから、今度、こういう形で消費税について、前回申し上げたことと違う新しいことを申し上げている中で信を問う、ということを申し上げていなければ、私は参議院全体での自民党、公明党で過半数を維持する、これを目標としていました。しかし、今回はそうではなくて、正にこの国政選挙で信を問いたいと申し上げておりますから、過半数をこの改選議席の中でとるという厳しい目標を掲げたわけであります。
(内閣広報官)
最後にもう一問だけいただきます。
では、原さん。
(記者)
総理、伊勢志摩サミットでは、中間層が経済的な利益を得られるような財政出動ですとか投資を行うべきだという認識で共有されたわけなのですけれども、個人消費の伸びに力強さがないことに対して、中間層が細っているですとか、あるいは格差が拡大しているという批判がありますけれども、そういった御指摘に対して総理はどのように受け止められていますでしょうか。
また、消費増税の延期と合わせて、中間層を分厚くするための経済対策を講じる考えはおありでしょうか。
(安倍総理)
サミットにおいても、中間層の重要性について議論がありました。私からも、中間層は重要である、中間層を重視をしていかなければ、いわば社会の安定性を確保していくためにも中間層が必要である、という趣旨のことを申し上げたわけであります。
その考え方の下に、我々も政策を進めて今までまいりました。「三本の矢」によって、もはやデフレではないという状況を創り出すことができました。
その中で、例えば非正規で働く方々の正社員化や、最低賃金を3年連続で上げたことによって、先ほどパートの時給が過去最高となったと申し上げましたが、これは3年間連続で高い、15円、16円、18円と高い水準で3年連続最低賃金を引き上げた結果、パートの時給が過去最高となった。
今後も中間層が将来に期待を持てるようにするために、財政支出や民間投資が重要であるといった指摘がありました。正にそのとおりだ。そのために我々は、一億総活躍社会の実現を目標に掲げて、教育費の負担軽減や、子育て、介護と仕事を両立できる環境整備に力を尽くしているわけであります。
こうした我が国の取組を踏まえて、私から各国首脳に対して、人材育成や教育といった分野への官民の更なる投資にコミットすることを訴えました。成長を社会の全ての層の利益となることの確保や人材育成、教育等の経済成長に資する分野への更なる投資が合意されたわけであります。
今後このG7の合意も踏まえまして、このG7の合意、先ほど申し上げましたように中間層が大切である。そのために一億総活躍社会を進めている。その中の正にエッセンスについて、これをこのG7の合意として書き込んでいくべきだということが合意され、今、申し上げたことが入り込んだわけでありますが、その合意も踏まえて同一労働同一賃金の実現による非正規雇用の更なる処遇改善や、保育士・介護士の処遇改善、保育・介護の受け皿の整備や奨学金制度の更なる拡充など、一億総活躍社会の実現に向けた施策を進めていきたい。
一億総活躍社会というのは、皆が活躍できる社会であります。であるからこそ、その結果は間違いなくそれを進めていけば、中間層はより厚くなり、そして、いわば欧米で起こっているああした一部の人たちに富が集中する、一部の人にしか機会がないという社会ではなくて、皆にチャンスがある社会を創っていく。皆に機会がある社会を創っていく。皆がそれぞれ才能を生かしていくことができる社会を創っていくということが、我々が進めている一億総活躍社会であり、正に今回の伊勢志摩サミットで指摘された議論は、我々が進めてきた議論、やるべき政策と方向性の一致するものであったと、このように思っています。
(内閣広報官)
では、予定をしておりました時間を経過いたしましたので、これをもちまして記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
(安倍総理)
ありがとうございました。