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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2016年8月3日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 先月の参議院選挙の結果、「政治の安定」を求める国民の皆様の声に後押しされ、私たち連立与党は、参議院において戦後最も安定した政治基盤を獲得いたしました。その責任の重さをかみしめながら、これまで以上に身を引き締め、選挙でお約束した各般の政策を丁寧に、かつ一層のスピード感をもって実践してまいります。しっかりと「結果」を出していきたいと思います。そのために、本日、内閣を改造いたしました。

 最優先課題は経済であります。昨日、事業規模28兆円を上回る力強い経済対策を決定しました。「未来への投資」を大胆に行う補正予算を秋の臨時国会に提出いたします。あらゆる政策を総動員して、世界経済のリスクに立ち向かい、デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げてまいります。麻生財務大臣、そして石原経済再生大臣には、引き続きアベノミクスの「エンジン」としての役割を担っていただきたいと思います。

 経済産業大臣は世耕さんにお願いをいたしました。これまで官房副長官として官邸主導の政権運営を支えてきてくれました。成長戦略の「切り込み隊長」として期待をしております。官邸外交の経験も生かし、全世界を視野に大胆な通商戦略を展開してもらいたいと期待しています。世界にアベノミクスをどんどん売り込んでほしいと思います。

 石井国交大臣には留任していただきました。外国人観光客4,000万人時代を見据え、地方創生回廊の整備などに取り組んでいただきます。

 観光、農業、地方には成長のチャンスがあふれています。これらの成長の主役は地方であります。地方創生大臣は、野党時代からアベノミクスを私とともに練り上げてきた山本幸三さんにお願いをいたしました。高市総務大臣と力を合わせ、活力あふれる地方の「未来」を描いてほしいと思います。山本大臣には、規制改革担当大臣も兼務してもらい、徹底的な改革を通じ、地方が持つ可能性を大きく開花してもらいたいと思います。

 農政改革も待ったなしであります。TPPを大きなチャンスとして、「農政新時代」を切り拓いていくためには、生産から流通、加工まで、あらゆる面での構造改革を断行しなければなりません。閣僚経験もある改革派の山本有二農水大臣にそのかじ取り役を担ってもらいます。

 鶴保さんには沖縄・北方対策大臣、科学技術担当大臣をお願いしました。参議院の政審会長としてあらゆる政策の取りまとめに当たってきた手腕で、沖縄の振興を進め、我が国のイノベーションを牽引してもらいたいと思います。

 党内きっての政策通、重厚な経済閣僚をそろえて、成長戦略を一気に加速してまいります。目指すは戦後最大のGDP600兆円。さらには、希望出生率1.8、介護離職ゼロ。この3つの「的」に向かって「一億総活躍」の旗を一層高く掲げ、安倍内閣は「未来」への挑戦を続けていきます。

 その最大のチャレンジは、「働き方改革」であります。長時間労働を是正します。同一労働同一賃金を実現し、「非正規」という言葉をこの国から一掃します。最低賃金の引上げ、高齢者への就労機会の提供など、課題は山積しています。今回新たに働き方改革担当大臣を設け、加藤一億総活躍大臣にその重責を担っていただきます。加藤大臣のもと、「働き方改革実現会議」を開催し、塩崎厚労大臣と緊密に連携しながら、年度内を目途に「働き方改革」の具体的な実行計画を取りまとめてもらいます。そして、スピード感をもって実行していく考えであります。

 若者への投資も拡大します。文部科学大臣は、長年、文教行政に携わってきた松野さんにお願いいたしました。子供たちの誰もが家庭の経済事情に左右されることなく、希望する教育を受けられる。そういう社会を創り上げたいと思います。給付型の奨学金について、来年度予算編成の中で実現できるよう、具体的な検討を早急に進めてもらいます。

 地球儀を俯瞰する外交は、「未来」を見据えながら、更に加速していきます。外務大臣は、これまでの経験や人脈を生かし、引き続き岸田大臣に務めていただきます。中国、韓国など、近隣諸国との関係強化、そして、日露の平和条約交渉も着実に進めてまいります。

 本日、またも北朝鮮が弾道ミサイル発射を強行しました。日本のEEZ内に落下したものと見られ、我が国の安全保障に対する重大な脅威です。許しがたい暴挙であります。米国、韓国をはじめ、国際社会と緊密に連携しながら毅然と対応していく考えであります。安全保障環境が厳しさを増す中にあって、政調会長としてこの2年近く自民党の政策立案の司令塔だった稲田さんに防衛大臣として我が国の安全保障政策を担ってもらいます。

 抑止力の維持を図りながら沖縄の基地負担を軽減する。菅官房長官には今後も担当大臣として全力を尽くしてほしいと思います。

 今週、待ちに待ったリオ五輪が始まります。日本代表の皆さんのこの4年間の努力が報われ、大活躍されることを期待しています。次の開催国として、4年後に向けたウォーミングアップをいよいよ本格化します。その旗振り役を心機一転、東京選出であり、環境政策にも通じた丸川大臣にお願いします。

 東京オリンピック・パラリンピックを必ずや成功させる。その決意を世界に示すため、私もリオ五輪の閉会式に出席したいと考えます。そして、2020年、更にその先を見据えながら「一億総活躍」をはじめ、日本の「未来」を切り拓いてまいります。

 「未来への責任」を果たしていく。これが新たな内閣の最大の使命であります。「未来」に向かって挑戦、挑戦、そして挑戦あるのみです。あくなきチャレンジを続けてまいります。この内閣はいわば「未来チャレンジ内閣」であります。8名の方々が初入閣です。

 環境大臣に就任した山本公一さんは、京都議定書をまとめたときの環境政務次官であり、この道のプロであります。

 今村復興大臣は国交大臣政務官や農水副大臣を歴任した方です。その経験をフル活用して政権最大の課題である東北の復興を更に加速してほしいと思います。

 「世界一安全な国・日本」。その基盤となる法務執行は、幅広い行政経験と党内屈指の実務能力を持つ金田大臣に託したいと思います。

 危機管理は極めて重要です。麻生政権で官房副長官として災害対応などに当たった経験を持つ松本さんに、国家公安委員長と防災担当大臣をお願いしました。熊本地震の被災者の皆さんの生活再建を加速していただきたいと考えます。

 いずれも初入閣の方々でありますが、長年政府や党にあって政策を磨いてきた「十年一剣」の人材ばかり。その能力を安倍内閣の次なるチャレンジのため、思う存分生かしてもらいたいと思います。

 党人事についてお話をいたします。

 入院中の谷垣幹事長については、その意向を尊重し、交代していただくことといたしました。いかなる困難においてもそのリーダーシップで党を一糸乱れずまとめ上げてくださった谷垣幹事長に本当に感謝しています。一日も早く快復していただき、再び自民党のため、そして、日本国のためにその力を貸していただきたいと願っています。

 新たに二階幹事長、細田総務会長、茂木政調会長、そして、古屋選対委員長、いずれも百戦錬磨の政治家であります。党においても果敢にチャレンジを続けるための盤石の体制を築くことができたと考えています。

 以上の強力な布陣のもと、安倍内閣は「未来」をしっかりと見据え、この道を力強く前へ進んでいきます。

 私たちの新たな船出に国民の皆様の御理解と御支援を賜りますよう、お願いを申し上げます。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、皆様から質問を頂きます。質問される方は改めまして、所属とお名前を明らかにされてからお願いいたします。

 質問は極力簡潔にお願いいたします。多くの方から質問をして頂きたいと思いますので、御協力をお願いいたします。

 それでは、初めに幹事社から、どうぞ。

(記者)

 テレビ朝日の藤川です。

 内閣改造と党の役員人事についてお尋ねいたします。

 幹事長に起用した二階さんにどのような役割を期待されるのかということをお尋ねいたします。自民党内では二階さんの起用について、総裁任期の延長に向けた環境整備ではないかというような見方も出ていますが、総裁任期の延長についてもお考えをお聞かせください。

 また、将来の総理候補と目されている石破さんが閣外に出たことによって、今後の政権運営にどのような影響があるとお考えになりますでしょうか。

(安倍総理)

 今回、自民党が参議院で単独過半数を回復するまで、27年の歳月を要したわけであります。一度失った信頼は、四半世紀以上かけなければそう簡単に戻ることができない。このことを私たちみんなが、自民党員全員がしっかりとかみしめなければならない。その上で、国民の皆様から負託されたこの責任感のもとに、期待に応えていかなければならないと考えています。

 選挙を通して私たちが訴えた政策を、しっかりと結果としてお示しをしていくことによって、選挙で頂いたこの信頼に応えていかなければ、我々は再び一気に国民の信頼を失ってしまうわけであります。この責任感については、閣内にいようと、閣外でいようと、変わりはないということであろうと思います。その思いの中で、一丸となって政策実現に向かって進んでいかなければいけません。その思いは石破さんも同じだろうと思っています。石破さんには、地方創生担当大臣として大きな成果を上げていただきました。改めて感謝申し上げ、敬意を表したいと思っています。今後も党にあって、しっかりとともに力を合わせて協力をしていただけると、こう確信をいたしております。

 自民党はもとより、多くの多様な意見を、正にぶつけ合う、かんかんがくがくの議論をする中から、我々はエネルギーを勝ち得ていたと思います。しかし、一旦まとまれば、一旦結論に達すればみんながまとまっていく。そのことによって我々は政権与党として責任を果たしてきました。その矜持をみんなが持っているから、我が党は野党に転落した後、衆議院2回の選挙、参議院の選挙に勝ち抜くことができた。そう思っています。

 二階幹事長には、総務会長としてそうした議論の取りまとめに当たっていただいた。百戦錬磨、いわば自民党において最も政治的技術を持った方だろうと、こう思っています。しっかりと党内の意見を集約してきたこの見識をもって、幹事長としてリーダーシップを果たしていただきたいと思っています。

 私の任期はまだ2年残っておりまして、まだまだ課題が山積をしておりますから、その仕事を果たしていくことに全力を尽くしていきたいと思っています。任期の延長ということについては、全く考えておりません。

(内閣広報官)

 それでは、もう一問、幹事社から頂きます。

(記者)

 朝日新聞の内田と申します。

 憲法改正について伺います。

 総理は国会の憲法審査会で憲法改正の議論を収れんさせる考えを示されていますが、次の臨時国会から具体的な議論に入りたい考えはございますでしょうか。

 また、御自身の在任中に憲法改正を実現したいともおっしゃっていますが、憲法改正の発議から国民投票まで、どのようなスケジュール感をもって臨みたいと考えていますか。お聞かせください。

(安倍総理)

 憲法改正は立党以来の我が党の党是と言ってもいいと思います。当然、私は総裁でありますから、その実現のために全力を尽くしていくことは当然であり、そして、今までの歴代の自民党がそうであったように、この難しい課題に挑戦をしていくという責務を負っているのだろうと思います。ですから、それは自分の任期中に果たしていきたい、こう考えるのは当然のことであり、それは歴代の自民党の総裁もそうであったのだろうと思います。しかし、それはそう簡単なことではないのは事実でありまして、その事実をかみしめながら、政治の現実において、一歩一歩進んでいくことが求められているのだろうと思います。

 憲法改正は普通の法律と異なりまして、3分の2の賛成で発議するのでありまして、国会はその役割を果たす。発議することが役割であり、決まるのは国民投票によって過半数の賛成を得て決まるものであって、与党が賛成すればできるというものではないわけであります。ですから、たとえその数を選挙で得たからといって、改正がなし遂げられるものではなくて、大切なのは国民投票でその過半を得ることができるかということではないかと思います。

 ですから、まずは具体的にどの条文をどのように変えるかは国民的な議論の末に収れんしていくものだろうと思います。まずは憲法審査会の中で、静かな環境において、所属政党にかかわらず、政局のことは考えるべきではないと思います。政局ではなくて、しっかりと日本の「未来」を見据えて議論を深めていってもらいたいと。そして、それが国民的な議論につながっていくことを期待したいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、これからは幹事社以外の方から質問を頂きますので、御希望される方は挙手をしていただけますでしょうか。私から指名いたしますので、それでお答えをいただきます。

(記者)

 ウォール・ストリート・ジャーナルのランダースと申します。

 先週、日本銀行が大幅な金融緩和を見送りましたけれども、外国人の投資家の間ではもう日銀のさらなる経済への後押しは期待できなくなったのではないかという見方が広がっていると思います。このことが日本経済にどのような影響を与えると思いますか。

(安倍総理)

 金融政策の具体的な手法については、日本銀行に委ねるべきだと考えておりますし、私は黒田総裁の手腕に信頼を寄せています。

 そして、黒田総裁は現在の金融政策について、限界がきていることは全くなく、その時々で最も適切な政策を行う旨、発言されていると承知をしています。

 政府としては、引き続き日本銀行が2%の物価安定目標に向かって進んでいく、物価の安定を図るためにしっかりと政策手段をとっていくものと考えています。

 昨日、政府は「未来への投資」を大胆に行う経済対策を決定しました。今後、政府、日本銀行が一体となって、あらゆる政策を総動員して、全力でデフレ脱却に取り組んでいきます。

(内閣広報官)

 それでは、もう一問いかがでしょうか。

 では、関口さん、どうぞ。

(記者)

 東京新聞の関口と申します。先の東京都知事選についてお尋ねします。

 自民党と公明党推薦の候補を破って、第1次安倍政権で防衛大臣を務められた小池さんが都知事に就任されました。自民党が分裂した選挙結果をどう受けとめられ、小池都政とどう向き合うお考えでしょうか。

 小池知事は、膨張するおそれがある東京五輪・パラリンピック費用の適正化を求めていますが、政府として、どう対応されますでしょうか。

(安倍総理)

 4年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックを必ず成功させなければなりません。いわば、このオリンピック・パラリンピック、かつての1964年のオリンピック・パラリンピックのように、子供たちが夢や希望を持てる大会にしていく。それは私たちの責任であろうと思います。

 この共通の責任に向かって、主催都市は東京都でありまして、東京都を中心に組織委員会、政府、そして、様々な関係者がよく連携をして、予算面も含めて議論を重ねていくことが必要であろうと思っています。

 そして、今回、都知事選挙で示された民意を私たちはしっかりと自民党においても当然かみしめていかなければならないと考えています。政府としても、丸川担当大臣を筆頭に、東京都、そして、都民の皆様とともに力を合わせて全力で取り組んでいきたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、時間の関係で、最後の1問にしますので、簡潔にお願いします。

 では、原さん。

(記者)

 NHKの原と申します。働き方改革について伺います。

 働き方改革について、総理はどのようなスケジュール感で、いつまでに、具体的に、どのような成果を上げていこうとお考えでしょうか。

 また、同一労働同一賃金の実現に関しては、中小企業の負担になるという指摘もありますけれども、こうした点についてはどのように応えていく考えでしょうか。

(安倍総理)

 子育てや介護、それぞれの事情に応じた働き方ができる。そういう社会をつくっていかなければいけないと思っております。そういう社会になっていることによって、活力を生み出すことができると思います。

 「働き方改革」というものは、誰もが生きがいを感じられる、「一億総活躍」を拓く最大の鍵であると考えています。長時間労働の慣行を断ち切り、雇用形態にかかわらない均等待遇、同一労働同一賃金を確保します。

 スケジュールについては、年度内を目途に具体的な実行計画を取りまとめます。今後、各課題について、できるものから具体的に方針を固めつつ、法改正が必要なものは順次、法案を提出していく考えです。例えば、同一労働同一賃金については、年内を目途にガイドラインを策定して、その後、関連法案改正の検討を行い、早期に国会に法案を提出していきます。同一労働同一賃金、そして、長時間労働の是正以外の課題としては、高齢者の就業促進、テレワークの推進など、広範に議論を行っていかなければいけません。

 企業の負担につきましては、同一労働同一賃金について、雇用慣行には十分配慮しつつ、産業界ともよく議論をする形で進めていきたいと考えています。そして同時に、最低賃金については予算も含めて、中小企業・小規模事業者への支援に遺漏なく取り組んでいかなければいけない。つまり、中小企業・小規模事業者も、今、進めているこの「働き方改革」あるいは最低賃金について対応できるように、政府としても支援をしていかなければいけないと考えています。

(内閣広報官)

 時間が参りました。これをもちまして、記者会見を終わらせていただきます。御協力ありがとうございました。