データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣年頭記者会見

[場所] 
[年月日] 2017年1月4日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【冒頭発言】

 皆さん、明けましておめでとうございます。

 昨年は、熊本地震、台風10号による大雨、年末には糸魚川での大火災など、災害が相次ぎました。厳しい避難生活の中で新年を迎えられた方々も多かったと思います。被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

 本年は、どうか平穏で、豊かな一年を過ごせるように、との思いで、先ほど伊勢神宮を参拝してまいりました。

 遠く離れたアフリカの地では、国連PKO、海賊対処、正月返上で国際平和のために汗を流している自衛隊の諸君がいます。その強い使命感と責任感に、新年の始まりに当たって、改めて敬意を表したいと思います。

 本年は酉(とり)年であります。12年前、あの劇的な郵政解散がありました。その更に12年前は、私が初当選した年でありますが、自民党が戦後初めて野党になり、55年体制が崩壊した歴史的な年でありました。佐藤総理が沖縄返還でアメリカと合意し、解散総選挙に打って出た昭和44年も酉年でありました。酉年は、しばしば政治の大きな転換点となってきました。そして本年は、世界でも様々な国のリーダーが交代します。変化の一年となることが予想されます。そうした先の見えない時代にあって、大切なことは、ぶれないこと。これまでの軸をしっかりと貫いていくことであります。本年も経済最優先、鳥が大空をかけるように颯爽とデフレ脱却に向けて金融政策、財政政策、そして成長戦略の三本の矢をうち続けてまいります。

 そして、これまで延べ100を超える国や地域に足を運んできましたが、空から大地を見下ろす鳥の目のように世界地図全体を俯瞰しながら、積極的な外交を展開してまいります。

 あの昭和20年も酉年でありました。我が国の戦後が始まった年です。戦争で全てを失い、見渡す限りの焼け野原が広がっていました。しかし、先人たちは決して諦めませんでした。廃墟と窮乏の中から敢然と立ち上がり、戦後、新しい憲法の下、平和で豊かな国を、今を生きる私たちのため、創り上げてくれました。

 本年は、その日本国憲法の施行から70年という節目の年に当たります。この70年間で経済も社会も大きく変化しました。少子高齢化が急速に進んでいます。バブル崩壊に端を発したデフレは、20年近く日本経済に重くのしかかり、持続的成長への自信は揺らぎました。世界では、戦後の国際秩序であった冷戦が終わりを告げ、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。こうした困難な課題から、もはや目を背けることはできません。戦後を創り上げた70年前の先人たちに倣って、今を生きる私たちもまた、こうした課題に真正面から立ち向かわなければなりません。未来への責任を果たさなければなりません。戦後のその先の時代を切り拓く、次なる70年を見据えながら、未来に向かって、今こそ新しい国づくりを進めるときです。

 女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、一度失敗を経験した人も、誰もがその能力を発揮できる一億総活躍社会を創り上げる。デフレから脱却し、日本経済の新たな成長軌道を確固たるものとする。積極的平和主義の旗を高く掲げ、日本を世界の真ん中で輝かせる。そして、子供たちこそ我が国の未来そのもの、子供たちの誰もが家庭の事情にかかわらず未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる、そういう日本を創り上げていく決意であります。

 キョクアジサシという鳥がいます。この鳥は冬になると南極に渡って餌をとり、夏には繁殖のために北極へと再び渡ります。中には、一生のうちに200万キロ以上、地球と月を3往復できるぐらい途方もない距離を渡る鳥もいるといいます。全ては子や孫の代へと未来を切り拓くため、渡り鳥たちは自らの翼で飛び立ち、自らの力で海を渡り切ります。誰に助けてもらえるわけでもありません。私たちの未来もまた人から与えられるものではありません。私たち日本人が自らの手で自らの未来を切り拓いていく、その気概が今こそ求められています。私たちの子や孫、その先の未来を見据えながら、本年、安倍内閣は国民の皆様とともに新しい国づくりを本格的に始動してまいります。

 今月20日から始まる通常国会はいわば未来を拓く国会であります。そして、本年をこの国の未来を拓く一年とする。そのことをこの節目の年の年頭に当たって強く決意しております。

 最後となりましたが、本年が国民の皆様にとりまして、素晴らしい一年となりますことを心から祈念いたしまして、年頭における所感とさせていただきたいと思います。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様の御質問をいただきます。

 御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。私が指名いたしますので、所属とお名前を明らかにされた上で、質問をお願いいたします。

 それでは、最初に内閣記者会の代表の方からお願いしたいと思います。

 どうぞ。

(記者)

 日本テレビの川上と申します。よろしくお願いいたします。

 衆議院の解散総選挙のタイミングについてお伺いいたします。総理は年末に来年度予算案の成立を最優先にする考えを示されましたが、それは予算審議に影響を与える通常国会前半での解散はないということでしょうか。そうしますと、夏の都議会議員選挙や衆議院の区割り変更がある中で、衆議院の解散は秋以降になるのでしょうか。総理のお考えをお聞かせください。

(安倍総理)

 非常に具体的な御質問をいただきましたが、平成29年、今日で4日目でありますが、この4日間、解散の2文字を全く考えたことはないわけでありまして、今、質問されて初めて解散という言葉が脳裏に浮かんだわけでありますが、全く解散については考えておりません。しっかりと我々はアベノミクスをふかしながら、経済をしっかりと成長させていく、これが私たちに与えられた使命であり、最大の経済対策は来年度予算の早期成立であろうと思います。今はそのことに集中しながら、全力を傾けていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、続きまして、三重県政記者クラブの代表の方から御質問をいただきます。

 どうぞ。

(記者)

 CBCテレビの若尾といいます。よろしくお願いします。

 去年はこの三重県で伊勢志摩サミットがありました。地方開催が続いていますが、次回日本で行われるサミットでの地方開催についてのお考えや、サミットを生かした地方活性化における政府の支援という観点を含めて、お考えをお聞かせください。

(安倍総理)

 初期のころのサミットは大体首都で行い、いわば会議を行う機能が重視をされていたわけでありますが、今は首脳のみでくつろいだ雰囲気の中で率直な会話をする、そのようなリトリート方式が主流になっています。したがって、私も東京ではなく地方で開催したほうがリトリート方式にはかなうと、このように考えてきました。そこで私は、是非ともG7の首脳に日本の悠久の歴史、文化、伝統に触れてほしい、その思いから伊勢志摩の地を選んだわけであります。

 伊勢志摩サミットでは、各国首脳の皆様に伊勢神宮の凛とした雰囲気を味わっていただいたと思っておりますし、雰囲気についていい場所を選んでいただいたと、本当に絶賛していただいたと思っています。英虞湾の美しい自然を背景に、胸襟を開いて活発な議論を行うことができたと思っておりますし、また、地域活性化の観点から、各国首脳に三重県ならではの伊勢エビとかアワビとか日本酒など、今日は知事や地元の議員の皆様にもお越しをいただきましたが、それぞれ御推薦もいただきまして、それぞれのおいしいものを出させていただいて、各国の首脳の皆さんに舌鼓を打っていただいたと思っております。日本の食の素晴らしさ、自然の素晴らしさ、また、お酒の素晴らしさ、世界に発信することができたのではないかと、このように思います。

 次回、日本で開催するサミットは6年後でございますから、これは次の総理大臣が決めることであろうと、このように思いますので、私から、今からどこかということを予測することは差し控えさせていただきたいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、再び内閣記者会の方からいただきます。

 どうぞ。

(記者)

 読売新聞の淵上です。

 昨年8月、天皇陛下は退位の意向を示唆されました。政府の有識者会議は今月中にも特例法で一代限りの退位を実現するよう求める論点整理を公表する見通しです。政府として、今後どのように議論を進め、次の通常国会で法整備を実現するお考えでしょうか。

 また、民進党は皇室典範を改正し、退位を恒久制度化すべきと主張しています。国会での与野党の議論に何を期待しますか。また、法整備に当たり、与野党で意見を集約する必要性をどうお考えでしょうか。

(安倍総理)

 昨年、天皇陛下が国民に向かってお言葉を発せられたことを重く受け止めております。陛下のお言葉に対する国民の皆様の受け止めを政府としては受け、現在、有識者の皆様に御議論をいただいているところであります。国の基本であり、そして、長い歴史とこれからの未来にかけての極めて重い課題であり、決して政争の具にしてはならないと考えています。正に、政治家はその良識を発揮しなければならない、そういう課題であろうと考えています。中身や時期などを予測することなく、静かな環境で議論を深めていくべきであろうと、このように考えております。

(内閣広報官)

 それでは、最後の質問にさせていただきます。三重県の県政記者クラブのサイドからお願いいたします。

 どうぞ。

(記者)

 再度、CBCテレビの若尾です。

 政府も支援を表明されているリニア中央新幹線について、名古屋-大阪間のルートや中間駅の決定の見通しについてお考えをお聞かせください。

(安倍総理)

 リニア中央新幹線は、日本が世界に誇る世界最先端の鉄道技術であり、正に夢のプロジェクトであろうと思います。日本人みんながわくわくしながら期待を寄せていると思います。名古屋から東京へは40分、大阪へは25分程度となりまして、伊勢神宮にも、もっともっと簡単に参拝できるのだろうと思いますが、この夢を現実のものとすべく、東京-名古屋間の10年後の開業を目指し、そして、今、工事が進んでいます。大阪までの全線開業も財投を生かして最大8年間前倒しをいたします。名古屋-大阪間のルート、そして、駅については建設主体であるJR東海が検討を進め、環境アセス手続の段階で公表されると承知をしています。リニアと新幹線による高速鉄道ネットワークを軸に、東京や大阪、名古屋をハブとして、日本全国、北から南まで、地方と地方をつないでいく地方創生回廊を創り上げて、全国を一つの経済圏として発展させていきたい。そのことによって、地域が地域の良さをもっと発揮できるように、地域に住みながら世界にも発信できる、そういう日本を創っていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、以上をもちまして、安倍内閣総理大臣の平成29年年頭の記者会見を終わらせていただきます。

 皆様の御協力、ありがとうございました。

(安倍総理)

 ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。