データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7シャルルボワ・サミット出席についての内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2018年6月9日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 先程、本年のG7サミットが閉幕いたしました。

 まず、冒頭、カナダ国民の皆様の心温まる歓待に対して心から感謝申し上げたいと思います。

 そして、議長を務めたトルドー首相のリーダーシップにも敬意を表します。

 近年、世界経済はますます国境がなくなり、相互依存を深めています。

 こうした急速な変化に対する不安や不満が、ときに保護主義への誘惑を生み出し、国と国との間で、鋭い利害対立を生じさせる。これはG7の内部においても例外ではありません。

 本年のサミットでは、貿易をめぐって激しい意見のやり取りがありました。

 貿易制限措置の応酬は、どの国の利益ともならない。いかなる措置もWTOのルールに従って行われるべきであります。世界の貿易や投資を拡大するためには自由で公正なルールを打ち立てそれを進化させていくことが必要です。人の技術やノウハウを盗むような行為が横行すれば持続的な経済発展など望むべくもありません。

 こうした大きな価値観と世界が歩むべき方向性を共有しながら、これまで世界経済の成長を力強く牽引(けんいん)してきた。それが、私たちG7であります。だからこそ安心して、互いに本音をぶつけ合うことができる。G7サミットはこれまでもそういう場でありました。

 今回のサミットはとりわけ見解が異なる局面が多く、難行しましたが、そうした中にあっても補助金などによる過剰生産の問題を見過ごすことはできない。市場を歪める不公正な貿易、投資慣行に対して、G7として断固対抗していくとの認識で一致いたしました。

 そして、自由で公正なルールに基づく貿易システムを発展させるため、努力していくことをG7として確認しました。

 会場の外で、夜に、そして朝に、首脳だけで集まり、正に膝詰めで直接本音をぶつけ合い、こうした合意に至ることができた。首脳宣言として発出できることは、大きな意義があると考えています。

 TPP、欧州とのEPA、日本は引続き自由貿易の旗手として自由で公正なルールに基づくマーケットを世界へと広げていく、そのリーダーシップを力強く発揮していく決意であります。同時に経済成長で得られた果実を教育や福祉に分配することを通じてしっかりと国民全体に広く均霑(きんてん)していく。更には、環境との調和を図るために投資する。そのことによって次なる経済成長が可能となります。持続的な成長を実現するため、そうした好循環をつくり上げていく取組が必要です。私からそのことを訴え、他のリーダーたちから賛同を得ることができました。

 現在、世界経済は全体として堅調に推移しているものの、一部の新興国においては通貨下落など経済に変調も見られます。市場の不安を払拭するためにも私たちG7が必要に応じて行動するとの意識をもって市場動向を注視していく。G7が協調して世界経済の安定に役割を果たしていくべきであります。

 こうした議論の中で、北朝鮮問題では全員の意見が一致しました。様々な地政学的リスクへの対応もG7の重要な役割です。特に北東アジアの平和と安定は世界経済の安定的な成長にとって極めて重要な役割を果たすものであります。この問題についてはサミットだけでなく、イギリスのメイ首相や、ドイツのメルケル首相との個別の首脳会談においても、私から丁寧に説明を行いました。

 そして、国際社会が一致してこれまでと何ら変わることなく、安保理決議の完全な履行を求めていく、そのことをG7の総意として改めて合意しました。

 北朝鮮には豊富な資源があり、勤勉な労働力があります。北朝鮮が正しい道を歩むのであれば、明るい未来を描くことも可能です。核、ミサイル問題、そして何よりも重要な拉致問題が解決すれば我が国も平壌(ピョンヤン)宣言に基づき不幸な過去を清算して国交を正常化し経済協力を行う用意があります。

 G7のリーダーたちと緊密に連携しながら、北東アジアに真の平和が実現するよう、日本も力を尽くしていく決意を表明しました。直前に迫った米朝首脳会談の成功を強く期待いたします。

 歴史的な会談に臨むトランプ大統領をG7として支持し、その交渉姿勢を支えていく、その点で私たちG7は完全に一致することができました。

 自由、民主主義、人権、法の支配、私たちはこうした基本的な価値で結ばれた国々であります。そして私たちは世界の平和と繁栄に大きな役割を果たしていく、その強い責任感を共有しています。

 経済、安全保障、世界が直面する課題にしっかり処方箋を示していく。そのためには、ロシアの建設的な関与を求めていくことも必要です。そのためには、私たちもロシアも双方がその環境整備に向けた努力をしていかなければならない。この点についても今回首脳たちと議論をいたしました。様々な意見の相違はあろうとも私たちは率直な議論を通じて一致結束し世界の平和と繁栄をリードしていく、その変わらぬ決意を初夏の美しいケベック、シャルルボワの地で今回改めて世界に示すことができたと考えています。

 私からは以上であります。