[文書名] 内外記者会見
【安倍総理冒頭発言】
今年も、世界のリーダーたちが集まる、ここニューヨークにやってきました。6月のワシントンDC以来、米国訪問は3か月ぶりとなりますが、アメリカ国民の皆さんの、いつも変わらぬ、心温まる歓迎に、感謝申し上げます。
日本と米国は、長年にわたり、強い絆で結ばれた同盟国であると同時に、経済大国として、共に、世界の自由貿易体制を力強く牽引(けんいん)してきました。そして、相互の貿易を拡大する中で、互いの国への投資も増やし、経済の依存関係を深めてまいりました。
今、日本から米国に輸出される自動車は174万台ですが、トヨタやホンダといった日本企業がアメリカ国内で生産している自動車は、その2倍以上、377万台にのぼります。自動車工場、部品工場、運送サービス、ディーラー。150万人もの雇用をアメリカ国内に生み出すことで、アメリカ経済に多大な貢献をしています。
トランプ大統領が就任してからの1年半、日本企業は、アメリカ国内に、新たに200億ドルの投資を決定しました。これにより、3万7,000人の新しい雇用が生み出されます。これは、世界のどの国よりも多い。すべては、自由貿易の旗を高く掲げ、両国が経済関係を安定的に発展させ、成熟させてきた帰結であります。
時計の針を決して逆戻りさせてはならない。むしろ、この関係を一層進化させていくことで、互いの貿易・投資をもっと活発にしていくことが必要です。
その大きな認識をトランプ大統領と共有し、先ほどの日米首脳会談で、日米間の物品貿易を促進するための協定、TAG交渉を開始することで合意しました。
その前提として、農産品については、過去の経済連携協定で約束した内容が最大限である。この日本の立場を、今後の交渉に当たって、米国が尊重することを、しっかりと確認いたしました。
同時に、この協議が行われている間は、本合意の精神に反する行動をとらないこと、すなわち日本の自動車に対して、232条に基づく追加関税が課されることはないことを確認しました。さらに、その他の関税問題も早期の解決に努めることで、一致しました。
そして、今後、電子商取引や知的財産など幅広い分野で、不公正な貿易慣行に対し、日米の協力を拡大する。その、私とトランプ大統領の強い決意も、今回の共同声明において、確認することができました。
TPP(環太平洋パートナーシップ)は、その先駆けです。単なる貿易の自由化だけにとどまることなく、広大なマーケットに、新しい時代の公正なルールを打ち立てる野心的な試みであります。日本は、これからも、米国、欧州などと力を合わせ、そしてまた、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)などを通じて、中国やインドを含むアジアの国々とも連携、協力し、自由で公正な国際経済秩序を進化させていく。そのためのルール作りをリードしてまいります。
トランプ大統領が、国連総会の場で初めて横田めぐみさんに言及し、拉致問題の解決を訴えてくださったのは、ちょうど1年前のことであります。
この1年で、北朝鮮をめぐる情勢は、激変しました。6月の歴史的な米朝首脳会談。そこから生まれた新たな流れに更なる弾みをつけ、朝鮮半島の完全な非核化を、速やかに成し遂げなければなりません。本日のトランプ大統領との日米首脳会談、昨日の韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領との会談でも、これまで以上に、日米、日米韓3か国で緊密に連携していくことで一致いたしました。
そして、何よりも重要な拉致問題を、一日も早く解決する。今年の国連総会でも、私から、国際社会に向けて、その強い決意を訴えました。
日本を出発する直前、拉致被害者の御家族の皆さんにお目にかかり、本当に切実なお話を伺いました。そのメッセージをトランプ大統領にもお伝えした。大統領は、身を乗り出し、熱心に私の話に耳を傾けてくれました。そして、日本の考え方は金正恩(キム・ジョンウン)委員長にも伝えている。このように、改めて語ってくれました。
次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければならない。相互不信の殻を破り、直接向き合うことで、拉致、核、ミサイルの問題を解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交を正常化する。私は、そう決意しております。
次の3年の任期も、引き続き地球儀を俯瞰(ふかん)しながら、戦略的な平和外交、経済外交を展開していく。今回のニューヨーク訪問は、その良いスタートとなったと考えています。
帰国後、週明けの10月2日に、党役員人事、内閣改造を行います。自民党は、多士済々、人材の宝庫であります。しっかりとした土台の上に、できるだけ多くの皆さんに活躍のチャンスを作ることで、平成の、その先の時代に向かって、日本の新たな国づくりを進めていく。力強いスタートを切りたいと考えています。私からは、以上であります。
【質疑応答】
(NHK 原記者)
総理、今日の日米首脳会談で物品貿易協定の締結に向けた交渉に入ることに合意されましたけれども、トランプ大統領は、貿易赤字の削減に向けて各国との貿易摩擦をいとわない姿勢を示していますが、今後トランプ大統領とどのように向き合っていくお考えでしょうか。また、トランプ政権はFTA交渉、FTAの締結に意欲を示してきましたけれども、物品貿易協定の先にはEPAですとかFTAというものを総理は見据えていらっしゃるのでしょうか。
あわせて、先ほど内閣改造と党役員人事を2日に行われるとお考えを示されましたが、しっかりとした土台と総理が繰り返し述べられている土台の範囲というものは、どのようにお考えでしょうか。
(安倍総理)
まず申し上げたいことは、貿易制限措置の応酬はどの国の利益にもならないということであります。日本と米国は、長年、自由貿易体制の下で大きな恩恵を受けてきました。時計の針を逆戻りさせるようなことは、決してあってはならないと考えています。
当然、米国には米国の立場があり、日本には日本の立場があります。双方の違いはお互いに尊重しながら、両国の間の貿易を一層促進することによって、ウィン・ウィンの経済関係をつくり上げていくことが必要であり、そして、それが本日の合意であると思います。
その上で申し上げれば、今回の、日米の物品貿易に関するTAG交渉は、これまで日本が結んできた包括的なFTAとは、全く異なるものであります。
いずれにせよ今後、しっかりと双方にメリットがある結果が得られるように議論を進めていきたいと考えています。
人事については、先般、記者会見でお答えをさせていただいたように、しっかりとした土台ということでありまして、しっかりとした土台であるということは、そこで御理解をいただきたいと思いますが、例えば、官邸のメンバー、菅官房長官やここにいる西村副長官、野上副長官にはそのまましっかりと官邸で共に仕事をしていきたいと思っておりますし、今日も同席していただいている麻生副総理にも、しっかりと土台として支えていただきたいと考えておりますが、土台の範囲がどこまでかということについては、まさに土台はどういう土台かということを、これから帰るまで飛行機の時間も大分かかりますから、じっくり考えていきたいと考えています。
(CBS パメラ・フォーク国連担当特派員)
総理、簡単に先ほどの質問のフォローアップをさせてください。今日、トランプ大統領は、総理が自由貿易協定交渉の開始に同意し、協議を開始することに自信を持っていると述べました。そして更に興味深いことに、大統領は、きっとうまくいくが、もしそうでなければとも述べました。それが何を意味するかは分かりません。総理はこれを脅威と受け止めましたか。関税賦課や、協議開始のタイムラインについてどうお考えですか。
また、より大きな質問としては、北朝鮮の非核化に関する今のペースに総理は満足されているでしょうか。また、総理はいつ金正恩委員長と会談するおつもりでしょうか。
(安倍総理)
今回合意を致しましたTAG、これはFTAとは違いますが、しかし、正に物品貿易に関する交渉であります。そして、これはお互いの、例えば日本の農産物については、今までの経済連携交渉において我々が認めたもの以上のものは認められないという日本の立場は理解していただいていますし、米国の立場については、我々もこの合意の中に書いてあることについては、その違いがあること、米国の主張を尊重していく、ということであります。先ほど申し上げた農産品については、我々の考え方、今までの協定において認められたものについては、これは最大限尊重してもらうという私たちの考え方についても認識していただいていると思います。
いずれにせよ今おっしゃった232条等々については、何と言っても日米は、長い歴史を積み重ねてきた信頼関係があります。その信頼関係の上の交渉らしい交渉ができた、と思っておりますし、間違いなく両国の貿易、投資の拡大につながっていく、そういう結論をこのTAGにおいて得ることができると思っています。
そして朝鮮半島の非核化についてでありますが、全ては、今年6月の歴史的な米朝首脳会談で始まったと考えています。私は政治家として、94年の枠組み合意、あるいは2005年の六者会合共同声明を経験してきました。残念ながらうまくいかなかった。しかし今回の米朝首脳会談においては、両首脳が署名をして共同声明を発出した、これは大変重みがある、こう思っています。この共同声明にある合意が着実に実施されて、朝鮮半島の非核化が早期に実現することを期待しております。また、我が国としては、先般の南北首脳会談が朝鮮半島の完全な非核化につながることを期待しています。
今回の国連総会の機会に、トランプ大統領や文在寅大統領、あるいはグテ-レス国連事務総長と会談を行いまして、朝鮮半島の完全な非核化のためには安保理決議の完全な履行が不可欠である、必要であるという認識で一致いたしました。
北朝鮮は、歴史的な好機をつかめるか否かの岐路に立っているわけでありまして、北朝鮮には、手つかずの天然資源もありますし、大きく生産性を伸ばし得る労働力もあるわけでありまして、問題が解決した暁には、明るい未来を描くことができます。
引き続き、米国や韓国と緊密に連携するとともに、中国や様々な国々と、国際社会と連携しながら、朝鮮半島の非核化、そして同時に、日本にとっては大切な拉致問題の解決に向けて取り組んでいきたいと考えています。
(産経新聞 田北記者)
すみません総理、先ほどの質問の追加質問ですが、朝鮮半島の非核化のペースについて総理はどうお考えか、もう一度質問させてください。また、こちらからは以下の質問になります。北朝鮮関係について、昨日の日韓首脳会談で、文在寅大統領から、先の南北首脳会談で金正恩朝鮮労働党委員長が「適切な時期に日本と対話し、関係改善を模索していく用意がある」と発言したとの説明を受けたと言われています。日本側はこの金正恩氏の発言について説明をしていないのですけれども、総理はこの発言をどう受け止めていらっしゃるのか。それからまた、日朝首脳会談に向けて状況は前進しつつあるとの認識でしょうか。また、それに追加して申し訳ないのですけれども、先ほどの日米首脳会談でトランプ大統領が2回目の米朝首脳会談を楽しみにしていると言われたのですけども、これに際して総理から何かアドバイスというか、何か発言はされたのでしょうか。
(安倍総理)
まず朝鮮半島の非核化のペース、どのようなペースで進めていくかということでありますが、23日の夜もトランプ大統領と朝鮮半島の問題について相当突っ込んだ話を致しました。また、今回の首脳会談においても、朝鮮半島の非核化について話をした、基本的な原則について、また現状認識において完全に一致することができたと思います。擦り合わせることができたと思います。
ただ、どのようなペースで進めていくかということについては、まさに私たちの手の内というか考え方で、これから交渉して進めていくわけでございますから、つまびらかにお話しすることができないわけでございますが、スケジュール的には今、田北さんが言われたように、2回目の米朝首脳会談、その前にポンペオ国務長官が平壌(ピョンヤン)を来月にでも訪問するという発表があったと承知しております。そうした準備のための会談、そして更なる首脳会談においては、当然大きな進展がなければならないという考え方で行われるものと考えております。
そして昨日の日韓首脳会談において、文在寅大統領より、先般の南北首脳会談においては、私からの依頼に基づきまして、拉致問題解決の重要性や日朝関係に関する考え方について金正恩委員長に伝えた旨の紹介がありました。
その際のやり取り等についての説明もございましたが、金正恩委員長の反応を含めまして、外交上のやり取りの詳細については、日朝関係の機微な性質に鑑みまして、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
その上で申し上げますと、6月の米朝首脳会談によって新たな流れが生まれたわけでありまして、長きにわたり解決されていない拉致問題を解決していくために、私も相互不信の殻を破り、金正恩委員長と向き合わなければならないと考えています。また、金正恩委員長と向き合う用意があります。
今決まっていることは何もないわけでありますが、これを行う以上は、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しております。
(AFP通信 ショーン・タンドン米国務省担当特派員)
総理、ありがとうございます。今週の国連総会で取り上げられた大きな問題についてお聞かせください。それはイラン問題です。対イラン制裁をめぐっては、米国と同盟国の間で大きな意見の対立があります。欧州は、米国による制裁を回避する決済方法を模索しています。日本の立場はいかがでしょうか。米国の行動は正当化できるとお考えでしょうか。日本はイラン産原油や石油商品の輸入を削減する考えはありますか。それとも、欧州と協力し、制裁を回避する道を模索するのでしょうか。
(安倍総理)
日本は、イランの核合意について、国際不拡散体制の強化と中東の安定に資するものとして、支持をしています。引き続き関係国による建設的な対応を期待しておりますし、本日会談を行ったローハニ大統領にも、その旨お伝えしました。また、米国政府に対しても、この考えを様々なレベルで伝えてきたところであります。
イラン産原油輸入を含むイランとの経済関係については、関係国と緊密な意見交換等を行いつつ、日本企業の活動に悪影響が及ぼされることがないように取り組んでまいりました。
米国政府との間でこれまで3度にわたって事務レベルで協議を実施してきたところであり、今後とも協議を継続していく考えであります。
日本の立場はどうなのかということでありますが、日本は日米同盟があるわけです。その中において、お互いに信頼関係を持ちながら、信頼関係をしっかりと維持しながら、この問題についても協議を行っているということであります。