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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2019年6月26日 
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 本日、通常国会が閉会いたしました。

 まず冒頭、先週の山形県沖を震源とする地震により被害を受けた皆様に、改めて、お見舞いを申し上げます。一昨日も南関東でやや強い地震があり、不安を感じられた方も多かったのではないでしょうか。

 災害に強い国づくりを進めていく。これは政治の責任であります。今国会で成立した補正予算と今年度予算を活用し、5兆円規模の予算で1,000キロメートルに及ぶ学校のブロック塀の安全対策、河川、ため池の改修などを進め、全国で安心して暮らせる強靱(じん)なふるさとをつくり上げてまいります。

 この国会で成立した予算は、地方創生を一気に加速する予算。地方を元気にするための政策を数多く盛り込みました。

 地方経済の核は農林水産業です。これまでの取組により、生産農業所得は3年で9,000億円以上増加し、この19年間で最も高い水準となっています。こうした中、40歳代以下の若手新規就農者は統計開始以来、初めて4年連続で2万人を超えました。この勢いに更なる弾みをつけるため、民主党政権時代の3倍、6,000億円を上回る土地改良予算で意欲と能力ある担い手への農地集積を加速します。森林環境税により美しい森を守る取組を強化します。3,000億円を超える予算で新しい漁船や漁具の導入など、浜の皆さんを支援し、水産業の収益性をしっかりと向上させていきます。

 昨年、日本を訪れる外国人観光客は、政権交代前の4倍以上、3,000万人を超えました。全国津々浦々での消費額は4兆5,000億円。地方に生まれた観光という一大産業に更に投資していきます。

 地域経済を支える中小・小規模事業者の皆さんを全力で応援します。1,000億円を上回るものづくり補助金、持続化補助金により、固定資産税ゼロの制度と併せ、生産性向上を支援します。事業を引き継ぐ際に相続税、贈与税をゼロとする大胆な税制を個人事業主にも拡大しました。個人保証の慣行を断ち切るための政策パッケージも速やかに実行に移してまいります。

 安全でおいしい農産物、豊かな観光資源、中小・小規模事業のオンリーワンの技術、地方が持つ強みをいかすことで、安倍内閣は地方が直面している課題にも真正面から立ち向かってまいります。

 社会保障改革も、少子高齢化の時代にあって、避けることのできない課題です。10月から年金収入の低い皆さんを対象に、上乗せで年間最大6万円の給付をスタートします。介護保険料も3分の2に低減し、所得の少ない高齢者の皆さんの安心をしっかり確保いたします。

 年金は老後の生活の柱です。しかし、その財源は現役世代の保険料負担や税金です。負担を増やすことなく、給付だけを増やすことなどできません。現行制度を批判することは簡単ですが、いずれにせよ、年金を増やす打ち出の小づちなど存在しない。そのことは率直に申し上げます。

 さらに、我が国では今後急速に少子高齢化が進みます。支えられる高齢者が増える一方、支え手である現役世代は減っていきます。そうした中でも、現役世代の負担が過重にならないよう保険料の上昇を抑え、かつ将来得られる年金給付もしっかり確保するためには、今から年金額を調整していくことが必要です。これがマクロ経済スライドです。15年前に導入されて以来、民主党政権を経て、現在もなお年金の持続性を確保するために必要な仕組みです。

 しかし、そうした中でも、政策次第で年金を増やすことは、皆さん、十分に可能です。この5年間、新たに380万人を超える皆さんが仕事に就きました。支え手がしっかりと厚みを増やせば、お一人お一人の保険料負担を引き上げなくとも、保険料収入が増えます。

 そして、この春も6年連続で今世紀最高水準の賃上げが実現しましたが、デフレから脱却し、働く皆さんの所得が上がれば、年金給付を増やせます。その結果、本年は、マクロ経済スライドを発動する中でも、年金額をしっかりと増やすことができました。

 政権交代前、1万円を大きく割り込んでいた日経平均株価は、今、2万円を上回っています。年金積立金の運用益は、この6年で44兆円増えました。民主党政権時代の10倍です。年金の信頼性は確実に強固なものとなっています。私たちの年金を充実する唯一の道は、年金の原資を確かなものとすること。すなわち、経済を強くすることであります。いわんや、高齢者の皆さんにとって大切な年金について、具体的な対案もなきままに、ただ不安だけをあおるような無責任な議論は、決してあってはなりません。

 安倍内閣は、これからも経済最優先、景気の下振れリスクに対してはちゅうちょすることなく、機動的かつ万全の対策を講じてまいります。少子高齢化の時代にあって、高齢者のみならず、現役世代、取り分け子育て世代の安心を確保することが、極めて重要です。この国会では、児童虐待の根絶を目指す児童福祉法の改正案が成立しました。さらに10月から、3歳から5歳まで、全ての子供たちの幼児教育・保育を無償化します。来年4月からは、真に必要な子供たちの高等教育を無償化します。戦後、日本国憲法が定めた普通教育の無償化以来の大改革です。少子高齢化の克服に向け、我が国の社会保障制度を、全ての世代が安心できるものへ大きく改革する。正に、全世代型社会保障元年にふさわしい通常国会となりました。

 教育無償化の関連法案が成立する直前、平成が終わり、新しい令和の時代が幕を開けました。急速に進む少子高齢化、激動する国際情勢、こうした課題から目を背けることなく、私たちは新しい時代の日本を切り拓(ひら)いていかなければならない。その大きな責任があります。

 平成の時代、こうした課題は長く放置されてきました。決められない政治、不安定な政治の下で、総理大臣は、毎年のようにころころと代わりました。そのきっかけをつくったのは、私の責任であります。12年前、夏の参院選で、自民党は歴史的な惨敗を喫した。国会ではねじれが生じ、混乱が続く中、あの民主党政権が誕生しました。悔やんでも、悔やみ切れない。12年前の深い反省が、今の私の政権運営の基盤になっています。新しい令和の時代を迎え、あの混迷の政治には二度と逆戻りをさせてはならない。来るべき参議院選挙、最大の争点は、安定した政治の下で新しい時代への改革を前に進めるのか、それとも、再びあの混迷の時代へと逆戻りするのかであります。

 そして、令和の日本がどのような国を目指すのか。その理想を語るものは憲法です。しかし、残念ながら、この1年、国会の憲法審査会は衆議院で2時間余り、参議院ではたった3分しか開かれていない。議論すら行われないという姿勢で本当によいのかどうか。そのことを私は国民の皆様に問いたいと思います。

 秋にはラグビーワールドカップが初めて日本で開催されます。年が明ければ東京オリンピック・パラリンピック、2025年には大阪・関西万博も予定されています。令和日本には前途洋々たる未来があります。この機に、新しい日本の国づくりをしっかりと進めていかなければならない。そう決意しています。

 明後日には、トランプ大統領、プーチン大統領、習近平主席、世界中の首脳たちが日本に集まり、我が国で初めてのG20(金融・世界経済に関する首脳会合)サミットが始まります。正に令和時代の始まりになって世界が直面する様々な課題の解決に日本が世界の真ん中でリーダーシップを発揮する、戦後の日本外交を次なる次元へと押し上げていくサミットとなるよう、議長の大役をしっかりと果たしたいと考えています。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、皆様からの御質問を頂きます。

 御質問を希望される方、挙手をお願いいたします。私が指名いたしますので、所属とお名前を明らかにされた上で質問をお願いいたします。

 初めは幹事社の方から始めたいと思います。幹事社の方、どうぞ。

(記者)

 幹事社の読売新聞の栗林と申します。よろしくお願いします。

 7月の参院選についてお伺いします。先ほど総理は、参院選を通じて憲法改正の議論を進めることについて訴えていくというふうにおっしゃいました。具体的に今後、参院選の中で憲法改正についてどのようにあるべきかというふうに、具体的にどのように憲法改正の議論を進めていくべきかというふうにお考えか、訴えていくかということをお聞かせください。

 また、その参院選の結果も踏まえまして、参院選後、憲法改正について合意形成をどのように図っていくお考えか。野党との連携の可能性も含めてお答えください。

(安倍総理)

 今回の参議院選挙は、令和の時代を迎えて初めての国政選挙となります。長年の課題である少子高齢化に真正面から立ち向かい、子ども・子育て世代から高齢者まで、全ての世代が安心できる社会保障制度改革を進めていかなければなりません。

 また、世界に目を向ければ、北朝鮮情勢や米中の貿易摩擦、またブレグジット、緊迫する中東情勢、国際情勢が激動する中で我が国の国益を守るために力強い外交を進めていかなければなりません。そのために重要なことは何か。それは政治の安定であります。政治の安定なくして政策を前に進めていくこともできなければ、力強い外交を展開することもできません。

 12年前の夏、我が党は選挙で惨敗いたしました。国会ではねじれが生じ、混乱の中、あの民主党政権が誕生した。毎年総理大臣がころころと代わり、不安定な政治、決められない政治の下で、こうした重要課題は先送りされてしまいました。経済は低迷し、中小企業の倒産、今よりも4割も多かった。高校を卒業し、大学を卒業して、どんなに頑張ってもなかなか就職できなかった。今よりも有効求人倍率が半分にしかすぎなかった、あの時代。全てのきっかけは、あの参議院選挙の大敗であります。正に私の責任であり、そのことは片時たりとも忘れたことはありません。令和の新しい時代を迎え、あの時代に逆戻りをさせてはならない。そう決意をしております。正に最大の争点は政治の安定であります。全世代型の社会保障へと改革を進めていく。そして、力強い外交によって、この厳しい国際情勢の荒波を乗り越えていく。国益をしっかりと守っていく。令和の時代、新たな未来を切り拓いていくためには、この参議院選挙、勝ち抜かなければならないと、そう決意をしています。

 そして、憲法改正についてでありますが、令和の日本がどのような国を目指すのか。その理想を語るものは憲法です。そして、憲法改正を最終的に決めるのは国民投票。正に国民の皆様の投票によって決することになります。私たち国会議員には、国民の皆様に対して、その判断の材料を提供するという大きな責任があるはずです。少なくとも、憲法のあるべき姿をしっかりと国民の皆様に対しまして議論する責任があるのではないでしょうか。

 私は、この通常国会において、予算委員会、126時間出席をいたしました。また、昨年1年間、国会に278時間出席をしております。ちなみに、英国の首相は1年間で40時間、ドイツや、あるいはカナダは大体30時間余りであります。しかし一方、この1年間で憲法審査会における議論はどうかといえば、残念ながら立憲民主党や共産党を初め一部の野党が審議に出席しない。その結果、衆議院ではたった2時間余り。1年間でですよ。参議院においては3分しか議論がされていない。皆さん、本当にこれでいいんでしょうか。

 しっかりと、この参議院選挙においては、憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、国民の皆様にしっかりと自分たちの考えを示し、議論を進めていく。その政党や候補者を選ぶのか。それを決めていただく選挙であると思います。この選挙を通じても、野党の皆様に是非議論に参加していただきたい。このことを訴えていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、幹事社からもう1問いただきます。どうぞ。

(記者)

 では、幹事社からもう1問お伺いします。日本テレビの菅原です。

 総理は、この通常国会では衆議院の解散、衆参同日選に踏み切ることはありませんでした。先日、番組に御出演いただいた際は、冷静な判断が必要だとおっしゃっていましたけれども、判断の最大の理由というのは何だったのか。

 また、いわゆる老後2,000万円問題というのが浮上しましたけれども、これはその判断に影響があったのか。また、関連して、参議院選挙への影響についてはいかがお考えでしょうか。

(安倍総理)

 まず、見送るも何も、そもそも私は衆議院選挙を任期4年ある中、2年に満たない中でありますから、選挙をやるというふうに申し上げたことはもちろん1回もありませんし、頭の片隅にもないと、こう申し上げてきたわけであります。解散を求めなければいけないのは当然、野党なのだろうと思いますが、与党の立場としてはしっかりと、頂いた任期の中で政策を進めていくということなのだろうと思います。

 前回解散を決意したのは、正に少子高齢化という国難に立ち向かっていくために、消費税の使い道を思い切って幼児教育・保育の無償化、真に必要な子供たちの高等教育の無償化等に振り向けるという大きな判断。そして、北朝鮮情勢、厳しくなる中において、強い外交の意思を示すため、そして、そのことを国民の皆様に問う必要があったからこそ、解散総選挙を行ったわけであります。

 正に国民の皆様の理解と支持によって、政策は推進力を得る。そして、国民の皆様に問う必要がある段階においては、解散総選挙を行ったということであると、私、思うわけであります。この基本的な考え方は、これからも今も変わりがないということでございまして、今回は既に参議院選挙が予定されており、その中で国民の皆様の判断を頂きたいと、こう思っているところでございます。

 重ねて申し上げますが、今まで何回もお話を、御質問もいただきましたが、その際、いつも、この間、解散の御質問を頂いた中において、一貫して私の頭の片隅にもないと。こう申し上げ続けてきたところであります。

 そして、参議院選挙への影響については、これはあらゆる課題が当然、参議院選挙に影響があると思っています。参議院選挙には影響を与え得ると思っています。その中で、私たち与党は、例えば社会保障改革についてもそうです。また、外交や安全保障についてもそうです。それぞれ具体的な政策が与党にはありますから、具体的な政策をしっかりと国民の皆様に訴えていきたいと思います。

 責任ある政策というのは、ちゃんと財源の裏付けのある政策でなければならないと考え、今まではそう、私たちはその考え方の下に政策を主張し、そして結果を出してきたと、こう考えております。この選挙戦において私たちもしっかりと私たちの考え方、政策を訴えていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、幹事社以外の皆さんからの質問をお受けいたしますので、御希望の方、挙手をお願いしたいと思います。

(記者)

 ウォール・ストリート・ジャーナルのランダースと申します。

 安倍政権になってから、外国からの移民、外国人労働者が大変増えていると思うのですけれども、今度の選挙でこれは実績として訴えるものでしょうか。それとも、あまり言いたくない、避けたい事実でしょうか。日本が多様化する中で、日本人とは何だと思いますか。

(安倍総理)

 今、お話があった中で、御質問の中で移民というお話があったのですが、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人及びその家族を、期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうという、いわゆる移民政策を安倍政権としてはとらないということは申し上げてきているとおりでありますが、昨年末時点で146万人の外国人の方々が我が国において労働者として活躍をされておりまして、その数は近年増加をしているということでございます。

 これは、正に深刻な人手不足の中において、本年4月から新たな外国人材の受け入れ制度がスタートしました。真に必要な業種に限り、一定の専門性、技能を有し、即戦力となる外国人材を、期限を付して我が国に受け入れようとするものであります。この考え方は、国民と外国人の双方が尊重し合える共生社会をつくる中において、日本の社会、経済の維持のために、外国人の皆さん、人材に活躍していただきたいと、こう思っているわけであります。そして、当然その中で多様性のある社会として日本の社会はより強靱なものとなっていくのだろうと、こう思っています。

(内閣広報官)

 それでは、最後に1問だけ。どうぞ、原さん。

(記者)

 NHKの原と申します。

 総理、いよいよ国内で初めてのG20サミットの開催が迫ってきているわけなのですけれども、米中の貿易摩擦の長期化に加えまして、イラン情勢の緊迫化など、世界経済の先行きの懸念材料が増えています。議長を務められる総理として、どのような役割を果たそうというふうにお考えになっているでしょうか。また、懸念材料の払拭に向けて最も重視する点はどのような点だとお考えでしょうか。

(安倍総理)

 現在、世界の中においてグローバル化による急速な変化の中で、不安や不満が国と国との間に鋭い対立を生み出しています。だからこそ、国際社会が団結して課題に立ち向かい、力強いメッセージを発信していくことが重要であると思っています。このサミットにおいては、違いを強調するのではなくて、意見の違いではなくて、共通点や一致点を粘り強く見いだしていく中において、具体的な解決策に到達したいと、こう思っていますが、具体的には自由貿易の推進、イノベーションを通じた世界の経済成長の牽引や、デジタル経済のルールづくり、あるいはまた環境、地球規模課題への対応や、そして女性の活躍推進、そういったテーマについて、G20として力強いメッセージを発出したいと思っています。

 そしてまた、米中の貿易摩擦については、G20での米中首脳会談を含め、米中両国が対話を通じて建設的に解決することを期待しているところであります。

 また、中東の平和と安定は、日本のみならず、世界の平和と繁栄にとって不可欠であります。議長国として、エネルギー安全保障の重要性について、G20各国の間で認識の一致を図りたいと思っています。議長としてその責任を果たしていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 予定しておりました時刻を経過いたしましたので、以上をもちまして、安倍総理大臣の記者会見を終わらせていただきます。

 皆様の御協力に感謝申し上げます。ありがとうございました。