データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G20大阪サミット議長国記者会見

[場所] 大阪
[年月日] 2019年6月29日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 大阪の地に世界中からリーダーをお迎えし、我が国が初めて議長国を務めるG20(金融・世界経済に関する首脳会合)サミットを開催できたことを大変うれしく思います。

 世界は結束できる、そう信じて、精一杯、議長役を務めてまいりました。様々な課題について一気に解決策を見いだすことは難しい。それでも、本年のサミットは多くの分野でG20諸国の強い意思を世界に発信することができたと思っています。どの国にとってもウィン・ウィン、そして未来に向けて持続可能な成長軌道をつくる。その思いはその一点でありました。私の思いはその一点でありました。

 今、世界経済には、貿易をめぐる緊張から、依然として下振れのリスクがあります。こうした状況に注意しながら、更なる行動をとり、G20は力強い経済成長をけん引していく決意で一致しました。

 グローバル化が進む中で、急速な変化への不安や不満が、国と国の間に対立をも生み出しています。戦後の自由貿易体制の揺らぎへの懸念に対し、私たちに必要なことは、これからの世界経済を導く原則をしっかりと打ち立てることであります。自由、公正、無差別、開かれた市場、公平な競争条件、こうした自由貿易の基本的原則を、今回のG20では、明確に確認することができました。

 他方で、WTO(世界貿易機関)の改革は避けられません。グローバル化、デジタル化といった近年の動きに、WTOは必ずしも対応できていない現実があります。ビッグデータ、AI、第4次産業革命が急速に進む時代にあって、付加価値の源泉であるデータについて、新たなルールづくりが必要であり、今回のサミットの重要なテーマでありました。

 今回、トランプ大統領、習近平国家主席、ユンカー欧州委員長を始め、多くの首脳たちと共に、データ・フリー・フロー・ウィズ・トラストの考え方の下に、新しいルールづくりを目指す、大阪トラックの開始を宣言いたしました。プライバシーやセキュリティを保護しながら、国境を越えたデータの自由な流通を確保するための国際的なルールづくりを、スピード感をもって進めてまいります。これは、WTO改革の流れにも新風を吹き込むに違いありません。

 世界経済の8割を占めるG20は、持続的な成長のために、大きな責任を有しています。地球環境問題は一部の国々の取組だけでは対応することが困難な課題であり、世界が共に取り組んでいかなければなりません。一昨年のハンブルク、昨年のブエノスアイレスでのG20サミットにおける努力の上に、環境と成長の好循環の実現に向けて世界が共に行動していくことが重要である。今回、こうした認識でG20として一致できた意義は大きいと考えています。

 海洋プラスチックごみも、一部の国だけでは解決できない課題です。そうした中で、G20が結束して、新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを共有できたことは、この問題の解決に向けた大きな一歩であると考えています。その実現に向けた具体的実施の枠組みでも合意しました。

 我が国は、これまでの技術や経験をフル活用し、途上国の廃棄物管理や人材育成支援を行い、世界の取組に日本らしい貢献をしてまいります。国際社会の様々な課題に首脳たちが直接話し合うことで解決策を見いだすことができる、国と国の間の問題もその解決に向けて歩みを進めていくことができる。

 このサミットの機会をいかして、私も20名を超えるリーダーと会談を行います。本日もこの後、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行う予定です。EU(欧州連合)との首脳会談では、東北の安全な農産物、水産物について、規制緩和への大きな動きがありました。被災地の復興に協力してくださる多くの国々に、改めて感謝申し上げます。

 世界の大きな関心である米中貿易摩擦について、一昨日、習近平国家主席と、昨日はトランプ大統領とそれぞれ話をしました。私からは、世界第1位、第2位の経済大国が建設的な議論を通じて、安定した経済関係を構築していくことが極めて重要であると申し上げました。こうした貿易摩擦や地域情勢について、このG20の機会をいかして、首脳同士が直接会って、胸襟を開いて話すことで歩み寄っていける。日本としてできる限りの役割を果たしていく考えです。

 グローバル化は、経済の成長を後押しする一方、そこから生じる格差の拡大にもG20はしっかりと向き合い、成長の果実を社会の隅々にまで浸透させなければなりません。教育の充実は、持続可能な経済成長への最大の鍵です。全ての女の子が、少なくとも12年間の質の高い教育にアクセスできる、そうした世界を目指していく。その決意をG20の首脳たちと確認しました。日本はこれからも途上国における女子教育の拡大に役割を果たしていく考えです。2020年までの3年間で少なくとも400万人に上る途上国の女性たちに、質の高い教育、人材教育の機会を提供していきます。

 世界では対立ばかりが強調されがちな中にあって、共通点や一致点を見いだしていく。日本ならではのアプローチで、この大阪サミットでは、世界の様々な課題に対し、G20が一致団結して力強いメッセージを出す。そして、具体的な行動へと移していく大きなきっかけにすることができました。

 最後となりましたが、今回のサミット開催に当たり多大な御協力を頂きました御地元の皆様、人情の町・大阪らしい温かいおもてなしで迎えていただいたことを、心から感謝申し上げます。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 これからは皆様方からの質問をお受けいたします。最初は日本のプレスの皆様からの御質問です。御希望される方は挙手をお願いいたします。私が指名いたしますので、指名された方は近くのスタンドマイクの前に進み出て、所属とお名前を明らかにされた上で御質問をお願いいたします。

 どうぞ。

(記者)

 読売新聞の池田と申します。

 G20全体について伺います。G20は参加国が多いことから意思決定が難しく、国際協調の枠組みとしての限界を指摘する声もあります。取り分け、米中の貿易摩擦が続き、今回の首脳宣言でも、保護主義と闘うという文言は盛り込まれない方向だと言われています。本日は、アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席が貿易摩擦の解消に向けて会談をしましたが、総理はG20議長として、世界経済のリスクを緩和するために有効な処方箋を示すことができたとお考えでしょうか。

 また、G20の枠組みを改善していく必要があるとお考えであれば、どう改善すべきか、お考えをお聞かせください。

 また、今回のサミットで議題になったWTO改革については、どのようなスケジュール感で進めていくお考えでしょうか。よろしくお願いします。

(安倍総理)

 G20について、世界を取り巻く主要な課題について、意見の対立ばかりが強調されがちと言ってもいいと思います。言わば、意見の違いが強調されることによって、それは政治的な意味を持ってくる。ある主張をしていると、その主張が通らなければ、政治的に負けたのではないか、実質とはだんだんかけ離れて、言わば、例えばいろいろな言葉、とった、とらないという結果になってしまうわけでありまして、その結果、共通の解決策が得られにくい状況になっているとの指摘もあります。

 しかし、例えば貿易や地球環境や防災といった課題については、一部の国だけで対応することは困難であります。世界がダイナミックに動く中で、世界経済の約8割を占めるG20の国々が一堂に会して、共に課題解決に取り組んでいくということは、大変意義が大きいと思っています。

 そのため、今回のG20サミットでは、日本は議長として、G20の持つ力を最大限に発揮するためには、各国間の対立を際立たせるのではなくて、共通点、一致点に光を当てていく。粘り強く共通点を見いだすアプローチをしていく。そして、世界をよりよい世界にしていくための結果を出していくということに力を入れました。多くの国々は、このアプローチに賛同していただいたと思っています。同時に、この2日間を通じて、議長国としての責任の大きさを改めて痛感もしたところであります。

 貿易については、戦後の自由貿易体制が揺らいでいるのではないかとの懸念がある中で、これからの世界経済を導く原則をしっかりと打ち立てることです。今回のサミットでは、自由、公正、無差別、そして、開かれたマーケット、公平な競争条件といった自由貿易体制を支える基本的原則につき、一致することができたと思います。

 そもそも、私たちが求めていたのは、この原則のはずであります。ですから、今回のサミットにおいては、本来、では、私たちは何を求めていたのか、との原点に立ち返って、今まで意見の違いばかりがあおられてきた。その結果、何も原則も確認できなくなってしまわないように、今回はしっかりと原則に立ち戻り、かつ大切な原則を確認することができたと思います。

 また、AIやビッグデータが急速に進歩する時代にあって、デジタルデータが付加価値の大きな源泉となっています。私がダボス会議で提唱した、信頼性の下に自由なデータ流通を確保するための新たなルールづくりを米国、中国、EUを始め、多くの国々の首脳らと共に、大阪トラックとしてスタートすることができました。

 現在のWTOは、グローバルなデジタル化に十分対応できていません。こうした中での今回の成果は、WTO改革に新風を吹き込むものとなりました。来月にも大阪トラックの最初の会合を開催します。来年には実質的な進展を得られるよう、スピード感を持って進めていきます。

 また、今回のG20では、海洋プラスチックごみ対策も大きなテーマとなりました。新興国、途上国を含む世界の主要国が、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを共有したことは、世界全体で海洋プラスチックごみ対策を進めるに当たって大きな意義があります。また、その実現に向けた具体的な実施枠組みにも合意できました。我が国は海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、引き続きリーダーシップを発揮をし、積極的に貢献をしてまいります。

(内閣広報官)

 それでは、次は外国系、日本ではないメディアの皆様からの御質問をお受けいたしますので、挙手をお願いいたします。

 それでは、一番前列手前の女性の記者の方、マイクロホンまでお進みください。

(記者)

 先ほど言及のあった大阪ブルー・オーシャン・ビジョンについてお伺いします。日本はテクノロジーおよび経験を提供すると言及されましたが、日本自身、プラスチック製品の巨大な消費国であり、欧州諸国に比しても、海洋プラスチックごみへの対処が後れをとっており、更に海洋プラスチックごみを発展途上国に輸出しています。総理御自身、国際社会に海洋プラスチックごみ問題への対処を呼びかける前に、日本の国内事情にどのように対処されるお考えでしょうか。

(安倍総理)

 大阪ブルー・オーシャン・ビジョンですが、海は世界共通の財産であります。海洋プラスチックごみによる汚染から私たちの美しい海を守るためには世界全体での取組、もちろん、日本も含む世界全体での取組が必要であります。新興国、途上国を含む世界の主要国から成るG20が大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを共有したことは、世界全体で海洋プラスチックごみ対策を進める上で大きな意義があると考えています。

 加えて、今回のG20では、その実現に向けた具体的な実施枠組みにも合意できました。各国が継続的に情報を共有、更新しながら対策を実施することを通じ、G20としての、更には世界全体での実効的な対策を着実に進めていきます。

 日本としては先般、海洋プラスチックごみゼロを実現するためのアクションプランを決定しました。重要なことは、いかにプラスチックごみの海洋流出を防ぐかであり、規制が唯一の方法ではありません。日本から大量の海洋プラスチックごみが海に出ているというのは、これは誤解であります。もちろん、プラスチック製品は日本はたくさんつくっておりますが、日本から大量のプラスチックごみが出ているのではなくて、漁具等、かなり一部に日本から出ているものは限られていると思います。適正な廃棄物管理、海洋ごみの回収、海で分解されるバイオプラスチックごみ、バイオプラスチックのイノベーションなど、あらゆる手段を尽くしていく考えであります。

 また、これまでの日本の経験と技術をフルに活用し、途上国、そして途上国の能力構築等の国際貢献にも取り組んでいきます。

 例えば廃棄物管理の人材を、世界で2025年までに1万人育成します。今回のG20大阪サミットでは、プラスチック汚染から私たちの美しい海を守るため、世界が一致して、大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。我が国は、この問題の解決に向けて、引き続き、今回の議長国としてふさわしい貢献をしてまいります。

(内閣広報官)

 それでは、再び日本のメディアの方からの御質問。

 では、2列目の女性の記者の方。

(記者)

 日本テレビの菅原です。よろしくお願いいたします。

 総理はエネルギー安全保障の問題についても、G20各国で重要性について共有したいというふうにおっしゃっておられましたけれども、アメリカとイランの緊張の高まりについて、この期間を通じてどのような議論があったでしょうか。

 また、G20として、その緊張緩和に向けて何ができるとお考えか。また、日本としての役割というのを改めてどうお考えか、お聞かせください。

(安倍総理)

 今回のサミットにおいては、イラン情勢に関し、各国が強い関心を示していました。私も各国首脳との会談の中で、先日のイラン訪問の話を紹介し、各国からは、ホルムズ海峡付近における船舶への攻撃事案や、あるいは、イランによる米国の無人機撃墜事案など、地域の緊張が高まっていることを懸念する声が相次ぎました。

 中東における緊張感が高まる中で、各国が緊張緩和に向けた取組を続けているわけでございますが、先般も私自身がイランを訪問し、大統領、そしてハメネイ最高指導者と会談を行ったところでございます。

 私の訪問については、例えばフランスのマクロン大統領を始め、また、サウジアラビアの皇太子など、多くの方々から緊張緩和への努力についての強い支持があったわけでございまして、今後とも、国際社会と連携をしながら、この緊張緩和に向けて努力をしていきたい。そして、やはりこの地域の緊張緩和が世界の繁栄、平和に極めて重要であるということは、認識が一致しているわけでありまして、それぞれがそれぞれの役割を果たしていく。日本は伝統的にイランと友好関係があるわけでありますし、米国との同盟関係もあります。欧州との信頼関係もある中で、日本の役割を果たしていきたいと。そう簡単なことではもちろんありませんが、日本は日本の役割を果たしていきたいと、こう思っています。

(内閣広報官)

 それでは、外国のメディアの方も含めまして、もう1問、おとりしたいと思います。

 それでは、2列目の眼鏡をかけた男性の方、お願いします。

(記者)

 今回のG20サミットが成功裏に開催されたことに祝意を表します。来年の議長国はサウジアラビアですが、議長国のサウジアラビアに期待することは何ですか。様々な課題があるかと思いますが、お考えをお聞かせください。さらには、サウジアラビアの指導者に対し、今回の教訓等も踏まえ、助言があればお聞かせください。

(安倍総理)

 日本は今回、議長国として、G20において意見の違いよりも共通点を見いだすことができるように努力を重ねてまいりました。

 特に、例えば今回も、気候変動の問題については意見の大きな違いがありました。しかし、違いがあるわけではありますが、より良い地球を次の世代に残していこうという基本的な認識においては、どこも、もちろん米国もEUも日本も途上国も同じ認識を持っている。そして、実際に結果を出していくことが大切です。まず、この共通認識の下に、対立ではなくて、G20でしっかりと共通のメッセージを発しなければ、これは本当に私たちは責任を果たしているとは言えないという危機感を共有することができました。

 最後の局面において、トランプ大統領を始め米国にも、あるいはマクロン大統領やメルケル首相を始めEU側にも、また、中国やブラジルや多くの国々も大変な協力を頂きました。首脳間でのやりとりも行いながら、最後は一致点を見いだすことができた。つまり、努力をしていけば、私たちは団結することができる。より良い世界をつくっていくために、私たちは団結することができる。このことを、次の議長国であるサウジアラビアにも引き継いでいただきたいと、こう思っています。

 大阪首脳宣言を採択する上において、大変な困難もありましたが、多くの国の協力によって乗り越えることができたということであります。それは、やはりG20の国々は、経済においても大きな力を持っておりますが、それは同時に大きな責任を担っているということであり、この責任をかみしめながら最後の瞬間まで努力を重ねるということではないかと思います。

 ぜひ、サウジアラビアにも強いリーダーシップを発揮していただきたいと思いますし、大阪首脳宣言を土台として議論を発展させていただきたいと思います。

 日本も11月末まで議長国として、また、その後も来年のリヤド・サミットの成功に向けて全面的に協力をしていきます。

 また、サウジアラビアはサウジ・ビジョン2030を打ち出し、これまでにない改革に精力的に取り組んでおられると承知をしておりますが、G20の議長国は、世界が直面する様々な課題に対処するためのメッセージを発出する上で大きな役割を果たします。リヤド・サミットの成功を心からお祈りしております。

(内閣広報官)

 それでは、予定いたしました時間を超過いたしましたので、以上をもちまして、安倍総理大臣の議長国記者会見を終了させていただきます。

 プレスの皆様には、大変な御協力を頂きまして、ありがとうございました。

 総理が退場されるまで、そのままでしばらくお待ちいただきたいと思います。

(安倍総理)

 ありがとうございました。