データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第74回国連総会出席等についての内外記者会見

[場所] 
[年月日] 2019年9月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 まず冒頭、ニューヨークの皆様の心温まるおもてなしに、感謝いたします。

 地球温暖化、人間の安全保障、持続可能な開発目標。世界は様々な課題に直面しています。日本が先頭に立って、こうした世界的課題に、真正面からチャレンジする。この強い決意の下に、各国の首脳が集まるこの国連総会に、今年も、やってまいりました。

 CO2排出ゼロの水素エネルギー社会を世界に先駆けて、2030年までに実現する。来月、福島で、世界最大級の、100パーセント再生エネルギーによる水素製造施設が完成します。来年の東京オリンピックでは、関係者の足として、このクリーンな水素を燃料とする自動車を導入します。

 今後3年で、サブ・サハラのアフリカ諸国やアジアの国々の900万人の若者たちに、充実した教育の機会を提供します。G20大阪サミットでは、全ての女の子が、少なくとも12年間の質の高い教育にアクセスできる世界を目指す決意を、首脳たちと共有しました。

 2030年までに、全ての人に最低限の医療を提供する世界をつくりあげる。日本は、ウガンダ、タンザニア、セネガルを始め、アフリカの国々でそのための保健制度、医療制度づくりを支援していきます。

 日本は、積極的平和主義の旗を高く掲げ、こうしたコミットメントを確実に実行し、世界の様々な課題の解決に、これからも具体的な行動でイニシアティブを発揮していきます。

 先般のサウジアラビアの石油施設への攻撃を、日本も国際社会と共に強く非難します。中東情勢が深刻の度を増していることを、強く懸念しています。

 この地域の平和と安定は、我が国のみならず、世界経済の安定に直結しています。

 昨日、ローハニ大統領と首脳会談を行いました。イランは核兵器を含む全ての大量破壊兵器に反対するとの明確な発言が、ローハニ大統領からありました。6月のイラン訪問の時と同様、この地域の平和と安定に向けた意思を、改めて、確認いたしました。

 本日は、トランプ大統領とも、中東情勢、その緊張緩和に向けた方策について、率直な話し合いを行いました。

 厳しい情勢であればこそ、米国と同盟関係にあり、同時にイランと長年良好な関係を維持してきた日本ならではの舵(かじ)取りが、求められています。

 これからも、粘り強く対話を続け、この地域の緊張緩和、平和と安定の実現に向けて、我が国は、できる限りの努力を尽くしてまいります。

 日米首脳会談では、両国の貿易協定について、最終合意いたしました。昨年9月の共同声明に沿って、日米双方にとってウィン・ウィンとなる結論を得ることができたと考えています。

 これからの時代の経済を牽引(けんいん)する、デジタル貿易のルールづくりについても、合意しました。

 日本と米国は、長年の同盟国であるとともに、世界第1位と第3位の経済大国です。

 今回の協定は、我が国経済の更なる成長に寄与するのみならず、自由で、公正なルールに基づく世界経済の発展にも大きく貢献するものであり、その意義は極めて大きい。そう考えています。

 この後、私は、EU(欧州連合)のトゥスク議長とお会いします。明日はブリュッセルに移動し、ユンカーEU委員長と会談を行う予定です。

 本年、EUとの経済連携協定が発効いたしました。更には、昨年発効したTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、そして、今回の日米貿易協定により、我が国がハブとなって、世界経済の6割を占める大きな自由経済圏が誕生します。

 日本はこれからも、自由貿易の旗手として、世界のルールづくりをリードし、自由で開かれた公正なルールに基づく経済圏を世界へと広めていく決意であります。

 私からは、以上です。

【質疑応答】

(TBSテレビ 後藤俊広記者)

 総理は今回の訪米でアメリカのトランプ大統領、そしてイランのローハニ大統領と個別に首脳会談を行い中東情勢などについて意見交換を行いました。サウジアラビアの石油施設の攻撃などをきっかけにアメリカとイランの対立は厳しさを増していますが、安倍総理は6月のイラン訪問の際にも対話による緊張緩和を呼びかけています。今回の日米、日・イランのそれぞれの首脳会談でどういった成果を上げたとお考えでしょうか。

 さらに日米首脳会談では日米貿易協定に関する共同声明への署名が行われましたが、日米双方にとってウィン・ウィンの関係が築けたとお考えでしょうか。

(安倍総理)

 昨日、ローハニ大統領と、テヘランでの会談に続き、首脳会談を行いました。中東地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けて率直な意見交換を行いました。中東情勢が厳しさを増していることに深刻な懸念を伝えるとともに、イランに対して、地域の平和と安定に向けて建設的な役割を果たすよう求めました。

 同時に、日本としては引き続き緊張緩和と、そして情勢の安定化に向けて役割を果たしていくという考え方を伝え、ローハニ大統領からは、地域の安全保障はイランにとって重要であり、協力して対処していきたい旨の発言がありました。

 このやりとりを踏まえまして、本日、トランプ大統領と会談を行い、サウジアラビア東部の石油施設への攻撃を強く非難するとともに、中東における緊張緩和と情勢の安定に向けて、日米両国で緊密に協力していくことで一致したところであります。

 冒頭、お話をさせていただきましたように、日米は強力な同盟関係にあります。そして同時に日本はイランと良好な関係を維持してきたからこそ、6月に私もテヘランを訪問し、ハメネイ最高指導者、そしてローハニ大統領と会談を行ったところでありますが、その中におきまして、今回もイランに対してはしっかりとその責任を果たしていくように、ということを求め、またイランからも、日本がこの地域の平和と安定に向けて、その役割を果たしてもらいたいという趣旨の話もあったわけであります。

 また、その中におきまして、トランプ大統領と相当突っ込んだこの情勢についての意見交換を行うこともできたと思います。これからもこうした日本ならではの役割を果たしていきたい、地域の緊張緩和に向けた努力を重ねていきたいと思ってます。

 そして、日米首脳会談においては、私とトランプ大統領との間で、日米貿易協定と日米デジタル貿易協定が最終合意に達したことを確認しました。

 昨年9月の共同声明に沿って、日米双方にとってウィン・ウィンとなる結論を得ることができたと考えています。世界のGDPの3割を占める今回の協定は、我が国経済の更なる成長につながると考えています。

 日米デジタル貿易協定は、この分野での高い水準のルールを示すものであり、日米がデジタル分野における世界的なルールづくりを主導する上で重要な決定であると、こう思ってます。

 今般最終合意に達したこれらの協定の早期発効は、自由で、公正なルールに基づく世界経済の発展に大きく貢献するものであろうと思っておりますし、今回の協定というのは正にウィン・ウィンの協定であり、日米両国にとって、生産者も、あるいは農業者もそうですが、同時に消費者も、国民にとっても将来の利益となる協定ができたと、こう思っています。

(ANSA通信 ヴァレリア・ロベッコ記者)

  旧朝鮮半島出身労働者問題、韓国向け輸出管理の見直し、日韓GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の終了決定等により、日韓関係が悪化しているが、今後どう対応していくのでしょうか。また、日韓間の貿易問題は、周辺国をはじめとする他国との関係等にどのような影響を及ぼすとお考えでしょうか。

(安倍総理)

 まずはっきりと申し上げておきたいのは、輸出管理の問題と朝鮮半島出身労働者の問題とは、全く別の問題であるということであります。

 まず軍事転用の恐れのある機微な品目及び技術に対して、実効的な輸出管理を行うことは、ワッセナー・アレンジメントなどの国際輸出管理レジームの下での国際社会の一員としての日本の責任であります。そして、これは正にWTO(世界貿易機関)協定を含む自由貿易の枠組とも完全に整合的であります。

 国際レジームに従ったルールにより、安全保障上の問題が無いことが確認されれば、輸出を許可してきており、周辺国を始めとする他国との貿易に影響を及ぼすことはないと考えています。周辺国の皆様にもその点は理解していただけているのではないかと、こう思っています。他の国々の皆様も理解をしていただいているのではないかと思います。

 そして韓国との間では、戦後処理の根本を定めた日韓請求権協定の違反状態を韓国側が放置するなど、国と国との信頼関係を損なう行為が続いています。

 日本は、その中にあっても、現在の北東アジアの安全保障環境に照らせば、日米韓の安全保障上の協力に影響を与えてはならない、という立場から一貫して対応してまいりました。つまり、日韓の両国の関係、これが安全保障の分野に影響を及ぼしてはならない、というのが日本の一貫した立場であったわけでありますが、今回、韓国側から、GSOMIAの終了が一方的に通告されたことは大変残念なことであります。

 いずれにいたしましても、韓国に対しては、まずは、国と国との約束を守るように求めていきたいと考えています。

(政治部記者 宮島寛記者)

 内政についてお尋ねします。来月1日から消費税が引き上げられます。米中貿易摩擦などで景気の先行き不透明感が高まる中、今後消費税の引き上げに伴う新たな経済対策を行うお考えはお持ちでしょうか。

 また来月には臨時国会が召集されます。総理は憲法改正の議論に次の国会でどのように進めていくお考えでしょうか。また、前回の衆院選からまもなく2年になります。総理がどのようなタイミングで解散・総選挙を行うのか世の中の関心事です。今年は秋に即位の礼、来年夏にはオリンピック・パラリンピックというように大きな行事が目白押しです。こうしたスケジュールの中、総理は解散についてどのようにお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。

(安倍総理)

 今、一度に三つの質問をいただいたわけでありますが、まず、最初に、消費税につきましてですが、今回消費税を引き上げるに当たりまして、前回5パーセントから8パーセントに引上げた時の消費への影響がどうであったか、経済全体に対する影響、あるいは経済成長に対する影響はどうだったかということを十分に分析した上で、今回の引き上げの対策を立てたわけでありまして、例えば、思い切ったポイント還元、そしてプレミアム商品券など、これまでお示ししてきた十二分の対策の実施によって、消費をしっかりと下支えをして、経済の回復基調を確かなものとしていく考えであります。今回正にそうした前回の分析、あるいは反省点を踏まえまして、十二分な対策を行っているということであります。

 しかし同時に、世界経済が抱える下振れリスクも含め、今後の経済動向には、十分に目配りをし、仮にそうしたリスクが顕在化すれば、躊躇(ちゅうちょ)することなく、機動的かつ万全な政策対応を行うなど、経済運営に万全を期していく考えであります。

 そしてもう一つの御質問である憲法改正についてでありますが、先の参議院選挙におきましては、私はほとんどの街頭演説の場において憲法改正について、議論を進めていくべきである、そのことを今回の選挙で判断してもらいたい、こう、訴えてきました。国民の皆様の声は、議論は行うべき、審判はそういうことであったのだろうと思いますし、最近の多くの報道機関の世論調査の結果もそうなっています。少なくともやはり、国会議員はその責任を果たしていく、それはつまり議論すべきだろう、議論をすべきだというのが国民の声なのだろうと思いますが、自民党は既に憲法改正のたたき台を提示しております。ですから、令和の時代にふさわしい、憲法改正の原案の策定に向かって、立憲民主党を始め、野党各党においても、それぞれの案を持ち寄って、憲法審査会の場で、与野党の枠を超えて、国民の期待に応える議論を行ってまいりたい、議論を深めてまいりたいと、こう思っています。

 そして、解散についてでありますが、全く私の頭の片隅にも、もちろん真ん中にもありませんし、まずは内政、外交に一つ一つ結果を出していくことに専念し、国民への責任を果たしていきたい。先の参議院選挙でお約束したことをしっかりと実行していきたいと考えています。

(ニューヨーク・タイムズ紙 アナ・スワンソン記者)

 日本は、米国が日本の自動車に対し(1962年通商拡大法)第232条に基づく関税を課さないという確約を口頭で得たのでしょうか。メキシコの例のように、トランプ大統領は合意への署名後であっても関税をかけると脅すことで知られています。口頭で合意がなされた場合、大統領が再び関税を課すと脅さないと確信できるのでしょうか。

(安倍総理)

 ただいまの御質問でございますが、昨年の日米の共同声明においても、この貿易交渉がしっかりと行われている間については、精神に則って、232(条)による追加関税は行わないということをトランプ大統領との間で、確認をしているわけでありますが、正にその約束は果たされてきたわけであります。今般も米国との間において、日米共同声明の内容が日本の自動車、あるいは自動車部品に対し追加関税を課さないという趣旨であることは、私からトランプ大統領に明確に確認をし、そしてトランプ大統領もそれを認めたわけであります。正に私とトランプ大統領との間でそのことは確認できていると、こう思っております。正に我々、この協定が発効することによって、今後両国の経済が更に発展していくということになっていくと確信をしております。