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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣年頭記者会見

[場所] 
[年月日] 2020年1月6日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 皆様、明けましておめでとうございます。元日の朝は、広い範囲で晴れとなり、私も美しい富士山の姿を見ることができました。

 令和の時代になって初めての新年を迎え、先ほど、伊勢神宮を参拝いたしました。そして、新しい令和の時代が我が国にとって平和で豊かなすばらしいものとなるようお祈りいたしました。

 本年はいよいよ、半世紀ぶりに、オリンピック・パラリンピックが日本にやってきます。国民一丸となった招致活動が実を結び、7年前、その開催が決定しました。その直後、私は、決戦の地・ブエノスアイレスで、みんなで力を合わせれば、夢はかなう、そう申し上げたことを、今でも覚えております。

 少子高齢化、激動する国際情勢。令和の時代を迎えた私たちの前には、大変困難な課題が立ちはだかっています。しかし、みんなで力を合わせれば、夢はかなう。国民の皆様とともに真正面から立ち向かうことで、必ずや、こうした課題も乗り越え、新しい時代を切り拓(ひら)くことができる、そう確信しています。

 オリンピック・パラリンピックが再び我が国で開催される、この歴史的な年を、国民の皆さんとともに、日本の新時代を切り拓く一年とする。その決意を、令和2年の年頭に当たり、新たにしております。

 前回のオリンピックが開催された1964年頃は、いわゆる団塊の世代が一斉に就職時期を迎え、高度成長の大きな原動力となった時代です。そうした背景の下で、我が国が世界に誇る国民皆年金、皆保険が形づくられました。しかし、今から2年後の2022年には、正に、その団塊の世代が75歳以上の高齢者となります。少子高齢化が深刻さを増す中で、このままでは若い世代の社会保障負担が大きく上昇することとなります。

 同時に、平均寿命は、1964年と比べて15歳近く延びました。高齢者のうち8割の方が、65歳以上になっても働きたいという意欲を持っておられます。人生100年時代の到来は大きなチャンスです。この機に、年齢に関わりなく、意欲ある皆さんは働き続けることができる、生涯現役の社会をつくり上げる。同時に、一定以上の所得がある皆さんには、年齢に関わりなく、ある程度の御負担をいただき、社会保障の支え手になっていただく。そうすることで、若い世代の負担上昇を抑えながら、我が国が誇る社会保障制度を新しい時代へと引き渡していくことができると考えています。

 さらに、パートで働く皆さんにも、広く厚生年金の適用を拡大します。同一労働同一賃金の時代にあって、年金の世界においても、非正規という言葉をこの国からなくしていく。この大方針の下に、現役世代の安心を一層確保する制度へと改革します。働き方の変化を中心に据えながら、年金・医療・介護、社会保障全般にわたって改革を進めてまいります。

 少子化の時代にあって、当然、子供たち、子育て世代への支援も充実します。子供たちの誰もが、家庭の経済事情にかかわらず、夢に向かって頑張ることができる。そういう社会を目指し、昨年の幼児教育・保育の無償化に続き、本年4月から、真に必要な子供たちの高等教育の無償化を行います。

 令和の新しい時代、その未来をしっかりと見据えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度へと改革していく。これが、本年、内閣の最大のチャレンジであると考えております。

 本年の干支は、庚子(かのえね)であります。ねずみは、十二支のトップバッターであり、新しい芽が伸び始める年と言われています。そして、庚(かのえ)には、これまでの継承の上に、思い切って改革していく、そういう意味が込められています。新しい時代を切り拓くような、大きな改革を進めていく。庚子は、これまでも、そうした節目の年になってきました。

 60年前の庚子には、日米安全保障条約が改定されました。そして日本は、東西冷戦を乗り越え、平和と繁栄を享受してきた。日米同盟は、まさしく、その後の時代を切り拓くものとなりました。60年を経た今なお、我が国の外交・安全保障政策の基盤となっています。

 他方、世界は今、大きな変化のうねりの中にあります。東アジアの安全保障環境がかつてない厳しい状況の下で、日米、日米韓の緊密な連携はもとより、ロシアや中国との協力関係を築くことは極めて重要です。

 北朝鮮と、日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づいて諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交を正常化するとの方針も揺らぎません。最も重要な拉致問題の早期解決に向け、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と、条件なしで、直接向き合う考えです。

 中東地域が緊迫の度を高めており、現状を深く憂慮しています。事態の更なるエスカレーションは避けるべきであり、全ての関係者に緊張緩和のための外交努力を尽くすことを求めます。先月、イランのローハニ大統領を日本にお迎えしましたが、この地域の緊張緩和と情勢の安定化のために、これからも日本ならではの外交を粘り強く展開します。

 我が国はこの地域にエネルギー資源の多くを依存しています。こうした外交努力と併せて情報収集体制を強化するため、この地域に自衛隊を派遣し、日本関係船舶の航行の安全を確保していきます。自由で、公正なルールに基づく経済圏を、更に世界へと広げていく努力も続けます。TPP(環太平洋パートナーシップ)加盟国の拡大、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉など、日本は自由貿易の旗手として、これからもリーダーシップを発揮してまいります。

 自由で開かれたインド太平洋というビジョンの下、日米同盟の強固な基盤の上に、地球儀を大きく俯瞰(ふかん)しながら、欧州、インド、豪州、ASEAN(東南アジア諸国連合)など基本的な価値を共有する国々との連携を一層深めていく考えです。

 日米安保条約60周年の節目となる本年、戦後の日本外交を総決算し、その上に、新しい時代の日本外交の地平を切り拓く。そうした一年としたいと考えています。

 東京オリンピック・パラリンピックまで、あと半年余りです。万全の準備を進め、世界から集まるアスリートの皆さんが最高のパフォーマンスを発揮できる大会としたい。そして、世界中の人々が新しい時代への夢や希望を持つことができる。そのような大会にしたいと願っております。

 最後となりましたが、本年が、国民の皆様お一人お一人にとりまして、すばらしい年となりますことを心より祈念しております。

 私からは以上です。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様からの御質問をいただきます。

 恒例に従いまして、内閣記者会の記者の方、そして、地元のメディアの記者の方から交互に質問をいただきたいと思います。御質問を希望される方、挙手をお願いいたします。私が指名をいたします。指名を受けまして、所属とお名前を明らかにされた上で御質問をお願いしたいと思います。

 それでは、内閣記者会の記者の方から始めさせていただきます。挙手をしてください。指名します。どうぞ。

(記者)

 内閣記者会幹事社のテレビ朝日の鈴木と申します。よろしくお願いいたします。

 総理の任期が残り2年を切りました。憲法のほかに内政面で最も成し遂げたい課題は何でしょうか。また、憲法改正についてですが、任期中の改憲に向けて年内の発議を目指す考えはありますでしょうか。

(安倍総理)

 全世代型社会保障の実現が、内政面では政権にとって最大のチャレンジです。少子高齢化の進展、人生100年時代の到来、世の中が大きく変わる中で、社会保障も大きく転換していかなければならない。2022年には団塊の世代が75歳以上となるわけでありまして、もはや待ったなしです。

 その第一歩として、昨年10月に幼児教育・保育の無償化を実現しました。そして、今年の4月から、真に必要な子供たちの高等教育の無償化を行います。さらに、社会保障全般について、年金・医療・介護にとどまらず、働き方改革を中心に据えて議論を進め、先般、中間報告を取りまとめました。元気で意欲ある皆さんには、年齢に関係なく、生涯現役で活躍できる社会をつくり上げていかなければなりません。70歳までの就業機会の確保を始め、労働制度や年金制度の改革について、通常国会に法案を提出いたします。

 また、医療についても生涯現役の社会をつくり上げる中で、年齢にかかわらず、一定以上の所得がある方には応分の御負担をいただくことで、現役世代の負担上昇を抑えていきます。高齢者の実態などを踏まえまして、丁寧に検討し、この夏までに成案を得たいと考えています。人生100年時代の到来をチャンスと捉え、子供たちからお年寄りまで、全ての世代が安心できる社会保障制度を築き上げることで、少子高齢化に立ち向かっていく考えです。

 そして、憲法についてでありますが、さきの参議院選挙や、また、最近の世論調査を見ても、国民の皆様の声は、憲法改正の議論を前に進めよ、ということだと思います。国会議員として、憲法改正に対する国民的意識の高まりに対して、これを無視することはできないと思います。その責任を果たしていかなければならないと考えています。今後とも自由民主党が先頭に立ち、国民的議論を更に高める中で、憲法改正に向けた歩みを一歩一歩着実に進めていく考えです。

 そして、憲法改正を私自身の手で成し遂げていくという考えには全く揺らぎはありません。しかし、同時に、改憲のスケジュールについては、期限ありきではありません。まずは通常国会の憲法審査会の場において、与野党の枠を越えて、活発な議論を通じて、国民投票法の改正はもとより、令和の時代にふさわしい憲法改正原案の策定を加速させたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、次は地元の三重県の記者の方からの御質問とさせていただきます。御希望される方、質問をどうぞ。

(記者)

 三重県政記者クラブ、朝日新聞の三浦と申します。

 この夏、東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、三重県を含め、競技の開催されない地方に対して、その経済効果をいかに波及させていきたいとお考えでしょうか。また、五輪を契機に更なるインバウンドの増加が見込まれますが、各地でIR(統合型リゾート)誘致なども検討されていますが、その後のインバウンド拡大についてのお考えを伺いたいと思います。

(安倍総理)

 冒頭も申し上げましたが、正に決戦の地であった2013年、ブエノスアイレスでロゲ会長の「TOKYO」という発表を聞いてから、準備に全力を尽くしてまいりましたが、もうあと残り、オリンピック・パラリンピック開催まで6か月ちょっととなりました。今度の東京大会を、全国の皆様の温かい思いが詰まったものにすることで、日本全体が大きなエネルギーを発するような大会にしたいと考えています。

 そのための鍵となるのがホストタウンだと思います。三重県でも、伊勢市はラオス、志摩市はスペインですか。ホストタウンになっていただいていると思います。ラグビーワールドカップにおけるキャンプ地で、そこの地方自治体の皆さんとチームが一体となって、あの大会を盛り上げてくれましたね。そうした、この全国にあるホストタウンの皆さんがそれぞれの役割を果たしていただき、それぞれの地域で交流の輪を広げ、オリンピックを全国的な盛り上がりにつなげていきたいと思っています。

 また、観光は地方創生の起爆剤であります。政権交代前の4倍近く、3,000万人を超える外国人が訪れ、4兆5,000億円を消費する一大産業が新たに地方に誕生したと言ってもいいのだろうと思います。この機会を捉えて、各地の観光支援を世界中に強力かつ戦略的に発信する特別なプロモーションを、1年間にわたって展開する考えであります。

 今、海外から来られる観光客の皆さんは、そこにしかない光景や、そこでしかできない体験というのを求めているのだろうと思います。例えば、三重県の海女ツアーとか、忍者体験などが、地方が持つ豊富な観光資源となると思います。そうした、全国にまだまだ眠っているすばらしい観光資源をしっかりと海外にPRをしていきたいと思っています。

 同時に、多言語表示やWi-Fi整備など、受入れ環境の整備。そして、地域の観光コンテンツの磨き上げ等を更に進めることで、2020年の4,000万人、そして、2030年の6,000万人という目標達成につなげていきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、再び内閣記者会の記者の方、御質問をお受けいたします。御質問を御希望の方は挙手をお願いいたします。どうぞ。

(記者)

 内閣記者会幹事社の朝日新聞の松山と申します。

 総理が主催する桜を見る会について伺います。各種世論調査で、桜を見る会について、総理の説明が十分ではないと答える人が7割を超えています。こうした意見をどう考えますか。また、ジャパンライフの山口元会長は、桜を見る会の招待状を使って宣伝していました。総理は個人情報を理由に山口元会長を招待したかどうか明らかにしていませんが、山口元会長が桜を見る会に招待されたことを自ら明らかにしている以上、個人情報に当たるとは言えません。山口元会長を招待したのかどうか、改めてお伺いします。もし名簿がなく、破棄されて、招待したかどうか確認できないとするならば、聞き取り調査などで調べる考えはありますか。お答えをお願いします。

(安倍総理)

 政府としては、桜を見る会の個々の招待者については、個人に関する情報であるため、招待されたかどうかも含めて、従来から回答を差し控えさせていただいています。いずれにせよ、桜を見る会については、国民の皆様から様々な御批判があることは十分に承知をしています。世論調査の結果についても謙虚に受け止め、今後も丁寧に対応してまいりたいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、地元の三重の記者の方から最後の質問を受けさせていただきます。予定の関係で最後の質問になりますけれども、御了解いただきたいと思います。

 では、三重県の方、どうぞ。

(記者)

 三重県政記者クラブのCBCテレビの原と申します。質問させていただきます。

 三重県では去年、真珠を育てるアコヤガイや養殖カキが大量に死にました。その直接的な原因は分かっていません。さらに、CSF、いわゆる豚コレラが発生したほか、猛暑や台風、そしてゲリラ豪雨による農作物の被害も相次ぎました。こうした一次産業は家族経営が多く、後継者不足も深刻です。多くの不安や問題を抱えている日本の一次産業について、どう対応していくか、お考えをお聞かせください。

(安倍総理)

 昨年は、相次ぐ自然災害やCSFの拡大により農林水産業は大きな被害を受けました。三重県においても、今、御質問があったように、アコヤガイの大量死などにより、漁業者の皆様も大変御心配のことと思います。経営安定に向けたセーフティー基金などを活用し、しっかりと対応していく考えであります。また、CSFについては、三重県においてもワクチン接種を進めるとともに、衛生管理の徹底や野生イノシシ対策を強化しています。  農林漁業者の不安にしっかりと寄り添いながら、一日も早く生業(なりわい)を再建できるように、政府としても全力で取り組んでまいります。三重県においては、県ともしっかりと協力しながら、自治体とも協力しながら、皆さんが安心して、これからも農林水産業に従事していけるように支援をしていきたいと考えています。

 また、一次産業をどう考えるかというお話がありました。日本の美しい景観や環境、地域の伝統、人の交流。そうしたものを支えているのは、私は農林水産業だと考えています。正に国の基(もとい)です。しかし、今、実際、例えば農業に携わる方々の平均年齢も66歳を超えてしまっている。このままでは未来がないわけでありまして、やはり若い皆さんにとって、自分たちの人生をこの分野にかけよう、そう思ってもらうように、しっかりと守っていくためにも改革をしなければ、かけがえのない一次産業を改革しなければならないと、こう考えています。

 そして、そのことによって、正に成長産業にしていく。そして、新たな、この産業として伸ばしていきたいと、こう思っているのですが、例えば、先月の日中首脳会談に先立ちまして、中国向けの日本産牛肉の輸出再開に向けて大きな進展がありました。また、日EU(欧州連合)・EPA(経済連携協定)が昨年スタートしましたが、肉についても3割、輸出が、EUについては増えているわけでありまして、正に三重県が誇る松阪牛を始め、日本の農林水産物が世界に羽ばたくチャンスは今後ますます広がっていくと考えています。輸出に対応したグローバル産地づくりや先端技術を活用したスマート農業などを進めていく考えであります。

 もちろん、家族経営等の中小の経営者の皆さんに対しましても、しっかりと寄り添いながら、きめ細かな支援をしながら、このグローバル化をチャンスと捉えて、そういう皆さんが、しっかりとこの分野で頑張っていけるようにしたいと思います。

 こうした新たな政策を進めていくには、しっかりとした生産基盤が欠かせないと考えています。災害にも負けない強靱(きょうじん)な生産基盤を構築をし、これを土台として成長産業化を更に進め、若い皆さんが将来の夢や希望を持てる農林水産新時代を切り拓いていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 ありがとうございました。

 以上をもちまして、安倍内閣総理大臣の令和2年年頭記者会見を終わらせていただきます。

 皆様、どうも御協力ありがとうございました。

 10分近く遅れておりますので、次の移動もございますので、これにて終わらせていただきます。

 ありがとうございました。