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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2020年6月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【安倍総理冒頭発言】

 まず冒頭、本日、我が党所属であった現職国会議員が逮捕されたことについては、大変遺憾であります。かつて法務大臣に任命した者として、その責任を痛感しております。国民の皆様に深くお詫(わ)び申し上げます。

 この機に、国民の皆様の厳しいまなざしをしっかりと受け止め、我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければならないと考えております。

 150日間にわたる通常国会は、昨日、閉会いたしました。国会が始まった直後、中国で新型コロナウイルスが爆発的に拡大し、武漢の町が閉鎖されました。現地で不安な時を過ごす日本人とその家族の皆さんに安全に帰国していただかなければならない。そのオペレーションから全ては始まりました。

 1月末には中国湖北省からの外国人の入国を拒否する措置を決定しました。その後も、世界的な感染の広がりに応じ、入国拒否の対象を順次、111か国・地域まで拡大し、水際対策を強化してきました。2月にはダイヤモンド・プリンセス号への対応、3月にかけて大規模イベントの自粛、学校の一斉休校、こうした取組を進める中で、我が国は中国からの第一波の流行を抑え込むことができました。

 しかし、欧米経由の第二波の流行が拡大し、医療現場が大変逼迫(ひっぱく)した中で、4月に緊急事態宣言を発出いたしました。国民の皆様の多大なる御協力を得て、先月25日、これを全面的に解除することができました。そして、今、感染予防と両立しながら社会経済活動を回復させていく。コロナの時代の新たな日常に向かって、一歩一歩、私たちは確実に前進しています。

 この通常国会を振り返るとき、正にコロナ対応の150日間であったと思います。この間、与党のみならず、野党の皆様にも御協力いただき、緊急事態宣言を可能とする特別措置法を速やかに成立させていただきました。与野党協議の場も設置をし、定期的な意見交換も行いながら、2度にわたる補正予算も早期成立に御協力いただきました。事業規模230兆円、GDP(国内総生産)の4割に上る、世界最大の対策によって雇用と暮らし、そして、日本経済を守り抜いていく。御協力を頂いた与野党全ての皆様に心から改めて感謝申し上げます。

 150日前、全く未知の部分ばかりであったこのウイルスについても、少しずつその特徴が見えてきました。感染性が高いのは、熱や咳(せき)などの症状が出る1日から2日前。その時点では無症状であっても他の人にうつすリスクが高いということが分かってきました。この知見を踏まえ、医師が必要と判断した方に加え、5月末から濃厚接触者についても、症状がなくとも、全員をPCR検査の対象としました。

 緊急事態宣言の解除後、北九州で一時、感染者が増加した際には、この新たな方針の下、濃厚接触者全員を対象に徹底的な検査を実施し、現在、新規の感染者は大きく減少しています。東京では、これまで集団感染が確認された夜の街で検査を強化しています。そのため、陽性確認者が増加していますが、こうした検査強化は、二次感染を防止する上で有効であると考えています。

 リスクの高い人だけを特定し、積極的に検査を行い、陽性者を速やかに発見する、いわゆるクラスター対策は、社会経済活動と両立する形で感染の拡大を防止する、極めて有効、効果的な手段であると考えます。

 経済活動の回復に向けて取り組んでいる世界の中で、今、我が国のクラスター対策に注目が集まっています。密閉、密集、密接、3つの密を避けることによって、日々の仕事や暮らしを続けながら感染を予防できる。これも、クラスター対策を進める中で得られた知見であり、3つのCとして、今、世界中で認識されるに至っています。

 そして、明日からは接触確認アプリを導入し、このクラスター対策をもう一段強化していきます。陽性者と濃厚接触した可能性がある場合、このアプリを用いることによって、皆さんのスマートフォンに自動的に通知が送られます。そして、速やかな検査につながるシステムとなっています。個人情報は全く取得しない、安心して使えるアプリですので、どうか多くの皆さんにこのアプリをダウンロードしていただきたいと思います。

 さきの会見でも申し上げたとおり、オックスフォード大学の研究によれば、人口の6割近くにアプリが普及し、濃厚接触者を早期の隔離につなげることができれば、ロックダウンを避けることが可能となります。繰り返し申し上げてきましたが、私たちはしっかりと発想を変えなければなりません。社会経済活動を犠牲とするこれまでのやり方は長続きしません。できる限り制限的でない手法で、感染リスクをコントロールしながら、しっかりと経済を回していく。私たちの仕事や暮らしを守ることに、もっと軸足を置いた取組が必要です。

 だからこそ、我が国が誇るクラスター対策にこれからも磨きをかけていく。様々な専門家の皆さんの協力を得て、最新の知見、最新の技術を常に取り入れながら、絶えず進化させていく考えです。

 そして、その大前提となるのは、十二分な検査能力です。既に唾液によるPCR検査も始まっています。抗原検査の更なる活用も進め、国内の検査体制を一層強化していきます。

 そうした取組の上に、明日、社会経済活動のレベルをもう一段、引き上げます。明日からは、都道府県をまたぐ移動も全て自由となります。各地への観光旅行にも、人との間隔をとることに留意しながら、出掛けていただきたいと考えています。プロ野球も、明日、開幕します。Jリーグも、リモートマッチに向けた準備が進んでいます。コンサートなどのイベントも、1,000人規模で開催していただくことが可能となります。ガイドラインを参考に、感染予防策を講じながら、社会経済活動を本格化していただきたいと考えています。正に、新たな日常をつくり上げていく。

 海外との人の流れも、もちろん細心の注意を払いながらではありますが、少しずつ取り戻していく必要があります。グローバル化がこれほどまでに深化した世界にあって、現在の鎖国状態を続けることは、経済社会に甚大な影響をもたらします。とりわけ、島国の貿易立国、日本にとっては、致命的であります。感染状況が落ち着いている国を対象として、ビジネス上の必要な往来から段階的に再開していく。そのための協議を開始する方針を、先ほど対策本部で決定いたしました。

 その前提は、出国前に検査による陰性確認を求めることであり、加えて、入国時にもPCR検査を実施する。十分な検査によって安心を確保した上で、行動制限を緩和し、ビジネス活動を認める考え方です。各国においても人の往来の回復に向けた動きが出てくる中で、日本として積極的に各国と議論をリードしていく考えです。そのためにも、とにかく検査能力の拡充が必要です。経済界とも協力しながら、海外渡航者のための新たなPCRセンターの設置なども検討していきます。

 今回の感染症によって失われた日常を、段階的に、そして、確実に取り戻していく考えであります。しかし、それは単なる復旧で終わってはならない。私たちは、今回の感染症を乗り越えた後の新しい日本の姿、新しい、正にポストコロナの未来についてもしっかりと描いていかなければなりません。

 この感染症の克服に向け、現在、治療薬やワクチンの開発を加速していますが、別の未知のウイルスが、明日、発生するかもしれない。次なるパンデミックの脅威は、空想ではなく、現実の課題です。私たちは、すぐにでも感染症に強い国づくりに着手しなければなりません。

 今般、テレワークが一気に普及しました。様々な打合せも、今や対面ではなくウェブ会議が基本となっています。物理的な距離はもはや制約にならず、どこにオフィスがあっても、どこに住んでいてもいい。こうした新たな潮流を決して逆戻りさせることなく、加速していく必要があります。

 同時に、3つの密を避けることが強く求められる中において、地方における暮らしの豊かさに改めて注目が集まっています。足元で、20代の若者の地方への転職希望者が大幅に増加しているという調査もあります。集中から分散へ、日本列島の姿、国土の在り方を、今回の感染症は、根本から変えていく、その大きなきっかけであると考えています。

 コロナの時代、その先の未来を見据えながら、新たな社会像、国家像を大胆に構想していく未来投資会議を拡大し、幅広いメンバーの皆さんに御参加いただいて、来月から議論を開始します。

 新たな目標をつくり上げるに当たって、様々な障害を一つ一つ取り除いていく考えです。そして、ポストコロナの新しい日本の建設に着手すべきは今、今やるしかないと考えています。

 パンデミックの脅威は、かねてから指摘されてきたことです。しかし、我が国の備えは十分であったとは言えません。テレワークなどの重要性も長年指摘されながら、全く進んでこなかった。そのことは事実であります。治に居て乱を忘れず。今回の感染症の危機によって示された、最大の教訓ではないでしょうか。

 自民党は憲法改正に向けて、緊急事態条項を含む4つの項目について、既に改正条文のたたき台をお示ししています。緊急事態への備えとして、我が党の案に様々な御意見があることも承知しています。各党、各会派の皆さんの御意見を伺いながら進化させていきたい。建設的な議論や協議を自民党は歓迎します。

 しかし、国会の憲法審査会における条文案をめぐる議論は、残念ながら今国会においても全く進みませんでした。今、目の前にある課題を決して先送りすることなく解決していく。これは私たち政治家の責任です。

 今週、イージス・アショアについて、配備のプロセスを停止する決定をいたしました。地元の皆様に御説明していた前提が違っていた以上、このまま進めるわけにはいかない。そう判断いたしました。

 他方、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。その現状には全く変わりはありません。朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっています。弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。これは政府の最も重い責任であります。我が国の防衛に空白を生むことはあってはなりません。平和は人から与えられるものではなく、我々自身の手で勝ち取るものであります。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力にほかなりません。抑止力、対処力を強化するために何をすべきか。日本を守り抜いていくために、我々は何をなすべきか。安全保障戦略のありようについて、この夏、国家安全保障会議で徹底的に議論し、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい。そう考えています。

 私からは以上であります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様からの御質問を頂きます。最初は幹事社から2社、頂きますので、指名を受けられた方、近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、所属とお名前を明らかにされた上で、質問をお願いいたします。

 それでは、どちらの幹事社の方が。はい、どうぞ。

(記者)

 フジテレビの鹿嶋(かしま)です。よろしくお願いします。

 まず総理、冒頭、言及がありました河井夫妻が逮捕されたことについて、責任を痛感していると述べられましたが、総理、総裁として具体的にどういった責任を痛感されているのかということと、自民党から振り込まれた1億5,000万円の一部が買収資金に使われたことはないということでいいのか、お伺いします。

 そして、東京五輪についてですが、IOC(国際オリンピック委員会)などが開催方式の簡素化を検討している中で、総理が述べてきた完全な形での実施ということに関して、考え方は変わりはないでしょうか。併せて、総理は治療薬やワクチンの開発も重要だということをおっしゃっていますけれども、これは五輪開催の前提になるのでしょうか。

 最後に、与野党の中に首相がこの秋に内閣改造をした上で衆議院の解散に踏み切るのではないかという観測が一部ありますけれども、現下のコロナ感染状況に照らして、総選挙の実施は可能と考えますでしょうか。お願いします。

(安倍総理)

 幾つか御質問を頂きましたが、まず最初の質問についてでありますが、冒頭、申し上げたように、我が党所属であった現職の国会議員が逮捕されたことは、大変遺憾であります。正に、国民の皆様の厳しいまなざしをしっかりと受け止め、我々全ての国会議員が改めて自ら襟を正さなければならないと考えておりますし、選挙は民主主義の基本でありますから、そこに疑いの目が注がれることはあってはならないと考えております。自民党総裁として、自民党においてより一層、襟を正し、そして、国民に対する説明責任も果たしていかなければならないと、こう考えています。

 それ以上につきましては、個別の事件に関すること、捜査中の個別の事件に関することでありまして、詳細なコメントは控えたいと思いますが、自民党の政治資金につきましては、昨日、二階幹事長より、党本部では公認会計士が厳格な基準に照らして、事後的に各支部の支出をチェックしているところであり、巷間(こうかん)言われているような使途に使うことができないことは当然でありますという説明を行われたというふうに承知をしております。

 そして、東京オリンピック・パラリンピックについてでありますが、東京大会については、先日、IOC理事会において、安全・安心な環境を提供することを最優先に、延期に伴う費用と負担を最小化し、競技と選手に重点を置きつつ、効率化、合理化を進め、簡素な大会を目指すとの方針が示されたと承知をしております。正に、オリンピックの、ある意味では原点に戻った大会にしていこうということだと私は思って、理解しています。

 開催に伴い、その意味において、費用を最小化し、効率化、合理化を進めていくということは、どのような場合にあっても当然のことであろうと、こう思いますが、これは本年3月、私とバッハ会長との間で、世界のアスリートの皆さんが最高のコンディションでプレーでき、観客の皆さんにとっても安全で安心な大会とする。すなわち完全な形で実施するために1年程度、延期するという意に沿ったものであり、現在もその方針には変わりはございません。

 そして、感染症の世界的な制圧に向けて、治療薬や、あるいはワクチンが果たす役割は大変大きいと理解しています。東京大会を円滑に実施するためにも、我が国、また、世界の英知を結集して、その開発に取り組んでいきたいと思っています。

 そして、選挙についてでありますが、一般論として申し上げますと、正に国民の、また住民の代表を決める民主主義の根幹を成すものが選挙でありますが、決められたルールの下で次の代表を選ぶというのが民主主義の大原則であります。正に本日から、例えば東京都知事選挙がスタートしますが、正にこの新たな日常の下での選挙ということになります。今回の感染症の下でも、各地の地方選挙や衆議院の補欠選挙などが感染防止策を徹底しながら実施をされました。

 もちろん、選挙をどうするかということについては、昨日、通常国会が終わったばかりでもあり、今現在、新型コロナウイルス感染症対策に全力を尽くしている中にあって、頭の片隅にもありませんが、様々な課題に真正面から取り組んでいく中で、国民の信を問うべき時が来れば躊躇(ちゅうちょ)なく解散する、解散を断行する考えに変わりはありません。

 また、人事についても、これはまだ先の話なのだろうと。今のスタッフで、メンバーで、まずは目の前にある感染症拡大、経済の回復、暮らしを守り抜いていく。全力を尽くしていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 それでは、幹事社、もう1社。

(記者)

 産経新聞の小川です。

 憲法改正について伺います。今国会でも、国民投票法改正案は成立が見送られ、6国会連続で継続審議となりました。総理は3年前の5月、2020年の新憲法施行を目指すと表明して以降、例えば今年1月の施政方針演説でも、改憲議論を前進させることは国会議員の責任だとして、国会での憲法審査会での議論を呼び掛けたほか、新型コロナウイルスの感染拡大後も改憲への意欲を示してこられましたが、今、総理も冒頭で言及がありましたように、実際には、改憲議論は一向に進んでいない状況です。

 更に言えば、第2次安倍政権が発足してから7年半ぐらいたっておりますが、改憲議論についてはほとんど前進していないのが現状です。率直に、この今の現状について、総理はどのように受け止めていますでしょうか。

 また、今年中の新憲法施行は非常に厳しい情勢でありますけれども、来年9月末までの自民党総裁としての任期中に改憲を目指す考え、これは変わりがないでしょうか。

 また、今後の改憲議論を進めるために、これまでとは違うアプローチを取られる考えはありますでしょうか。憲法改正への道筋をつけるために、党総裁任期を延長する、または連続4選を目指す可能性があるかどうか、改めて教えてください。

(安倍総理)

 この通常国会、150日間あったのですが、憲法審査会で実質的な議論が行われたのは、衆議院で1回のみでありました。大変残念なことであります。もちろん、この新型コロナウイルス感染症が拡大する中にありますから、政府としては、この感染症対策を最優先する、当然のことであります。国会においても、この感染症対策について、どういう対策を採るべきか、あるいは政府がどういう対策を採っているかということについて議論をしていく。その議論を最優先するのは当然のことでありますが、しかし、国会では様々な委員会があります。そのことも議論しながら、憲法審査会のメンバーは、当然議論はできるのだろうと私は思います。それは、我々が、行政府が答弁する委員会ではなくて、国会議員同士が議論をする、正に国会議員の力量が示されている場ではないのでしょうか。お互いに知見をぶつけ合う。憲法についてどう考えているのか。反対なのか、賛成なのか。どういう考えを持っているのか。それを正に国民の皆さんは、私は見たいのだろうと、聞きたいのだろうと思います。

 各種の世論調査でも、議論を行うべきとの声が多数を占めている中にあって、国会議員として、やはりその責任を果たさなければいけない。そのことを多くの皆さんに改めて認識をしていただきたいと思います。

 また、維新の皆さんは既に彼らの考え方を示していますが、それ以外の野党の皆さんからも、議論を行うべきという声も出てきているわけでありまして、国民的なこの機運が高まる中で、応えていこうという、そうした雰囲気もだんだん醸成されつつあると思っています。

 この7年間の間に、我が党においては、党として方針を決めました4項目について、これは党として、この案を正に党の案として、項目として、お示しをしていこうということが決まった。これは、私は大きな一歩、具体的な大きな一歩だったと思います。

 ただ、国会の場でそれが進んでいない。でも、これは国会みんなの、私は、責任なのだろうと、こう思います。

 その意味において、反対なら反対という議論をすればいいではないですか。なぜ、議論すらしないのかと思うのは、私は当然のことではないのかなと思います。

 私も自民党の総裁として、総裁任期の間に憲法改正を成し遂げていきたい。その決意と思いに、いまだ変わりはありません。自民党のルールに従って、任期を務め上げていく、これは当然のことであろうと思います。これを変えようということは全く考えておりません。この任期内にやり遂げなければならないと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、これから幹事社以外の皆様から質問を頂きます。質問を希望される方、発声ではなくて挙手でお願いいたします。私が指名いたしますので、近くのマイクにお進みいただきまして、所属とお名前を明らかにしていただいた上で質問をお願いいたします。

 幹事社と違いまして、質問を希望される方が多いと思いますので、質問は、お一人1問でお願いしたいと思います。

 それでは、御希望の方、挙手をお願いいたします。

 では、髙橋(たかはし)さん。

(記者)

 NHKの髙橋です。

 拉致問題について伺います。今年に入って、有本嘉代子(かよこ)さん、そして横田滋さんと、拉致被害者家族が相次いで亡くなられ、問題の解決は時間との闘いになっております。

 北朝鮮の指導体制に変化の兆しも見える中で、日朝首脳会談の実現の見通しも含めて、局面打開に向けた具体的な戦略をどのように描いているのか、お願いいたします。

(安倍総理)

 今年の2月に有本嘉代子さんが、そして先般、横田滋さんがお亡くなりになられました。

 先般、横田早紀江さんや拓也(たくや)さん、哲也さん、記者会見を拝見させていただきました。お話を伺っていて、本当に私自身、滋さんが生きている間にめぐみさんを取り戻すことができなかった。本当に痛恨の極みであり、申し訳ない思いであります。何としても御家族の皆さんの御期待に応えていかなければいけない。その思いを、決意を新たにしたところであります。大変責任を痛感しています。

 有本さん御一家とも、横田さん御一家とも、正に20年以上にわたって共に闘ってまいりました。当初は、多くの人たちがまだ拉致問題に対して関心を寄せずに、夏の暑い日に皆さんがビラを配っても、受け取らずに多くの人が通り過ぎるという、そんな時代がありました。でも、その中で本当に汗を流しながら、時には涙を浮かべながら、その運動を展開をしてこられた。

 私は総理になって7年以上が経過して、まだ皆さんの願いを実現できない。断腸の思いであります。あらゆる手段を尽くして、状況は変化を今もしています、チャンスを捉え、果断に行動していきたいと思っております。

 トランプ大統領からも習近平主席あるいは文在寅(ムン・ジェイン)大統領からも、私の考え方について、金正恩(キム・ジョンウン)委員長に伝えていただいておりますし、国際社会の理解も相当進んでおりますし、現在行っている対応も、多くの国々に協力もしていただいています。何とか北朝鮮を動かしていきたい。水面下でも様々な対応をしているわけでありますが、今後も政権の最重要課題として、私の使命として取り組んでいく考えであります。

(内閣広報官)

 それでは、次の御質問の方、伺います。

 では、吉野さん。

(記者)

 テレビ朝日の吉野です。

 イージス・アショアについてお伺いしたいと思います。今、総理、夏に向けて新しい戦略を議論して実行に移すとおっしゃいましたけれども、例えば、併せて防衛大綱ですとか、中期防の見直しをする考えはありますでしょうか。

 そして、今回、アショアの停止によって浮くであろう予算等、これを宇宙ですとか、サイバーですとか、電磁波といった領域の戦略構築に振り向ける考えはございますでしょうか。

 それと、総理、あと1つ。政権発足から7年半が経ちました。アショアの件もそうなのですけれども、給付金の問題ですとか、公務員法の改正の問題、政権運営の中で、ブレーキを踏む機会が多くなったように感じます。これは、総理、どういったところに原因があるとお考えでしょうか。よろしくお願いします。

(安倍総理)

 まず、お答えいたしますが、ブレーキを踏む機会ということでありますが、今、挙げられたそれぞれ、給付金について、例えば給付金については、30万円の給付を、大変困難な状況にある方に限定してお配りをするというこの対策を、全ての国民の皆様に10万円をお配りするという給付に変更いたしました。それは、その変更をしたときに申し上げましたように、これはブレーキということではなくて、正に30万円の決定をしたときとは状況が変わってきたということなのですね。緊急事態宣言を延長し、全国に拡大し、延長しているという状況の中で、多くの皆様が痛みを感じているという中において、お一人お一人に配ることが、これは正しい判断だと決定するに至ったわけでございます。

 そしてまた、公務員の定年延長につきましては、多くの方々が反対しておられる中において、公務員改革のようなものについては、国民的なコンセンサスも必要ですから、それは立ち止まって考えるべきだと考えました。今までも立ち止まって考えるべきものについては、立ち止まって考えました。やるべきことについては、果敢に進めてきたところであります。

 そして、今回のイージス・アショアにつきましては、住民の皆様に御説明してきたその前提が違っていた以上、これは進めることはできないと、こう判断をしました。

 そこで、これはブレーキ、では、ある意味、このイージス・アショアを配備をしていくということについては確かにブレーキをかけましたが、安全保障、国民の命を守っていく、日本国を守り抜いていくという防衛に、これは立ち止まることは許されない。つまりそれは空白をつくることでありますから、その意味において、言わば国民の命と、そして、平和な暮らしを守り抜いていくために何をなすべきか。基本からしっかりと、私は、議論すべきだ、こう判断をしたわけであります。

 抑止力とは何か。相手に例えば日本にミサイルを撃ち込もう、しかしそれはやめた方がいいと考えさせる、これが抑止力ですよね。それは果たして何が抑止力なのだということも含めて、その基本について国家安全保障会議において議論をしたいと思います。大綱、中期防については、まずは議論をすることを始めていきたいと。まだ大綱や中期防については全く考えてはいない。まずは国家安全保障会議について、しっかりと議論をしていきたい。

 ミサイル防衛につきましても、ミサイル防衛を導入したときと、例えば北朝鮮のミサイル技術の向上もあります。その中において、あるべき抑止力の在り方について、これは正に新しい議論をしていきたいと、こう思っています。

 また、宇宙やサイバーといった新領域については、重要分野と位置づけており、引き続きしっかりと取組を進めていきたいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問の方、どうぞ。

 それでは、重田(しげた)さん。

(記者)

 日本経済新聞の重田です。

 海外とのビジネス往来についてお伺いいたします。

 ベトナムなど4か国と第1弾のビジネス往来を始めるということですが、今後は対象をどうやって拡大していきますでしょうか。民間企業などの予見可能性を高める上で、ビジネス往来を始める相手国に客観的な基準を設けることなどはされないのでしょうか。中国、韓国は感染が比較的、収まっておりますが、第2弾として早期再開を検討されるのか。また、同盟国である米国との往来の見通しも含めて、併せて御見解をお願いします。

(安倍総理)

 国際的な人の往来については、我が国の、そして、我が国内外の感染状況を踏まえながら、感染再拡大の防止と両立する形で、どのように部分的、段階的に再開できるかを慎重に検討してきたところでありますが、その結果、まずは入国拒否対象国・地域の中でも感染状況が落ち着いている国との間で、例外的に人の往来を可能とする仕組みを試行することとし、本日、対策本部において、当面、ベトナム・タイ・豪州及びニュージーランドと協議・調整を行っていくという決定を行ったところでありますが、これは我が国が決めればそれで完結するということではなくて、相手国との協議もあります。ですから、これは我が国内外の感染状況等を総合的に勘案して、順次、対象国・地域を拡大すべく、検討、準備を進めて、そして、合意に至った国・地域から同様の措置を講じていく考えであります。

 これは、日本がこういう基準ですよと、これをクリアしたところはどうぞということではなくて、相手国との、それぞれ約束事も協議をしなければいけません。ですから、そういうことについて協議が整ったところから、最初申し上げましたような感染の再拡大を防止していくという観点も踏まえながら、順次、整ったところから同様の措置を採っていきたいと思っています。ですから、今、挙げられた国々についても、そういう考え方で対応していきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 では、伊藤(いとう)さん。

(記者)

 ラジオ日本の伊藤と申します。

 総理の自民党総裁任期が、もう既に1年と3か月ぐらいになっています。率直な現在の総理の心境を、総裁任期について現在どう思っているか伺いたいと思います。よろしくお願いします。

(安倍総理)

 第2次安倍政権が発足したのは2012年でありますが、そのときは自民党総裁の任期は6年でありましたから、この6年間、全力を尽くそうと考えていました。

 総裁に就任した際には、我が党は衆議院では119人近くしか、もちろん議員はいませんでしたし、参議院でも自民党と公明党を合わせても全く過半数には届かないという状況でありました。自民党総裁に就任をして、まず最初に課せられた使命は、政権を奪還する、日本を取り戻すということで全力を尽くしたわけでありますが、その年に政権を奪還し、そして次の年に参議院で大きな勝利を収め、ねじれを解消することができました。

 それを基に、安定的な政権運営がその後、可能となったわけでありますが、その中で、例えば、大きな課題であった集団的自衛権に関する解釈の変更を行い、平和安全法制を整備いたしました。これは国論を二分するような議論でもございました。特定秘密保護法等々もそうです。また、消費税の問題、そして、教育の無償化等々大きな課題に挑戦をしてまいりました。しかし、それは衆議院の選挙において3回、そして、参議院の選挙において3回、勝利を収めることができた結果であろうと思います。

 その意味におきましては、自民党総裁として選挙で勝利を収め、安定的な政治の下に強力に政策を推進していくという役割を果たしてくることができたと思います。

 ただ、現在、このコロナの感染症が拡大をしてきた。我々は、これは思いもよらなかったことでありますが、この中で、まず、この感染を収束させていく。そして、その間、国民の暮らしを守り抜いていく。雇用を守り抜いていく。そして、経済を回復させていく。さらには、オリンピック・パラリンピックを開催していく。その責任を果たしていかなければいけないと思いますし、先ほど申し上げましたように、拉致問題の解決あるいは憲法の改正等、まだまだ取り組まなければいけない大きな課題がありますので、この残された任期、全力を尽くしていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の人。

 菅原(すがわら)さん。

(記者)

 日本テレビの菅原です。よろしくお願いいたします。

 ポスト安倍についてお伺いしたいと思います。昨今も、ポスト安倍に向けた動きというのがだんだん活発になってきていますけれども、改めて、今、総理に意中の人というのはいらっしゃるのでしょうか。そして、そのポスト安倍としてふさわしい人として、名前が、岸田政調会長だったり、石破元幹事長だったり、菅長官の名前も挙がりますけれども、今、総理の中で、ポスト安倍候補としてふさわしい人というのはどなたなのか、理由も併せて教えていただければと思います。

(安倍総理)

 ポスト安倍というお話でありますが、まだ私の任期は1年3か月残っているわけでありますし、大体、総理が一時は1年ごとに交代していましたよね。その期間以上、まだ残っているわけでありますから、まずは全力を尽くしていきたいと思っています。

 言わば後継者を育てるどうこうという話がございましたが、後継者というのは、育てるものではなくて、育ってくるものであります。かつて、例えば佐藤政権、8年近く続いたわけでありますが、故田中角栄さんを始め、三角大福中という人を育てたかといえば、正にその人たちは活用しましたが、活用する中において、その地位を、彼らがポストをいかしてチャンスをつかんできたのだろうと思います。切磋琢磨(せっさたくま)しながら。

 ですから、そういう意味においては、私も誰かを育てるというよりも活用させていただいて、いろいろな人材が、自民党は宝庫ですから、その中でしっかりとこの成果を出していく。地味に成果を出していく人もいれば、うまく説明をされている、発信をされている方もおられるのだろうと思います。そういう、それぞれ、菅原さんも私が名前を出すとは期待していないと思いますが、今、菅原さんに、何で私の名前を出してもらえなかったのと言う人もたくさんいると思います。そういう皆さんに、ぜひ、その立場、立場で頑張っていただきたい。それは、別に次の総裁を目指すというよりも、国のために全力を尽くしていく、その結果、そういう立場に立っていくのだというふうに私は思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の人。

 今井さん。

(記者)

 読売新聞の今井です。

 安保戦略についてお伺いします。先ほど、総理は、徹底的に議論、基本から議論という形で言及されましたけれども、自民党内などでは敵基地攻撃能力の保有を求める声も出ておりますが、この点は、総理、どのようにお考えでしょうか。

(安倍総理)

 当然この議論をしてまいりますが、現行憲法の範囲内で、そして、専守防衛という考え方の下、議論を行っていくわけでありますが、例えば相手の能力がどんどん上がっていく中において、今までの議論の中に閉じ籠もっていていいのかという考え方の下に、自民党の国防部会等から提案が出されています。我々も、そういうものも受け止めていかなければいけないと考えているのです。

 先ほど申し上げました、抑止力とは何かということを、私たちは、しっかりと突き詰めて、時間はありませんが、考えていかなければいけないと思っています。そういう意味において、政府においても新たな議論をしていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 この後、外交日程がありますので、もしかしたら最後になるかもしれません。

 それでは、湯之前(ゆのまえ)さん。

(記者)

 西日本新聞の湯之前といいます。

 財政への不安ということについて伺います。今年の通常国会は、4回の予算編成を審議して、異例の国会だったと思うのですが、2020年度の歳出は、この結果、総額で160兆円を超えることになります。コロナウイルスによる経済危機を考えれば、財政出動はやむを得ない面もあると思いますし、私たちもその経済的支援を訴える国民の声というのを繰り返し紙面で紹介してきたのですけれども、主要国最悪レベルといわれる債務残高を、ますますこれが悪化していくことになってしまっています。今後の第二波、第三波、または災害とかが起きたときに、近い将来にまた臨時の大型予算が必要になる事態も起きると思うのですが、日本の財政というのはこれで果たして大丈夫なのでしょうかという不安が多分、国民の方にもあると思うのですが、そこについての御説明をお願いします。

 関連して、プライマリーバランスの2025年度の黒字化、この目標というのは維持されるのかどうか、それも併せてお伺いします。

(安倍総理)

 まず、これは安倍政権発足以来、申し上げてきたことでありますが、大切なことは何か。例えばデフレを脱却して、そして、経済を力強く成長させていくということであります。デフレ脱却をして経済を成長させなければ財政健全化はできないというのが基本的な考え方で、政策を進めてきました。その結果、我々は財政健全化に向けて歩みを進めてきたと思います。

 デフレについては、既にデフレではないという状況をつくり出すことができた。デフレ下では、財政健全化は大変難しいですよね。デフレではないという状況をつくり出すことができた。そして、経済を成長させることによって税収が相当増えてきました。そのことによって財政を健全化してきたと考えています。

 そして、この危機に当たって、財政健全化最優先で考えるべきではないわけでありまして、まずはこの危機を乗り越えて、経済を成長軌道に戻さなければいけない。それを優先するのは当然のことであろうと思います。

 そして、就職氷河期という言葉があります。このときの皆さんに対する対策、これも進めていきますが、今回、我々の政策を進めていくことの根幹にあるのはやはり、政治の最大の経済における責任は、雇用を創っていくということであります。その意味におきましては、今年の4月、たくさんの学生の内定が取り消されるのではないかと言われておりましたが、就職率は過去最高の水準を守ることができた。経済界の皆様にも大変御協力を頂きましたが、我々はしっかりと雇用を進めていくという政策の結果でも、雇用を守っていくという政策を進めてきた、その結果でもあろう。

 しかし、これからが正念場でございます。しっかりと雇用を創っていく、経済を守っていく、事業を継続していただく、これに全力を傾けていきたい。そして、経済をV字回復させていきたいと思っています。

 ただ、もちろん、債務残高がどれだけ増えても問題がないというわけではありません。引き続き市場からの信任が損なわれ、リスクが顕在化するといった事態を招くことがないように、事態収束した後には、デフレ脱却と経済再生への道筋を確かなものとすると同時に、歳出、歳入、両面の改革を続けることによって、財政健全化もしっかりと進めていく考えであります。

(内閣広報官)

 申し訳ないのですが、外交日程が迫っておりますので、この場、この質問はここで終わらせていただきまして、今、挙手をされている皆さん、大変恐縮ですけれども、書面でですね、報道室の方に質問を提出いただけませんでしょうか。今、挙手をされている方に限って。それで、私どもの方から総理の御答弁という形で後ほど貼り出させていただきますので、御理解を頂きたいと思います。

(記者)

 もうちょっと時間を取ってやってもらえるようにしてもらえませんか。

(内閣広報官)

 大体1時間弱ということなのですけれども、外交日程がありますので、ちょっと今日はそういうことで御理解を。

(記者)

 外国メディア、全然当ててくれない。

(内閣広報官)

 すみません。それはいろいろなバランスを考えて私どももやっておりますので、ですから、御質問を受けます。ですから、書面でお願いしたいということを申し上げているわけです。

(記者)

 外国メディアです。

(安倍総理)

 外国メディア?

(内閣広報官)

 分かりました。最後の1問にいたしましょう。では、どうぞ、その男性の方。

(記者)

 イギリスの軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー、東京特派員の髙橋と申します。

 手短に2点だけ。1点目は、総理、イージス・アショアは中止でいいんですか。それとも、停止。英語で書く際に。

(安倍総理)

 それはプロセスの停止。

(記者)

 停止。中止ではなくて停止。

(安倍総理)

 停止。

(記者)

 このまま進めるわけにはいかない、やめるじゃなくて。

(安倍総理)

 停止。

(記者)

 停止。分かりました。

 それと、もう1点が、今、南北朝鮮で緊張が高まっていますが、韓国にいる日本人の方の救出というか、退避について、どれぐらいまで救出策、プランが立てられているのか。例えば、自衛隊の輸送機が邦人を救出するためにちゃんと着陸できるのか。着陸できない場合に、アメリカに全面的に頼るのか。この辺りの在韓邦人の救出計画について、どれぐらい進んでいるのか教えてください。

(安倍総理)

 在外に滞在している邦人の安全を守っていくことは、政府の重要な使命であります。韓国にたくさんの邦人が生活し、経済活動もしておられたり、あるいは勉強しておられる方もおられるでしょうし、そういう皆さんの安全を確保しなければいけない。これは、今般のこの状況の前にも、朝鮮半島で緊張が更に高まったときもありました。北朝鮮が何発もミサイルを発射していたときですね。そういう状況の中で、日米あるいは日韓、日米韓で、今おっしゃったようなことについて、これは緊密に連携していく、そうしたプランについてしっかりと用意していくということは重要なことであると認識しています。安倍政権においても重視しています。

 今、どれぐらい進んでいるかということについては、これは相手国のこともあり、今ここで申し上げることは差し控えさせていただきたいと思いますが、我々は在外の邦人の安全を確保するために、様々な出来事に対応できなければならないと、こう思っています。その中でも、同盟国の米国とも非常に緊密に連携しているところであります。

(内閣広報官)

 では、どうもありがとうございました。

 それでは、後ほど挙手をされている方、質問をお寄せいただきたいと思います。書面ということでお答えさせていただきたいと思います。

 どうも御協力ありがとうございます。

(安倍総理)

 どうもありがとうございました。