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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸田内閣総理大臣記者会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2022年2月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【岸田総理冒頭発言】

 昨24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始しました。これまで国際社会において緊張緩和に向け、様々な外交努力が行われる中、我が国としても様々なレベルでロシアに対し、外交による解決を働き掛けてきました。私自身も先週17日に日露首脳電話会談を行い、プーチン大統領に対し、力による一方的な現状変更ではなく、外交交渉により、関係国にとって受け入れられる解決方法を追求すべき旨、直接働き掛けを行うとともに、ウクライナなど各国との電話会談、G7テレビ首脳会談などを通じ、G7、EU(欧州連合)、そして国際社会の結束の強さを示してまいりました。

 こうした国際社会の懸命の努力にもかかわらず行われた、今回のロシア軍によるウクライナへの侵攻は、力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反です。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難します。我が国の安全保障の観点からも決して看過できません。G7を始めとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対して軍の即時撤収、国際法の遵守を強く求めます。

 この事態を受け、第1に、G7を始めとする国際社会と緊密に連携し、制裁措置を強化いたします。具体的には、23日に発表した制裁措置に加え、資産凍結と査証発給停止によるロシアの個人、団体などへの制裁。2つ目として、ロシアの金融機関を対象とする資産凍結といった金融分野での制裁。3つ目として、ロシアの軍事関連団体に対する輸出、国際的な合意に基づく規制リスト品目や半導体など汎用品のロシア向け輸出に関する制裁の3分野における措置を、速やかに実施いたします。

 第2に、ウクライナ在留邦人の安全確保のため、全力を尽くします。ウクライナの在留邦人に対しては、これまで累次にわたり退避を呼び掛けてきた結果、2月23日時点でウクライナ人の御家族をお持ちの方など、自らウクライナ残留を希望される方が約120名となっております。状況が厳しさを増す中、引き続きこうした方々の安全にも最大限努力をしてまいります。具体的には、松田大使以下、現地の日本大使館ができる限りの手段を講じ、邦人保護に取り組みます。ウクライナの隣国であるポーランドに陸路で退避する場合の支援などを行うため、西部のリヴィウに臨時の連絡事務所を設けました。ポーランド政府からは、邦人の円滑な受入れについて御協力を頂ける予定であり、同国から他の国へと移動するためのチャーター機を既に手配済みです。

 第3に、私自身、首脳外交を積極的に行い、また、様々なレベルでG7を始めとする国際社会と緊密に連携し、外交的な取組を進めてまいります。

 第4に、今回の事態により、我が国経済社会に生じる様々な悪影響を最小限にとどめるよう取り組みます。まず、エネルギーの安定供給についてです。現時点では、世界の原油供給はロシアの侵攻によっても断絶しておらず、対ロシア経済制裁は、エネルギー供給を直接阻害するものではありません。また、国内には現在、原油については、国、民間合わせて約240日分の備蓄があり、LNG(液化天然ガス)についても、電力会社、ガス会社において2週間から3週間分の在庫を保有しています。このため、エネルギーの安定供給に直ちに大きな支障を来すことはないと認識しております。IEA(国際エネルギー機関)や関係国と協議を行っている国際協調での備蓄放出や、産油国・産ガス国への増産の働き掛けなど、関係国や国際機関とも連携をしながら、必要な対策を機動的に講じ、国際的なエネルギー市場の安定化と、我が国へのエネルギー安定供給の確保に万全を期していきます。

 そして、原油など燃料価格高騰に対して、国民生活や企業活動への悪影響を最小限に抑えるようにいたします。具体的には、当面は燃油価格の激変緩和事業を大幅に拡充・強化し、小売価格の急騰を抑制します。本対策を中心とし、業種別対策や地方の取組支援、中小企業対策なども含む緊急対策を官房長官の下に設置した関係閣僚会合において、早急に取りまとめます。電力・ガスの料金についても、燃料費が上昇したとしても、急激な価格上昇が起こらないように取り組みます。

 さらに、貿易保険の迅速な保険金支払など、輸出入などの事業活動に影響を受ける日本企業の支援も講じてまいります。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、国際秩序の根幹を揺るがす、深刻な事態です。G7を始めとする国際社会と緊密に連携して、対応してまいります。詳細は、この後、関係省庁から説明させます。

 私からは以上です。


【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様より御質問を頂きます。

 指名を受けられました方はお近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。

 この後の日程がございますので、8時50分めどで終了させていただきます。御協力をよろしくお願いいたします。

 それではまず、幹事社から御質問を頂きます。

 TBS、守川さん、どうぞ。

(記者)

 幹事社のTBS、守川です。よろしくお願いします。

 ロシアへの制裁措置についてお伺いいたします。今回の制裁において、ロシアのエネルギー産業を対象にした制裁措置は今後あり得るのでしょうか。よろしくお願いいたします。

(岸田総理)

 まずは、本日発表したこの措置を速やかに実施すべく、必要な手続を進めるとともに、引き続き我が国として今後の状況を踏まえつつ、G7を始めとする国際社会と連携して、適切に取り組んでまいりたいと存じます。今後ともG7を始めとする国際社会と緊密に情報交換、調整を行いながら対応を考えてまいります。

(内閣広報官)

 ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。なるべく多くの方に御質問いただくためにも、質問は1問ずつ簡潔にお願いいたします。

 それでは、NHKの長谷川さん。

(記者)

 NHKの長谷川です。

 日露関係についてお伺いします。岸田総理は、先に行ったプーチン大統領との電話会談で北方領土問題を含む平和条約交渉などで対話を続けていくということで一致しています。今回の軍事侵攻と制裁措置を踏まえまして、今後の日露関係と平和条約交渉への影響をどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

(岸田総理)

 御指摘の北方領土問題に関する我が国の立場は変わりません。変化はありません。しかしながら、北方領土交渉、さらにはそれに関連して共同経済活動、こうした取組があるわけですが、こうしたことへの影響については、現時点において予断することは控えたいと思っています。

(内閣広報官)

 それではその次、では、共同通信の手柴さん。

(記者)

 共同通信の手柴です。お疲れさまでございます。

 先ほど総理は、ロシアに対する経済制裁をおっしゃいましたが、バイデン大統領は国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークからのロシアの排除を選択肢というふうに言及しています。今後その可能性はあるのかということと、今回の制裁でロシア軍の侵攻の歯止めになるほど厳しいものになったとお考えでしょうか。よろしくお願いします。

(岸田総理)

 まず、我が国の制裁については、資産凍結と査証発給停止、金融機関に対する制裁、そして輸出に関する制裁を考えており、詳細については、また後ほど事務方から説明させていただきたいと思います。そして、この制裁については、米国、そしてEUを始めとする関係国と緊密に意思疎通を図り、情報交換を行った上で制裁を決定したということであります。

 G7を始めとする国際社会の連帯の強さを示すことができると考えております。そして、今後については状況を見ながら、引き続きそうした連帯を大事にしながら対応を考えていくということになると考えます。

(内閣広報官)

 それでは次に、産経新聞の長嶋さん。

(記者)

 産経新聞の長嶋です。どうもお疲れさまでございます。

 2014年のクリミア併合のときに比べて、今回の経済措置はかなり米欧諸国と緊密に連携をして実施されているというふうに感じます。今回、総理としてどのようなお考えからこうした措置を打ち出されているのか、お考えをお聞かせください。

(岸田総理)

 国際情勢全体は、2014年当時と比べても大きく変化をしています。こうした国際情勢をしっかりと考えた上で、特にG7を始めとする国際社会の連帯、連携、これは重要であるという認識の下に、緊密な調整を行って、今回の制裁を決定したということであります。国際社会の情勢をしっかりと把握した上で、関係国との調整の結果、制裁を決定したというのが今回の内容ということであります。この内容について、引き続き情勢の変化も見ながら、連携を大事にしながら、今後の取組について考えていくというのが我が国の対応であります。こういった考え方に基づいて制裁等について決定し、取り組んでいるというのが現状であります。

(内閣広報官)

 それでは、その次の方、ブルームバーグ、レイノルズさん。

(記者)

 ブルームバーグニュースのレイノルズですけれども、今回のロシアによるウクライナへの侵攻が、経済制裁を無視したような形になったかと思いますけれども、アジアについて同じような現状変更は十分あり得ると思いますけれども、そうなった場合は経済制裁だけで歯止めにすることはできますでしょうか。

(岸田総理)

 今回のウクライナ侵攻は、欧州のみならずアジアを含む国際社会の秩序に影響する大変深刻な事態であると認識をしています。力による現状変更は認めないという意志を我が国としてもしっかり示していかなければならないと考えています。そして、御質問のアジアにおいての事態については、これは仮定の話として申し上げることは適切ではないと思います。いずれにせよ、今、申し上げたような考え方、力による現状変更は認めないという強い姿勢を示していくことは、アジアを含む国際社会全体の秩序ということを考えても重要であると認識をし、我が国政府としてもしっかりと発信をしていきたいと考えます。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、その次、朝日新聞、池尻さん。

(記者)

 朝日新聞の池尻です。

 首相は先日もプーチン大統領とも電話会談を行ってきましたけれども、結果的にロシアは侵攻しました。G7の取組がこれまでは効果があったと思われるかどうかというのと、今後、ロシアの行動をエスカレートさせないために日本政府が採るべき外交努力というのは何なのか、首脳会談を積極的に行うという発言もありましたけれども、どのように考えているのか教えてください。

(岸田総理)

 我が国のみならず国際社会、世界各国がロシアに外交手段を通じて緊張緩和へ向かうべきであるということを働き掛けました。しかし、残念ながら、今回ウクライナ侵攻という事態になってしまいました。ロシアに国際社会としての強い意志を示すことが、今、何よりも求められていると思います。そして、国際社会がいかに連帯して、そして強い連携の下にロシアに対して厳しい評価をし、厳しい制裁を科している、この姿を示すことが重要であると思います。こうした国際社会の連携の姿を示すことが、今後の国際社会の秩序を守る上でも重要であると認識をし、我が国政府としましても、そういった連帯に、連携に、しっかり貢献をしていきたいと考えます。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、日本経済新聞社、秋山さん。

(記者)

 日本経済新聞社の秋山です。よろしくお願いします。

 原油高対策の話で、先ほど激変緩和措置の大幅な拡充と、あとIEAなんかと連携した石油の備蓄なんかにも言及されましたが、国会などではトリガー条項の凍結解除というのも含めた検討というのを発言されていましたが、この点については先ほどのおっしゃられたものとの関係を含めてどういうふうにお考えでしょうか。

(岸田総理)

 原油の価格高騰への対応策として、まずは本日申し上げた燃油価格の激変緩和事業の大幅な拡充・強化により、小売価格の急騰を抑制していきたいと考えています。

 そして、今後、更に原油価格が上昇し続けた場合の対応については、国民生活あるいは企業活動への悪影響を最小限に抑えることができるように、何が実効的で有効な措置かという観点から、あらゆる選択肢を排除することなく、政府全体でしっかりと検討し、対応していきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、フリーランスの安積さん。

(記者)

 フリーランスの安積です。

 総理にお伺いいたします。今やはり一番懸念されているところは、限定的ではあっても、もしかしたら核が使用されるかもしれないというお話があります。特に2月19日、戦略核部隊の演習などをプーチンが行っておりまして、非常に懸念はささやかれています。そこで、日本としても、また広島を地元とされる総理にしても、やはりこの事態は必ず避けなければならないことだと思いますが、そういう点においては、例えばプーチン氏と非常に長らく友好関係にある安倍元首相を例えば派遣されるとか、あとは経済的な制裁の効果を実効的にするために、中国にやはり働き掛けるとか、そういったG7の共同歩調以外のところで独自の施策というのはお考えでしょうか。

(岸田総理)

 まず、今回のウクライナ侵攻、これは国際法違反であり、国連憲章にも反する行為であり、これは到底容認することはできないということで、強い非難を表明させていただいています。そして、G7、国際社会と協調する形で制裁措置等も明らかにさせていただいています。

 今後についてですが、今、御指摘があったようなことについては何も予定はありませんが、今後については状況の変化をしっかり踏まえながら、連携は大事にしながら、何が適切なのか、これをこの状況の変化に応じて機動的に考えていく、こうしたことが大事だと思っております。

 今言えることは以上であります。

(内閣広報官)

 それでは、大変恐縮ですがあと2問とさせていただきます。

 では、テレビ東京、篠原さん。

(記者)

 テレビ東京、篠原です。

 今回のロシアのウクライナへの侵攻は、問題の構造が似ている台湾海峡を取り巻く情勢にも影響を与えるのではないかという見方が出ていますが、総理はどのように考えますでしょうか。

 また、先ほど会見の中で日本の安全保障の観点からも看過できないという御発言がありましたけれども、日本の尖閣(せんかく)諸島や北方領土をめぐる問題にどう影響するとお考えでしょうか。

(岸田総理)

 まず、今回のウクライナ侵攻については、欧州のみならず、アジアを含む国際社会の秩序に関わる問題であるということを再三申し上げています。

 そして、このアジアを含む他の地域においても、力による現状変更、これは決して許されないのだというこの意志を、G7を始めとする国際社会と連携する形で共に強く発信していくこと、これが重要であると思います。こういった姿勢を示すことが、今後アジアを含む他の地域においても、今回のような国際法違反あるいは国連憲章に反するような行為を抑制することにつながると信じます。是非、こうした連携の下での発信をしっかり行っていきたいと考えます。

(内閣広報官)

 それでは、最後の質問、ウォール・ストリート・ジャーナル、ランダースさん。

(記者)

 ウォール・ストリート・ジャーナルのランダースと申します。

 サハリンで日本企業、日本の商社がロシアの政府企業と共同でガス田開発をしているわけだと思いますけれども、結果としてロシア政府との共同事業によって日本人のお金がロシア軍の資金源になっているわけです。このロシア軍の資金源になっている日露の共同事業を止めるおつもりはありますでしょうか。

(岸田総理)

 今回の制裁については、先ほど来申し上げているように、米国あるいはEUを始めとする関係国としっかり調整を行い、連携をした上で内容を確定しています。米国を始め、関係国においてもエネルギー分野は制裁対象から外れているということであります。こうした状況も踏まえて、我が国としても対応を決定したということであります。

 今後については、状況の変化を踏まえながら、何よりも関係国との連携を重視しながら、具体的に考えていきたいと思っております。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、予定の時刻となりましたので、本日の記者会見を終了させていただきます。

 御協力ありがとうございました。

(岸田総理)

 ありがとうございました。